「君を一生愛すから」って言ってたのに捨てられた

豆子

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朝食後、イアンの淹れてくれたお茶を飲みながら、俺は応接間にて第一の目標『仕事を見つける』を改めて考えていた。昨日書き記した『レストラン開店』には大きくバツ印をつけてある。
 現代知識を活かしたレストラン開店が無謀となると、自分の持っている力を活かせる別の仕事を考えてないと。
 俺が持っているのは──現代日本の知識と女神から与えられた浄化の力。以上。少ない。箱入り三十路おじさんが持つ力はあまりにも少なすぎる……!
 大体現代日本の知識といっても十六でこちらの世界へやってきたので元々大した知識は持っていない。何か秀でた特技があるわけでも特別頭が良かったわけでもない普通の高校生だったのだ。唯一使えると思った食の知識も使えないとなると、残されたのは女神から与えられた浄化の力だけ。
 魔物を滅し瘴気で汚れた地を浄化する女神から与えられしチート級のこの力。ここ数年は綺麗な大地にキラキラとした綺麗な光を降らせるしか使い道がなかったが、俺はずっと考えていたのだ。

「そう、浄化の力を使って人々の怪我を治して治療費もらって稼ごうってね!」

 我ながら良い考えだ。
 浄化の力には魔物を滅する力と汚れた地を浄化する力だけでなく、人を癒す力もあるのだ。
 その昔エリックと共に各地の魔物を滅する旅に出ていた時、魔物の大群に襲われて全滅しそうになったことがある。その時の俺はまだ浄化の力を最大限引き出しきれていなくて、全ての魔物を滅することができなかった。
 魔物の大群にエリックの護衛も騎士も皆んなやられて、俺とエリックは絶体絶命の大ピンチに陥った。俺を背中に庇いながら、エリックが「お前のことは命に代えても俺が守る」って言ってくれたっけ。懐かしい。あれがエリックを好きになったきっかけだった。それまではオラオラ系の俺様王子って感じのエリックが苦手だったんだけど、その時ばかりはドキドキしちゃったんだよね。マジもんの王子様みたいって。でも今思えば吊り橋効果ってやつだったかもしれん。だって魔物の大群に囲まれてドキドキしない奴いなくない?
 ……まあそれは今は置いておこう。
 で、俺を庇って魔物に腕を切り落とされたエリックを見てショックを受けた俺は、覚醒した浄化の力で魔物を一掃した。ついでに魔物にやられたはずの護衛や騎士を生き返らせ、エリックの腕を生やしてみせたのだ。
 その一件以降、力の覚醒した俺は魔物を一匹残らず滅せるようになり、護衛や騎士やエリック自身が怪我をするようなことは格段に減って、俺が治療の意味で浄化の力を使うことはなかった。
 だが今こそこの力を使う時が来たのだ。
 この力の使えば俺でも医者の真似事ができるってわけだ。
 そうとなればまずは街の中に一軒家を借りて診療所を作り、破格の値段で誰それ構わず患者を治療して心優しい医者だと噂を広めてもらい、そこからじわじわ患者を増やしていけば一攫千金も夢じゃない。

「ハル様」

 脳内でどんどん診療所を大きくしてたらイアンに呼ばれた。

「差し出がましいかとは思いますが、浄化の力を町民に使うのはお勧めいたしません」
「なんで!?」

 今度こそ良い案だと思ったのに!!
 イアンが無表情のまま続ける。

「ハル様の考えている怪我とは捻挫や打撲・骨折といったものでよろしいですか」
「うん」
「そういった軽微な怪我を治すために町民に浄化の力を使った場合」
「使った場合?」
「効力が強すぎて捻挫を治すついでに腕が三本生えます」
「そんな怖いことある!?」
「切り落とされた腕を生やしたり死んだ人間を生き返らせるような力をただの捻挫に使えばそうなる可能性は高いかと」
「言われてみれば確かにそう!」

 ふんわり優しく浄化の力が使えれば捻挫を治すくらいできるかもしれないが、俺は力の加減ができない。これまでずっと全力で魔物を滅してきたので、今さらちょっとずつ力を使うとかできないのだ。全力全開で使う以外にやり方が分からない。……これなら神官様の言うことを聞いて浄化の力の使い方を勉強しておけばよかった。神官様が力の扱い方を教えてくれようとしたけど、エリックが嫌がったから断ったのだ。「俺以外の男と二人きりになるなよ」って壁ドンしながら言われたら「うん……!」って恋する乙女全開で頷くしかなかった。神官様七十歳のお爺ちゃんだったけど。
 あの頃の俺はエリックが世界の全てだった。若かった。そんで馬鹿だった。今さら後悔しても遅い。城を出た今、力の使い方を教わりたくても無理だし神官様は九十歳の隠居の身だ。

 結論、浄化の力を使って医者の真似事をするのは無謀すぎる。
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