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第三章 波乱を含む、サマーバケーション(十四歳)
020 見てしまった
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私ことルシア・フォレスターは、王子をたぶらかしたとされる可憐な少女と、魔力に愛されしフォレスター王家の父を持つ、生まれながらにしてハイブリッドな美少女だ。
父の祖国からは真実の愛を貫き、国外追放された「愚かな者たち」と揶揄されたファミリーの一員だ。けれど、私が笑顔を振りまけば大抵の男は、コロリと寝返るし、有り余る魔力を人に分け与えるくらい、優しい部分だって持ち合わせている。
そんなウルトラ可愛くて優しい私は、現在空腹に絶えきれずハーヴィストン侯爵の執務室から脱出しようと決意した所だ。
現在の時間は夜半すぎといったところ。屋敷全体はシンと静まり、執務室にも誰もいない。つまり逃げ出すには丁度良いタイミングだと言える。
「問題は変身を解くかどうかだけど」
ハーヴィストン侯は父や母の事を良く知っていそうだった。
(ナタリア・アディントンとも顔見知りっぽかったし)
きっと、ハーヴィストン侯は私の両親と同世代の人間なのだろう。だとすると、うっかり元の姿に戻るというのは得策とは思えない。
「それに変身術はなぁ……」
私は自分の茶色いもやもやとしたヒゲが生えた、根っこになった両手を見つめる。
全世界が「その名を口にするのも恐ろしい」と怯える事間違いなしの悪となる予定の私は、実のところ変身術が得意ではない。そんな私に対し、人から余計なお世話的に出来損ない呼ばわりされまくっているルーカスの方が変身術が上手だ。
だからこそ、私もマンドラゴラに変身する事を甘んじて受け入れているわけで。
「そもそも全身を擬態化する変身術は、五年生になって習うものだし」
誰もいない部屋で私は自分を全力でかばう。
「とにかく、今は王城へ何としてでも帰らないと」
このままでは餓死しそうだ。
「よし、目指すはローミュラー城!!ゴーゴーゴ!!」
自分に号令をかけ、植木鉢から飛び出す。そしてマンドラゴラになった姿のままトテトテと執務机の上を歩く。最初の関門はうず高く積み上がった書類だ。
「ちゃんと整理してから寝なさいよ」
フェアリーテイル魔法学校の女子寮。自室に置かれた散らばる自分の机の上の光景を完全に封印し、私はハーヴィストン候に文句を垂れる。
「よいしょっと」
なんとか書類の上によじ登り、辺りを見回す。すると窓の横にある壁の上に、通気口の穴があることに気付く。しかも運の良いことに通気口の穴を塞ぐ金網につけられたネジが一本取れており、ブランと金網がぶら下がっている。
「あそこから逃げられそう」
そう革新した私は、右手に魔力を流し込み力を込める。すると、私の手から細い根っこが出現した。
「よし、上手くいった」
調子が出てきた私はそのまま、スルスルと根っこを伸ばし、通気口の穴に引っかかる網の部分へと巻き付ける。そして伸ばした根っこを辿り、なんなく通気孔の穴までたどり着いた。
「ふふ、楽勝」
私は通気口の穴を辿り、屋敷の外壁をつたい地面にストンと降り立つ。
どうやら執務室の窓の下は花壇になっていたようだ。私の周囲には様々な種類の花が閉じた状態でくたりと下を向いていた。
「昼間はさぞかし綺麗なんだろうな」
まるですやすやと就寝中と言った感じでうつむく花を仰ぎ見、少し残念に思う。
その時。
「嫌よ!!」
突然響く女性の叫び声。
(え、リリアナ?)
私は昼間散々聞いた声に間違いないと、まっすぐに伸びたポピーの茎の間から顔を出し辺りを見回す。
「俺だって君があいつと結婚する事に、心から賛成しているわけじゃない」
今度は男性の落ち着いた低い声が聞こえる。
(この声はスティーブ?)
イマイチ確信はない。けれどなんとなく昼間耳にした声であるような気がした。
恐る恐る花壇の花の合間を縫い、声が聞こえる方に向かう。
(あっ)
月明かりの下に向かい合って立つのは、間違いない。リリアナとスティーブだ。
「けれど感情を押し通した結果、どうなるかは、君だって知っているだろう?俺だって辛いんだ」
(どういうこと?)
一体何の話をしているのだろうかと、訝しげに思いつつ、二人が恋仲なのだと確信する。
「あんな出来損ないの王子と結婚だなんて嫌。どうにかしてよ、スティーブ」
再び聞こえたリリアナの甘く懇願するような声に、私は思わず身を乗り出す。
(そんな言い方、流石に失礼じゃない)
私だってルーカスに暴言を吐く事はある。
(けどあれは、ルーカスも喜んでるし)
そもそも出来損ないだなんて、そんな酷い暴言は吐いた事はないはずだ。
マンドラゴラになったまま、私はムッとした表情をリリアナに向ける。
「しかしなぁ……」
「ねぇスティーブ。ルーカス様さえいなければ、私とあなたは堂々と結婚できるのよ」
「……それはそうだが」
「だったら、早くあの出来損ないをなんとかして、私と結婚しましょう?」
「何とかって」
「植物アレルギーでアナフィラキシーショックにさせればいいのよ。植物馬鹿なんだもの。誰も疑わないわ」
リリアナの発した言葉に、思わず顔をしかめる。
半分とは言え、ルーカスは肉食のグールだ。よって、肉食の対比にある植物を多量摂取した場合、確かに死に至る事もあるだろう。だから彼を殺すために植物アレルギーを装う方法。それ自体は悪くないだろう。
けれど。
(それをしていいのは私だけ)
ルーカスは私の獲物。だから今死なれたら困るのだ。
(横取りするなんて、許さない)
私は身を隠すために利用している、ポピーの茎を怒りで強く握りしめる。
「しかし、今手をかけるのは……」
「そうした方が、お互いのためになる」
「……」
「お願い、私とあなたのためなの」
リリアナは必死にスティーブに懇願している。
その様子に私はますます眉間にシワを寄せた。
(諦めなさい。ルーカスは、私が先に目をつけたのだから)
私は不機嫌になりながら二人の様子を伺う。
「君の気持ちは理解した。けれどハーヴィストン候は王族となったアディントン家と縁続きになりたいと願っている。そして願わくば、ルーカスと君の子をハーヴィストン侯爵家の跡取りにもしたいと。それに対し私はプレスコード伯爵家の、しかも何も持たない次男だ」
吐き捨てるように告げるスティーブ。
「いいえ、プレスコード伯爵家は王妃殿下、ナタリア様の生家じゃない。それにあなたは私と結婚すれば、いずれハーヴィストン侯爵になるのよ?そもそも都合よく男児を産めるとも思えないし、ルーカス様の血を色濃く継いでしまったら、出来損ないの子が産まれてくるかも知れないじゃない」
「それは、そうだが……」
スティーブが渋る様子でうつむいた。
(ええと、どういうこと?)
私は必死に次々と飛び出した情報と人名を整理しようと頭を働かせる。
リリアナの実家、ハーヴィストン侯爵家はルーカスとリリアナを政略結婚させることで、この国での地位を確固たるものとしたい。そのためにリリアナとルーカスの間に産まれた子を跡継ぎに、と狙っている。
(なるほど。王族となったアディントン家の血筋を引く子なら従属している爵位を授かるだろうし)
その子の持つ爵位ごと、いずれハーヴィストン侯爵家のものとなるのだ。
対するスティーブは王妃殿下の実家、プレスコード伯爵家の次男坊。
(つまり爵位を持たないということ)
ただし、ハーヴィストン侯爵家とプレスコード伯爵家との繋がりはできる。
(でも野心あふれるハーヴィストン侯爵したら、それは魅力に乏しいこと)
王妃の実家と縁つなぎになるよりも、いずれ国王となる者の兄弟の方が得る物が多いからだ。
けれど、リリアナ的には政略結婚などしたくない。出来ればスティーブと結婚したい。
ざっとまとめると、そういう事だろうか。
「君の想いは痛いほど理解できる。だが今はまだ動くべきではない。リリアナ、君はもう少し冷静になった方がいい」
「…………」
「俺は、君を愛している。だからこそ、失敗は許されないんだ。君の人生を台無しにはしたくないんだ。わかってくれ、リリアナ」
「スティーブ」
「すまない、リリアナ」
スティーブはリリアナを抱き寄せた。そして月明かりの下、二人はありえない距離で身を寄せ合う。
私は慌てて二人から顔をそらし、念入りに近くの葉っぱで顔を覆う。
(というか、やっぱあの二人、できてる)
恋人にしか許されない行為を図らずとも目撃してしまった私は早まる鼓動と共に、確信する。
それからしばし恋人達の甘い時間が流れたようで。
「また明日、王城の舞踏会で会おう」
「えぇ」
リリアナの甘い呼びかけに応えるように、最後にもう一度熱い抱擁を交わしたのち、スティーブは静かにその場を立ち去った。
「あーあ、結局こうなるのね。全く男って小心者ばっかりなんだから」
スティーブに笑顔で手を振りながら、まるで人が変わったようにリリアナが呟く。
「やっぱり王妃様の言う通り。私が何とかするしかないってことなのね」
リリアナがゴソゴソと胸の谷間を探る。
そして首からさげていたらしいチェーンを手繰り寄せた。
(あれはなに?)
私は目を凝らし、リリアナが顔の前で揺らす物体を確認する。
金のチェーンに通されたそれは、真っ赤な宝石のついた指輪だった。
「王妃になれば、私の思いで国を動かせるようになるのかしら」
思い詰めた様子でチェーンに通された指輪を見つめるリリアナ。
(一体どうしちゃったの?)
何となく尋常ではないリリアナの様子に、私は嫌な予感がしてたまらない。
(どうする?あの指輪を奪うべき?)
私が狙いを定め、根っこを伸ばそうと右手に魔力を込めた瞬間。
「お嬢様、明日は大事な舞踏会なのです。そろそろお戻り下さい」
リリアナを迎えにきたらしき、女性の声がした。するとリリアナはサッとドレスの胸元にチェーンを隠しこんでしまう。
「そうね、明日は色々と忙しくなりそうだものね」
意味深な言葉を口にしたリリアナは、侍女らしき女性と共に、屋敷の中へ続く道を歩いて行ってしまった。
「さっぱりわからないけど、全てが不穏でしかないんだけど」
とにかくルーカスの身が狙われている。
そんな気がしてたまらない。
「とにかく、ルーカスに知らせないと。卒業まではルーカスに死んだり、病んでもらっちゃ困るし」
それに、この事を知ったルーカスが激怒し、リリアナとの婚約が破談になるような事があれば、ローミュラー王国は崩壊への第一歩を歩む事になる……かも知れない。
「いい気味だわ」
ある意味、復讐の予行練習ができるチャンスなのかも知れない。
私は腰に手をあて、大きく息を吸い込む。
「ふふふふふふ、ははははは」
ブラック・ローズ科の「悪役らしい笑い方講座」で習得したばかり。人を小馬鹿にした高笑いを、花壇の花に向かって披露する。
「メーデー!メーデー!こちらチーム光合成。救助対象者が、ステルス系笑いキノコの瘴気に当てられた可能性あり」
「こちらチーム、葉緑素。了解。直ちに周囲の安全を確認する」
「ラージャー!!」
よくわからない会話が交わされていると認識した瞬間。
「保護対象者の安全を確保!!」
私はどこからともなく現れた、マンドラゴラの大群に囲まれた。
しかもマンドラゴラ達は迷彩服を着て、頭には緑色のヘルメット。因みにヘルメットからは、マンドラゴラ特有の緑の葉っぱが突き抜けており、夜風に揺られユラユラとなびいている。
「一体なに?」
私は驚きで目をぱちくりさせるのであった。
父の祖国からは真実の愛を貫き、国外追放された「愚かな者たち」と揶揄されたファミリーの一員だ。けれど、私が笑顔を振りまけば大抵の男は、コロリと寝返るし、有り余る魔力を人に分け与えるくらい、優しい部分だって持ち合わせている。
そんなウルトラ可愛くて優しい私は、現在空腹に絶えきれずハーヴィストン侯爵の執務室から脱出しようと決意した所だ。
現在の時間は夜半すぎといったところ。屋敷全体はシンと静まり、執務室にも誰もいない。つまり逃げ出すには丁度良いタイミングだと言える。
「問題は変身を解くかどうかだけど」
ハーヴィストン侯は父や母の事を良く知っていそうだった。
(ナタリア・アディントンとも顔見知りっぽかったし)
きっと、ハーヴィストン侯は私の両親と同世代の人間なのだろう。だとすると、うっかり元の姿に戻るというのは得策とは思えない。
「それに変身術はなぁ……」
私は自分の茶色いもやもやとしたヒゲが生えた、根っこになった両手を見つめる。
全世界が「その名を口にするのも恐ろしい」と怯える事間違いなしの悪となる予定の私は、実のところ変身術が得意ではない。そんな私に対し、人から余計なお世話的に出来損ない呼ばわりされまくっているルーカスの方が変身術が上手だ。
だからこそ、私もマンドラゴラに変身する事を甘んじて受け入れているわけで。
「そもそも全身を擬態化する変身術は、五年生になって習うものだし」
誰もいない部屋で私は自分を全力でかばう。
「とにかく、今は王城へ何としてでも帰らないと」
このままでは餓死しそうだ。
「よし、目指すはローミュラー城!!ゴーゴーゴ!!」
自分に号令をかけ、植木鉢から飛び出す。そしてマンドラゴラになった姿のままトテトテと執務机の上を歩く。最初の関門はうず高く積み上がった書類だ。
「ちゃんと整理してから寝なさいよ」
フェアリーテイル魔法学校の女子寮。自室に置かれた散らばる自分の机の上の光景を完全に封印し、私はハーヴィストン候に文句を垂れる。
「よいしょっと」
なんとか書類の上によじ登り、辺りを見回す。すると窓の横にある壁の上に、通気口の穴があることに気付く。しかも運の良いことに通気口の穴を塞ぐ金網につけられたネジが一本取れており、ブランと金網がぶら下がっている。
「あそこから逃げられそう」
そう革新した私は、右手に魔力を流し込み力を込める。すると、私の手から細い根っこが出現した。
「よし、上手くいった」
調子が出てきた私はそのまま、スルスルと根っこを伸ばし、通気口の穴に引っかかる網の部分へと巻き付ける。そして伸ばした根っこを辿り、なんなく通気孔の穴までたどり着いた。
「ふふ、楽勝」
私は通気口の穴を辿り、屋敷の外壁をつたい地面にストンと降り立つ。
どうやら執務室の窓の下は花壇になっていたようだ。私の周囲には様々な種類の花が閉じた状態でくたりと下を向いていた。
「昼間はさぞかし綺麗なんだろうな」
まるですやすやと就寝中と言った感じでうつむく花を仰ぎ見、少し残念に思う。
その時。
「嫌よ!!」
突然響く女性の叫び声。
(え、リリアナ?)
私は昼間散々聞いた声に間違いないと、まっすぐに伸びたポピーの茎の間から顔を出し辺りを見回す。
「俺だって君があいつと結婚する事に、心から賛成しているわけじゃない」
今度は男性の落ち着いた低い声が聞こえる。
(この声はスティーブ?)
イマイチ確信はない。けれどなんとなく昼間耳にした声であるような気がした。
恐る恐る花壇の花の合間を縫い、声が聞こえる方に向かう。
(あっ)
月明かりの下に向かい合って立つのは、間違いない。リリアナとスティーブだ。
「けれど感情を押し通した結果、どうなるかは、君だって知っているだろう?俺だって辛いんだ」
(どういうこと?)
一体何の話をしているのだろうかと、訝しげに思いつつ、二人が恋仲なのだと確信する。
「あんな出来損ないの王子と結婚だなんて嫌。どうにかしてよ、スティーブ」
再び聞こえたリリアナの甘く懇願するような声に、私は思わず身を乗り出す。
(そんな言い方、流石に失礼じゃない)
私だってルーカスに暴言を吐く事はある。
(けどあれは、ルーカスも喜んでるし)
そもそも出来損ないだなんて、そんな酷い暴言は吐いた事はないはずだ。
マンドラゴラになったまま、私はムッとした表情をリリアナに向ける。
「しかしなぁ……」
「ねぇスティーブ。ルーカス様さえいなければ、私とあなたは堂々と結婚できるのよ」
「……それはそうだが」
「だったら、早くあの出来損ないをなんとかして、私と結婚しましょう?」
「何とかって」
「植物アレルギーでアナフィラキシーショックにさせればいいのよ。植物馬鹿なんだもの。誰も疑わないわ」
リリアナの発した言葉に、思わず顔をしかめる。
半分とは言え、ルーカスは肉食のグールだ。よって、肉食の対比にある植物を多量摂取した場合、確かに死に至る事もあるだろう。だから彼を殺すために植物アレルギーを装う方法。それ自体は悪くないだろう。
けれど。
(それをしていいのは私だけ)
ルーカスは私の獲物。だから今死なれたら困るのだ。
(横取りするなんて、許さない)
私は身を隠すために利用している、ポピーの茎を怒りで強く握りしめる。
「しかし、今手をかけるのは……」
「そうした方が、お互いのためになる」
「……」
「お願い、私とあなたのためなの」
リリアナは必死にスティーブに懇願している。
その様子に私はますます眉間にシワを寄せた。
(諦めなさい。ルーカスは、私が先に目をつけたのだから)
私は不機嫌になりながら二人の様子を伺う。
「君の気持ちは理解した。けれどハーヴィストン候は王族となったアディントン家と縁続きになりたいと願っている。そして願わくば、ルーカスと君の子をハーヴィストン侯爵家の跡取りにもしたいと。それに対し私はプレスコード伯爵家の、しかも何も持たない次男だ」
吐き捨てるように告げるスティーブ。
「いいえ、プレスコード伯爵家は王妃殿下、ナタリア様の生家じゃない。それにあなたは私と結婚すれば、いずれハーヴィストン侯爵になるのよ?そもそも都合よく男児を産めるとも思えないし、ルーカス様の血を色濃く継いでしまったら、出来損ないの子が産まれてくるかも知れないじゃない」
「それは、そうだが……」
スティーブが渋る様子でうつむいた。
(ええと、どういうこと?)
私は必死に次々と飛び出した情報と人名を整理しようと頭を働かせる。
リリアナの実家、ハーヴィストン侯爵家はルーカスとリリアナを政略結婚させることで、この国での地位を確固たるものとしたい。そのためにリリアナとルーカスの間に産まれた子を跡継ぎに、と狙っている。
(なるほど。王族となったアディントン家の血筋を引く子なら従属している爵位を授かるだろうし)
その子の持つ爵位ごと、いずれハーヴィストン侯爵家のものとなるのだ。
対するスティーブは王妃殿下の実家、プレスコード伯爵家の次男坊。
(つまり爵位を持たないということ)
ただし、ハーヴィストン侯爵家とプレスコード伯爵家との繋がりはできる。
(でも野心あふれるハーヴィストン侯爵したら、それは魅力に乏しいこと)
王妃の実家と縁つなぎになるよりも、いずれ国王となる者の兄弟の方が得る物が多いからだ。
けれど、リリアナ的には政略結婚などしたくない。出来ればスティーブと結婚したい。
ざっとまとめると、そういう事だろうか。
「君の想いは痛いほど理解できる。だが今はまだ動くべきではない。リリアナ、君はもう少し冷静になった方がいい」
「…………」
「俺は、君を愛している。だからこそ、失敗は許されないんだ。君の人生を台無しにはしたくないんだ。わかってくれ、リリアナ」
「スティーブ」
「すまない、リリアナ」
スティーブはリリアナを抱き寄せた。そして月明かりの下、二人はありえない距離で身を寄せ合う。
私は慌てて二人から顔をそらし、念入りに近くの葉っぱで顔を覆う。
(というか、やっぱあの二人、できてる)
恋人にしか許されない行為を図らずとも目撃してしまった私は早まる鼓動と共に、確信する。
それからしばし恋人達の甘い時間が流れたようで。
「また明日、王城の舞踏会で会おう」
「えぇ」
リリアナの甘い呼びかけに応えるように、最後にもう一度熱い抱擁を交わしたのち、スティーブは静かにその場を立ち去った。
「あーあ、結局こうなるのね。全く男って小心者ばっかりなんだから」
スティーブに笑顔で手を振りながら、まるで人が変わったようにリリアナが呟く。
「やっぱり王妃様の言う通り。私が何とかするしかないってことなのね」
リリアナがゴソゴソと胸の谷間を探る。
そして首からさげていたらしいチェーンを手繰り寄せた。
(あれはなに?)
私は目を凝らし、リリアナが顔の前で揺らす物体を確認する。
金のチェーンに通されたそれは、真っ赤な宝石のついた指輪だった。
「王妃になれば、私の思いで国を動かせるようになるのかしら」
思い詰めた様子でチェーンに通された指輪を見つめるリリアナ。
(一体どうしちゃったの?)
何となく尋常ではないリリアナの様子に、私は嫌な予感がしてたまらない。
(どうする?あの指輪を奪うべき?)
私が狙いを定め、根っこを伸ばそうと右手に魔力を込めた瞬間。
「お嬢様、明日は大事な舞踏会なのです。そろそろお戻り下さい」
リリアナを迎えにきたらしき、女性の声がした。するとリリアナはサッとドレスの胸元にチェーンを隠しこんでしまう。
「そうね、明日は色々と忙しくなりそうだものね」
意味深な言葉を口にしたリリアナは、侍女らしき女性と共に、屋敷の中へ続く道を歩いて行ってしまった。
「さっぱりわからないけど、全てが不穏でしかないんだけど」
とにかくルーカスの身が狙われている。
そんな気がしてたまらない。
「とにかく、ルーカスに知らせないと。卒業まではルーカスに死んだり、病んでもらっちゃ困るし」
それに、この事を知ったルーカスが激怒し、リリアナとの婚約が破談になるような事があれば、ローミュラー王国は崩壊への第一歩を歩む事になる……かも知れない。
「いい気味だわ」
ある意味、復讐の予行練習ができるチャンスなのかも知れない。
私は腰に手をあて、大きく息を吸い込む。
「ふふふふふふ、ははははは」
ブラック・ローズ科の「悪役らしい笑い方講座」で習得したばかり。人を小馬鹿にした高笑いを、花壇の花に向かって披露する。
「メーデー!メーデー!こちらチーム光合成。救助対象者が、ステルス系笑いキノコの瘴気に当てられた可能性あり」
「こちらチーム、葉緑素。了解。直ちに周囲の安全を確認する」
「ラージャー!!」
よくわからない会話が交わされていると認識した瞬間。
「保護対象者の安全を確保!!」
私はどこからともなく現れた、マンドラゴラの大群に囲まれた。
しかもマンドラゴラ達は迷彩服を着て、頭には緑色のヘルメット。因みにヘルメットからは、マンドラゴラ特有の緑の葉っぱが突き抜けており、夜風に揺られユラユラとなびいている。
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