男性保護特務警護官~あべこべな異世界は男性が貴重です。美少年の警護任務は婚活です!

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第三章 男事不介入案件~闘え!男性保護特務警護官

第二十話 朝日、海土路主と遭遇する

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 ――さて、情報収集をする為に、月見は男性たちの待合室があるフロアへと移動していた。

「はあ、主様はかっこよくて素敵だけど、人使いが荒いのですよー。ぶーなのですよー」

 移動中に買ったパック牛乳のストローを口にくわえ。ぶちぶちと愚痴りながら待合室にいるであろうタクティクスメンバーを探す。問題の記録保持者を調べるのに聞き込みを身内から、と思っていたら即ビンゴ。メンバーの数人がしっかりと見学済み。鼻息荒く、懇切丁寧こんせつていねいに説明をしてくれたのだ。

 体力測定会場は検診と違い、数ヶ所の屋内運動場で実施される。また付き添い以外の警護官も出入り可能になっていた。朝日の体力測定は驚異の記録連発のインパクトから、話題沸騰でギャラリーを集めに集めた。そのメンバーも話を聞きつけ、見学に行った口である。

「ええ、それはもう神崎は凄かったです。まるで天使の様に愛らしいお顔! 花よりも可憐で素敵な笑顔! そんな繊細ではかなげな美しさをお持ちの方なのに50メートルを走る姿はとても凛々しくて力強く、まるでサラブレッド! 背筋力をお測りなる時には、あの悩ましく情欲的な掛け声……はぁ……会場では失神者も続出だったんですよ。それも当然ですよね。なぜなら神崎様はあの――」
「ちょっと何言ってるかわからないですよ」

 どうやら朝日はあちこちでファンしんじゃを獲得した模様である。そのメンバーたちは、まるで神話に出てくる美の男神でも見てきたかの口調。目はハートマーク、頬を紅潮させ、恋する乙女がごとき興奮状態だ。

 こいつら本当に屈指の武闘派で知られるタクティクスうちのメンバーだったけか? 月美は力説を続けるメンバーに、ぶ厚いメガネのレンズごしに冷たい視線をジト目で送る。

「あーはいはい。もうわかったですよ。充分ですよ。それで、その神崎さんはどこの待合室にいるですよ?」
「はい。十番ルームで、たくさん男性方に囲まれていましたよ。やたら目つきの悪いMapsが一人、やたらベタベタ神崎様にまとわりついてるんで、ひと目でわかりますよ。あのクソ女、ちょっと神崎様の担当だと調子コキやがって……」
「その情報やたら私怨が混ざってるですよ」

 しつこく朝日の感想を述べて、引き止めてくるメンバーを月美は雑にあしらう。さっさと話題の本人を確認すべく目的の待合室へと急いだ。

 ――目的の待合室に入って中を見渡すと、確かに数人の男性が部屋の左隅に集まって歓談が行われていた。

 こっそり近づいて聞き耳を立てる。そのグループの中心にいる男性が、やたらと賞賛されている様子だ。彼が噂の『神崎様』だろう。するすると警護官たちの間を抜けて、”彼”が見える位置まで移動した。そして――。

「はああああああっ!?」
 ビシィッ! 分厚いメガネのレンズにヒビでも入ったかの衝撃! 飲みかけのパック牛乳は左手からするりと抜け落ち、床に転がる。
「……なっ、なっ……なん、なのですよ……アレ? お、おとぎ話に出てくる王子様? ……なの……ですよ」

 朝日の姿を目の当たりにした衝撃で、メガネを外して目をこする。ちなみに髪型などはアレだが、姉と違いパッチリとした瞳で可愛い系美少女だったりする月美である。

 しばらく呆然としていた月美だが、さすがにタクティクスの幹部。すぐに気を取り直して待合室を後にする。その足であちらこちらに聞き取り調査をした結果。記録は全て事実、さらに十一番ルート壊滅事件も浮上。朝日のあまりもにあまりなハイスペック振りに、ロビーで一人頭を抱える月美であった。

「こっ、こここれは困ったですよ。あの記録もほんとにほんとだったですし……いったい何者ですよ、あの超絶素敵王子様は? ちょっと……へへ……ふふ……っ!? おっと、いかんいかんですよ。月美は主様一筋なのですよ。でも……コレ……どうやって主様に報告するですよおおおおお」

 独自の情報網を駆使して、朝日は特殊保護対象男性、さらに外国人という事まではわかった。だが、詳細な情報は恐ろしくガードが堅く調べ切れなかった。そもそも、これを素直に報告したところで、信じてもらえる自信が全くない。

 だからと言って報告しない選択肢も無い。とにかくできるだけオブラートに包んで話をしよう、でもどうやってオブラートに? 頭痛を覚えながらトボトボと帰っていく月美であった。


 ――それから少々時間は経過する。一方の朝日たちは待合室から脱出してロビーへと退避していた。

「うわあああああっ……つ、疲れたぁ」
「うん。朝日君お疲れ様」

 朝日を囲んでいた男性たちは、思いのほか好意的だった。しかしとにかく質問攻めで、どこから来たかに始まって、家族構成、好きな食べ物、趣味、と定番どころはことごとくである。

「こんなにしゃべったの何時以来かな……はは」
「でも、朝日君。うまく話できてたよ」

 身の上話は男性保護省制作の設定を使い、朝日は愛想よく無難な話題に終始した。その甲斐あってか場は盛り上がり、何人かとメールアドレスの交換する程度には仲良くなれた。

 そんな中、ある男性が朝日の好きな男性・・・・・のタイプを質問してきた。まあ、どこの世界でもたまにある話だが、違ったのは女性たちの反応である。

 その瞬間。それまではきっちり仕事をこなし、静かだった周りの警護官じょせいがガタタッっと一斉に立ち上がり『話しは聞かせて貰った! それは聞き捨てなりませんな詳しく!』と言わんばかりの熱い視線にドン引きの朝日であった。

「あれはびっくりしたなぁ。なんかすごい雰囲気、だったもんね」
「朝日君。で、実際のところは?」
「えーと、それは――って、ちょっと!? しかも深夜子さんなんでメモ出してるのかな?」
「ふっ、これは妄想の糧」
「はっ!?」
「ナンデモアリマセヌ」

 この世界では百合的なアレか? 苦笑するしかない朝日。まあ、それはともかく。当然、最大の話題になったのは体力測定の件。これには言い訳に苦労した。精神的疲労の原因はこれだったといって過言ではなかった。

「はぁ……別に特別身体を鍛えてるわけじゃ無いんだけどね」
「あれは誤算。朝日君の筋力とか初めて知った。これは今度家でじっくりゆっくりねっとりべったり身体を隅々まで調べるべき。あたしと二人きりで」
「いや、今日もう全部調べたでしょ」
「くっ!」

 堂々とセクハラ宣言をしている何かはもちろんスルー。ふと考えれば、軽いトラブルはあったものの健康診断は無事終了している。事前の打ち合わせでは、もう五月と梅が合流しているはずなのだが……。
「あれ? まだ五月さんと梅ちゃん戻って来ないのかな?」
「うーん、ちょっと時間かかりすぎ。メールしてみ――」
 予定より戻りが遅い五月と梅に、連絡を取ろうと深夜子がスマホを取り出そうとしたその時。二人に声が掛かった。

「やあ、キミが神崎朝日クンだね。ちょっとボクと話をさせて貰えないかな?」

 その声のぬしは、花美、月美、それとタクティクスメンバーを十名ほど連れている海土路主であった。

「な、なるほど……あながち噂も……大げさって訳じゃなかったようだね」
 花美と月美の間を通り抜け、朝日の前に出てきた主が髪をかきあげながら話を始める。
 ――がくっ。
「外国人、とは聞いていたけど……これはボクも驚いたよ」
 腕を組み、少しオーバーアクション気味に話を続ける。
 ――ずるっ。
「ふん、その身体つきなら……なるほどあの記録も――」
 ――ずるっ。
「主殿。足腰が立っておらんでござるぞ?」

 いきなり上から目線で始まった主のご挨拶。ところが、その態度と裏腹に朝日を見て動揺したのか、ふんぞり返った体勢のまま後ろに倒れて込んでしまった。花美に身体を支えられて、しゃべりながらズルズルとずり下がっている。

「う、うるさいぞっ、花美! こ、これはアレだ。体力測定の疲れがでたんだ」
「え、えーと、あの――」

 なんとなく面倒そうな人たちだな、と感じた朝日。それでも無視をするのはまずいだろうと考える。愛想笑いをしながら、恐る恐る声をかけて近づく。しかし、体勢を直した主がそれをさえぎって話を再開してしまった。

「おっと、すまないね。それにボクはこんな所で立ち話をするつもりは無いんだ。さあ、待合室にでも入ろうじゃないか。――おいっ! 誰か飲み物を買ってこい!」

 朝日たちの意向など関係なし、主は強引に待合室への移動をすすめてきた。朝日は困惑しながらも深夜子に視線を送る。すると、深夜子が無言でうなずき返した。とりあえずは様子見と判断したらしい。

 待合室に入ると、先ほどまで朝日と話をしていた男性たちが主の登場に気づいて距離をとる。あまり関わりたく無い相手なのだ。連れられている朝日を気にはしているが、ここは”触らぬ神に祟り無し”と言ったところだろう。

 ぞろぞろと警護官たちを連れだって奥に進む。広めのテーブルを見つけると、主は備え付けのソファーにドカッと腰をおろした。その両横に花美と月美が、後ろ側に他のメンバーがずらりと整列する。朝日も向かい側のソファーに座り、深夜子はその左側に立っている。

 主は一呼吸の間を置き。ソファーに深く腰をかけて背をもたれ、右手を肘掛ひじかけに乗せ、実に偉そうな態度で切りだす。

「やあ、急に声をかけてすまなかったね。神崎クン――」
(か、神崎様! あの神崎様がこんなにお近くに!)
「実はちょっとキミの噂を耳にはさんでね――」
(ヤバい。マジヤバい。近くで見ると超ヤバい)
「キミの体力測定記録。凄かったらしいじゃないか――」
(濡れる。見てるだけでマジ濡れる)
「それで、是非ともボクの作ってるグループ・・・・に入らない――」
(あ゛ぁ~、神崎様に心がぴょんぴょんするんじゃぁ~)

「うるさいぞおおおおっ! おまえらあああああっ! ボクの後ろでボソボソと気持ち悪い話をするなあああああっ!!」

 どうやら朝日のファンしんじゃも何人か来ていたようである。主に怒鳴られ、慌ててビシッと姿勢を正している。

「まったく……こいつら、誰に雇われてると思ってるんだ……」

 ブツブツと呟く主。そんな横で無関心を装ってはいるが、花美も月美も、間近で見る朝日の美貌に内心驚愕していた。チラッと主の視線が向くと目を逸らしている。

「――おっと失礼。自己紹介がまだだったね。ボクは海土路主。うちはママが造船業を経営していてね。海土路造船って聞いたことあるかな? いやね、国内シェア二位の小さな・・・造船会社さ。ははは。まあ、それはともかく。実はボクが主催している男性コミュニティグループがあってね。ああ、もちろんメンバーだって凄いよ! みんな有名企業の社長や、政治家、それに名家の息子なんだ。おっと本題がずれたね。……本来なら、何でもないキミを入れることはないんだけど、今回は特別にボクの目に留まったってことで、直々にスカウトに来たってことなのさ! どうだい、ラッキーな話だろう?」
「へ、へぇ……」

 あっ、そうなんですか。あれこれと言われてもまったく理解できない朝日。むしろ、日本の某国民的猫型ロボットアニメで、金持ちキャラが『実はボクのパパがね――』から始まる自慢話をしている場面では無いのかと感じる自己紹介であった。
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