ラウンドライフ

会津ほまれ

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第2章

ふかくふかくに捨てられた御子

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経験則と過去のデータバンクから最適解を引き出しても自分の器体の代金の半分も返せないと判断された人間は地上の暮らしを手に入れることはできない。

彼等はその地下界にあるリサイクルと違法パーツの蔓延するミクラ(御蔵)という都市に追いやられる。

ピクシスもその中で産まれた御子だった。

彼等の運命は古いタイプの器体で寿命を生きながらえるか、違法パーツでなんとか生きていくしかない。

受け取れる情報も少なく、血筋や居住エリアの生体データから犯罪の確率が高いという理由で通常の商品や教育を享受する術は、はじめから無かった。

ピクシスの母は古いパーツで寝たきりの生活を余儀なくされ、父は違法リサイクルで自らのカラダを改造しながらジャンクパーツを売りつけていたが、去年捕まった。

ピクシスは一人残された。

彼が選べる道は唯一つ、自我を捨てて中央政府であるロンゴグループの一部として生きること。

自我を失うことに恐怖はない。彼等はみな天界へと送られ、戻ってくることはなかった。教えられることもなかったから知ることもなかった。自分の生きている意味なんて一度も考えたことがなかった。

その日がくれば自分の役目が終わる。
いや役目という概念すらなかった。

10日後に自分は自我を捨てて十分な命を与えられる。それでいい。
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