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第七章 最後の学生生活(十六歳)
065 差別を肌で感じる
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現在私は座学の授業を受けるために、とある教室にいた。
開放感たっぷり。広々とした教室には、窓から陽光が差し込んでいる。床は木目調のフローリングで、天井は高く、壁には古びた本棚やこの国のマップが飾られている。
一見するとフェアリーテイル魔法学校とそんなに変わらないように見える、ローミュラー王立学校の教室内。しかし教室の中で先生を待つ生徒達は、しっかりグールと人間で着席する場所が分けられていた。
教壇から見て右半分がグール達。左半分が人間の席だ。
因みに人間と変わらない見た目をしているグールを、私が見分けられるのは、制服に明確な違いがあるからだ。
グール達が着ているのは紺色のブレザータイプの服。襟元に赤いラインが入っているのが特徴的だ。対して人間が着ているのは同じデザインのものでも、襟元に目立つ赤いラインがない。
つまり襟元を見れば、その人物がグールなのか、人間なのか。
誰にでもわかりやすく、判別がつくというわけである。
(もはや共に学ぶ意味がないんじゃ)
そう思いながらも、私は静かに人間側の席につく。因みにルーカスは、渋々グール側に着席している。
教室内、グール達は机の上に腰掛けていたり、床に座っていたり、自由にのびのびと過ごしていた。しかし、人間側は出来るだけグール達の目につかないよう、椅子にきちんと腰をかけ、静かに授業の開始を待っている、といった感じだ。
何とも言えぬ、居心地の悪い雰囲気が漂う中。ガラリとドアが開き、先生が入ってくる。そして、教室内は一斉に静まり返った。
「授業を始めるぞ。グールの生徒はタブレットのアプリを。それ以外は教科書の五十八ページを開きなさい」
教壇に立つ先生の言葉を聞きながら、私は借りている教科書を開く。チラリとグール側の生徒達の様子をうかがうと、マジカルデバイスを大きくしたような機械を取り出し、画面をタップしていた。
「ねぇ、グールのあれは何?」
私は隣に座るロドニールに小声でたずねる。
「グール専用のアプリがインストールされている魔法のデバイスです」
「私達の分は?」
「ありません。グールのために特別に開発された学習ツールが、インストールされているものですからね」
「便利そうなのに」
「確かに私達のように、重い教科書をいちいち持ち歩かないでいいので便利でしょう。ま、物理的な重さは、鍛錬の一部だと思う事にしてますけど」
ロドニールは、小さく肩をすくめた。
「さて、今日の授業は魔法通信の種類や方法についてだ。既に知っている者もいるだろうが、改めておさらいしようか。では、まずは基本的なモルス符号から説明していこう」
先生はモルス符号の説明を口にしながら、教室の前方に用意されたモニターに授業内容の要点をまとめたものを映し出す。
その瞬間、人間側に座る生徒は一斉に、モニターに記された重要なポイントを、教科書に書き込み始めた。それに対しグールの生徒は、先生の説明に反応し、色鮮やかな魔法陣や図形が表示されるタブレット画面を見つめているだけ。
(なるほど。グールはペンだこと、無縁ってわけね)
私はカリカリと用意したノートに、モルス符号の説明を書き込みながら思う。
「では、教科書に記載されている例文を練習してみよう。グールの生徒は、モルス符号のアプリを開き、実際に試してみるといい。その他の生徒はノートに記すように」
先生の指示を受け、グール側に座る生徒達が、一斉にタブレットを操作し始める。すると画面からモルス符号が浮かびあがった。グールの生徒達は実際に浮かぶ符号を並び替え、例文を次々と完成させている。
一方、タブレットのない人間たちは、いちいちノートにペンでモルス符号を実際に書き込み、例文を完成させているという状況だ。
どちらが勉強になるかはさておき、タブレットの性能を十分に生かし、直感的に学べるグール達の方が、短時間でモルス符号をマスターできそうではある。
「では、例文をいくつか解いてもらおうか。これが意味する事が分かる者は挙手しなさい」
先生はモルス符号で記された例文をモニターに表示した。
(ええと、あれは……)
私は教科書に記されている、簡素な図表と例文を照らし合わせようと、視線を落とす。
「はい」
私が解読を始めようとした瞬間、一人の生徒が手を挙げる。
(はやっ)
私は驚き、顔をあげる。すると先生にアピールするよう手を伸ばしている、赤髪の青年の姿が目に飛び込んできた。
(あの人は確か)
私がオナモミ握手攻撃をした、ギルバードで間違いなさそうだ。
「発言を許可する」
「ありがとうございます。それは敵の位置を知らせるものだと思います」
ギルバートはモニターに映し出される魔法の文字列を見つめながら、自信ありげに答える。
「正解だ。モルス符号は、この通り位置情報を伝えたり、組み合わせによっては、複数の情報を伝達する事が出来る。例えば、敵の数を知らせたり、状況を伝えるといった感じに」
先生は再びモニターに視線を移すと、そこに新たな符号の塊を表示した。
「では、この例文が分かる者はいるかい?」
真っ先に手をあげたのは、やはりグール側に座る生徒だ。
「もう?」
思わず呟く。
「あいつらは、解読アプリでズルしていますから」
ロドニールが小さな声で教えてくれる。
(なるほど、アプリ……)
確かに人間がいちいち解読表に照らし合わせて考えるより、機械の方がはるかに早く答えを見つけられる。
「先生! これは援軍の要請です」
グールの生徒は元気よく手をあげ、嬉々として声を張り上げる。
「素晴らしい。正解だよ」
先生は笑顔を浮かべると、モニターに表示されるモルス符号を消した。
「モルス符号を理解し、応用すれば戦闘時における、有効な武器になる。だから我々は常に、知識を深めておく必要がある。分かったな」
グール側の生徒達は、一斉に手を上にあげ「はい」と返事をする。しかし、人間側の生徒達は、苦虫を噛み潰したような表情で俯いている。
(なるほど、これは酷い)
私は教科書に視線を落としながら、この国の現状を垣間見た気がした。
「では、これより二人一組になり、お互いモルス符号を使い、魔法通信を実際におこなってもらう。適当にペアを組んでくれ」
先生の言葉に、あぶれてはならぬと、生徒達は一斉に動き出す。
「ルシア様、私とペアでよろしいですか?」
「うん」
ロドニールに返事をしつつ、私はルーカスが気になり、彼の席に視線を向ける。するとルーカスは顔をそむけ、窓の外を呑気に見つめていた。
「先生!」
一人の生徒が大きく手を挙げた。
「どうした?」
「僕は、人間とペアを組むのは、ご遠慮願いたいのですが」
「ん?グールの生徒は偶数のはずだが」
先生が教卓に置いた出席簿を確認する。
「やはりグールの生徒は偶数だ。ええと、今ペアを組んでいないのは」
ぐるりと教室内を見回す先生。
「あぁ、ルーカス殿下がまだペアを決めていないようだ」
「えっ、あの……だからその……」
人間と組みたくない。そう言い放ったグールの生徒は言いづらそうに口ごもる。何となく、教室内に不穏な空気が流れる。
「出来損ないのグールとは組めないという事だろう」
ルーカスが席から立ち上がる。そしてツカツカと私の席にやってきた。
「ルシア、一緒にやろう。その方がずっと楽しいし」
「あ、うん。いいよね?ロドニール」
一応ロドニールに確認する。
「勿論です」
察しの良いロドニールは、快く承諾してくれた。
「では決まりだ。君はギルバート君達と共に。では用意が出来たグループから、魔法通信を行いなさい」
先生の言葉で、何事もなかったかのように、生徒達は一斉に魔法陣を展開し始める。
「いつものことだから、君は気にしないでいいよ」
ルーカスが、タブレットを机に置く。
「気にしてない」
(だけど、ムカついてはいる。ルーカスを馬鹿にしていいのは、私だけなのに)
内心、あからさまにルーカスを馬鹿にする態度に、私は腹が立っていた。それは復讐を遂げるまで、ルーカスを守らなければという使命からだ。
「それにしても、相変わらず、あいつら大人気ないよね」
「殿下は随分、言い返せるようになったんですね」
「フェアリーテイル魔法学校で伸び伸び学べているからかな」
「それは良かった」
ルーカスとロドニールが苦笑いを向け合っている。
なんだかんだ、仲が良さそうだ。
「じゃ、やろうか」
私は気分を落ち着け、二人に声をかける。
「そうだね。ルシアと一緒の授業なんてレアだし、楽しまないと」
「それは言えてます」
忠実なる下僕候補二人が私の意見に同意した。そして私達は、早速教科書を覗き込みながら、モルス符号を魔法で信号化する練習を始める。
「ええとまず、座標はここで」
「次は?」
「状況を示す言葉ですかね」
私達は杖に魔力を通しながら、手探りで文字を起こそうとする。
「状況……それなら、『ヤバい』とかで良いんじゃない?」
「ルシアっぽくていいけど、『逃げろ』の方が、全世代に緊迫感を伝えられるような」
「では、殿下の案で行きましょう」
私達は相談しながら、魔法でモルス符号を表現する。
そしてとうとう、目の前に座標値と共に、『逃げろ』という文字が浮かびあがった。
「次は色をつけろか。ええと、緊急を示すから……」
私が教科書に目を落とした瞬間。作ったばかりの文字がパッと消えた。そして代わりに目の前に現れたのは。
『出来損ない、早く去れ』
明らかに悪意あるメッセージだった。
「ギルバートの奴」
ルーカスの悔しそうな声を聞きながら、私は赤髪を探す。すると確かにこちらを見てニヒニヒ笑っているギルバートの姿があった。
(あいつ……)
流石に怒りで頭が沸騰しそうになる。
「昔からそう、毎回こんな感じで、僕達が何かやる度、ああやってバカにしてくるんだよ」
「彼が成長したのは、体格だけですからねぇ」
何故かこの状況を受け入れている様子のルーカスとロドニール。
その態度にも、私は腹がたって仕方がない。
「なにヘラヘラしてるのよ。やられたらやり返すのよ」
私は深呼吸をし、心を鎮める。そして教科書を眺めつつ、素早く魔法で文字を作り上げる。
「はい、これでどう?」
「はやっ!」
驚くルーカスの声と同時に、私達の前に、魔法で作り上げたモルス符号が投影される。
そこには、私が作った文章が表示されていた。
『オナモミを、支給お届けいたします』
赤く染まる文字が宙を彩る。
「ぷっ」
ルーカスが吹き出し、肩を震わせる。
「これは傑作だね」
「い、いいと思います!」
二人の了承を得た私は、思い切りギルバートに向けて文字を飛ばす。
私が作ったモルス符号は、魔法の信号となり、ギルバート目掛け飛んでいく。
「何だよ、これ! ふざけんな!」
ギルバートは慌てて手を振り、魔法を消す。
「おい、お前らわかってるんだろうな」
彼は必死の形相で、私達の方に向かってくる。
「スネア!」
ルーカスが素早く杖を召喚し、ギルバートの足に木の根っこを絡ませた。
「うわっ」
足を取られバランスを崩したギルバートは、その場に派手に倒れる。しかしすぐに起き上がり、鬼のような顔で私を睨みつけてきた。
「出来損ないが、調子に乗るなよ」
「貴方こそ、そろそろ身の程を知ったらどう?」
私は鼻で笑い、見下した表情を向ける。
「このっ……」
ギルバートの額に青筋が浮かぶ。
「そこまでだ。授業中に喧嘩をするな」
止めに入ってきた先生はため息をつく。
丁度その時、授業終了のチャイムが鳴り響いた。
「今日はこれで終わりだ。くれぐれも学校内で大きないざこざを起こさないように」
先生はそう言い残すと、逃げるように、教室を出ていった。
「おい、お前ら」
ギルバートが私達を睨む。
「先生の言ったこと、もう忘れちゃうなんて」
「ほんと。ニワトリより酷いみたいだ。今すぐ医務室に行った方がいいかも」
ルーカスが煽るように私に続く。
「て、てめぇら」
「ギルバート様、まずいですよ」
「そうですよ。流石に相手は出来損ないでも、殿下ですから」
「くっ、俺に逆らった事を、後悔させてやる」
ギルバートは捨て台詞を残し、その場を去っていく。
「殿下は、変わったのですね」
ロドニールが、感慨深い表情で呟いた。
「まぁね」
ルーカスが苦笑いを浮かべる。
「ルシアのおかげだよ」
「ふーん。そう」
私は素直になれず、ぶっきらぼうに答えるのであった。
開放感たっぷり。広々とした教室には、窓から陽光が差し込んでいる。床は木目調のフローリングで、天井は高く、壁には古びた本棚やこの国のマップが飾られている。
一見するとフェアリーテイル魔法学校とそんなに変わらないように見える、ローミュラー王立学校の教室内。しかし教室の中で先生を待つ生徒達は、しっかりグールと人間で着席する場所が分けられていた。
教壇から見て右半分がグール達。左半分が人間の席だ。
因みに人間と変わらない見た目をしているグールを、私が見分けられるのは、制服に明確な違いがあるからだ。
グール達が着ているのは紺色のブレザータイプの服。襟元に赤いラインが入っているのが特徴的だ。対して人間が着ているのは同じデザインのものでも、襟元に目立つ赤いラインがない。
つまり襟元を見れば、その人物がグールなのか、人間なのか。
誰にでもわかりやすく、判別がつくというわけである。
(もはや共に学ぶ意味がないんじゃ)
そう思いながらも、私は静かに人間側の席につく。因みにルーカスは、渋々グール側に着席している。
教室内、グール達は机の上に腰掛けていたり、床に座っていたり、自由にのびのびと過ごしていた。しかし、人間側は出来るだけグール達の目につかないよう、椅子にきちんと腰をかけ、静かに授業の開始を待っている、といった感じだ。
何とも言えぬ、居心地の悪い雰囲気が漂う中。ガラリとドアが開き、先生が入ってくる。そして、教室内は一斉に静まり返った。
「授業を始めるぞ。グールの生徒はタブレットのアプリを。それ以外は教科書の五十八ページを開きなさい」
教壇に立つ先生の言葉を聞きながら、私は借りている教科書を開く。チラリとグール側の生徒達の様子をうかがうと、マジカルデバイスを大きくしたような機械を取り出し、画面をタップしていた。
「ねぇ、グールのあれは何?」
私は隣に座るロドニールに小声でたずねる。
「グール専用のアプリがインストールされている魔法のデバイスです」
「私達の分は?」
「ありません。グールのために特別に開発された学習ツールが、インストールされているものですからね」
「便利そうなのに」
「確かに私達のように、重い教科書をいちいち持ち歩かないでいいので便利でしょう。ま、物理的な重さは、鍛錬の一部だと思う事にしてますけど」
ロドニールは、小さく肩をすくめた。
「さて、今日の授業は魔法通信の種類や方法についてだ。既に知っている者もいるだろうが、改めておさらいしようか。では、まずは基本的なモルス符号から説明していこう」
先生はモルス符号の説明を口にしながら、教室の前方に用意されたモニターに授業内容の要点をまとめたものを映し出す。
その瞬間、人間側に座る生徒は一斉に、モニターに記された重要なポイントを、教科書に書き込み始めた。それに対しグールの生徒は、先生の説明に反応し、色鮮やかな魔法陣や図形が表示されるタブレット画面を見つめているだけ。
(なるほど。グールはペンだこと、無縁ってわけね)
私はカリカリと用意したノートに、モルス符号の説明を書き込みながら思う。
「では、教科書に記載されている例文を練習してみよう。グールの生徒は、モルス符号のアプリを開き、実際に試してみるといい。その他の生徒はノートに記すように」
先生の指示を受け、グール側に座る生徒達が、一斉にタブレットを操作し始める。すると画面からモルス符号が浮かびあがった。グールの生徒達は実際に浮かぶ符号を並び替え、例文を次々と完成させている。
一方、タブレットのない人間たちは、いちいちノートにペンでモルス符号を実際に書き込み、例文を完成させているという状況だ。
どちらが勉強になるかはさておき、タブレットの性能を十分に生かし、直感的に学べるグール達の方が、短時間でモルス符号をマスターできそうではある。
「では、例文をいくつか解いてもらおうか。これが意味する事が分かる者は挙手しなさい」
先生はモルス符号で記された例文をモニターに表示した。
(ええと、あれは……)
私は教科書に記されている、簡素な図表と例文を照らし合わせようと、視線を落とす。
「はい」
私が解読を始めようとした瞬間、一人の生徒が手を挙げる。
(はやっ)
私は驚き、顔をあげる。すると先生にアピールするよう手を伸ばしている、赤髪の青年の姿が目に飛び込んできた。
(あの人は確か)
私がオナモミ握手攻撃をした、ギルバードで間違いなさそうだ。
「発言を許可する」
「ありがとうございます。それは敵の位置を知らせるものだと思います」
ギルバートはモニターに映し出される魔法の文字列を見つめながら、自信ありげに答える。
「正解だ。モルス符号は、この通り位置情報を伝えたり、組み合わせによっては、複数の情報を伝達する事が出来る。例えば、敵の数を知らせたり、状況を伝えるといった感じに」
先生は再びモニターに視線を移すと、そこに新たな符号の塊を表示した。
「では、この例文が分かる者はいるかい?」
真っ先に手をあげたのは、やはりグール側に座る生徒だ。
「もう?」
思わず呟く。
「あいつらは、解読アプリでズルしていますから」
ロドニールが小さな声で教えてくれる。
(なるほど、アプリ……)
確かに人間がいちいち解読表に照らし合わせて考えるより、機械の方がはるかに早く答えを見つけられる。
「先生! これは援軍の要請です」
グールの生徒は元気よく手をあげ、嬉々として声を張り上げる。
「素晴らしい。正解だよ」
先生は笑顔を浮かべると、モニターに表示されるモルス符号を消した。
「モルス符号を理解し、応用すれば戦闘時における、有効な武器になる。だから我々は常に、知識を深めておく必要がある。分かったな」
グール側の生徒達は、一斉に手を上にあげ「はい」と返事をする。しかし、人間側の生徒達は、苦虫を噛み潰したような表情で俯いている。
(なるほど、これは酷い)
私は教科書に視線を落としながら、この国の現状を垣間見た気がした。
「では、これより二人一組になり、お互いモルス符号を使い、魔法通信を実際におこなってもらう。適当にペアを組んでくれ」
先生の言葉に、あぶれてはならぬと、生徒達は一斉に動き出す。
「ルシア様、私とペアでよろしいですか?」
「うん」
ロドニールに返事をしつつ、私はルーカスが気になり、彼の席に視線を向ける。するとルーカスは顔をそむけ、窓の外を呑気に見つめていた。
「先生!」
一人の生徒が大きく手を挙げた。
「どうした?」
「僕は、人間とペアを組むのは、ご遠慮願いたいのですが」
「ん?グールの生徒は偶数のはずだが」
先生が教卓に置いた出席簿を確認する。
「やはりグールの生徒は偶数だ。ええと、今ペアを組んでいないのは」
ぐるりと教室内を見回す先生。
「あぁ、ルーカス殿下がまだペアを決めていないようだ」
「えっ、あの……だからその……」
人間と組みたくない。そう言い放ったグールの生徒は言いづらそうに口ごもる。何となく、教室内に不穏な空気が流れる。
「出来損ないのグールとは組めないという事だろう」
ルーカスが席から立ち上がる。そしてツカツカと私の席にやってきた。
「ルシア、一緒にやろう。その方がずっと楽しいし」
「あ、うん。いいよね?ロドニール」
一応ロドニールに確認する。
「勿論です」
察しの良いロドニールは、快く承諾してくれた。
「では決まりだ。君はギルバート君達と共に。では用意が出来たグループから、魔法通信を行いなさい」
先生の言葉で、何事もなかったかのように、生徒達は一斉に魔法陣を展開し始める。
「いつものことだから、君は気にしないでいいよ」
ルーカスが、タブレットを机に置く。
「気にしてない」
(だけど、ムカついてはいる。ルーカスを馬鹿にしていいのは、私だけなのに)
内心、あからさまにルーカスを馬鹿にする態度に、私は腹が立っていた。それは復讐を遂げるまで、ルーカスを守らなければという使命からだ。
「それにしても、相変わらず、あいつら大人気ないよね」
「殿下は随分、言い返せるようになったんですね」
「フェアリーテイル魔法学校で伸び伸び学べているからかな」
「それは良かった」
ルーカスとロドニールが苦笑いを向け合っている。
なんだかんだ、仲が良さそうだ。
「じゃ、やろうか」
私は気分を落ち着け、二人に声をかける。
「そうだね。ルシアと一緒の授業なんてレアだし、楽しまないと」
「それは言えてます」
忠実なる下僕候補二人が私の意見に同意した。そして私達は、早速教科書を覗き込みながら、モルス符号を魔法で信号化する練習を始める。
「ええとまず、座標はここで」
「次は?」
「状況を示す言葉ですかね」
私達は杖に魔力を通しながら、手探りで文字を起こそうとする。
「状況……それなら、『ヤバい』とかで良いんじゃない?」
「ルシアっぽくていいけど、『逃げろ』の方が、全世代に緊迫感を伝えられるような」
「では、殿下の案で行きましょう」
私達は相談しながら、魔法でモルス符号を表現する。
そしてとうとう、目の前に座標値と共に、『逃げろ』という文字が浮かびあがった。
「次は色をつけろか。ええと、緊急を示すから……」
私が教科書に目を落とした瞬間。作ったばかりの文字がパッと消えた。そして代わりに目の前に現れたのは。
『出来損ない、早く去れ』
明らかに悪意あるメッセージだった。
「ギルバートの奴」
ルーカスの悔しそうな声を聞きながら、私は赤髪を探す。すると確かにこちらを見てニヒニヒ笑っているギルバートの姿があった。
(あいつ……)
流石に怒りで頭が沸騰しそうになる。
「昔からそう、毎回こんな感じで、僕達が何かやる度、ああやってバカにしてくるんだよ」
「彼が成長したのは、体格だけですからねぇ」
何故かこの状況を受け入れている様子のルーカスとロドニール。
その態度にも、私は腹がたって仕方がない。
「なにヘラヘラしてるのよ。やられたらやり返すのよ」
私は深呼吸をし、心を鎮める。そして教科書を眺めつつ、素早く魔法で文字を作り上げる。
「はい、これでどう?」
「はやっ!」
驚くルーカスの声と同時に、私達の前に、魔法で作り上げたモルス符号が投影される。
そこには、私が作った文章が表示されていた。
『オナモミを、支給お届けいたします』
赤く染まる文字が宙を彩る。
「ぷっ」
ルーカスが吹き出し、肩を震わせる。
「これは傑作だね」
「い、いいと思います!」
二人の了承を得た私は、思い切りギルバートに向けて文字を飛ばす。
私が作ったモルス符号は、魔法の信号となり、ギルバート目掛け飛んでいく。
「何だよ、これ! ふざけんな!」
ギルバートは慌てて手を振り、魔法を消す。
「おい、お前らわかってるんだろうな」
彼は必死の形相で、私達の方に向かってくる。
「スネア!」
ルーカスが素早く杖を召喚し、ギルバートの足に木の根っこを絡ませた。
「うわっ」
足を取られバランスを崩したギルバートは、その場に派手に倒れる。しかしすぐに起き上がり、鬼のような顔で私を睨みつけてきた。
「出来損ないが、調子に乗るなよ」
「貴方こそ、そろそろ身の程を知ったらどう?」
私は鼻で笑い、見下した表情を向ける。
「このっ……」
ギルバートの額に青筋が浮かぶ。
「そこまでだ。授業中に喧嘩をするな」
止めに入ってきた先生はため息をつく。
丁度その時、授業終了のチャイムが鳴り響いた。
「今日はこれで終わりだ。くれぐれも学校内で大きないざこざを起こさないように」
先生はそう言い残すと、逃げるように、教室を出ていった。
「おい、お前ら」
ギルバートが私達を睨む。
「先生の言ったこと、もう忘れちゃうなんて」
「ほんと。ニワトリより酷いみたいだ。今すぐ医務室に行った方がいいかも」
ルーカスが煽るように私に続く。
「て、てめぇら」
「ギルバート様、まずいですよ」
「そうですよ。流石に相手は出来損ないでも、殿下ですから」
「くっ、俺に逆らった事を、後悔させてやる」
ギルバートは捨て台詞を残し、その場を去っていく。
「殿下は、変わったのですね」
ロドニールが、感慨深い表情で呟いた。
「まぁね」
ルーカスが苦笑いを浮かべる。
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