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第十二章 私の選ぶ幸せ(二十歳~)
125 そして始まりへ
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女王ルシアが奇跡を起こし、BGに汚染されたルーカスの命を救い、季節が何度も巡った時。
ローミュラー王国の王子であるジョシュアは、執務机で仕事をする国王である父、ルーカスに思い切って尋ねる事にした。
「父上、私の母上はどんな人だったのですか?」
ジョシュアは首元から下がるネックレスに通された、金の指輪を小さな手のひらで弄びながら、父であるルーカスにたずねた。
「そうだな」
書類にペンを走らせる手を止めたルーカスは、息子の思い切った問いかけに対し、しばし悩ましい顔をしたのち、突然思いつたように閃いた顔になる。それから悲しみを胸に秘めたような、切ない表情になり、ジョシュアをジッと見つめると口を開いた。
「お前の母親は、誰よりも美しく、そして、強い心を持った人だった。どんな時も諦めたりせず、常に民の事を考え、まるで正義の味方のように……」
ルーカスは、声を詰まらせたように肩を震わせながら下を向く。
「元帥、よろしければ、小道具としてお使い下さい」
ルーカスが向かう執務机の上、二足歩行のマンドラゴラがヌッとルーカスに白いハンカチを差し出した。
「たすかる」
ジョシュアに聞こえないくらい、とても小さな声でルーカスはドラゴ大佐に礼を告げると、ハンカチを遠慮なく受け取る。
「ち、父上、センシティブな事を聞いてしまい、ごめんなさい」
「こちらこそ、動揺してしまったようだ。すまないな」
「母上は、とても立派な人だったのですね。けれど、ミュラーが言うには、ちょっと違うのです」
「彼はなんと?」
ハンカチで目元を拭いながら、ルーカスがジョシュアに問いかける。
「神を悪魔と言い張り、復讐を生きる糧とし、素直じゃなくて、反抗的で、自分よりよっぽど悪魔で、とても手がかかる娘だったと。それなのに、ミュラーは「手のかかる子ほど、可愛い」って優しい顔で言うんです。僕、ちょっとよく意味がわからなくて」
ジョシュアは眉を顰めた。
「ジョシュア殿下、それ、わりと合ってますよ。ね、ルーカス元帥。ってもうそろそろ、バラしちゃってもいいんじゃないですか?無理して美化する事もないかと」
ドラゴ大佐がルーカスに告げる。
「わりと合ってるって、えっ、そうなの?だとすると、父上。僕の母上は、可愛いの?それとも悪魔だったの?どちらなんですか?」
ジョシュアの飾らぬ問いかけに、ルーカスは思わずといった感じで吹き出す。
「お前の母さんはきっと私が、悪魔のような人であったと言えば喜ぶだろうな。けれど私には、いつだって天使のように映っていた。前後左右上下、何処から見ても愛らしく、怒った顔でさえ可愛い。そういう唯一無二の素敵な人だったぞ」
ルーカスは微笑む。
「うわ、久しぶりに元帥のメンヘラ節を聞きました。懐かしいですねぇ」
ドラゴ大佐は明るい笑顔をルーカスに向けた。
「……悪魔に天使だなんて、一体どんな人なんだろう」
腕を組み、考え込む様子のジョシュアに、ルーカスは優しく微笑みかける。
「人は誰しも、悪魔にも、天使にも成りうるからな。まぁ、お前がフェアリーテイル魔法学校に入学すれば、この意味がきっとわかるだろう。用意は進んでるのか?」
「はい。グリフォンへの挨拶もバッチリ練習しました!」
笑顔になったジョシュアは、胸を張り答えた。
「ブラックかホワイトか。お前がどっちに組分けされるのか、楽しみだな」
ルーカスは言い終えると、窓の外に顔をむけた。
そして、遠い昔を思い出すように、空の彼方を見上げる。
彼の紫に澄んだ瞳は、まるでそこに亡き妻がいるかのように、優しく穏やかなものであった。
――おしまい――
ローミュラー王国の王子であるジョシュアは、執務机で仕事をする国王である父、ルーカスに思い切って尋ねる事にした。
「父上、私の母上はどんな人だったのですか?」
ジョシュアは首元から下がるネックレスに通された、金の指輪を小さな手のひらで弄びながら、父であるルーカスにたずねた。
「そうだな」
書類にペンを走らせる手を止めたルーカスは、息子の思い切った問いかけに対し、しばし悩ましい顔をしたのち、突然思いつたように閃いた顔になる。それから悲しみを胸に秘めたような、切ない表情になり、ジョシュアをジッと見つめると口を開いた。
「お前の母親は、誰よりも美しく、そして、強い心を持った人だった。どんな時も諦めたりせず、常に民の事を考え、まるで正義の味方のように……」
ルーカスは、声を詰まらせたように肩を震わせながら下を向く。
「元帥、よろしければ、小道具としてお使い下さい」
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「たすかる」
ジョシュアに聞こえないくらい、とても小さな声でルーカスはドラゴ大佐に礼を告げると、ハンカチを遠慮なく受け取る。
「ち、父上、センシティブな事を聞いてしまい、ごめんなさい」
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「母上は、とても立派な人だったのですね。けれど、ミュラーが言うには、ちょっと違うのです」
「彼はなんと?」
ハンカチで目元を拭いながら、ルーカスがジョシュアに問いかける。
「神を悪魔と言い張り、復讐を生きる糧とし、素直じゃなくて、反抗的で、自分よりよっぽど悪魔で、とても手がかかる娘だったと。それなのに、ミュラーは「手のかかる子ほど、可愛い」って優しい顔で言うんです。僕、ちょっとよく意味がわからなくて」
ジョシュアは眉を顰めた。
「ジョシュア殿下、それ、わりと合ってますよ。ね、ルーカス元帥。ってもうそろそろ、バラしちゃってもいいんじゃないですか?無理して美化する事もないかと」
ドラゴ大佐がルーカスに告げる。
「わりと合ってるって、えっ、そうなの?だとすると、父上。僕の母上は、可愛いの?それとも悪魔だったの?どちらなんですか?」
ジョシュアの飾らぬ問いかけに、ルーカスは思わずといった感じで吹き出す。
「お前の母さんはきっと私が、悪魔のような人であったと言えば喜ぶだろうな。けれど私には、いつだって天使のように映っていた。前後左右上下、何処から見ても愛らしく、怒った顔でさえ可愛い。そういう唯一無二の素敵な人だったぞ」
ルーカスは微笑む。
「うわ、久しぶりに元帥のメンヘラ節を聞きました。懐かしいですねぇ」
ドラゴ大佐は明るい笑顔をルーカスに向けた。
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腕を組み、考え込む様子のジョシュアに、ルーカスは優しく微笑みかける。
「人は誰しも、悪魔にも、天使にも成りうるからな。まぁ、お前がフェアリーテイル魔法学校に入学すれば、この意味がきっとわかるだろう。用意は進んでるのか?」
「はい。グリフォンへの挨拶もバッチリ練習しました!」
笑顔になったジョシュアは、胸を張り答えた。
「ブラックかホワイトか。お前がどっちに組分けされるのか、楽しみだな」
ルーカスは言い終えると、窓の外に顔をむけた。
そして、遠い昔を思い出すように、空の彼方を見上げる。
彼の紫に澄んだ瞳は、まるでそこに亡き妻がいるかのように、優しく穏やかなものであった。
――おしまい――
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