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夢で、いつも行くところ
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私には、よく見る夢がある。
見ている時は、夢だとはたぶん気づいていない。覚めて、ようやく今のが夢だったのだと気づくのだ。
そこでは私は20代の男性で、ただ立ち尽くしている。
顔には固く固まった土がついていて、手足には木の枝で引っ掻いたような細くて浅い切り傷から獣に引っ掻かれたような太くて深い切り傷がある。
傷口からは水が小川を流れるような感じで、血は肌をなだらかに流れている。
だが、今いる場所に意識が向いているせいか痛みは感じない。
頭の上には、西に傾く赤く不気味に光る月と不気味さとは非対称的な七色に光る星が大空一杯に広がっている。
その星の光量は様々で、自分を全面に出している星や自分を隠しているような星がある。まるで、一つ一つ生きている人間のようだ。
気づけば私は西に向かって草むらを歩いていた。
そう、赤く光る月がある方へ向かって。
西には草むらが広がっていて、所々に枯れた木と壊れている家が立っている。
そして、視界の果てには、南北に立ち塞がっている山脈がある。山脈は、月の光を浴びて赤く染色されていた。
なんで七色に光る星よりも赤く光る月の方に引かれていったのかは分からない。
おそらく、眩しく光る星の中で一つだけ地味に光っている月が異様に目立っていたからだろう。
月からは...いや、この世界からは、嫌な感じは一切しない。
来たことがないのに馴染みがあって、怖いはずなのに安心感がある。
もう、ずっとここにいたい。この安心感に包まれたままがいい。
そう思う気持ちと月に感じる異様な好奇心とで草むらを歩き続けている。
家を見つけると、私は窓から覗き込む。
どの家も水に沈んで痛んでいるような、火に炙られてこげているような、そして、突風に飛ばされたかのように家の近くには食器とか机とかランドセルとかが草むらの上に散らばっている。
と、ここでごく普通の疑問が頭に浮かび上がる。
家があるなら、近くに人がいるかもしれないと。
「誰かいませんかー!」
私の喉の奥から放たれた声は、やまびこのように私の耳に帰ってくる。
視界の果てにあった山脈まではまだ距離があり、叫んだとしてもやまびこが帰ってくる距離ではない。
まるで、見えない壁がそこら辺にたくさんあるようだ。
そう、ここは見えていないのに存在したり、見えているのに存在しなかったりとここでは全てが曖昧で常識が一切通用しない。
ここは、人智を越えた神秘的な世界ともいえるし、
この世界の理が分からない怖い世界とも言える。
逆に、人智を越えた怖い世界ともいえるし、理が分からない神秘的な世界とも言える。
ここの世界だけが曖昧なだけでなく、ここに長くいればいるほど思考まで曖昧になっていきそうだ。
歩き初めてどのくらい経ったのだろうか。
どれほどの草を踏み、どれほどの家を覗いたのだろうか。
歩いても歩いても続く草むらと人間はおろか動物の一匹すら見てない。
次第に恐怖が込み上げてくる。
誰かいませんかー!と、叫ぼうとしても恐怖で空気が抜けたみたいに掠れてしまう。
「誰かいませんかー!」
喉に力を込めてもう一度大きく叫ぶ。だが、当然のように声は誰の耳にも届かない。
自分一人だけしかいないという絶望と一緒に涙が出てくる。
「誰か助けて!」
ぐちゃぐちゃになった顔で叫びながら歩く。
涙と吐く白い息とが顔に当たり体を冷やす。
傷だらけの手も草むらを歩いて泥だらけになった足も冷えてパンパンになっているはずなのに、目の周りと心臓だけは不快な熱をもっている。
気づけば太陽は西へさらに傾いていて、私の影はさっきよりも長く太く伸びていた。
私は誰かを探すことも月に向かって歩くことも放棄してその場に倒れこんだ。
もう、どうなったっていいや。
目を閉じる。
意識が遠のく中、ガサ、ガサ、ガサと耳の中に流れてくる。
あ、誰かがきたのか。静かにしてくれ。
!!!!!!!!!人!?
私は、反射的に飛び上がる。
目の前には、顔が影であまり見えない男の人が立っていた。
「信助。良かった無事だったんだな。本当にありがとう。」
え、信助誰?
私の名前は信助じゃない。
この人もこの人が言っている事も意味が分からない。
でも、勝手に涙が流れてくる。
この涙はさっきまでの冷たい絶望に満ちた涙ではなく、探していた人に会えて安心して出た暖かい涙だ。
私の涙を見た男の人は、にっこりと優しく微笑んで
「一緒に帰ろ」
と、腕を差し出してくる。
私は、腕を掴もうと手を伸ばすとその時には夢は覚めていた。
見ている時は、夢だとはたぶん気づいていない。覚めて、ようやく今のが夢だったのだと気づくのだ。
そこでは私は20代の男性で、ただ立ち尽くしている。
顔には固く固まった土がついていて、手足には木の枝で引っ掻いたような細くて浅い切り傷から獣に引っ掻かれたような太くて深い切り傷がある。
傷口からは水が小川を流れるような感じで、血は肌をなだらかに流れている。
だが、今いる場所に意識が向いているせいか痛みは感じない。
頭の上には、西に傾く赤く不気味に光る月と不気味さとは非対称的な七色に光る星が大空一杯に広がっている。
その星の光量は様々で、自分を全面に出している星や自分を隠しているような星がある。まるで、一つ一つ生きている人間のようだ。
気づけば私は西に向かって草むらを歩いていた。
そう、赤く光る月がある方へ向かって。
西には草むらが広がっていて、所々に枯れた木と壊れている家が立っている。
そして、視界の果てには、南北に立ち塞がっている山脈がある。山脈は、月の光を浴びて赤く染色されていた。
なんで七色に光る星よりも赤く光る月の方に引かれていったのかは分からない。
おそらく、眩しく光る星の中で一つだけ地味に光っている月が異様に目立っていたからだろう。
月からは...いや、この世界からは、嫌な感じは一切しない。
来たことがないのに馴染みがあって、怖いはずなのに安心感がある。
もう、ずっとここにいたい。この安心感に包まれたままがいい。
そう思う気持ちと月に感じる異様な好奇心とで草むらを歩き続けている。
家を見つけると、私は窓から覗き込む。
どの家も水に沈んで痛んでいるような、火に炙られてこげているような、そして、突風に飛ばされたかのように家の近くには食器とか机とかランドセルとかが草むらの上に散らばっている。
と、ここでごく普通の疑問が頭に浮かび上がる。
家があるなら、近くに人がいるかもしれないと。
「誰かいませんかー!」
私の喉の奥から放たれた声は、やまびこのように私の耳に帰ってくる。
視界の果てにあった山脈まではまだ距離があり、叫んだとしてもやまびこが帰ってくる距離ではない。
まるで、見えない壁がそこら辺にたくさんあるようだ。
そう、ここは見えていないのに存在したり、見えているのに存在しなかったりとここでは全てが曖昧で常識が一切通用しない。
ここは、人智を越えた神秘的な世界ともいえるし、
この世界の理が分からない怖い世界とも言える。
逆に、人智を越えた怖い世界ともいえるし、理が分からない神秘的な世界とも言える。
ここの世界だけが曖昧なだけでなく、ここに長くいればいるほど思考まで曖昧になっていきそうだ。
歩き初めてどのくらい経ったのだろうか。
どれほどの草を踏み、どれほどの家を覗いたのだろうか。
歩いても歩いても続く草むらと人間はおろか動物の一匹すら見てない。
次第に恐怖が込み上げてくる。
誰かいませんかー!と、叫ぼうとしても恐怖で空気が抜けたみたいに掠れてしまう。
「誰かいませんかー!」
喉に力を込めてもう一度大きく叫ぶ。だが、当然のように声は誰の耳にも届かない。
自分一人だけしかいないという絶望と一緒に涙が出てくる。
「誰か助けて!」
ぐちゃぐちゃになった顔で叫びながら歩く。
涙と吐く白い息とが顔に当たり体を冷やす。
傷だらけの手も草むらを歩いて泥だらけになった足も冷えてパンパンになっているはずなのに、目の周りと心臓だけは不快な熱をもっている。
気づけば太陽は西へさらに傾いていて、私の影はさっきよりも長く太く伸びていた。
私は誰かを探すことも月に向かって歩くことも放棄してその場に倒れこんだ。
もう、どうなったっていいや。
目を閉じる。
意識が遠のく中、ガサ、ガサ、ガサと耳の中に流れてくる。
あ、誰かがきたのか。静かにしてくれ。
!!!!!!!!!人!?
私は、反射的に飛び上がる。
目の前には、顔が影であまり見えない男の人が立っていた。
「信助。良かった無事だったんだな。本当にありがとう。」
え、信助誰?
私の名前は信助じゃない。
この人もこの人が言っている事も意味が分からない。
でも、勝手に涙が流れてくる。
この涙はさっきまでの冷たい絶望に満ちた涙ではなく、探していた人に会えて安心して出た暖かい涙だ。
私の涙を見た男の人は、にっこりと優しく微笑んで
「一緒に帰ろ」
と、腕を差し出してくる。
私は、腕を掴もうと手を伸ばすとその時には夢は覚めていた。
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