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ぅん、順番?

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エルネスは早々に宿に帰っていった。

マリタもようやく落ち着きを取り戻したようだ。

タレに漬け込んだ肉と野菜を炒めて、スープに入れた麺の上にドッサリと乗せた。
マリタが朝から何も食べていないことを思いだして、空腹だと言ったので簡単かつボリュームのある品を手早く作った。

熱いから気を付けて。

「それで、リリアナに調査内容をまとめてもらっているところ」
「もうわかったの?」
「答えかどうかはわからないけど、結界を破壊するならそれかなという方法が3つあった」

もともとフィネからの依頼はそんな感じだった。

「後は比較ね」
「比較?」
「3つとも試して、証言に近いものを選ぶ」

なるほど。

「ジーヌは?」
「結界への興味が強い。それで、古代にあった物を使って結界を張っている」
「どこで?」
「図書館の中」

フロアの間にあるホールがやたら大きいらしい。
そのホールで結界を張っているようだ。

「これ売り上げ」とテーブルの上に積んである袋の山を指した。
「全部引き取りに来たの?」
「もう在庫が無い」

もの凄い落胆の色。
さすがのマリタも、注文の品を仕上げないといけないことくらいは理解しているようだ。

「仕方ないわね。リストに乗せなかった注文の品を仕上げる」
と台帳のようなものを見ながら、なにかを考えている。

「3日もあればできるかな」

同じ頃の注文の品じゃないの?

「それなら一緒にリストに乗せればいいのに」
「これらは大体以前と同じような品だから」
「だから?」
「すぐ作れるけれど。同じのばかり作るのって嫌じゃない?」

台帳を取り上げて、調べてみる。
そもそもリストにあった品は半年前の受注だった。

ということは、リストになかった品の受注はいつのもの?
それでどうする?

「ぅん、順番?」
そういうのは順番とは言わない。

その“すぐ作れる”っていう品を全部仕上げてから、図書館に行って下さい。

翌朝、エルネスが店にやって来た。

事情を説明して、手伝ってもらう。
エルネスは、工作スキルがある。

そもそも何かを作るのは趣味だ。

「同じのばかり作るのって嫌じゃない?」とマリタが言っていただけのことはあって、ひとつふたつ作れば後は同じ要領という品も多い。

エルネスの技が冴える。

「“壁”に表示された職業の1番目は、本当は職人じゃなかったのか?」と俺。
「ハンターに決まっているだろう。1番がハンター、2番が職人」とエルネス。

なるほど。

「ハンターを辞めて、物作りに転職すれば」とマリタ。
そう言いながら、エルネスが仕上げた品に術式を付与していく。

俺は、出来上がった品をリストに載せて、ひとつひとつに依頼者の名前と付与された効果を書いた札を取り付けた。

一緒に案内も作成していく。
後でまとめて、案内を送付すれば引き取りに来てもらえる。

リストがすぐに一杯になった。
一品ごとの数も何倍も多い。

「忙しくなりそうだ」とエルネス。
そうだな。
どうせなら賑やかな方が良い。

「ところで、これ何?」とエルネス。

先ほどから、同じような品を10個は作っている。
店先にあった、木を組み合わせた箱だ。
木に書かれた術式が綺麗な模様のようだ。

マリタが出来上がっている品をエルネスに渡した。

「両手で持って、胸の前に」
マリタが蓋を開けて、中にキューブを入れた。

「ほにゃ」とエルネスが変な声をだした。
「そのまま」
「うわっ」とエルネスがうるさい。

「どうだった?」
「凄く良いな、これ」

エルネスが箱を俺に渡したので同じように両手で持ってみた。

体の中に一瞬波が走る。
全身が妙にゾワゾワする。

次の瞬間、身体の中を何かが凄い勢いで渦巻いて巡って行く。

暑い時に冷たい水を飲んだような爽快感が体中いたるところで沸き起こる。
それが収まると、体がフワッと浮いたような軽さになった。

ロンメイの効果を少し凝縮するらしい。

「気分が良くなる箱よ」とマリタ。

とある富豪の商家からの特注だそうだ。
その店での、超人気の品らしい。

それにも関わらず受注をため込むマリタにこそ使うべき品だな。
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