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第七章 最後の学生生活(十六歳)
064 王立学校の現状
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ローミュラー王立学校の騎士科にて、現地実習中の私。初日に演習室であった一件により、私の知名度は一気に高まったらしい。特に人間達に。
「オナモミにあんな使い道があったとはな」
「イテッって、あいつ間抜けだったよな」
「悔しがるギルバートの顔の写真、何度見ても最高。俺、これを待ち受けにしようっと」
「なにそれ、俺にも転送してくれ」
「俺も、俺も!!」
どうやらロドニールと剣を交えた事よりも、ギルバートにオナモミを押し付けた事の方が、よっぽど価値があるらしい。
(一体、どうなってるの?)
浮かんだ疑問の答えは、学食で食事をしている時にすぐに判明した。
まるで古い教会のような一室に、長いテーブルがいくつも並ぶ食堂。
テーブルの上には、蒼い火を灯したキャンドルが並び、壁にはローミュラー王国の現国王である、ランドルフの絵画が描かれている。
生徒たちが各々席につくと、料理人たちが目の前に置かれた取皿の上に手際よく、料理を盛り付けていく。
「ランドルフ陛下が統治してから、グールの奴らは堂々と私達を「下等な人間」だと、差別するようになったそうです。それはこの学校でも例外ではない。グールが快適に過ごせる事が重視され、私達人間には、人権がないんですよ」
私に情報をもたらしてくれるのは、何故か切なげな表情をローストビーフに向けている、ロドニールだ。
「この学食のメニューもそう。毎日毎日、肉がメインの料理ばかり。栄養は偏るし、飽きるし、最悪なんです」
ため息をつきながらも、ロドニールは、ピンクに色づくローストビーフを口に運ぶ。
「ベジタリアンの人はどうしてるの?」
気になった私は尋ねる。
「ベジタリアンの友人は学校の敷地内に、こっそり家庭菜園を作り、自給自足生活をしています」
ロドニールは薄目になりながら、切ない事情を説明してくれた。
「なるほど」
私は選ぶ余地なしといった感じで目の前に用意されたローストビーフを口に運ぶ。
塩、こしょうのみで味付けをし、口の中でとろける甘みある牛肉。
(美味しい)
隣でげんなりするロドニールには申し訳ないと思いつつ、私はしっとりとした食感に舌鼓を打つ。とは言え、毎日肉ばかりでは、確かに飽きそうだし、身体を壊してしまいそうではある。
「ま、だからと言って、殿下と場所を代わりたいとは思いませんけどね」
ロドニールの言葉に私は部屋中央。日当たりの良い位置に陣取るグールの集団の中に紛れている、ルーカスを見つめる。
彼らの座る椅子は私達のものより見るからに頑丈そうで、意匠が凝ったもの。しかも各々の前に置かれた皿のデザインも複雑な模様の入った、ひと目見て高級だとわかるものだ。
そして隣には淑女科の、まるでシスターといった感じ。くるぶしまであるグレーのワンピース型の制服に身を包む、リリアナが座っていた。
(私の復讐相手……遠いんですけど)
この学校は何から何までグールと人間でわけられているようだ。よって、人間である私はなかなかリリアナに近づく事が出来ないのである。
(そもそも彼女は、淑女科だし)
私も、騎士科ではなく、淑女科で学びたいと言っておくべきだったかも知れない。しかしそう思った所でもう遅いわけで。
「ルーカスは居心地悪いなら、こっちに来ればいいのに」
私は周囲の会話に参加せず、黙々と食事をしているルーカスを眺めながら呟く。
「気になりますか?」
「そりゃ、まぁ」
ひたすら肩を落とし、出来るだけ存在を隠そうとしているルーカスを目の当たりにしたら、誰だって気になるというものだ。
「寂しいですか?」
「そう言う意味じゃないわ」
私は即座に否定し、間違いのないよう言葉を付け足し、私は続ける。
「自分の事を出来損ないだと思う奴らと一緒にいて、楽しいわけがない。そう思っただけ。少なくとも今のルーカスが楽しそうじゃないのは、あなただって気付いているでしょ?」
ロドニールはじっと私を見つめたあと、「そうですね……」と小さく呟く。
「ただ、殿下はランドルフ陛下のご子息ですから」
「どういうこと?」
「半グールだろうと、何だろうと、殿下の父上。ランドルフ陛下のグールに対する功績は、彼らにとって見れば無視できないもの。ですから何か思う事があったとしても、表面上仲間として扱う必要がある」
ロドニールは分け隔てられた場所にいる、グール達に視線を向けた。
「そして殿下も、上に立つ者の責務としてそれを受け入れなければならない。そもそも彼はグールなのですから」
強い口調で言い切るロドニール。
(ルーカスはグールか……)
それは正しい。
ただ、その現実以上に私の中で、ルーカスはルーカスでしかない。
もし他にも彼の情報を付け加えるとすると、植物マニアで、私のストーカーで、いつか私が、復讐を願う人。
何だかんだ一緒にいると楽だし、たぶん私は彼を特別に思っている。
そこにグールかどうかは関係ない。
確かにルーカスがグール化し、私は食べられそうになった事もある。しかしグールだからと言って、彼の全てを否定しようとは思わないし、彼の方が優っているとも思っていない。
「政権が交代し、今はまだ十数年。だから親世代以上。私達より上の世代はグールにも人間にも、平等な時代を覚えています。よって、グール優位な時代に生まれた私達も、今のこの状況が異常なものであると、頭では理解できます」
ロドニールはフォークとナイフを動かす手をとめ、険しい表情を浮かべた。
「ただ、現実はこれだ。そしてこの光景が当たり前のものであると、僕らは常に刷り込まれる生活を強いられている。だから私達の世代で、政権を取り戻す必要があるのだと、祖父はそう言っています」
ロドニールは言い終えると私に顔を向けた。
「期待しているんですよ、ルシア様には」
「期待されても」
(困るのだけど)
私はロドニールの視線を感じつつ、お皿の上に乗せられたローストビーフを見つめる。
確かに私はグールにとって最大の敵であり、人間にとっては救世主のような存在なのかも知れない。
けれどそれはこの国の事情だ。行く当てもなく追い出され、流浪の民として育った私には、グールも人間も関係ない。
むしろローミュラー王国に住まう人。
父と母を追い出した全ての人々に憎しみを感じているくらいだ。
「期待されて困ると言うのであれば、殿下への恋心で、頑張ればいいじゃないですか」
「は?」
密かにこの国と自分の気持ちを分析していた私に、ロドニールは明後日な言葉を浴びせた。
「何だかんだ、ルシア様は殿下を気にかけているようですし」
「気にかけてないわ」
「以前私にグールを人間に戻す方法をたずねましたよね。それって殿下を戻したいから。そうですよね?」
ロドニールの鋭い指摘に私はドキリとする。
「それに、殿下の方は言わずもがな。明らかにルシア様に特別な好意を抱いている」
確かにそこは否定できない。ただし、私がルーカスの事を気にかけるのは。
(ルーカスは、私が復讐するまで守る)
そう誓っているからだ。
「けれどもし、殿下があなたを手放すのであれば、私が」
ロドニールはまるで自分に言い聞かせるように、呟く。
私は聞こえないフリをして、ピンクに色づく肉をナイフで切り分ける作業に戻る。
ロドニールが私に好意を抱くのは仕方がない。なんせ彼にとってみれば、私は救世主な上、見た目も可愛いのだから。
ただ、どんなにいい人でも、私は彼を好きにはならない。
(そんな暇ないもの)
私はローストビーフを口に入れる。
とは言え、忠実なる下僕として、彼を侍らせておくのは悪くない。
よって積極的に気のある素振りをするつもりはないが、キープしておくために、敢えて彼の想いを否定したりはしないつもりだ。
(だって、悪役にイケメンな下僕は必要だものね)
ヒヒヒヒヒと密かに悪いる笑みを浮かべる。
そんな私が向き合うローストビーフに、突然影が落ちる。
「隣いい?」
私は顔をあげる。するとお馴染み、ルーカスがいた。
「グール様はあちらじゃないの?」
いつも通り、私はそっけない言葉をかける。
「ルシア、ここにいる間だけは優しくしてくれると嬉しいんだけど」
珍しくルーカスが弱音を吐いた。
「私はいつだって優しいわ。とにかく座ったら?」
「ありがとう」
ルーカスは力なく微笑み、椅子に座ると、くたりと脱力した。
「殿下、私達と共にいるのはまずいのでは?」
向かい側に座るロドニールから、早速指摘が飛んでくる。
確かに人間である私達と仲良くするのは、ますます自分の首を締めることになるような、気がしなくもない。
私は、げっそりした表情のルーカスを見つめる。
「今更だし、僕はグールでも人間でもない。いわゆるどっち付かずの生命体。だから無所属ってことで、ここにいても許されるはずだろう?」
「そう来ましたか」
ロドニールが苦笑いする。
「考え方が合わないあいつらと一日中いたら、気が狂いそうなんだ」
ルーカスはぺたんと頭をテーブルにつける。
「何だか予科時代を思い出しますね」
「予科時代?」
ロドニールの呟きに、私は反応する。
「ここにいるほとんどの貴族籍に属する男子は、七歳の頃より王立学校予科に所属します。そして予科生の間は、同じ敷地内で生活を共にします。私と殿下はルームメイトだったんですよ」
だから二人は顔見知りなのかと、私は納得する。
「ただ、殿下は途中で逃げるように、フェアリーテイル魔法学校に転校してしまいましたが」
「お陰で毎日楽しい日々を送っているよ。特にルシアのお陰で」
ルーカスはふっと笑うと、私の方を見た。
「君を見てると、あいつらにズタボロにされた心が癒される」
「ルーカス殿下、ここはロドニール王立学校です。しがない人間である私を頼らないで欲しいのだけれど」
私はあえて「殿下」と呼び、ルーカスを突き放す。しかしルーカスは「無理だよ」と答えたあと、小さくため息をつく。
「僕の心が限界なんだ」
ルーカスは切ない表情のまま、またもやテーブルに突っ伏してしまう。
どうやら見た目以上に、ダメージを受けているようだ。
「今日の放課後、(魔力交換)してあげるから、頑張って」
向かい側で、カチャンと音がして「してあげるだと?」と、ロドニールが呟く。
「えっ、ほんと?」
ルーカスはガバッと顔をあげ、目を輝かせる。
「だから、頑張りなさいってば」
「ルシア様、してあげるって、一体何をなんですか?というか、二人は一体……」
困惑した様子で、一人オロオロするロドニール。そんなロドニールを見て、私の悪戯心がウズウズしはじめる。
「してあげるの意味は」
ゴクリとロドニールが喉を鳴らす。
「ふふ、ひみつ」
悪女な私は、ロドニールに笑顔でそう告げたのであった。
「オナモミにあんな使い道があったとはな」
「イテッって、あいつ間抜けだったよな」
「悔しがるギルバートの顔の写真、何度見ても最高。俺、これを待ち受けにしようっと」
「なにそれ、俺にも転送してくれ」
「俺も、俺も!!」
どうやらロドニールと剣を交えた事よりも、ギルバートにオナモミを押し付けた事の方が、よっぽど価値があるらしい。
(一体、どうなってるの?)
浮かんだ疑問の答えは、学食で食事をしている時にすぐに判明した。
まるで古い教会のような一室に、長いテーブルがいくつも並ぶ食堂。
テーブルの上には、蒼い火を灯したキャンドルが並び、壁にはローミュラー王国の現国王である、ランドルフの絵画が描かれている。
生徒たちが各々席につくと、料理人たちが目の前に置かれた取皿の上に手際よく、料理を盛り付けていく。
「ランドルフ陛下が統治してから、グールの奴らは堂々と私達を「下等な人間」だと、差別するようになったそうです。それはこの学校でも例外ではない。グールが快適に過ごせる事が重視され、私達人間には、人権がないんですよ」
私に情報をもたらしてくれるのは、何故か切なげな表情をローストビーフに向けている、ロドニールだ。
「この学食のメニューもそう。毎日毎日、肉がメインの料理ばかり。栄養は偏るし、飽きるし、最悪なんです」
ため息をつきながらも、ロドニールは、ピンクに色づくローストビーフを口に運ぶ。
「ベジタリアンの人はどうしてるの?」
気になった私は尋ねる。
「ベジタリアンの友人は学校の敷地内に、こっそり家庭菜園を作り、自給自足生活をしています」
ロドニールは薄目になりながら、切ない事情を説明してくれた。
「なるほど」
私は選ぶ余地なしといった感じで目の前に用意されたローストビーフを口に運ぶ。
塩、こしょうのみで味付けをし、口の中でとろける甘みある牛肉。
(美味しい)
隣でげんなりするロドニールには申し訳ないと思いつつ、私はしっとりとした食感に舌鼓を打つ。とは言え、毎日肉ばかりでは、確かに飽きそうだし、身体を壊してしまいそうではある。
「ま、だからと言って、殿下と場所を代わりたいとは思いませんけどね」
ロドニールの言葉に私は部屋中央。日当たりの良い位置に陣取るグールの集団の中に紛れている、ルーカスを見つめる。
彼らの座る椅子は私達のものより見るからに頑丈そうで、意匠が凝ったもの。しかも各々の前に置かれた皿のデザインも複雑な模様の入った、ひと目見て高級だとわかるものだ。
そして隣には淑女科の、まるでシスターといった感じ。くるぶしまであるグレーのワンピース型の制服に身を包む、リリアナが座っていた。
(私の復讐相手……遠いんですけど)
この学校は何から何までグールと人間でわけられているようだ。よって、人間である私はなかなかリリアナに近づく事が出来ないのである。
(そもそも彼女は、淑女科だし)
私も、騎士科ではなく、淑女科で学びたいと言っておくべきだったかも知れない。しかしそう思った所でもう遅いわけで。
「ルーカスは居心地悪いなら、こっちに来ればいいのに」
私は周囲の会話に参加せず、黙々と食事をしているルーカスを眺めながら呟く。
「気になりますか?」
「そりゃ、まぁ」
ひたすら肩を落とし、出来るだけ存在を隠そうとしているルーカスを目の当たりにしたら、誰だって気になるというものだ。
「寂しいですか?」
「そう言う意味じゃないわ」
私は即座に否定し、間違いのないよう言葉を付け足し、私は続ける。
「自分の事を出来損ないだと思う奴らと一緒にいて、楽しいわけがない。そう思っただけ。少なくとも今のルーカスが楽しそうじゃないのは、あなただって気付いているでしょ?」
ロドニールはじっと私を見つめたあと、「そうですね……」と小さく呟く。
「ただ、殿下はランドルフ陛下のご子息ですから」
「どういうこと?」
「半グールだろうと、何だろうと、殿下の父上。ランドルフ陛下のグールに対する功績は、彼らにとって見れば無視できないもの。ですから何か思う事があったとしても、表面上仲間として扱う必要がある」
ロドニールは分け隔てられた場所にいる、グール達に視線を向けた。
「そして殿下も、上に立つ者の責務としてそれを受け入れなければならない。そもそも彼はグールなのですから」
強い口調で言い切るロドニール。
(ルーカスはグールか……)
それは正しい。
ただ、その現実以上に私の中で、ルーカスはルーカスでしかない。
もし他にも彼の情報を付け加えるとすると、植物マニアで、私のストーカーで、いつか私が、復讐を願う人。
何だかんだ一緒にいると楽だし、たぶん私は彼を特別に思っている。
そこにグールかどうかは関係ない。
確かにルーカスがグール化し、私は食べられそうになった事もある。しかしグールだからと言って、彼の全てを否定しようとは思わないし、彼の方が優っているとも思っていない。
「政権が交代し、今はまだ十数年。だから親世代以上。私達より上の世代はグールにも人間にも、平等な時代を覚えています。よって、グール優位な時代に生まれた私達も、今のこの状況が異常なものであると、頭では理解できます」
ロドニールはフォークとナイフを動かす手をとめ、険しい表情を浮かべた。
「ただ、現実はこれだ。そしてこの光景が当たり前のものであると、僕らは常に刷り込まれる生活を強いられている。だから私達の世代で、政権を取り戻す必要があるのだと、祖父はそう言っています」
ロドニールは言い終えると私に顔を向けた。
「期待しているんですよ、ルシア様には」
「期待されても」
(困るのだけど)
私はロドニールの視線を感じつつ、お皿の上に乗せられたローストビーフを見つめる。
確かに私はグールにとって最大の敵であり、人間にとっては救世主のような存在なのかも知れない。
けれどそれはこの国の事情だ。行く当てもなく追い出され、流浪の民として育った私には、グールも人間も関係ない。
むしろローミュラー王国に住まう人。
父と母を追い出した全ての人々に憎しみを感じているくらいだ。
「期待されて困ると言うのであれば、殿下への恋心で、頑張ればいいじゃないですか」
「は?」
密かにこの国と自分の気持ちを分析していた私に、ロドニールは明後日な言葉を浴びせた。
「何だかんだ、ルシア様は殿下を気にかけているようですし」
「気にかけてないわ」
「以前私にグールを人間に戻す方法をたずねましたよね。それって殿下を戻したいから。そうですよね?」
ロドニールの鋭い指摘に私はドキリとする。
「それに、殿下の方は言わずもがな。明らかにルシア様に特別な好意を抱いている」
確かにそこは否定できない。ただし、私がルーカスの事を気にかけるのは。
(ルーカスは、私が復讐するまで守る)
そう誓っているからだ。
「けれどもし、殿下があなたを手放すのであれば、私が」
ロドニールはまるで自分に言い聞かせるように、呟く。
私は聞こえないフリをして、ピンクに色づく肉をナイフで切り分ける作業に戻る。
ロドニールが私に好意を抱くのは仕方がない。なんせ彼にとってみれば、私は救世主な上、見た目も可愛いのだから。
ただ、どんなにいい人でも、私は彼を好きにはならない。
(そんな暇ないもの)
私はローストビーフを口に入れる。
とは言え、忠実なる下僕として、彼を侍らせておくのは悪くない。
よって積極的に気のある素振りをするつもりはないが、キープしておくために、敢えて彼の想いを否定したりはしないつもりだ。
(だって、悪役にイケメンな下僕は必要だものね)
ヒヒヒヒヒと密かに悪いる笑みを浮かべる。
そんな私が向き合うローストビーフに、突然影が落ちる。
「隣いい?」
私は顔をあげる。するとお馴染み、ルーカスがいた。
「グール様はあちらじゃないの?」
いつも通り、私はそっけない言葉をかける。
「ルシア、ここにいる間だけは優しくしてくれると嬉しいんだけど」
珍しくルーカスが弱音を吐いた。
「私はいつだって優しいわ。とにかく座ったら?」
「ありがとう」
ルーカスは力なく微笑み、椅子に座ると、くたりと脱力した。
「殿下、私達と共にいるのはまずいのでは?」
向かい側に座るロドニールから、早速指摘が飛んでくる。
確かに人間である私達と仲良くするのは、ますます自分の首を締めることになるような、気がしなくもない。
私は、げっそりした表情のルーカスを見つめる。
「今更だし、僕はグールでも人間でもない。いわゆるどっち付かずの生命体。だから無所属ってことで、ここにいても許されるはずだろう?」
「そう来ましたか」
ロドニールが苦笑いする。
「考え方が合わないあいつらと一日中いたら、気が狂いそうなんだ」
ルーカスはぺたんと頭をテーブルにつける。
「何だか予科時代を思い出しますね」
「予科時代?」
ロドニールの呟きに、私は反応する。
「ここにいるほとんどの貴族籍に属する男子は、七歳の頃より王立学校予科に所属します。そして予科生の間は、同じ敷地内で生活を共にします。私と殿下はルームメイトだったんですよ」
だから二人は顔見知りなのかと、私は納得する。
「ただ、殿下は途中で逃げるように、フェアリーテイル魔法学校に転校してしまいましたが」
「お陰で毎日楽しい日々を送っているよ。特にルシアのお陰で」
ルーカスはふっと笑うと、私の方を見た。
「君を見てると、あいつらにズタボロにされた心が癒される」
「ルーカス殿下、ここはロドニール王立学校です。しがない人間である私を頼らないで欲しいのだけれど」
私はあえて「殿下」と呼び、ルーカスを突き放す。しかしルーカスは「無理だよ」と答えたあと、小さくため息をつく。
「僕の心が限界なんだ」
ルーカスは切ない表情のまま、またもやテーブルに突っ伏してしまう。
どうやら見た目以上に、ダメージを受けているようだ。
「今日の放課後、(魔力交換)してあげるから、頑張って」
向かい側で、カチャンと音がして「してあげるだと?」と、ロドニールが呟く。
「えっ、ほんと?」
ルーカスはガバッと顔をあげ、目を輝かせる。
「だから、頑張りなさいってば」
「ルシア様、してあげるって、一体何をなんですか?というか、二人は一体……」
困惑した様子で、一人オロオロするロドニール。そんなロドニールを見て、私の悪戯心がウズウズしはじめる。
「してあげるの意味は」
ゴクリとロドニールが喉を鳴らす。
「ふふ、ひみつ」
悪女な私は、ロドニールに笑顔でそう告げたのであった。
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