男性保護特務警護官~あべこべな異世界は男性が貴重です。美少年の警護任務は婚活です!

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第四章 やはり美少年との日常は甘くて危険らしい

第三十八話 寝待深夜子は頑張ります!

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 今回、移動先はいつもの市街地ではない。花火大会の会場は春日湊の南――海岸線側にある曙港でおこなわれる。港の一区画が夏祭りらしく装飾され、ところ狭しと屋台や催事場が並んでいる。来場者もかなりの人数でとてもにぎわっている。

 朝日たちは男性福祉対応の別区画に入る。こちらも一般会場同様、しっかりと夏祭りらしく装飾されているが、人が多く雑然としたそちらと違ってにぎわいは少ない。一定距離ごとに警備員が配置され、すれ違う男性には警護官や家族が同行していた。

 花火の打ち上げが始まるまでは、屋台をまわることになっており、ここから深夜子待望のデート本番である。

「うわー、やっぱり夏祭りの雰囲気っていいね! 深夜子さんいこっ!」

 そう言って左腕にからみついてくる朝日。そう、これは五月のときにも見せた――そこから恋人つなぎのコンボ、実に腰にくる素敵な一撃だ。

 しかし、一晩を費やしたデートシミュレートは伊達ではない。深夜子の中では想定の範囲内・・・・・・である。さあ、そのやわらかくて愛らしい手を、華麗に、そして優しく受け止めて――。
『そ、そんな!? 僕の女殺しわざが通用しない?』
『フッ! あたしに一度見せた技は二度通じぬ。今やこれは常識!!(キリッ)』
『やだ、深夜子さん素敵……(ぽっ)』
 ――とバッチリ決めてオスの顔にしてくれよう。

 そして現実は――。


「あふわぁっ! あっ、朝日君!? そんなギュッて? ちょっ、む、胸が左腕に、あたっ、当たって? あた……あたたたた! ぷしゅー」

 がっつり腕を組まれました。

 余談ではあるが、心理学上『手をつなぐ』よりも『腕を組む』方が親密度が高めなのである。当然ながら物理的密着度あたってますよも圧倒的に違う。無意識に相手の上をいく朝日、恐るべし!

 左腕の感触に集中しすぎて、意識の半分以上が飛んでいる深夜子は朝日に促されるままに、あちらこちらの屋台を共にまわり歩く。無論、道ですれ違う女性ひとびとの視線には、羨望と嫉妬、ついでに憎悪が混じっている。

(くそっ! 見せつけやがって!)
(くっ、うやらま爆発しろ!)
(あんな美少年と腕を組むとか犯罪だろ? はやく法整備しろよ)
(アイエエエエ! 美少年!?  美少年ナンデ!?)
(う゛う゛う゛朝日様ぁ……五月のときは、五月のときはぁ)

 そんな中、何やらインカムから女の亡霊がすすり泣くような声が聞こえた気がして、ちょうど深夜子の気付けとなる。

「……はっ!? 不覚!」
 自我を取り戻し、急ぎ頭の整理を開始する。

 とりあえず、この予定外のつまづきは忘れよう。計画では屋台ロードで朝日にカッコイイところを見せる予定なのだ。花火の打ち上げが始まるまでに、しっかりと好感度を上げる。そして、いいムードで花火観賞をして、より親密な関係にステップアップするのが最終目的である。

 まずは自分の得意分野をフル活用する。Maps養成学校卒業時に軍隊からも声がかかったレベルの射撃術! これを活かさない手はない。昔からあちこちの夜店で射的あらしとして名をはせた腕の見せ所だ。

「ふふふ、朝日君。まずは射的から! あたしのテクニックを見せる」
 そう宣言してから意気揚々と朝日をつれて、いざ射的の屋台へと突入する!
「ん? お断りだよ――」
「え? 冗談じゃない――」
「アンタ、業界のブラックリストにのってるよ――」
 過去、どれだけあらしまわってたの?
「バッ、バカナァーーーッ!?」

 はやくも計画は頓挫した。

「み、深夜子さん……大丈夫?」

 がっくりとうなだれる深夜子に、苦笑しながら朝日が手をさしのべて慰める。待望のデートは、いきなり逆風スタートであった。

「うう……しゃ、射的が……射的が……」
 デートの計画はスタートから見事につまずき、その場にしゃがみこんで落ち込む深夜子。
「深夜子さん。……えと、お店の人の反応で深夜子さんが上手なのはさ、うん。すごくわかるよ?」
「そ、そう? うう……でも……」

 朝日に慰めの言葉をかけられるが、すぐに気持ちの切り替えができないらしく、 深夜子からは生返事が続く。見かねた朝日は、イタズラっぽい笑みを浮かべると、スッと背後にまわった。

「もう、しょうがないな深夜子さんは……元気だして! ほらっ――つぅーーっ!」

 うなだれて背中を丸めている深夜子の首根っこ――襟元にトンっと人差し指をのせる。そして浴衣の上から、背骨のラインにそって下へと指を這わせる。

「ッ!? うわひゃあーーーっ!!」

 うぞぞぞぞっ! 深夜子は全身を走る表現できない感覚に驚き、飛び跳ねるように立ち上がった。

「んなあっ!? 朝日君、何っ!? つうーって、うぞぞーって、うえええ!?」

 朝日から突然のボディタッチイタズラによって、深夜子は嬉し恥ずかしなパニックに陥る。あたふたと両手で宙をかきまわしつつ、口をパクパクさせているが二の句が継げない。

「えへへ、深夜子さん。元気……出た?」
 そう言うと、朝日はクスクスと笑いながら深夜子の左腕に再び絡みつく。
「ほら、デートなんでしょ。楽しく行こうよ!」
「ふぇ? あっ……うん、楽しく? そっか……楽しく……だ、だよね……ぐへへ」

 魅了され骨抜きにされるとは、まさにこの時のためにある言葉であろう。表情筋の全てをだらしなく緩め、絡みつかれた腕と、自分をひっぱってゆく朝日の顔を交互に見てはにやけて、されるがままである。
 これがファンタジー小説の冒険者だと、だいたい連れていかれた先でモンスターに捕食されたりするパターンですね。

 さて当然、周りからは『見せつけやがって爆発しろよ!』的な視線が集中している。それを知ってか知らずや、深夜子と朝日のデートは容赦なく甘口で続く。

 深夜子が好物の焼きトウモロコシを食べていれば――。

「ん。朝日君どうかした?」
「深夜子さん。口のそばにトウモロコシの粒がついてるよ」
「あれ? ほんと――」
 口をぬぐいかけた深夜子の手より早く、朝日の指がくっついていた粒を摘まみとり、そのまま自身の口・・・・へと放り込む。
「えへへ。ごちそうさまー」
「あ、朝日君? 今、あたしの……口の……食べ……ファーーーッ!?」

 二人してかき氷を食べれば――。

「深夜子さんの練乳ミゾレだったよね? あー、僕も練乳かけてもらえば良かった」
「ん。じゃあ、練乳かけてもらいに――」
「それより深夜子さんの一口ちょうだい。はいっ、あーん」
 朝日が深夜子へと口を向けておねだりをする。
「はひぃ!? え、えーと……あっ、ああああ、あーん?」
「ありがと、おいひー。じゃあ、僕のイチゴだからお返し。はい、あーん」
「うぇああっ? あったっしっもっ!? あ……あ、あ、あー――ぷしゅー」 

 など、やりたい放題の朝日はとてもご満悦であった。そのあとも魅了状態が悪化してなすがままの深夜子を、行きたい場所へとひっぱりまわす。

 そして、ひたすらそんなやり取りを見せつけられた現場では――。

(萌えた……萌え尽きちまったわ……)
(あんなの漫画やアニメだけの妄想じゃなかったのぉオオオっ!?)
(あ、あれが、あれがラノベ主人公なのね……うらやま死のう、死んで転生しよう……)

 ――屋台を守る女性たちひとびとの慟哭が残るのみである。さらに、屋台の影から血の涙を流して朝日を見守る視線が一つ。

「ふぐうううっ……朝日様! どうしてっ、どうしてっ、あの場にいるのが五月でなくて深夜子さんですの!? ……ふぐうううっ」
「ほんと重てえし、めんどくせえ女だな」
「くっ! だっかっらっ、余計なお世話ですわよっ! 食べ物にしか興味のない貴女には言われたくはありませんわっ!!」
 
 以降、定期的に五月からインカムに呪詛の言葉が届くが、魅了状態の深夜子にはまったく効果はない。まあ、このあたりはお互い様であろう。そして色気より食い気の梅は、隙を見つけては屋台の食べ物を買って食べまくっていた。

 それから水ヨーヨー、金魚すくいなど屋台の定番を楽しんで、ふと喉が乾いたと朝日がサイダーを買ってくる。

「あれっ? ……このサイダー、せんのやつだ。あー、取ってもらうの忘れちゃった」

 縁日らしいと言うべきか、売られていたサイダーは日本でも珍しくなった金属製の栓(王冠)で封がされているビンタイプであった。ついつい飲み物はキャップという感覚で、屋台に置いてある栓抜きで抜くのを見落としていたのだ。

 栓抜きを使うために屋台に戻ろうとする朝日を、何か思いついたらしい深夜子が――ちょっと待ってと呼びとめる。

「えっ、深夜子さん。どうしたの?」
「朝日君。大丈夫」

 そう、深夜子の腕力を持ってすればビンの栓などキャップと大差ない。ここはチャンス再来! かっこよく素手で栓を開ける技を披露して、朝日に格好いいところを見せて『素敵っ!』と好感度アップの場面である。

「ええっ!? ほんとにコレを栓抜きなしで開けれるの?」

 その提案に興味しんしんの朝日。これは間違いなくチャンス!

 そして深夜子は思案する。例えば――歯で栓をこじ開ける。親指で栓を弾いて開ける。などは、ちょっとヤンチャな体育会系女子会では定番芸だ。しかし、そんな定番芸程度では序盤の失点は取り戻せないだろう……ならば!

「朝日君。少し離れて」
「えっ?」

 深夜子はサイダーのビンの胴を左手で握り、右手は軽く手刀をつくる。そして両手を広げるように振りかぶり――。

「寝待流格闘術――『鋼討はがねうち』」
 ビンの首と手刀が、深夜子の正面で左右から交差する!
 キンッ! 甲高い音が鳴ったかと思うと、ビンの首の部分がピシッと音をたて、鋭利な刃物で切られたかのようにずれ落ちていく。

「えええええっ!?」
「ふふん! ……どうかな? 朝日君!」

 切り口もバッチリ! 会心の出来に満足そうな笑みを浮かべる深夜子――どやっ、惚れてまうやろーっ!? とばかりに朝日へビンを差しだす。

「ひいっ!?」 
「あれ?」
 まあ、ドン引きである。ビンを素手で切ってはいけません。
「ちょおっ!? そ、そのっ、朝日君? これは、えーと……そ、そう! 実は簡単なコツがある。誰でもコツさえ掴めばできるから!」
「えっ、そうなの……!?」

 朝日が怯えてしまったことに焦りまくった深夜子が、何やら苦しい言い訳をはじめる。

「ひ、左手で加速させるから、手刀の速度にそれが加わる。だから楽勝!」
「え、あ、はい」

 それはコツとは言わない。

 しばらくあたふたと言い訳を続ける深夜子を、暗くかげったにやけ顔の五月が嬉しそうにながめていたのは言うまでもない。
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