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まったりした感じの男2人

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少し暗くなってから、その村に到着した。
静かなせいもあるがロッタよりは落ち着いた感じがする。

箱車商会から少し離れた宿を予約してある。
宿の食堂で、案内人と待ち合わせだ。

「案内人は知り合いなの?」とリリアナ。
「直接は知らないけど一族の娘よ、あなたたちと同じくらい」とタイリー。

宿の受付を済ませて、食堂に案内された。
6人分の席が用意されていた。

「まだ来てないようね」とジーヌ。
「私たちの姿を確認したら現れる」とタイリー。

夕食のメニューは日によって決まっているようで、料理がどんどんと運ばれてくる。
料理が並び終えた時に、彼女は現れた。

食堂の入り口から静かに歩いて来る。
すれ違う給仕が思わず後ずさりして道を開けた。
なんて言うのだろうか、独特の雰囲気を放っている。
ただ、それが陰気なのだ。
放っているというより、周りの何かを吸い込んでいるという方が正しいか?

俺たちも席から立って、待つ。
タイリーが導いて、彼女を着席させた。

「ファーリアです。よろしく」と抑揚のない声で名乗った。
俺たちも名乗った。

タイリーが今回の日程を確認した。
「それで大丈夫」とファーリア。
「じゃあとりあえず、食事にしましょうか」とタイリー。

宿は箱車商会から少し離れているので、食堂には俺たちと老夫婦がいるだけだ。
静かな宿をファーリアが指定したようだ。

「今は薬を飲んでいないの、変な感じだけど。気にしないで」とファーリア。
ゆっくり喋ることと抑揚の無いのを除けば普通に会話している。
「でも薬のことは聞かないで」

「内陸部はどのくらい行ったことがあるの?」とタイリー。
ゆっくりと指を折っていく。
「5年の間、行って帰ってということを続けている。回数はわからない」

「今回の砂漠の村は行ったことはあるの?」とジーヌ。
「ないわ。誰も砂漠には入らない」

暫く間があって
「砂漠に入る場所はわかる。そこから南西に向かうだけ」
更に間があって
「もし方向を失ったらヴェズカに取り付かれて死ぬ」

抑揚なく淡々と話すから怖さがでる。

「ヴェズカって魔獣?」とエルネス。
「私が話す」とタイリー。

一族に伝わる話の一つにでてくる魔獣。
相手が弱っているとみると、後をずっとついてくる半透明の魔獣。
休んだり眠ったりすると近づいてきて、意識に入り込む。
幻覚から逃れられなくなり、衰弱死する。

人を死の国に誘う使いということになっている。

「倒せないの?」とリリアナ。
「話ではね。砂漠からでれば離れるらしい」
「それで迷っている人に取り付くの?」とジーヌ。
「そうらしい」

魔獣に襲われれば死ぬことはあるだろうし、攻撃方法がじんわりということだけで変わりはない。

「ところで、何をしに行くのか誰も訊ねないのね」とタイリー。
「護衛ってそんなものだと思ってた」と俺。
「まあそうだけど。砂漠に入ったら話をする」とタイリー。

「それで良いけど。あの3人組をどう思う?」とエルネス。

エルネスの言っているのは、箱車の乗客のことだ。
商人が2人、それぞれが2人の護衛を従えている。
そして戦闘職らしき3人組だ。
箱車商会の待合室に俺たちが入った瞬間、俺たちを値踏みしていた。

「嫌な感じだった」とジーヌ。
全員が気づいたが知らん顔をした。

「その恰好が浮いたとか?」とタイリー。
「呆れてジロジロ見るなら不自然じゃないけど、注意を払うのが怪しい」
とエルネス。
商人と護衛職も俺たちを思いっきり見たが、それだけだった。

「何かを警戒している?」とタイリー。
「それもあるけど、獲物を観察する感じ」とリリアナ。

「まったりした感じの男2人が美女たちを連れていたら良い獲物よね」とタイリーが笑った。
美女って自分で言うか?
それよりもまったりした感じって何?

「まったくそのとおりね」とジーヌ。
リリアナも笑っている。

「そのとおりってどういうこと?」と俺。



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