男性保護特務警護官~あべこべな異世界は男性が貴重です。美少年の警護任務は婚活です!

タッカー

文字の大きさ
6 / 100
第一章 着任します!男性保護特務警護官

第五話 深夜子と朝日

しおりを挟む
 ――だんだんと現在までの出来事が頭の中で整理されて、意識が追いつく。朝日が目を開けると天井の模様が蛍光灯の光でにじんで見えた。

「帰れるのかな……僕。深夜子さん……変わってるけどいい人だったな……でも」

 ここまでやり取りをして、深夜子とは楽しい部分が多かった。何より悪い人間ではないのがわかる人柄と思える。それに自分に対してとても好意的だし、なんだかんだと職務にも忠実だ。

 天井を見上げながら、朝日はぐっと心臓を掴むように服の左胸側を握りしめる。この世界に来てからの出来事に加え、女性たちから向けられ続けた視線。コンビニではまるで自分が獲物になったかのような――得体の知れない不安が朝日の心をいつの間にか削っていた。
 
「帰り……たいよ……母さん。姉さん……誰か……。う……ううっ、ひぐっ」
 
 我慢ができなかった。自然と嗚咽が漏れる。この世界に来て四日。自分の場所と落ち着いて考える時間ができたことで、朝日は緊張の糸が切れてしまったのだ。

「う……うぐっ、うわあああーーーーっ」

 涙が止まらない。朝日はしばらくの間、泣き続けた。

 ――コンコン。
 突然、部屋にノックの音が響く。朝日が身体をビクッと震わせる。

 深夜子の寝室とは距離が離れている。自分の泣いている声など聞こえるはずがないと思っていた。ところが彼女は驚異的な聴力ミヤコイヤーで異変を聞き取って、部屋にやってきたのだ。

『……あ、あの朝日君。いい……かな?』
 扉の向こうから申し訳なさそうな声が聞こえる。

 朝日は泣いていたことが伝わってしまったのかと少し焦った。一つ年上とは言え。女性に泣いていたと知られるのは健全な男子としてちょっと恥ずかしいのだ。

「あ、鍵開いてますよ……どうぞ」
 さっと涙の跡をぬぐい。平静を装おって返事をする。
 
 少し遠慮がちに深夜子が入ってくる。昼間見たダークグレーのスーツ姿と違い寝間着姿だ。薄いブルーのフリルワンピース姿が色っぽい。こんな精神状態でなければ朝日はドキッとしていたことだろう。
 
 ところがどっこい。ドキッとしているのは深夜子の方なのだ。

 今の朝日は特になんでもない、寝間着代わりに使っているゆったりした薄手のTシャツとショートパンツ姿だ。しかしこれは深夜子にとっては破壊力抜群の薄着姿・・・である。
 
 場面が場面だけに深夜子も朝日への心配が優先である。もちろん表情も真顔そのものだ。しかし内心では――ふっおおおおおおおお!? 何これ? やっべーエロかわ! ちょうエロかわ! とのたうちまわって悶絶していた。健全な女子としてはこの反応は実に正しい。

 それでも朝日の精神状態が芳しくないことを敏感に察知して頭を切り替える。SランクMapsの面目躍如である。やったね!
 
「あの、今……泣いてた?」
「あっ!? え、いや! そ、その……だ、大丈夫……です……から」

 やはり聞かれていた。カッと頬が熱くなる。朝日は恥ずかしさから、ごまかし切れず微妙な返事をしてしまった。

「あの、朝日君。体調悪い?」
「そんな……こと……ないです」

 深夜子は男性学マニュアル通りにケアを実行する。できるだけ優しく落ち着いた声で質問を始めた。それにしても初の実戦だが、深夜子自身も驚くほど穏やかに語りかけることができていた。本当に朝日のことが心配なのだ。

「大丈夫? 辛くない?」
「あっ……その、だいじょうぶ! 大丈夫ですから」
 深夜子の優しく落ち着いた声が、逆に朝日の心に突き刺さる。だんだんと余裕を削っていく。
「朝日君……あたしの勝手な想像」
「…………なん……ですか?」
「もしかして……今まで無理してた?」
「っ――――!?」

 図星。

『自己防衛』
 朝日はただひたすら周りに愛想を振る舞い。少しでも自分の立場を良くしようと気を使い続けていた。それが力の無い彼にできる、唯一のことだったからだ。

「無理……しないでいいよ」
「いやっ、それは――」
 優しさが息苦しい。朝日は心が丸裸にされているような感覚に焦燥感を覚える。

 言うまでもなく深夜子は朝日のストレスを少しでも取り除きたい考えている。自身の男性に対する知識を総動員中だ。朝日の個人資料の内容を思い出す。今、彼の置かれている環境、今日までの状況を元に推測する――導きだされた答えは。

「朝日君……帰りたいん……だよね?」
「なっ……」
「いいよ……無理しないで」

 核心の一言。朝日の心の中で押さえていたモノが一気に吹き上がる。

「―――――だよ」
「え?」
「そうだよ! 帰りたいよっ! でも、どうしたらいいんだよっ!?」
「!?」

 振り絞るように朝日が叫んだ。

 深夜子は驚きと同時に感じとる。まだ一日だけだが、知っている彼の穏やかさとは違う。無理をしていた反動――本音の部分だと。

「いきなりっ! 気付いたらっ! こんな世界に放り込まれるとかなんの冗談だよっ。女の人ばっかで、僕のことを変な目で見てさ!」
「朝日……君」
 
「わかるんだよ。僕のことを獲物のように見てるのが! だから怖くて、怖くて……」
「……ごめんなさい」
 
「深夜子さんだって……あの人たちと同じなんでしょっ!?」
「…………ごめんなさい」

「……帰して」
「え?」

「ねえ、帰してよ! 僕を元の世界に帰してよっ!」
「……それは」
 
「どうして! 協力してくれるんでしょ?」
「ごめんなさい……今は無理。でも……」
 
「なんだよ。それ……」
「でも、でも……いつか必ず帰す」

 まさにせきが崩れたダムのように朝日の感情が吹き出した。それでも深夜子は冷静に、穏やかに対応を続ける。もうマニュアルでもなんでもない。目の前にいる弱々しい男の子が、ただ可哀想だった。ただなんとかしたかった。

 そんな深夜子の対応に、朝日は少しづつ落ち着きを取り戻していく。ハッと我に返って現状に気づく。深夜子に意地の悪いことを、ひどいことを言ってしまったと。
 
「あっ!? ……僕、その……ひどいことを……ご、ごめんなさい」
「ううん、いい。朝日君は悪くない。何も悪くない」
 うろたえる朝日に、なお深夜子は優しく穏やかに語りかける。
「で、でも僕……」
「大丈夫、悪いのはあたしたち。朝日君は気にしない」
「なんで? どうして? 僕にそんなに優しくしてくれるの……ただの……仕事でしょ?」
「ううん、仕事じゃない。……朝日君。あたしのこと怖くないって言ってくれたから……凛々しいって言ってくれたから」
「え? そんなことで……」
「そ、その……嬉しかったから……あ、朝日君のこと。す、好きだから」
「ははっ……何それ。ちょろすぎでしょ……まだ、会って一日だよ?」
「そ、それは……」

 それは違う。この世界のほとんどの女性にはその一日・・・・すら無いのだ。

「でもいつか、絶対、元の世界に……ニッポンて国に、帰す。……それに朝日君はあたしが守るから」
「え? 何を……」
Mapsしごとよりも朝日君が優先……だから……少しだけがんばって」
「み、深夜子……さん……?」
「約束……する、から……」

 深夜子の鋭く猛禽類を思わす目だが、その真剣な眼差しと微笑みから不思議な優しさが感じ取れた。そして――深夜子を見つめていた朝日の目から涙がポロポロとこぼれ落ち始める。

「う、うぅ……うわあああああっ」
 泣きながら朝日は深夜子に抱きついた。
「ふぇ、わっ……あ、あああ朝日君!?」

 深夜子にとって生まれて初めての、男性に抱きつかれるという完全想定外の衝撃ラッキーである。

 あまりの衝撃しあわせに意識が一瞬にして根こそぎ刈り取られて行く。しかしそうはいかない! こんな素敵な感触を堪能せずして何が女か! 根性で踏みとどまる。

 ふにっ――自分の胸のふたつの膨らみが朝日の顔に押し分けられる。密着した上半身と背中に回された手からは心地よい圧力と体温を感じる。あ、そういえばブラ着けてくるの忘れてたな……やっちゃったな……でも、むしろ忘れて良かった。やったぜ! 早くも深夜子の思考はセクハラコード全開になっていた。

 淑女モードは本日閉店時間である。ガラガラッ!

 そして、深夜子はアニメや映画でしか見たことのない場面を思い出す。こういった時は確か……と恐る恐る朝日の頭を撫でて、軽く抱きしめ返した。

 なんたる至福!! ああ……今、自分は男の子を抱きしめている! そして……自分の胸に男の子が顔をうずめてくれている! 圧倒的な万能感に深夜子の脳は支配される。
 
 心を痛めた美少年の頭を撫でつつ、自分のおっぱいで抱きしめ癒す。たとえ今後十回転生したとしても出会えないであろう、おっぱいにとって至高にして究極。聖母が体現するがごときおっぱいシチュエーション。おっぱい冥利に尽きるとはまさにこのこと!

 今、深夜子あたしのおっぱいは神聖属性を得た! おっぱいの未来に栄光あれ! おっぱい! おっぱい!
 
 しかし悲しいかな、至福の時は長く続かない。なんとも言えない朝日のいい匂いと感触が、深夜子の理性をゴリゴリと削り取って限界は瞬く間に訪れた。

 このままだと間違いなく朝日を押したおし、本能のおもむくままにこと・・に及んでしまうだろう。『Mapsによる男性強漢事件』明日の三面記事とワイドショー出演確定。ついでに人生終了確定である。

「あ、ああああさひくん……げ、限界……かも」
 
 朝日を抱きとめる形で、深夜子はそのまま力尽き後ろに倒れこんだ。必然押し倒す形となった朝日は、深夜子の胸に顔を密着させたまま覆いかぶさる。その衝撃で冷静さを取り戻し、まるで磁石が反発するかの如く。二人は弾けるように起き上がりながら離れた。さすがに朝日もこの状況を理解して顔を真っ赤にしている。

「みっ、みみ深夜子さん。その……ご、ごめんなさい」
「いや……朝日君は気にしないで……我がおっぱいに一片の悔いなし! ぷっしゅーー」

 深夜子昇天。


 ――深夜子が復活してからもぎこちなさは残る。二人が落ち着くまで若干の時間を要した。そのまま会話の切り口らしい切り口がお互い見えず、時間が経過して行く。そんな中、ふと何かを思いついたらしく深夜子が口を開いた。

「そだ! あたし元気になれる方法知ってる!」
「え?」

 そう宣言すると、深夜子はリビングの自分の荷物入れの中からごそごそと何かを取り出して来た。

「朝日君、はいこれ」
「はい? これって」

 渡されたのはゲーム機のコントローラーのようで朝日の知っている国民的人気メーカーのそれにそっくりだ。

「え、えーと……深夜子さん?」
「大乱戦クラッシュシスターズ。楽しい」
「はぁ?」
 そのあまりの脈絡のなさに朝日は唖然あぜんとする。
「あたし強い。ピンクの悪魔と呼ばれてた」
「はあぁ?」
「対戦すると楽しい、元気出るよ」

 一方的にやる気まんまんの深夜子を、ただ呆然と見つめていた朝日の表情がふと変化した。

「……ぷっ」
「え?」
「ぷっ……はは、あははははっ、何それ? ばっかじゃないの?」
「ふぇ?」
「ははっ、あはは! あはははははは!」
 朝日は腹を抱えて笑い続ける。
「え? え?」
 一方の深夜子は、それをどう受け止めて良いのかわからず困惑する。
「いや……ありがとう深夜子さん。少し元気が出たよ」
「ほ、ほんと?」

 泣きはらした目ではあるが、穏やかな笑みで朝日は感謝を口にした。そして――。

「それに……多分。僕このゲーム強いですよ」
「!? ……え? ……ふ、ふふふふ。それは楽しみ。いざ!」

 その後、二人の対戦は早朝五時まで続くのであった。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

まずはお嫁さんからお願いします。

桜庭かなめ
恋愛
 高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。  4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。  総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。  いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。  デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!  ※特別編7が完結しました!(2026.1.29)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想をお待ちしております。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜

水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。 その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。 危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。 彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。 初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。 そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。 警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。 これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。

私の推し(兄)が私のパンツを盗んでました!?

ミクリ21
恋愛
お兄ちゃん! それ私のパンツだから!?

処理中です...