復讐の始まり、または終わり

月食ぱんな

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第二章 一部を除けば、楽しい学校生活(十四歳)

008 ルーカスに邪魔される日々

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 フェアリーテイル魔法学校のブラック・ローズ科に嫌々入学させられてはや三年。

 十二歳で入学した当初、成績表に記載される評価の一つ。『子どもらしさ』や『他者への共感性』が見事マイナス評価だった私。しかし十四歳になった現在。悔しいが両親の思惑通り、私は着々とその二つをプラス評価に好転させていた。

 現在、三年生に進級した私は、邪悪を好む友人達に囲まれ、着々と悪に染まる階段を登っている。そしてフェアリーテイル魔法学校に通う事を、楽しいと思えるまでに成長していたのであった。

「鏡よ、鏡よ、鏡さん。この学校で一番美しいのは誰?」

 黒で埋め尽くされた、ゴシック調に揃えた寮の部屋の中。

 同室のナターシャが魔法の鏡に飽きもせず、同じ言葉を問いかけている声が響く。

「それは、ホワイト・ローズ科のスノーリア。いや、ブラック・ローズ科のルシア……おっと失礼しました。学校一美しいのは、ナターシャ・アップルトン。貴方様でございます。はははは」
「チッ、最近の魔法の鏡は忖度そんたくするから全く、使えないんだけど」

 文句を言いつつも毎日欠かさず、鏡に問いかけるナターシャ。

 何故なら私の親友ナターシャ・アップルトンは世界的に有名なおとぎ話である、白雪姫に登場する悪い后の末裔だからだ。

『鏡に問いかけるのは、私の家系に与えられた一種の儀式みたいなものなんだよね。正直バカバカしいとは思うよ?けどさ、やっておかないと初代が鏡越しに「最近の若い者は!!」って怒り心頭気味に現れて、説教をたれるんだよ。全く厄介な呪いの鏡でしょ?』

 そんな切実な理由を明かされてから、高貴な悪の血筋を持つ者に対し、羨ましい気持ちよりも何かと大変そうだなと、同情する気持ちがわくようになった。

「ねぇ、ルシア。赤いアイシャドウ貸してくれない?」

 ドクロ柄のイケてるカバーに覆われたベッドに腰をかけ、八ホールの黒い編み上げブーツの紐をキュッと縛り上げている私に対し、ナターシャがおねだりの声をかけてきた。

「私の机の引き出しにあるから勝手に使って」
「サンキュ。ねぇ、今日の放課後グリムヒルに買い物に行かない?アイシャドウが切れちゃって。ヤギたちのお喋り亭で一杯奢るからさ」

 私の机を漁るナターシャから、魅力的なお誘いがかかる。

「いいよ」

 とある人物のせいで、放課後を埋めてくれる彼氏すらできない私は、ナターシャの誘いを受ける事を即決する。

「そういえばさ、聞いた?」
「ナターシャ、主語を忘れてるよ」

 ブーツの紐を結び終えた私は立ち上がり、ナターシャが自分の机の上で広げはじめた私のアイシャドウパレットから、流行りの赤を指に取る。

「ホワイト・ローズ科の赤ずきんちゃん。あのロリっ娘がブラック・ローズ科のリュコスに告白したらしいよ」
「リュコスって狼男の?」
「そう。でもまぁ、リュコスは速攻で狼に変身して逃げたって話。うけるよね」

 キャッキャッと明るい笑い声をあげるナターシャ。

 確かに笑える話ではある。しかし、赤ずきんちゃんと同郷出身。狼男であるリュコスからしてみれば、過去の因縁から魂レベルで赤い頭巾を恐怖に思っている。その事情を知る者としては、リュコスに同情を感じなくもない。

「なんで、ホワイト・ローズ科の連中は叶わない恋に執着するのか。全く意味がわからないんだけど」

 私はうんざりした声をあげる。

「確かに。ルシアなんて何度断っても、植物マニア君につきまとわれているもんね」

 ナターシャの口にした「植物マニア君」とは私の将来における復讐相手候補、ローミュラー王国の王子、ルーカスの事だ。

 彼とは組分けでそれこそ白黒つけたつもりでいた。だからきれいさっぱり縁が切れた。そう安堵したのもつかの間、三年経った現在もルーカスは、私の視界に隙きあらば映り込もうとしてくる、厄介極まりないキラキラしい男なのである。

「ルシアは現代顔だから、モテるのにね。そういえば、カシムに告白されたって噂になってたけど、ほんと?」
「うん、先週『人を不快にする微笑み学』の授業が休校になった時に裏庭で告白された」

 私はナターシャ鏡に映る自分の瞼に赤いアイシャドウを乗せる。そして悪役顔になるべく、大胆に幅広くアイシャドウを目の周りに伸ばしていく。

「まさか、断ったの?」
「正直付き合ってみようかなと思った。けど最悪な事にあの日はホワイト科の「爽やか紳士の微笑み学」の授業も休校になったらしくて」

 カシムに「私で良ければ、喜んで」と伝えようとした瞬間。神技レベルで突如出現したルーカスが私に断りもなく素早く耳栓をしたのち、カシムにむかって、ペットと称するマンドラゴラを思い切り鉢植えから引き抜いたのである。

 その結果、マンドラゴラの悲鳴にノックアウトしたカシムは失神。そのまま告白自体もなかった事にされた様子で、現在に至るというわけだ。

「なるほど。またアイツか嗅ぎつけちゃったんだ。ほんと可哀想なくらい懐かれてるよね」

 ニヒニヒと意地悪く口元を歪ませるナターシャ。完全に他人事を楽しんでいるようだ。

「この分じゃ、今年の学期末のパーティーもまたもやルシアのお相手は植物マニア君になりそうだね」
「勘弁してよ」

 私は過去二年ほど、完全なる王子と化したルーカスとダンスをする羽目になった黒歴史を思い出し、ガクリと肩を落とすのであった。
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