60 / 126
第六章 父と特訓、筋肉アップのサマーバケーション(十五歳)
060 帰りは共に
しおりを挟む
ロドニールとダンスを終えた私を待ち受けていたのは両親と、ここにいるはずのない、というよりも、いてはならないはずの人物だった。
「さぁ、遠慮せず踊ろうか」
ロドニールの腕に乗せた私の手は、横から伸びてきた手に掴まれる。
私は確信を持ち、伸びてきた手の主を確認する。するとそこには、案の定といった感じ。学校でマンドラゴラの世話をしているはずである、ルーカスの姿があった。
しかもルーカスはパーティにおける礼服の定番、黒いモーニングに身を包んでいる。そして小脇には、どう見てもマンドラゴラの鉢植えらしきものを抱えていた。
「ルーカス殿下!どうしてこちらに?」
母が私の代わりに驚きの声をあげる。
「ご無沙汰しております」
父と母に軽く頭を下げるルーカス。
「丁度王都に用事があり、立ち寄った帰りなんです。どうせ同じ学校に戻るわけですし、グリフォンを往復させるのも可哀想なので、お嬢様と共に帰ろうかと」
爽やかな笑顔で、この場にいる理由を説明するルーカス。しかしその瞳が笑っていないのが怖い。
「あぁ、殿下はハーヴィストン侯が開催するパーティーに、ご参加されていたのですね。婚約者であるリリアナ嬢のエスコートをしない訳には、いきませんからね」
私の横に並び立ったロドニールが得意げに語る。
「ロドニール、久しぶりだな。元気だったかい?」
「殿下も変わらず、植物研究にご熱心なようで」
「ははは、これは僕の唯一の趣味だからね。君は、今も王立学校の騎士科に通っているの?」
「はい。来年の卒業を目指し、精進しております」
「そうか。君なら立派な騎士になるだろう。頑張ってくれたまえ」
「ありがとうございます」
どうやら知り合いなのか、笑顔で会話する二人。
しかしどうみても二人の間には、不穏な空気が流れている。何より社交辞令百パーセントの作り笑いをぶつけ合っている所が、二人の関係、その全てを物語っている気がする。
「さて、ルシア嬢、せっかくだから僕と一曲踊ろうか」
ルーカスが私に手を伸ばす。
「いえ、私は……」
「どうやら先程、私と楽しく踊ったダンスで、疲れてしまったようですね」
今度はロドニールが私の顔を笑顔で覗き込む。
「いえ、そういうわけでも……」
「遠慮しなくていいんだよ。僕と君は同じ学校に通う仲間じゃないか」
ルーカスが私に爽やかな笑みをよこす。
「無理しない方がいい。この一ヶ月、私と、毎日鍛錬した疲れが出ているのかも知れないし」
ルーカスを押しのけるように、ロドニールも爽やかな笑みを私に向ける。
(こ、これは……)
私は右へ、左へを顔を忙しなく動かし、修羅場の予感に少しだけ興奮する。
(悪女たるもの、そうこなくちゃね)
学校ではルーカスのせいで、私に寄り付くもの好きなどいない。そのせいで私は、自分の容姿に対し、「もしかしてブスなの?」と自信喪失の日々を送る事を、余儀なくされている。
しかし現在。こうして大勢の前で二人の男性が私を奪い合うという状況は、紛れもなく私に魅力がある証拠だ。
(そして、王子を誑かした悪女と名高い母さん譲り、私の美貌は、十分に証明されたことになるわ)
私は「よっしゃー」と心の中でガッツポーズをとる。
「グリフォンを待たせているとなると、ルーカス殿とご一緒に帰った方がいいんじゃないかしら」
「そうだな。一日早いが、荷造りは済ませてあるのだろう?」
両親がそう言って、ちらりと私を見る。
「うん、それは大丈夫だけど」
「じゃあ、折角殿下が迎えに来てくれたのだから、すぐに準備なさい」
「あぁ、そうだな」
両親は私に有無を言わせず、話をまとめる。
「ルシア様、戻られるのですか?」
ロドニールが残念そうな声を出す。
「ええと、流れ的にそうみたい。色々とありがとう。また来年。一緒にトレーニングしましょう」
「わかりました。その時を楽しみにしております」
ロドニールが私に手を伸ばす。私は一瞬迷ったあと、彼の手をしっかりと握る。
(忠実なる下僕よ、色々とお世話になったわね。ありがとう)
今まで役に立ったお礼をひっそりと告げておく。
「ルシア、きちんと手紙を書くのよ」
「毎日筋トレを欠かさず行うんだぞ」
「わかってるって」
去年と同じような別れ際の会話。今年はそれに筋トレが追加された。
(来年は何が増えるんだろう)
一瞬不安に思うも、来年の今頃は学校を卒業し、両親とまた共に暮らせる可能性がある事に気付く。そんな未来を嬉しく思いつつ、改めて親の目の届かない場所で過ごす最後の一年は、悔いのないよう、存分に楽しもうと密かに誓う。
「それでは、失礼します」
ルーカスが私の両親に頭を下げる。
「じゃ、ルシア嬢、行こうか」
「あ、うん。じゃ、父さん、母さん、また」
私は両親に挨拶をすると、そのまま会場を後にした。
それから慌てて荷物を取りに部屋に戻る。
「着替えるから、出て行って」
「駄目、滅多にない姿だからそのままで」
ルーカスはマジカルデバイスをこちらに向けると、パシャリと私のドレス姿を撮影した。
「冗談じゃないんだけど。というか、何で来たの?」
ルーカスの事だから、どうせグリフォンは言い訳だろう。しかし彼は私の質問に答える気がないのか、マジカルデバイスをいじっている。
「言い方を変えるわね。どうして私が舞踏会に出ていると知ってるの?」
私は腰に手をあて、キリリとルーカスを見上げながら睨みつけた。
「そんなの、君が堂々と浮気をしていたからだろう」
「浮気?」
「ロドニールに腰を掴まれてさ、ダンスなんかしてただろ?しかも親密そうに、笑顔で」
ルーカスは思い切り不機嫌な表情になる。
確かに私はロドニールとダンスをしていた。
(でも何でその事を知ってるの?)
ルーカスが会場にいて、堂々と監視していたとは思えない。
何故なら今日は王族派主催の舞踏会なのだから。グール派筆頭である、ランドルフの子であるルーカスが、歓迎されるとは思えなかったからだ。
「あ、もしかして、マンドラゴラ部隊が復活したの?」
私は閃きと共に、期待の顔を向ける。
「残念だけどしてない。統率を取れるまでに訓練するには、もう少し時間が必要」
「じゃ、どうして私の動向を知ってるのよ。まさかオナモミとか?」
私はストーカーに適した、新たな植物を推測する。
河原の草むらなどでよく見かけるオナモミ。カギ状になったイガイガの先端は衣服などに絡みつく。その上一度絡みつくと簡単には外れず、かなり厄介な果実なのである。
つまりサイズといい、その構造といい。オナモミはストーカー気質たっぷりな果実だと言える。
「あー確かにオナモミは、服に張り付くし、人の位置情報を探るにはいいかもな」
「え、オナモミじゃないの?」
「ちがうよ」
ルーカスは、くすりと笑みを漏らす。
(まずった)
どうやら私はルーカスに、余計なアイデアを提供してしまったようだ。
自分で自分の首を締めた。その現実に、私は打ちひしがれ項垂れる。
「ローミュラー王国民のマジグラムをさ、僕は捨て垢でロムってるんだ」
「ロムってるって。監視してるってこと?」
驚く私に謎に微笑みを返すと、ルーカスは話を続ける。
「それで僕は見つけたんだよ」
「何を?」
「とある一部の、危機管理能力が薄い、王族派の人間の投稿。君とロドニールがダンスをしているところを、ご丁寧に動画で投稿してたよ」
「え」
私は驚きの事実と共に、顔を上げる。
「一応、ロドニールには問題のアカウントをDMしておいたから、君の事を、世間に知られる事はないと思いたい」
ルーカスは「僕だけのルシアなのに」などと口を尖らせた。
しかし問題はそこではない。両親の良い所を受け継ぐ私の画像が拡散されてしまった場合。
「父さん達がここにいるってバレちゃうかも」
すなわちそれは、父と母が命を狙われるも同然だ。
「やばい、父さん達に早く知らせないと」
私は青ざめ、部屋を飛び出そうと足を運ぶ。するとルーカスに腕をガシリと掴まれた。
「大丈夫。僕が来た時点ですでに手を打ってあるから」
「どういうこと?」
「すぐにチャールズがマジグラムのサーバーをハッキングして、シャットダウンしたから」
「は?」
「今は復旧作業中かな。該当の投稿は削除済みだし、今頃は別の投稿が代わりにアップされているはず」
ルーカスはさらりと言うが、その技術は高度で誰でも出来るものではない。そしてハッキングという言葉自体が。
「え、なにそれ格好いいんだけど」
私は目を輝かせる。
「チャールズ・モルス。ホワイト・ローズ科に所属する奴で、彼の祖先はかの有名なサミュー・モルスだよ」
「もしかして魔法のモルス符号を発明した?」
「正解」
ルーカスが得意げに告げる。
そもそも魔法のモルス符号とは、魔法の杖を用いて作り出す、点と線の組み合わせによる符号のことだ。
この符号は、空中を伝わり、他の魔法使いたちに届く。
そのことから、魔法使い同士における秘密のコミュニケーションに使用されたり、戦いでの作戦立案に役立てられたりすることがあるそうだ。勿論、魔法のモルス符号は、フェアリーテイル魔法学校における必修科目の一つでもある。
「確かにチャールズは凄い。でもさ、彼に頼んだ僕の仕事の速さを褒めてくれても構わないんだけど」
ルーカスは、私に賞賛の言葉をねだってきた。
「そうね。素直に褒めてあげる。すごーい、ルーカス」
私は棒読み口調で、パチパチと拍手をする。
「何だよそれ。全然心がこもってない」
ルーカスは不満げな顔を私に向ける。
仕方がないので、私はルーカスにサービスしてあげる事にした。
「ありがとう」
私は男性をコロリと虜にすると名高い、あざとい笑顔を返す。
「……うん。まぁ、いいか」
ルーカスは一瞬戸惑ったものの、満更でもない顔をして照れている。
「それで、エルマーはどこ?」
「変わり身はやっ。もうちょっと余韻に浸りたかったのに」
「もう十分この国を満喫したもの」
最初は両親との再会に喜ぶ気持ちが大きかった。けれど、まるまる一ヶ月もいれば、それなりにお腹いっぱいになるというもの。
「何だか、早く帰りたい気分」
「それは僕に会えなくて寂しかったからじゃないかな」
「毎日しつこいくらいにメッセージを送ってきてたじゃない。全然寂しくなんてなかったし」
それどころか、グールの話題になる度、ルーカスの顔が嫌でも浮かんでいたような気がする。
「そう?僕はずっと、ルシアの事が心配だったけど」
「……」
私はいつもの調子で、ルーカスを無言で睨む。
「そんな顔しても可愛いだけだよ。さ、エルマーに乗って帰ろう」
ルーカスはニコニコと笑みを浮かべながら、私の手を取った。私はその手をしっかりと握る。そして、いつも通り迎えに来てくれた真っ黒なグリフォン。エルマーの背に乗り、もはや故郷と呼ぶに相応しい、おとぎの国を目指すのであった。
「さぁ、遠慮せず踊ろうか」
ロドニールの腕に乗せた私の手は、横から伸びてきた手に掴まれる。
私は確信を持ち、伸びてきた手の主を確認する。するとそこには、案の定といった感じ。学校でマンドラゴラの世話をしているはずである、ルーカスの姿があった。
しかもルーカスはパーティにおける礼服の定番、黒いモーニングに身を包んでいる。そして小脇には、どう見てもマンドラゴラの鉢植えらしきものを抱えていた。
「ルーカス殿下!どうしてこちらに?」
母が私の代わりに驚きの声をあげる。
「ご無沙汰しております」
父と母に軽く頭を下げるルーカス。
「丁度王都に用事があり、立ち寄った帰りなんです。どうせ同じ学校に戻るわけですし、グリフォンを往復させるのも可哀想なので、お嬢様と共に帰ろうかと」
爽やかな笑顔で、この場にいる理由を説明するルーカス。しかしその瞳が笑っていないのが怖い。
「あぁ、殿下はハーヴィストン侯が開催するパーティーに、ご参加されていたのですね。婚約者であるリリアナ嬢のエスコートをしない訳には、いきませんからね」
私の横に並び立ったロドニールが得意げに語る。
「ロドニール、久しぶりだな。元気だったかい?」
「殿下も変わらず、植物研究にご熱心なようで」
「ははは、これは僕の唯一の趣味だからね。君は、今も王立学校の騎士科に通っているの?」
「はい。来年の卒業を目指し、精進しております」
「そうか。君なら立派な騎士になるだろう。頑張ってくれたまえ」
「ありがとうございます」
どうやら知り合いなのか、笑顔で会話する二人。
しかしどうみても二人の間には、不穏な空気が流れている。何より社交辞令百パーセントの作り笑いをぶつけ合っている所が、二人の関係、その全てを物語っている気がする。
「さて、ルシア嬢、せっかくだから僕と一曲踊ろうか」
ルーカスが私に手を伸ばす。
「いえ、私は……」
「どうやら先程、私と楽しく踊ったダンスで、疲れてしまったようですね」
今度はロドニールが私の顔を笑顔で覗き込む。
「いえ、そういうわけでも……」
「遠慮しなくていいんだよ。僕と君は同じ学校に通う仲間じゃないか」
ルーカスが私に爽やかな笑みをよこす。
「無理しない方がいい。この一ヶ月、私と、毎日鍛錬した疲れが出ているのかも知れないし」
ルーカスを押しのけるように、ロドニールも爽やかな笑みを私に向ける。
(こ、これは……)
私は右へ、左へを顔を忙しなく動かし、修羅場の予感に少しだけ興奮する。
(悪女たるもの、そうこなくちゃね)
学校ではルーカスのせいで、私に寄り付くもの好きなどいない。そのせいで私は、自分の容姿に対し、「もしかしてブスなの?」と自信喪失の日々を送る事を、余儀なくされている。
しかし現在。こうして大勢の前で二人の男性が私を奪い合うという状況は、紛れもなく私に魅力がある証拠だ。
(そして、王子を誑かした悪女と名高い母さん譲り、私の美貌は、十分に証明されたことになるわ)
私は「よっしゃー」と心の中でガッツポーズをとる。
「グリフォンを待たせているとなると、ルーカス殿とご一緒に帰った方がいいんじゃないかしら」
「そうだな。一日早いが、荷造りは済ませてあるのだろう?」
両親がそう言って、ちらりと私を見る。
「うん、それは大丈夫だけど」
「じゃあ、折角殿下が迎えに来てくれたのだから、すぐに準備なさい」
「あぁ、そうだな」
両親は私に有無を言わせず、話をまとめる。
「ルシア様、戻られるのですか?」
ロドニールが残念そうな声を出す。
「ええと、流れ的にそうみたい。色々とありがとう。また来年。一緒にトレーニングしましょう」
「わかりました。その時を楽しみにしております」
ロドニールが私に手を伸ばす。私は一瞬迷ったあと、彼の手をしっかりと握る。
(忠実なる下僕よ、色々とお世話になったわね。ありがとう)
今まで役に立ったお礼をひっそりと告げておく。
「ルシア、きちんと手紙を書くのよ」
「毎日筋トレを欠かさず行うんだぞ」
「わかってるって」
去年と同じような別れ際の会話。今年はそれに筋トレが追加された。
(来年は何が増えるんだろう)
一瞬不安に思うも、来年の今頃は学校を卒業し、両親とまた共に暮らせる可能性がある事に気付く。そんな未来を嬉しく思いつつ、改めて親の目の届かない場所で過ごす最後の一年は、悔いのないよう、存分に楽しもうと密かに誓う。
「それでは、失礼します」
ルーカスが私の両親に頭を下げる。
「じゃ、ルシア嬢、行こうか」
「あ、うん。じゃ、父さん、母さん、また」
私は両親に挨拶をすると、そのまま会場を後にした。
それから慌てて荷物を取りに部屋に戻る。
「着替えるから、出て行って」
「駄目、滅多にない姿だからそのままで」
ルーカスはマジカルデバイスをこちらに向けると、パシャリと私のドレス姿を撮影した。
「冗談じゃないんだけど。というか、何で来たの?」
ルーカスの事だから、どうせグリフォンは言い訳だろう。しかし彼は私の質問に答える気がないのか、マジカルデバイスをいじっている。
「言い方を変えるわね。どうして私が舞踏会に出ていると知ってるの?」
私は腰に手をあて、キリリとルーカスを見上げながら睨みつけた。
「そんなの、君が堂々と浮気をしていたからだろう」
「浮気?」
「ロドニールに腰を掴まれてさ、ダンスなんかしてただろ?しかも親密そうに、笑顔で」
ルーカスは思い切り不機嫌な表情になる。
確かに私はロドニールとダンスをしていた。
(でも何でその事を知ってるの?)
ルーカスが会場にいて、堂々と監視していたとは思えない。
何故なら今日は王族派主催の舞踏会なのだから。グール派筆頭である、ランドルフの子であるルーカスが、歓迎されるとは思えなかったからだ。
「あ、もしかして、マンドラゴラ部隊が復活したの?」
私は閃きと共に、期待の顔を向ける。
「残念だけどしてない。統率を取れるまでに訓練するには、もう少し時間が必要」
「じゃ、どうして私の動向を知ってるのよ。まさかオナモミとか?」
私はストーカーに適した、新たな植物を推測する。
河原の草むらなどでよく見かけるオナモミ。カギ状になったイガイガの先端は衣服などに絡みつく。その上一度絡みつくと簡単には外れず、かなり厄介な果実なのである。
つまりサイズといい、その構造といい。オナモミはストーカー気質たっぷりな果実だと言える。
「あー確かにオナモミは、服に張り付くし、人の位置情報を探るにはいいかもな」
「え、オナモミじゃないの?」
「ちがうよ」
ルーカスは、くすりと笑みを漏らす。
(まずった)
どうやら私はルーカスに、余計なアイデアを提供してしまったようだ。
自分で自分の首を締めた。その現実に、私は打ちひしがれ項垂れる。
「ローミュラー王国民のマジグラムをさ、僕は捨て垢でロムってるんだ」
「ロムってるって。監視してるってこと?」
驚く私に謎に微笑みを返すと、ルーカスは話を続ける。
「それで僕は見つけたんだよ」
「何を?」
「とある一部の、危機管理能力が薄い、王族派の人間の投稿。君とロドニールがダンスをしているところを、ご丁寧に動画で投稿してたよ」
「え」
私は驚きの事実と共に、顔を上げる。
「一応、ロドニールには問題のアカウントをDMしておいたから、君の事を、世間に知られる事はないと思いたい」
ルーカスは「僕だけのルシアなのに」などと口を尖らせた。
しかし問題はそこではない。両親の良い所を受け継ぐ私の画像が拡散されてしまった場合。
「父さん達がここにいるってバレちゃうかも」
すなわちそれは、父と母が命を狙われるも同然だ。
「やばい、父さん達に早く知らせないと」
私は青ざめ、部屋を飛び出そうと足を運ぶ。するとルーカスに腕をガシリと掴まれた。
「大丈夫。僕が来た時点ですでに手を打ってあるから」
「どういうこと?」
「すぐにチャールズがマジグラムのサーバーをハッキングして、シャットダウンしたから」
「は?」
「今は復旧作業中かな。該当の投稿は削除済みだし、今頃は別の投稿が代わりにアップされているはず」
ルーカスはさらりと言うが、その技術は高度で誰でも出来るものではない。そしてハッキングという言葉自体が。
「え、なにそれ格好いいんだけど」
私は目を輝かせる。
「チャールズ・モルス。ホワイト・ローズ科に所属する奴で、彼の祖先はかの有名なサミュー・モルスだよ」
「もしかして魔法のモルス符号を発明した?」
「正解」
ルーカスが得意げに告げる。
そもそも魔法のモルス符号とは、魔法の杖を用いて作り出す、点と線の組み合わせによる符号のことだ。
この符号は、空中を伝わり、他の魔法使いたちに届く。
そのことから、魔法使い同士における秘密のコミュニケーションに使用されたり、戦いでの作戦立案に役立てられたりすることがあるそうだ。勿論、魔法のモルス符号は、フェアリーテイル魔法学校における必修科目の一つでもある。
「確かにチャールズは凄い。でもさ、彼に頼んだ僕の仕事の速さを褒めてくれても構わないんだけど」
ルーカスは、私に賞賛の言葉をねだってきた。
「そうね。素直に褒めてあげる。すごーい、ルーカス」
私は棒読み口調で、パチパチと拍手をする。
「何だよそれ。全然心がこもってない」
ルーカスは不満げな顔を私に向ける。
仕方がないので、私はルーカスにサービスしてあげる事にした。
「ありがとう」
私は男性をコロリと虜にすると名高い、あざとい笑顔を返す。
「……うん。まぁ、いいか」
ルーカスは一瞬戸惑ったものの、満更でもない顔をして照れている。
「それで、エルマーはどこ?」
「変わり身はやっ。もうちょっと余韻に浸りたかったのに」
「もう十分この国を満喫したもの」
最初は両親との再会に喜ぶ気持ちが大きかった。けれど、まるまる一ヶ月もいれば、それなりにお腹いっぱいになるというもの。
「何だか、早く帰りたい気分」
「それは僕に会えなくて寂しかったからじゃないかな」
「毎日しつこいくらいにメッセージを送ってきてたじゃない。全然寂しくなんてなかったし」
それどころか、グールの話題になる度、ルーカスの顔が嫌でも浮かんでいたような気がする。
「そう?僕はずっと、ルシアの事が心配だったけど」
「……」
私はいつもの調子で、ルーカスを無言で睨む。
「そんな顔しても可愛いだけだよ。さ、エルマーに乗って帰ろう」
ルーカスはニコニコと笑みを浮かべながら、私の手を取った。私はその手をしっかりと握る。そして、いつも通り迎えに来てくれた真っ黒なグリフォン。エルマーの背に乗り、もはや故郷と呼ぶに相応しい、おとぎの国を目指すのであった。
0
あなたにおすすめの小説
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
夫と愛し合った翌朝、一方的に離縁されました【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
美しい公爵夫人マルグリートは、冷徹な夫ディートリヒと共に、王国の裏で密かに任務をこなす“悪女”。
だがある日、突然夫から離婚を言い渡される。しかもその裏には、平民の愛人の存在が──。
失意の中、王命で新たな婚約者・エルンストと結ばれることに。
どうやら今回の離婚再婚は、王家の陰謀があるよう。
「悪女に、遠慮はいらない」
そう決意した彼女は、華やかな舞踏会で王に真っ向から言い放つ。
「わたくし、人の家庭を壊しておきながら悪びれない方に、下げる頭は持っていませんの。
王族であられる前に、人におなりくださいませ。……失礼」
愛も、誇りも奪われたなら──
今度はこの手で、すべてを取り戻すだけ。
裏切りに燃える、痛快リベンジ・ロマンス!
⚠️本作は AI の生成した文章を一部に使っています。タイトル変えました。コメディーです。主人公は悪女です。
侯爵家の婚約者
やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。
7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。
その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。
カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。
家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。
だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。
17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。
そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。
全86話+番外編の予定
お好きになさって下さい、私は一切気にしませんわ
Kouei
恋愛
婚約者のクレマンド様は、いつも私との約束を破ってばかり。
理由は決まって『従妹ライラ様との用事』
誕生日会にすら来なかった彼に、私はついに告げた。
「どうぞ、私以外のご令嬢をエスコートするなり、お出かけするなり、関係を持つなり、お好きになさって下さい。私は一切気にしませんわ」
二人の想いは、重なり合えるのだろうか ……
※他のサイトにも公開しています。
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
(完結)姑が勝手に連れてきた第二夫人が身籠ったようですが、夫は恐らく……
泉花ゆき
恋愛
蘭珠(ランジュ)が名門である凌家の嫡男、涼珩(リャンハン)に嫁いで一年ほど経ったころ。
一向に後継ぎが出来ないことに業を煮やした夫の母親は、どこからか第二夫人として一人の女性を屋敷へ連れてくる。
やがてその女が「子が出来た」と告げると、姑も夫も大喜び。
蘭珠の実家が商いで傾いたことを口実に、彼女には離縁が言い渡される。
……けれど、蘭珠は知っていた。
夫の涼珩が、「男女が同じ寝台で眠るだけで子ができる」と本気で信じているほど無知だということを。
どんなトラブルが待っているか分からないし、離縁は望むところ。
嫁ぐ時に用意した大量の持参金は、もちろん引き上げさせていただきます。
※ゆるゆる設定です
※以前上げていた作の設定、展開を改稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる