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第五章 事件がいっぱい、学校生活(十五歳)
041 謎の三人組登場3
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今日の放課後は呪い学の宿題に取り掛かかるつもりだった。しかもナターシャの提案でルーカスに手伝ってもらえば、楽勝な上にA判定確実だったはずなのだが。
現在私はルーカスと同じ園芸部に所属しているらしき、エリーザと名乗る青髪の女子生徒に、一方的に睨まれているという状況だ。
「つまりエリーザさんは、婚約者がいるルーカスと付き合うのは不誠実だと主張しているわけ?」
勘違いがないように、私は話を要約する。
「はい、その通りですわ」
エリーザは迷いなく首肯する。
「そもそも不誠実って何? 私とルーカスは恋人同士ではないんだけど」
「ですが、お二人は仲睦まじいご様子です」
「それは同郷のよしみなだけよ」
もはや言いすぎて、寝言でも「うっかり口にしてしまいそうだ」と自分で自分を疑うくらい、十八番となる言葉を嫌々返す。
「それに、ルシア様。あなたはどうもルーカス様に対して気があるように思えます」
「……はい?」
私の話を聞かず、エリーザは独自の見解を述べた。
「ルシア様は誤魔化すつもりかも知れませんが、あなたは結局のところ、ルーカス様が好きなんでしょう?」
再度同じ内容の言葉を繰り返すエリーザ。
(一体どこが?)
エリーザの思い込みの激しさに、私は思わず頭を抱える。
(あ、でも)
私に悪魔が降臨する。
「わかった。正直に言うわ」
神妙な顔を貼り付け、私は隣に座るルーカスにいそいそと向き直る。
「私はルーカスが好きよ」
はっきりと告げると、ルーカスが待ってましたとばかり、嬉しそうに私の手を取った。まるで待てを解除された犬のようである。
「ルシア、気付いてるだろうけど、僕も君の事を」
「やっぱり!」
エリーザによって遮られるルーカスの言葉。
「それに、その手は何のおつもりですの?結婚前に、素手で異性に触れるだなんて、はしたないこと。そう教わったはずですわよ。騎士道精神をお忘れですか、ルーカス様!!」
エリーザの怒りの矛先が、何故かルーカスに向けられた。
「あー、まぁ、確かに」
エリーザの剣幕に押されたのか、ルーカスの手はあっさり私から離される。
「ルシア様。確かに人を愛する気持ちは、理性で抑えきれるものではないかも知れません。けれどルーカス様には婚約者がいるのですよ。ですからさっさと別れるべきですわ」
エリーザが声を荒らげつつ、私を諭す。
「無理ね」
間髪を容れず否定すると、エリーザは顔を真っ赤にして怒り出す。
「ど、ど、どうしてですか!?」
勢いよく話していたかと思えば、今度は戸惑いの声をあげるエリーザ。
彼女の表情の変化を見ているのはなかなか面白い。
「私はルーカスが好き。だけどその好きは、恋愛感情ではなくて友情としてだもの」
ネタバラシとばかり。
私はきっぱりと言い切った。
「くっ。そんな事だろうと思った……」
ルーカスが悔しそうに呟く。
「悪いけど、友情の好きだから、別れるまでもないってこと」
私は勝ち誇ったように告げる。
「そんなの、男女の好きは、恋愛でしか成立しませんわ。ルシア様、あなたはルーカス様を恋愛感情的に好きなはずです!」
エリーザが必死の形相を浮かべながら反論してくる。
「確かに、君の意見に賛成だ。ルシアは僕の事が、確実に恋愛感情として好きなんだと思う。ま、本人は照れ屋なのか、なかなか認めようとしないけどね」
私にやり返すつもりなのか、ルーカスがエリーザの肩を持った。
(ちょっとルーカス。黙ってなさいよ)
私は横槍を入れるなと、ルーカスに対し目を吊り上げておく。
するとルーカスは、何故か私にニコリと微笑みを返してくる。
「僕が思うに」
言いながらルーカスは、エリーザ達の方に顔を向けた。
「君たちは園芸部の活動をより充実させようと思い、僕のプライベートを気遣ってくれている。そうだよね?」
「そ、それは……」
「えっと」
「その……」
突然ルーカスに問われ、エリーザ達はしどろもどろになりうつむく。
「君たちの仲間に対する親切心にはとても感謝している。さすが愛を信じるホワイト・ローズ科の生徒だと、僕も感動したよ。ありがとう」
会話の主導権を奪う勢いで、ルーカスが語り始める。
「けれど、僕自身の考えとしては、プライベートが充実しているからこそ、研究や部活動に励めるものだと思うんだ」
ルーカスはエリーザに視線を向けると、諭すような口調で話を続けた。
「それに、僕は誰かに言われたからと言って、自分の気持ちを変えたりはしない。例えそれが、他人から見て間違っているように見えたとしても」
「ルーカス様……」
エリーザが切なげな表情で、ルーカスを見つめる。
「だからどうか、僕とルシアの関係についてはそっとしておいて欲しい。彼女と僕は「好き嫌い」といった、わかりやすい感情で結ばれている関係ではないんだ」
ルーカスは声を落とす。
「それに、彼女との結びつきは、他人からは理解しがたいものでもある。だから出来たら今後、僕らの間に入ってくることも控えてくれないか?」
「……」
ルーカスの真剣な訴えに、エリーザは何も返せないようだ。
(ふむ。ここに連れ込んだのは正解だったようね)
己の正義感を押し通そうとする、厄介な人間に対抗できるのは、同じ価値観を持つ人間だけ。
(その点にルーカスが当てはまるか、多少不安はあったけど)
思いの他、ルーカスは良い働きをしてくれた。
そもそもホワイト・ローズ科の女子生徒は表面上、従順でおしとやかであればあるほど良いと教えられているともっぱらの噂だ。
勿論エリーザの先程の態度を見る限り、所詮それは表向きの姿に過ぎないような気がする。
けれど、エリーザ達がルーカスに恋愛的感情を抱いていた場合。やはり根っこの部分では「従順でおしとやか」でありたい自分が勝つのである。
よって、どう転んだとしても、ルーカスの温室に連れ込む判断をした私の考えは、大正解だったと言える。
「……わかりましたわ」
しばらく無言が続いた後、神妙な顔をしたエリーザがぽつりと返事をした。
「ルーカス様がそこまで仰るのであれば、私達も引き下がるしかありません。不躾な提案をしてしまい、申し訳ございませんでした」
エリーザは深く頭を下げた。そして後を追うように、彼女の両脇を埋めた二人も、所在なさげに頭を下げた。
「我儘を言ってすまない。でも、わかってくれて嬉しいよ。園芸部の活動、共に盛り上げていこう」
ルーカスは、エリーザに向かって優しく微笑む。
「きゃっ、え、えっと、はいっ!」
エリーザは頬を染めると、潤ませた瞳をルーカスに向けた。
「まったく、私なんかより、よっぽどわかりやすいんだけど」
よく人の事が言えたものだと、頬を染めるエリーザに対し、これ見よがしにため息をつく。
「な、何の事かしら。ルーカス様、お邪魔しました。研究を頑張ってくださいませ」
エリーザは突然立ち上がり、ペコリと頭を下げた。
「紅茶、ご馳走さまでした」
「失礼します」
続いてエリーザの両隣にいた子も立ち上がると、同じようにお辞儀をする。
「さあ、行きましょう」
エリーザは二人の腕を掴むと、まるで逃げるように、足早に部屋を出て行った。
「ふう……やっと帰った」
私は安堵のため息をつく。
「ようやく宿題に取り掛かれる」
呟きながら、レポート用紙を取り出そうと、横に置いたカバンに手を伸ばす。
「ルシア」
「ん。何?」
「僕、結構頑張ったと思うんだけど」
「あー、うん。まぁ、ありがとう」
私はカバンの中から、魔法の羽根ペンと、レポート用紙を取り出しながらルーカスに答える。
「もっと褒めてくれたっていいんじゃないかな?」
「十分でしょ?」
「全然足りないよ」
「そう?」
しつこいルーカスを無視し、レポート用紙に名前を書き込む。
「ねぇ、ルシア。今度の休日さ、デートしよう?」
「……はい?」
思いもよらぬ提案をされ、私は手を止めた。そして横に座るルーカスに顔を向ける。
「次の休み、一緒に出かけない?」
満面の笑みで私を誘うルーカス。
「どうして?」
「どうしても」
「……」
「今日の僕は、わりと察しが良くて、かなり君の役に立ったよね?」
ルーカスは私の手を握りしめると、ここぞとばかり恩着せがましい言葉を吐いた。
確かに後半、ルーカスのお陰で丸く収まった感は否めないような気もする。
「……わかった。その代わり、早く呪い学のレポートを書くのを手伝って」
「了解」
(面倒くさい事がまた増えちゃった)
内心愚痴りながらも、ルーカスに笑顔で頼み事をされると、なんだかんだいつも押し切られている自分に気付く。
(ま、同郷のよしみだから……って)
私はふと大事な事に気付いた。
「そもそも今回、私があの人達に絡まれたのって、全部あなたのせいじゃない」
エリーザ達がルーカスに好意を持っていたのは間違いない。
そしてルーカスが私にまとわりつくから、付き合っていると勘違いし、一方的な正義の押し付けをされる羽目になった。
(む、私は全然悪くないじゃん)
私はルーカスに握られた手を振り解く。
「よくよく考えみたけど、私はとばっちりを受けただけだと判明したわ。だからデートなんてしない」
「えーひどい」
「ひどくない!」
うっかり騙される所だった。
私はすんでのところで、週末の予定が埋まるのを回避した。
「グッジョブ、私」
グッと右手に拳をつくり、喜びを噛み締める。
「さてと。レポート書こうっと。ねぇ、マンドラゴラにまつわる呪いって、具体的にどんなものがあるの?」
魔法の羽根ペンを握りしめ、ルーカスに尋ねる。
しかし、帰ってきたのは私の名前。
「……ルシア」
「何よ」
「僕は本当に君が好きだよ」
「はいはい」
「君を食べたい」
「はいはい」
「ルシアは僕のこと、好き?」
「はいはい」
「ねえ、聞いてる?」
「はいはい」
「ルシア」
「もう、なんなのよ!」
私は名前しか書き込まれていない、真っさらに近いレポート用紙から顔をあげる。そしてテーブルに頬杖をつき、こちらを眺めるルーカスを睨みつけた。
「ルシアが無視するから」
「だって、あなたがしつこいからでしょ」
「じゃあ、返事してよ」
「いやよ」
「ルシア」
「……」
「好き、食べたい」
「っ、やめて! そんな甘い声で囁かないで!!」
たまらず私は両耳を塞ぐ。
「好きだよ」
「もう、うるさい!」
「怒ってるとこも、可愛い」
悪びれずニコリと微笑むルーカス。
そんなルーカスを思い切り睨みつけるものの。
「あーっ、もうっ。わかったわよ。日曜日、付き合えばいいんでしょ!」
私は観念し、一度は奪い返した週末の予定をルーカスに再び、明け渡す。
「最初からそう言えばいいのに。ま、素直じゃないところも含め、僕は君が好きなんだけどね」
ルーカスは、エリーザが見たら失神間違いなし。とろける笑顔を私に惜しみなくよこしたのであった。
現在私はルーカスと同じ園芸部に所属しているらしき、エリーザと名乗る青髪の女子生徒に、一方的に睨まれているという状況だ。
「つまりエリーザさんは、婚約者がいるルーカスと付き合うのは不誠実だと主張しているわけ?」
勘違いがないように、私は話を要約する。
「はい、その通りですわ」
エリーザは迷いなく首肯する。
「そもそも不誠実って何? 私とルーカスは恋人同士ではないんだけど」
「ですが、お二人は仲睦まじいご様子です」
「それは同郷のよしみなだけよ」
もはや言いすぎて、寝言でも「うっかり口にしてしまいそうだ」と自分で自分を疑うくらい、十八番となる言葉を嫌々返す。
「それに、ルシア様。あなたはどうもルーカス様に対して気があるように思えます」
「……はい?」
私の話を聞かず、エリーザは独自の見解を述べた。
「ルシア様は誤魔化すつもりかも知れませんが、あなたは結局のところ、ルーカス様が好きなんでしょう?」
再度同じ内容の言葉を繰り返すエリーザ。
(一体どこが?)
エリーザの思い込みの激しさに、私は思わず頭を抱える。
(あ、でも)
私に悪魔が降臨する。
「わかった。正直に言うわ」
神妙な顔を貼り付け、私は隣に座るルーカスにいそいそと向き直る。
「私はルーカスが好きよ」
はっきりと告げると、ルーカスが待ってましたとばかり、嬉しそうに私の手を取った。まるで待てを解除された犬のようである。
「ルシア、気付いてるだろうけど、僕も君の事を」
「やっぱり!」
エリーザによって遮られるルーカスの言葉。
「それに、その手は何のおつもりですの?結婚前に、素手で異性に触れるだなんて、はしたないこと。そう教わったはずですわよ。騎士道精神をお忘れですか、ルーカス様!!」
エリーザの怒りの矛先が、何故かルーカスに向けられた。
「あー、まぁ、確かに」
エリーザの剣幕に押されたのか、ルーカスの手はあっさり私から離される。
「ルシア様。確かに人を愛する気持ちは、理性で抑えきれるものではないかも知れません。けれどルーカス様には婚約者がいるのですよ。ですからさっさと別れるべきですわ」
エリーザが声を荒らげつつ、私を諭す。
「無理ね」
間髪を容れず否定すると、エリーザは顔を真っ赤にして怒り出す。
「ど、ど、どうしてですか!?」
勢いよく話していたかと思えば、今度は戸惑いの声をあげるエリーザ。
彼女の表情の変化を見ているのはなかなか面白い。
「私はルーカスが好き。だけどその好きは、恋愛感情ではなくて友情としてだもの」
ネタバラシとばかり。
私はきっぱりと言い切った。
「くっ。そんな事だろうと思った……」
ルーカスが悔しそうに呟く。
「悪いけど、友情の好きだから、別れるまでもないってこと」
私は勝ち誇ったように告げる。
「そんなの、男女の好きは、恋愛でしか成立しませんわ。ルシア様、あなたはルーカス様を恋愛感情的に好きなはずです!」
エリーザが必死の形相を浮かべながら反論してくる。
「確かに、君の意見に賛成だ。ルシアは僕の事が、確実に恋愛感情として好きなんだと思う。ま、本人は照れ屋なのか、なかなか認めようとしないけどね」
私にやり返すつもりなのか、ルーカスがエリーザの肩を持った。
(ちょっとルーカス。黙ってなさいよ)
私は横槍を入れるなと、ルーカスに対し目を吊り上げておく。
するとルーカスは、何故か私にニコリと微笑みを返してくる。
「僕が思うに」
言いながらルーカスは、エリーザ達の方に顔を向けた。
「君たちは園芸部の活動をより充実させようと思い、僕のプライベートを気遣ってくれている。そうだよね?」
「そ、それは……」
「えっと」
「その……」
突然ルーカスに問われ、エリーザ達はしどろもどろになりうつむく。
「君たちの仲間に対する親切心にはとても感謝している。さすが愛を信じるホワイト・ローズ科の生徒だと、僕も感動したよ。ありがとう」
会話の主導権を奪う勢いで、ルーカスが語り始める。
「けれど、僕自身の考えとしては、プライベートが充実しているからこそ、研究や部活動に励めるものだと思うんだ」
ルーカスはエリーザに視線を向けると、諭すような口調で話を続けた。
「それに、僕は誰かに言われたからと言って、自分の気持ちを変えたりはしない。例えそれが、他人から見て間違っているように見えたとしても」
「ルーカス様……」
エリーザが切なげな表情で、ルーカスを見つめる。
「だからどうか、僕とルシアの関係についてはそっとしておいて欲しい。彼女と僕は「好き嫌い」といった、わかりやすい感情で結ばれている関係ではないんだ」
ルーカスは声を落とす。
「それに、彼女との結びつきは、他人からは理解しがたいものでもある。だから出来たら今後、僕らの間に入ってくることも控えてくれないか?」
「……」
ルーカスの真剣な訴えに、エリーザは何も返せないようだ。
(ふむ。ここに連れ込んだのは正解だったようね)
己の正義感を押し通そうとする、厄介な人間に対抗できるのは、同じ価値観を持つ人間だけ。
(その点にルーカスが当てはまるか、多少不安はあったけど)
思いの他、ルーカスは良い働きをしてくれた。
そもそもホワイト・ローズ科の女子生徒は表面上、従順でおしとやかであればあるほど良いと教えられているともっぱらの噂だ。
勿論エリーザの先程の態度を見る限り、所詮それは表向きの姿に過ぎないような気がする。
けれど、エリーザ達がルーカスに恋愛的感情を抱いていた場合。やはり根っこの部分では「従順でおしとやか」でありたい自分が勝つのである。
よって、どう転んだとしても、ルーカスの温室に連れ込む判断をした私の考えは、大正解だったと言える。
「……わかりましたわ」
しばらく無言が続いた後、神妙な顔をしたエリーザがぽつりと返事をした。
「ルーカス様がそこまで仰るのであれば、私達も引き下がるしかありません。不躾な提案をしてしまい、申し訳ございませんでした」
エリーザは深く頭を下げた。そして後を追うように、彼女の両脇を埋めた二人も、所在なさげに頭を下げた。
「我儘を言ってすまない。でも、わかってくれて嬉しいよ。園芸部の活動、共に盛り上げていこう」
ルーカスは、エリーザに向かって優しく微笑む。
「きゃっ、え、えっと、はいっ!」
エリーザは頬を染めると、潤ませた瞳をルーカスに向けた。
「まったく、私なんかより、よっぽどわかりやすいんだけど」
よく人の事が言えたものだと、頬を染めるエリーザに対し、これ見よがしにため息をつく。
「な、何の事かしら。ルーカス様、お邪魔しました。研究を頑張ってくださいませ」
エリーザは突然立ち上がり、ペコリと頭を下げた。
「紅茶、ご馳走さまでした」
「失礼します」
続いてエリーザの両隣にいた子も立ち上がると、同じようにお辞儀をする。
「さあ、行きましょう」
エリーザは二人の腕を掴むと、まるで逃げるように、足早に部屋を出て行った。
「ふう……やっと帰った」
私は安堵のため息をつく。
「ようやく宿題に取り掛かれる」
呟きながら、レポート用紙を取り出そうと、横に置いたカバンに手を伸ばす。
「ルシア」
「ん。何?」
「僕、結構頑張ったと思うんだけど」
「あー、うん。まぁ、ありがとう」
私はカバンの中から、魔法の羽根ペンと、レポート用紙を取り出しながらルーカスに答える。
「もっと褒めてくれたっていいんじゃないかな?」
「十分でしょ?」
「全然足りないよ」
「そう?」
しつこいルーカスを無視し、レポート用紙に名前を書き込む。
「ねぇ、ルシア。今度の休日さ、デートしよう?」
「……はい?」
思いもよらぬ提案をされ、私は手を止めた。そして横に座るルーカスに顔を向ける。
「次の休み、一緒に出かけない?」
満面の笑みで私を誘うルーカス。
「どうして?」
「どうしても」
「……」
「今日の僕は、わりと察しが良くて、かなり君の役に立ったよね?」
ルーカスは私の手を握りしめると、ここぞとばかり恩着せがましい言葉を吐いた。
確かに後半、ルーカスのお陰で丸く収まった感は否めないような気もする。
「……わかった。その代わり、早く呪い学のレポートを書くのを手伝って」
「了解」
(面倒くさい事がまた増えちゃった)
内心愚痴りながらも、ルーカスに笑顔で頼み事をされると、なんだかんだいつも押し切られている自分に気付く。
(ま、同郷のよしみだから……って)
私はふと大事な事に気付いた。
「そもそも今回、私があの人達に絡まれたのって、全部あなたのせいじゃない」
エリーザ達がルーカスに好意を持っていたのは間違いない。
そしてルーカスが私にまとわりつくから、付き合っていると勘違いし、一方的な正義の押し付けをされる羽目になった。
(む、私は全然悪くないじゃん)
私はルーカスに握られた手を振り解く。
「よくよく考えみたけど、私はとばっちりを受けただけだと判明したわ。だからデートなんてしない」
「えーひどい」
「ひどくない!」
うっかり騙される所だった。
私はすんでのところで、週末の予定が埋まるのを回避した。
「グッジョブ、私」
グッと右手に拳をつくり、喜びを噛み締める。
「さてと。レポート書こうっと。ねぇ、マンドラゴラにまつわる呪いって、具体的にどんなものがあるの?」
魔法の羽根ペンを握りしめ、ルーカスに尋ねる。
しかし、帰ってきたのは私の名前。
「……ルシア」
「何よ」
「僕は本当に君が好きだよ」
「はいはい」
「君を食べたい」
「はいはい」
「ルシアは僕のこと、好き?」
「はいはい」
「ねえ、聞いてる?」
「はいはい」
「ルシア」
「もう、なんなのよ!」
私は名前しか書き込まれていない、真っさらに近いレポート用紙から顔をあげる。そしてテーブルに頬杖をつき、こちらを眺めるルーカスを睨みつけた。
「ルシアが無視するから」
「だって、あなたがしつこいからでしょ」
「じゃあ、返事してよ」
「いやよ」
「ルシア」
「……」
「好き、食べたい」
「っ、やめて! そんな甘い声で囁かないで!!」
たまらず私は両耳を塞ぐ。
「好きだよ」
「もう、うるさい!」
「怒ってるとこも、可愛い」
悪びれずニコリと微笑むルーカス。
そんなルーカスを思い切り睨みつけるものの。
「あーっ、もうっ。わかったわよ。日曜日、付き合えばいいんでしょ!」
私は観念し、一度は奪い返した週末の予定をルーカスに再び、明け渡す。
「最初からそう言えばいいのに。ま、素直じゃないところも含め、僕は君が好きなんだけどね」
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