ラウンドライフ

会津ほまれ

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第1章

はるかはるか遠い村

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辺境の地、ロード9にある四方を山に囲まれた小さな村
その長(オサ)は語る

最初のきっかけはお~きな疫病じゃった。

向こうの大陸で始まったことじゃ。最初は誰もが安心しとった。
それは長いことつづいての。たくさんの人がなくなった。

人々は感染を恐れて外に出んようになり、国の経済がどんどん廃れていっての。

そりゃあ、もう、地獄のような月日が続いたっちゃの。

やがて薬ができての、疫病もなくなっていったよ。

しかしの

それからどうも人間というものがあまり考えることをやめるようになったんじゃ。

最初は時代の移ろいだろうと、地獄のような日々が明けて、みな軽~く考えておった。

おえらい人さん方は正しいことをし、儂等には何も問題がなく、毎日を今までと同じように生きているかとおもた。

見るもの聞くものがどんどんドンドンと単純化し、若いもんは自分の意志なく周りの真似をするようになる。
これがまぁゆっくりとまんべんなく行われるんじゃ。誰も気づかんくらいの速度でな。

最終的には人間はみな欲に応えるように、若さだの金だの、楽な暮らしを追求し、自らのカラダを歳も取らない、食事も必要としないロボットにしていったんじゃな。

儂等のうーんと祖先は都市の暮らしやオートメーションのカラダを選ばずにこんなところまでやってきた。

それまで頼っていた器械とされるものはすべておいてきた。

・・・・・・

ここにはな、ここには何もないが。確かなモノがある。

いま世界の殆どはぁ、何も考えずに生きるもんが毎日を過ごしているだけの場所だて。

ここにいりゃあ。なんというかの。「生きて」いくことができる。

できることは少ないかもしれなんが、自分で考えることっちゅうのが一番大事だて。


アヤメはオサがするこの話を年に少なくとも2度は聞いている。
先住民がここに移り住んだとされる開村祭と村の豊作を祝う万作日だ。

オサがいつからこの話を村の若い衆に語りだしたのかわからない。
アヤメが物心ついて、この話を聞いたときはもっといろんな冒険譚がついていたような気もする。
オサも少しづつ省エネしていって結局はこの土地に眠るのだろう。

わたしたちの生き方は今も昔も変わらない。

この土地から出ることもなく死んでいく。

周りを山に囲まれたこの集落はむかし、私らの祖先がここに移り住んだときに
八方の山の頂上にでっかい稲穂みたいな"ソウチ"をこしらえた。

「ソレ(ラ)」は外の電波を遮断してこの村の存在を消すのだそうだ。
そもそもこんな小さい村に中央からの手が届くわけはないんだろうけど。
今までわたしらが無事に生きてこれたのはこのソウチのおかげかな。

最近は動物がいなくなって、狩りをする機会も減った。
作物もあまり育たなくなってきた。

父さんはお前が生まれる前からずっと異常気象が続いているからだって言うけれど
どうしたら治るのかな。
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