男性保護特務警護官~あべこべな異世界は男性が貴重です。美少年の警護任務は婚活です!

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第五章 特殊保護事例Ⅹ案件~五月雨家へようこそ!

第五十二話 おでかけ先は楽しい場所?

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 しばしの間、日頃のお嬢様ぜんとした五月からは想像もつかない悪態が口からあふれ出てくること数分――。

「ハァ……ハァ……し、失礼。――それで、蘭子さん」
「ええ、本来ならば私も社長の護衛に同行します。出発予定は午前十時頃――」
 蘭子は左手の腕時計を確認する。
「しかし現在、八時二十八分。八時前には出発されたらしく、気づくのが遅れました」
「やりたい放題ですわね……しかし朝日様に大和さん一人……心配ですわ」
「いえ、さすがの社長も護衛部隊で腕利きの者を十人――通常の倍、人数を連れておいでです。神崎様の警護面はご心配なくてもよいかと存じます」
 それを聞いた五月は、少し安心感を交えため息を漏らす。
「ふぅ……どちらにしても、向かった場所が場所ですから……焦っても仕方ありませんわね。ところで昨晩、いったいどういった流れでそうなりましたの?」
「それについてですが――」

 蘭子が五月に昨晩の出来事を説明する。

 興奮気味に一階の大広間になだれ込んできた梅と深夜子だったが、なんと新月は蘭子たち護衛部隊の者と酒盛りの最中であった。しかも、五月たちの来訪がよほど嬉しかったのか、終始ご機嫌でずいぶん酒も進んでいた。

 二人は抗議を始めるが、酔っぱらい相手ではまともに話し合いにはならない。さらには押し問答の最中、すでに出来上がっていた新月が酒のビンで梅をぶん殴り、あわや『こぶしで!』話し合いになるかと思われた。周りに引き止められながらも一触即発、そんな緊張した空気の中で新月が梅に放った言葉は……。

「はああっ!? う、腕相撲ですって!?」
「はい。酒の勢いで社長が腕相撲勝負を仕掛けまして、それに大和様が応じられました」
「あの脳筋ばか……」

 五月の脳内で『はっ! おもしれぇじゃねえか?』と梅の声が再生され両手で顔を覆う。

「お恥ずかしい話ですが、我々も場の雰囲気でつい盛り上がってしまい、全員参加の大会となりまして……最終的には、社長と大和様の一騎討ちになりました」

 続けて五月の脳内に、熱気に包まれた五月雨家大広間での腕相撲大会の様子が浮かびあがって来た――。

『うおーーーっ!! 社長やっちゃってくださいィィィ!!』
『大和ちゃんもファイトだぜーー!! つか、アンタ強すぎだろーーっ!!』
『『『ぎゃはははは!!』』』

 完全に体育会系の飲み会と化した会場、いや大広間。さらには騒ぎを聞きつけ集まったメイド達も観客となって、野次やら声援やらが飛び交っている。その大広間の床には、50センチ四方の分厚い木製机だったものが、真っ二つになって多数散乱していた。その中央で同じ机に中腰で右腕の肘を付き、手を握り合う二人。左手は机の端をがっちりホールドして準備万端である。

 上半身サラシ一丁で、右肩に竜、左肩に虎「竜虎相搏りゅうこあいうつ」の彫り物が背中一面に入った新月。髪は後ろ一本で乱雑にまとめ、夕方のゴスロリ姿からは、どこをどうみても同一人物と思えない。対する梅の上半身はネコさん柄のスポーツブラ、下半身はスポーティなイヌさん柄のショートパンツ姿で、小柄ながら引き締まった全身の筋肉美を見せ付けている。

『よぉし、これで最後じゃ! ええの?』
『おうよ。決着つけてやんぜ!!』
『『うおりゃあああっ!!』』

 新月と梅の烈迫の気合いが響き渡る。握り合った手から腕、そして全身の筋肉と骨から軋む音を鳴り響かせ、一進一退の攻防が続くこと数十秒――豪快な音と共に、机は床に散乱しているもの同様に真っ二つとなった。

『ワシと互角とは……やりおるのぉ』
『五月の母ちゃん、マジでやんじゃねえか!』
『おおっ、梅ちゃんが腕相撲引き分けたの矢地やっちー以来! 五月さっきーママすごい』

 破壊された机はゆうに二桁、どうにも勝負はつかなかった。だが当事者二人は満足げに笑顔を称えて握手し、さらには熱い包容を交わしている。 

 すでに朝日と五月の話題など誰の頭にもなく『うたげじゃあーーーっ!!』と新月が叫び声を上げれば再び酒盛りが――。
「もう結構ですわーーっ! 恐ろしく鮮明に音声付きで場面が想像できましたわっ!!」
「ともあれ、寝待様はともかく。その後、社長と大和様は意気投合されたようです。……同行された一因もそれかと思います」
「だんだんどうでも良くなって来ましたわ……って、深夜子さん!? 深夜子さんはこんな時に何をされてますの?」
「寝待様は神崎様たちをお見送り・・・・になられてから、二度寝された、と聞いておりますが……」

 ピシッと眼鏡のレンズにヒビが走ったかに見えたが、カチャリと眼鏡の位置を正すと、五月は微笑みながらゆっくりと紅茶を入れ直す。そして、それを軽く味わってから優雅に蘭子へ指示をだした。

「ほほほ……そうですの、では蘭子さん。しっかりと・・・・・深夜子さんを起こして差し上げてくださいませ」
「ハッ! かしこまりました。五月お嬢様」

 こちらも満面の笑みで答え。蘭子が深々と一礼をして部屋を出てから数分後。

『うぎょえあああああああっ!? てっ、敵襲!? うにゃ? んノオオオオオオッ!!』

 午前八時四十六分、深夜子起床。


 ――さて、一方の朝日たちだが、武蔵区のとある港から豪華なフェリーに車ごと乗り込んで、移動すること約一時間。どこかの島に到着したようである。

 その港から車で十五分程進むと、周りが山に囲まれた島の中央部分と思われる場所に、忽然こつぜんと高層ビルや大きな建物が数棟現れた。こんな場所には不釣合いと思える施設だが、ここは経済推進同盟が会合の他、多目的用に所有している島で、一般の地図には乗らないアンダーグラウンドな場所となっている。

 それではここで少しこの国の裏部分、世間一般には認識されない勢力争いの話をしよう。

 新月が所属する経済推進同盟、この国にはそれ以外にも二つの経済団体がある。通称『三大経済団体』と呼ばれている組織だ。そして、この世界において――例えば男性警護業など、男性に関係した職種は非常に強力な利権と認識されていて、利権には何かしらの勢力が絡むことが多い。それこそがこの三大経済団体である。さらに政府がここに加わって、国の裏側でも政治的バランスが取られているのだ。

 経済推進同盟は男性保護省と友好関係にあり、もう二つの経済団体はそれぞれ男性総合医療センター、男性権利保護委員会と友好関係を築いている。政府は直轄組織である男性警察を有し、さらには男性保護省を通じ、経済推進同盟とも友好的関係を結んでおり、勢力は三分された状態になっている。

 表では公的機関、または健全な組織としてお互いの交流も含めて活発に活動しているが、水面下では……と言うとやたら不穏に聞こえるが、ぶっちゃけ多くの男性を自分たちの勢力下で管理したいだけ――悲しいかな男性の取り合いである。結局、形が違うだけで、この世界の女性は遥か昔から貴重な男性の奪い合いを続けているのだ。

 それでは話を戻そう。

 昨日までとは一転。髪は夜会巻きにして大粒の真珠が多数ついた髪飾りをつけ、淡い水色の上等な生地に鈴蘭模様の落ちついた着物姿の新月が、建物の入り口へと向かっている。その後ろに朝日と梅、周りを囲むように十人の黒服がついて行く。

 外からだと飾り気のない、用途不明な建物だが、内装は最高級ホテル以上の豪華な作りとなっている。案内をする制服姿の係員たちも、きちっと教育の行き届いた対応で丁重に新月たちを迎え入れた。

「へへっ、どうよ朝日? この格好」

 朝日のすぐ横を歩いている梅が、自慢げに胸をはる。先ほど車を降りた際、黒服たちのワゴンに行ったかと思うと、新月の護衛部隊の制服に着替えて出てきた。同じ黒服にネクタイ姿でサングラス、そして金バッチならぬ五月雨家護衛部隊のラペルピン。本人はこの格好が気に入っているらしく、満足げに朝日にアピールしているのだが……残念ながらちびっこギャングにしか見えない。

「あー……うん。梅ちゃん、かわ――カッコイイ……んじゃないかな?」
「だろ? へへへっ」

 朝日の微妙な返事に気づかない程度にはご機嫌の梅であった。もちろん無意味に変装しているのではなく、Mapsがここ・・にいるのは、色んな意味で体裁がよろしくないからである。
 
 目的の会場は入った建物を奥へと進み、連絡通路を通り抜けた先にある十階層のビルだった。その内二~六階は、会合に参加する財界人の家族や客人をもてなす為の施設が充実している。新月は朝日に『楽しい場所にお出かけ』と称して連れ出しており、また梅にも何やら約束をしているようであった。

 新月は先に済ます用事があると、黒服を六人連れてエレベーターへと向かう。朝日は梅と黒服四人を連れて二階から順に回ることにする。

「うわー、梅ちゃんここスロットとか、ルーレットに……あっちだとトランプ? あっ、ブラックジャックしてる。なんか映画で見たカジノみたいだね」
「みたいじゃねーよ! 完璧カジノだろ? つか、アウトじゃねーかよ」 
 すると黒服の一人が梅に耳打ちをする。
「大和さん。大丈夫です」
「あん、何がだよ?」
「ここはお客様・・・仕様ですから、甘めの設定です」
「全然大丈夫じゃねえっつーの! つか、健全なもんはねーのかよ?」
「三階は色々なタイプのバーに温泉とマッサージですね」
「完璧におばはん向けの施設じゃねーか!? つか、朝日に酒とか絶対ダメに決まってんだろ」

 実に記憶に新しい。

「四階は特設イベント会場なので人気がありますよ。今日は賭けプロレスが行われる予定ですね」
「おう。五月の母ちゃんが言ってたヤツか……いやいや、今は関係ねーだろ」
 「五階は飲食店関係で、六階にはボーリングやビリヤードにカラオケと色々な遊興施設が揃ってます」
「それ早く言えっての! よし六階に行くぞ。おい、朝――」

 振り向いたと同時にファンファーレの音が鳴り響く。目を離した隙にしっかりスロットをプレイ中の朝日であった。もちろん、ここは地図に乗ってない場所だけあり、非合法でもおとがめ無しなのでご心配なく。

「やったー! 梅ちゃん、これ! ほら”7”が全部揃ったよ」
「何しれっと遊んでんだよっ!?」

 結局、少しの間スロットで遊んだ朝日。本日の所持金が十万円から百五十万円にアップである。
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