男性保護特務警護官~あべこべな異世界は男性が貴重です。美少年の警護任務は婚活です!

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第四章 やはり美少年との日常は甘くて危険らしい

第三十九話 花火が照らす二人の想い

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 花火の打ち上げ開始まで、まだ若干の時間を残していた。ふと会場案内をながめていた朝日が、この港の神を祭っているという神社に行ってみたいと希望する。それを受けて神社へと向かったのだが、そこで一つ問題が発生した。

「……朝日君。これはいくらなんでも女性ひとが多過ぎるかも」
「そうなの? うー、おみくじ引いてみたかったな……」
「そう。うーん」

 神社は一般区画にある小高い丘に建っており、当然、一般女性の出入りもある。何よりも深夜子たちの予想より混雑していたのだ。境内まで続く長い石段が売りのこの神社ではあるが、現在は少し大きく動けば他の誰かにぶつかる状態で、(女性にとって)やたらと目立つ姿の朝日には少々危険だと判断する。

 少なくとも浴衣姿の深夜子では、この女性だらけの石段は朝日をつれて登るには少々荷が重い。希望はできるだけ聞きたいが……どうしたものかと顎に手をあて思案をする。すると、ついと浴衣のすそが引っぱられた。

「ん?」
「あのっ……ごっ、ごめん! ごめんね、深夜子さん。無理にとは言わないから。うん、もう花火大会の土手に行こ、ねっ!」

 あきらかに先ほどまでとは違い、気を使っているのが感じ取れる。それを見た深夜子は少し口元に笑みを浮かべると、パッと明るい笑顔に切り替えカラカラと返事を返す。

「あっ、あたし勘違いしてた。朝日君、大丈夫。神社には行けるよ」
「えっ!? ほんと」
「うん、ちょっと待ってて」

 朝日から少し離れ、インカムで何やら五月と梅に指示を入れたようだ。離れていた二人が血相をかえて朝日のもとにすっ飛んでくる。

「ちょーーーっと深夜子さん! 貴女この状況で一体何を考えてますの?」
「てめえ、バカかよ!? 複数人でガードかけるだけでもルール違反でやべえのに、この女だかりに突っ込むってか? 冗談じゃねえぞ!」

 どうやら、五月と梅に朝日の周りをガードさせて、神社まで強引に移動するつもりだ。また、是非の判断が微妙な状態ではあるが、梅の言うとおり必要以上の密着警護は『男権だんけん(第十二参照)』がうるさい。五月の反対も同様である。

「あっ……その、僕が――」

 深夜子を問い詰める二人に、自分のわがままだと割りこもうとするが、その前を深夜子にふさがれる。顔を見ると何を思ったか、朝日に向けて自信ありげに、ふふん! と鼻をならして笑顔を見せてから五月たちへと振り返る。

「なぜならあたしが行きたいから!!」
「「あっ、あっ、アホかぁーーっ(ですわ)!!」」

 まさに傍若無人といえる宣言に猛反発する二人だが、頑としてゆずらない深夜子に結果折れることになった。しぶしぶとガードにつく五月と梅を横目に、深夜子は朝日の手をとる。

「ほら朝日君、神社に行く。おみくじするんでしょ?」
「あ……う、うん! それとなんかごめんね……五月さん、梅ちゃん」
「「まあ、朝日(様)が言うなら……」」

 なんだかんだと朝日には甘い二人であった。

 しかしながら、道行く朝日はとにかく女性を引き寄せた。気を抜けばじわじわと女性たちに囲まれてしまう。その集団を抜けるために、つい四人ともが足早になる。

 それでもなんとか無事に境内まで抜け、おみくじを全員で引く。結果に一喜一憂しながら帰り道へ向かうが、やはり行きと同様に足早で石段をくだるハメになった。そこで予定外のトラブルが発生してしまう。

「うわあっ!」

 下駄の鼻緒が切れた朝日が、石段で転んでしまったのだ。

「朝日君っ!?」
「あーやっちゃった。下駄の鼻緒が…………痛っ!」

 右足首に鈍く痛みが走る。軽く筋を痛めたらしい。

「朝日君! 足、大丈夫?」
「朝日様! ご無事ですか?」
「おい朝日、大丈夫かよ?」

 一旦、石段の踊り場に避難するが、ここが一般区画であること、何より女性ひとだかりが仇となる。朝日は軽く足を捻っただけだが、もう先ほどまでのような速度で歩くことはできない。

 そう、これは足をくじいた子鹿が、サバンナでライオンの群れの前を歩くのに等しい行為である。

 ここは冷静に判断すればデートは中断、深夜子も非番を解除し、五月たちと共に朝日を護衛して治療のために帰宅する。これが正解である。しかし、それは深夜子にとってあまりに苦渋の決断。だが、足を痛めた朝日を見て迷わずそれを選択した。

「ごめん……ごめんね、朝日君。その……うちに……帰ろ?」
「それがよろしいですわ。大事を取ってくださいませ」

 朝日の目を見つめ申し訳なさそうに告げる深夜子、実はちょっと泣きそうなのは秘密だ。

 ところが、今度は朝日が深夜子に向けて自信ありげに、ふふん! と鼻をならして笑顔を見せてから、胸を張って宣言する。

「大丈夫だよ! 実はね、こんな時の対処法。僕の国にはちゃんとあるんだよ」
「ふえ? そんなのあるの?」
「そ、しかもすごく由緒正しい対処法」

 朝日の宣言内容に驚きのあまり、拍子抜けした返事をしてしまう深夜子。五月と梅も同様に呆然とした表情をしている。

「朝日様のお国の……対処……法ですの?」
「おい、なんか猛烈に嫌な予感がしてきたぞ……」

 ええ、そうでしょうとも。

「うん! じゃ、深夜子さん。ちょっとそこでしゃがんでくれる?」
「ん? しゃがむ……はぁ」

 何やらよくわからないが、深夜子は言われるがままにしゃがみこむ。朝日は、その背中にまわると――よいしょっ、とおぶさった。

「うひゃああああっっ!!」
「じゃ、ここからは僕をおんぶしてね!」
「ちょーっ! こっ、ここここれは、あたしの背中に朝日君がっ! はひゅうううう!!」

 まるで発情した野生の牝馬が、大好きな人間に乗馬されたかの如く――つまりは何がなんだかよくわからない状態である。

「せっかくのデートでしょ。ねっ、深夜子さん。二人で花火を見にいこっ!」
「デ、デート……花火……ふっ、二人で! ふっ、ふおおおおおおおっ!!」

 背中に伝わる朝日のぬくもり! 腰に感じる朝日の太もも! 支える両手には朝日のSHIRI! 深夜子の中で何か新しい扉が開いていく。恐ろしいほどに覚醒していく未知の感覚! この扉の先をいけばどうなるものか? 危ぶむなかれ! 危ぶめば尻はないっ!!

「お待ちください朝日様! いくら深夜子さんにおぶられても、この人ゴミの中で石段をおりるのは――」

 止めようとする五月を遮り、深夜子が咆哮をあげる!

「ムッハーーーッ!! ならばぁーーーっ!!」

 キラーンと目を輝かせ、興奮最高潮の深夜子がその鋭い視線を向けたのは神社の石段横に広がる雑木林である。確かに林を抜けて直線にくだっていけば、男性福祉区画の花火観賞用の土手まで最短距離で到達することが可能だ。

「ちょっと!? 深夜子さん……貴女まさか!?」
「正気かてめえ……朝日を背負って林をくだるつもりかよ!?」

 朝日をおぶることで、極限までテンションが上がった深夜子は言うなれば『究極完全興奮態グレート深夜子』ドーパミンもエンドルフィンもアドレナリンも脳内全開である。今なら銃の弾丸すら止まって見えるであろう。行ける! 今ならどこへでも行ける! 行けばわかるさありがとう!!

「じゃあ行くよ! 朝日君、しっかり掴まって!」
「うえっ!? 深夜子さん、そっちって林のなかにぃーーーーっ!? うわぁーーっ!!」

 朝日をおぶって石段の踊り場から、雑木林へと約3メートルほどある段差を飛びおりる。着地の勢いもそのままに、すぐさま前方へ飛び出し木々をつっきって道なき道を一気にくだりはじめた!

「はっ、はやい!? 浴衣姿で朝日様を背負ってこのスピード? ……あ、ありえませんわ」
「とんでもねえな……でも、深夜子あいつテンション上がり過ぎだろ? 朝日のやつ舌噛まなきゃいいけどよ……」

 これはまさに林の中を走るジェットコースター。おぶられてるとは思えないスピードで木々の間を絶妙に抜けていく。気がつけば、あっという間に男性福祉区画の土手が見えてくる。最後は林が終わって、土手に繋がる土の急斜面を駆け降りる!

「朝日君。土手で止まるから、力いっぱいあたしを掴んで! んー、いよいしょおおおっ!!」
「うひゃあああっ! りょ、了解ーーっ!」

 左足で踏ん張り、砂煙を巻き上げながら急斜面を削るように急ブレーキをかける。朝日はその衝撃に目を閉じて、とにかく深夜子にぎゅっとしがみついた。そして勢いが弱まったと同時に深夜子は斜面を蹴ってジャンプし、土手に無事着地したのであった。

「あっ! とっ、止まった? ……す、すごかったね、深夜子さん」
「はゅ、ひゅん。あにょ、あしゃひきゅん。しょの、てぎゃ、てぎゃ」

 何やら深夜子がへたり込みながら訴えている。

「えっ!?」

 だんだん冷静になるにつれて、朝日の右手になんとも言えない柔らかで弾力のある感触が伝わってくる。なんだこれ? ムニムニと感触を確かめる。

「ひゃっ、ひゃんっ! ちょっ、あしゃひきゅん……もっと……ひや、しゅ……しゅとっぷう」

 そう、着地の衝撃で朝日の右手は、偶然、ほんとに偶然、深夜子の浴衣の中に滑りこみ。左胸をしっかり手で握った状態となっていたのだ!!

「うわぁーーっ、みっ、深夜子さん! ごめんなさい!」
「あたしこそ……変なとこ触らせて、ごめん。ふへへっ」

 もはや語る必要もないかも知れないが、女性が男性に・・・・・・故意に胸を触らせる行為は痴女として取り締まられる・・・・・・・のがこの世界である。

 そんな朝日と深夜子、お互いうすら笑いでごまかしつつ。
((なんというラッキースケベ!!))
 ちょっとした幸せラッキーを噛み締めているようだ。


 ――少ししてから五月と梅も追いつき、通常の警護体制に戻る。深夜子は先程の衝撃おっぱいでノーマル状態にもどり、朝日をおぶってゆっくりと土手に向かって歩いていた。

 花火の時間まであとわずか……その時、肩に置かれた朝日の両手に少し力がこもり、顔を深夜子の耳元にそっと近づける。

「深夜子さん……神社のとき……僕をかばってくれて……ありがとね」
「ふえっ!? べっ、べべべ別に……あれは、あたしが行きたかったら! そ、そう朝日君のためじゃない……よ?」
「ぷっ! 何それツンデレのつもり? へったくそ! あははははは」
「む、むう」
「あのさ、僕ね……深夜子さんの――」 

 朝日が何かを告げようとした瞬間。轟音が空から鳴り響き、同時に花火の輝きが広がる。二人の視界は花火の光に包まれ、朝日の言葉は花火の音に打ち消された。 

「んっ!? 朝日君、今なんか……」
「ううん。なんでもない」
「そう。あっ、あの辺りがちょうど見やすい!」

 ちょうどよいサイズの街路樹が立っており、地面も芝生で木を背もたれに花火観賞に最適の場所を発見した。朝日と深夜子はそこで腰をおろし、ゆっくりと空を見上げる。

 色とりどりの花火が空を染め上げ、空気を揺らす炸裂音もまさに夏を思わせ心地よい。梅と五月、そして他の観客、深夜子も、皆空を夢中で見上げている。

「深夜子さん。今日は色々ありがとね」
「え? ああ、うん」

 花火に意識をとられて、朝日の言葉に軽く相づちを打つ程度の深夜子。
 
 ――その次の瞬間。
 ふと、その頬にやわらなか感触が触れた。

 同時に花火に照らされた二つの影は、一人の頬に、一人の横顔が、少しだけ重なっている姿を描いていた。

「はあっ!? ふええっ!? あさあさあさ朝日君!! い、いいいい今、何を!?」
「え? なにも? 気のせいじゃない? えへへ」
「でも、なんか、ほっぺにふにゅーんって!? うにゅーんて!? ふえっ!? ふえっ!?」
「だ、か、ら、気のせい! ほらほら深夜子さん、花火花火!」

 左手で頬を押さえて挙動不審の深夜子と空を指さし笑顔の朝日――。


 そんな二人の頭上には、ちょうどハートマークの打ち上げ花火が輝いていた。
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