男性保護特務警護官~あべこべな異世界は男性が貴重です。美少年の警護任務は婚活です!

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第六章 おいでよ!男性保護省の巻

第六十話 大和梅、見栄を張る

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 ――同時刻の午前七時三十分。
 一方のこちらは男性保護省一階にある正面入り口のホール。朝日たちの出発連絡が五月から入って、あわただしく職員たちが動き始めていた。混乱を避けるため開庁時間は午前九時だが、朝日たちの到着予定は午前八時に設定してある。

 本日、矢地たち役職者は普通のスーツ姿ではなく、正式な場で着用する男性保護省の記章付き制服で身を固めている。警護課を始めとして企画課、広報課、調査課も課長総出での出迎えであり、今回の朝日訪問にかける男性保護省の意気込みが伺える。そして経過すること約三十分……。

「む、遅いな……」

 ロング黒髪を後ろで束ねた、大柄でスタイルの良い美女がそう呟く。キリッとした眉、わずかに下がり目で知的な雰囲気。警護課課長『矢地やち亮子りょうこ』だ。

 彼女が腕時計を確認すると、分針は三分を指し示していた。現在午前八時三分、特に事故や渋滞などの交通トラブルの情報も入っていない。控えめな速度で走ったと考えても、すでに到着していなければおかしい時間であった。もしやトラブルでも? と周りがざわつき始める。

「矢地課長やはり何かあったのでしょうか?」
「いや、トラブル連絡は入っていません(梅の奴一体どうした……ふーむ。梅……!?)……あっ――」
「どうされました?」
「あのバカ……まさか……」


 ――わずかに時間は巻き戻る。

 視点を矢地たちの待つ正面入り口から建物の裏へと移動すること数百メートル。梅が運転する車は男性保護省の職員用・・・駐車場と表示されている場所へと到着していた。

 駐車場に車を停めて、荷物を持った梅と朝日が出てくる。梅は当然スーツ着用にダウンコート姿だが、朝日は私服で冬モノの上着とジーンズにダウンジャケットを、そして外出時に余計な注目を避ける為の帽子をかぶっている。

「よし、行くぜ朝日。あ、そういやパスとか貰ってたっけか?」
「え? うーん……五月さんからもそんなのは貰って……ないかな?」
「そっか、んじゃ窓口がある方から通りゃいいな」 

 今二人が向かっている先、こちらは男性保護省職員関係者の通用門である。その名の通り、職員の出退勤や仕事に関係する業者などが出入りする場所だ。まかり間違っても来賓扱いである朝日が通るべき場所ではない。

「お疲れ様です。あれ? 大和さん今日はどうされました」
 当然、自動のパスゲートを通れる梅が窓口に来れば受付の職員は疑問に思う。
「今日は連れがいんだけどパスがねえんだ。事前申請はしてたはずなんだけどよ」
「お連れ? えーと、Maps関係の業者さんですか? とにかくこちらの書類に必要事項の記入を……あ、帽子は取ってくださいね。それから手荷物は――」

 直後に受付の職員たちは朝日が男性だと気づいて大パニックを起こす。矢地ら課長連中が血相を変えて飛び込んでくる数分前の出来事である。


 ――十五分後、警護課課長室。

「うぐわああああああっ!」
「うぅーめぇーーっ! お前と言う奴はあああああああっ!」
「おいっ、矢地っ、頭を掴んで持ち上げんなっ! くーびっ、首が痛いってーの!」
 アイアンクローで矢地の眼前に梅が吊り上げられている。さもありなん。
「あの……矢地さん。僕は別に……」
「神崎君、甘やかさないでくれたまえ。この脳筋ばかは自分が何をしたか、きっちりと身体にわからせてやらねばならん」
「んだよっ。朝日もいいって言ってんだから――ぬおおっ」

 梅の顔をつかんだ矢地の指先からメキメキと音が響き始める。

「来賓男性に対して公衆の面前で帽子を取るのを強要! さらには個人情報を書類に書かせる! 挙げ句に持ち物検査だあ!? トリプル役満だこの大馬鹿モンがあああああああ!!!」
「ぎゃああああああ! 握力握力っ、だから頭つぶれるっての、首が折れるっての、矢地っ!? おいっ!? ふんぎゃああああああっ!!」

 右手に吊るされピクピクと力なくぶら下がっている梅をソファーに投げ捨てると、矢地は爽やかな笑顔を朝日へと向ける。

「いや、すまないな神崎君。色々と順序が入れ変わってしまった……取り急ぎは滞在中に梅の補佐につくMapsを紹介しておこう」
「おーい梅ちゃん大丈――あっ、はい。えと梅ちゃんの補佐ですか?」
 ソファーでのびている梅が気にはなる朝日だが、矢地の話が始まった為そちらへ気を向ける。
「ああ、この男性保護省内で君の身辺警護……と言うのもおかしな話だが、それでも君を一人にはできん。私も君の案内担当ではあるが、常時近くにいるのは難しい。梅も同様だからフォロー要員と言う訳さ」
「なるほど、わかりました。じゃあよろしくお願いしますね」 
「うむ。よし、餅月入れ」
「はははははいっス!」

 返事と共にクリーニングしたてのスーツに身を包んだ餡子が課長室に入ってくる。ビシッと敬礼をして自己紹介を始めようとするも、朝日の姿を見た途端に目を丸々とさせて固まってしまう。

 その様子に仕方なく矢地がフォローを入れる。

「神崎君紹介しよう、餅月餡子だ。これから三日間、梅の補佐として君と行動を共にすることになる。実はこいつは梅の後輩でな、しかも深夜子の同期で友人でもある。よろしく頼むよ」

 その情報に朝日の表情が一気に明るくなる。やはり深夜子や梅と親しい間柄と聞けば親近感もわく。初対面の挨拶なのだがテンションが上がったらしく、朝日は餡子に駆け寄ってその手を取り嬉しそうに挨拶を始めた。

「うわー、深夜子さんの友達で梅ちゃんの後輩さんなんですね、すごーい! あっ、すみません……僕、神崎朝日って言います。三日間の短い間ですけどよろし……あ、あれ?」
「ん? 餅月……おい。どうした?」
「あれ? 餅月さん? 餅月さん!?」
 完全に目から光が消え無表情で口が半開きのまま微動だにしない餡子であった。
「これは……立ったまま気絶してるな……ん!? も、餅月? おい? い、息が止まってる? こらっ息はしろ、おい餅月!?」
「えええええっ!?」
「んだよ、情けねえな。おら、起きろ餡子!!」

 焦る朝日たちをよそに、復活した梅が軽いノリで餡子の背中に張り手を入れる。

「ぶはあっ!! はひゅぶはぁ、はぁっ……はっ!? あれ? ここは……さっき天使が自分の手を引いて悩みも苦しみも無い世界に連れてってくれるって……」
「「おいこらしっかりしろ!!」」
 辛うじて復帰した餡子だが、矢地にすがりついてぐったりとしている。
「ちょ、ちょちょちょ……いやいやいや……聞いてないっス。いや男っ……いやその美少年……いやそういうレベルじゃ無いっスよ……」

 混乱気味に朝日の感想を述べる餡子を見て、矢地がもの言いたげな視線を梅に向ける。それに梅も視線で答える。
(おい梅! だから言っただろう。せめてもう少し格上の連中からヘルプをつけろと)
(知るかっ! それに朝日相手じゃ誰でも変わりゃしねえよ)
(それも一理ありか……)
((ならば!!))
 どうやら二人の中での意見が一致したようである。

「神崎君。ちょおおおっと協力して貰っていいだろうか?」
「え? あっ、はい」
「朝日、餡子の奴だけどよ。ちょっと驚いただけで本当はお前とすっげえ仲良くしたいってよ」
「ふあぁっ!? あ、あねさん?」
「そうなんだ神崎君。餅月は少し人見知りなだけでな、実は君のことをもっと知りたいそうだ」
「ふああぁっ!? 矢地課長?」

 それから矢地と梅監修の元、コミュニケーションと言う名の朝日に慣れるための対応訓練が突貫で行われた。しばしの間、課長室から餅月餡子の歓喜とも悲鳴とも取れる切ない声が響き渡ることになる。


 ――対応訓練完了後。

「うぐおおお……! 自分には何も思い出せぬっス……。しかし何をやるべきかはわかっているっス。それは朝日さんを護ることっス!」
「よし、ばっちりだな」
「こればっちりなの!?」

 何やら怪しげな進化をしてしまった餡子だが、とりあえずはヘルプ行動は可能なのでセーフ判定になった。ここで、朝日は宿泊するフロア確認の為に矢地と企画課へ向かう。梅と餡子は残って身辺警護の細かいすり合わせとなる。

「よし頼んだぞ梅。三十分程度で戻ってくる」
「じゃ梅ちゃん、餡子ちゃん行ってくるね」
「おうよ」
「行ってらっしゃいっス」

 二人を見送り課長室の扉が閉まった瞬間、餡子が目を輝かせながら梅に飛びついた。

「うおおおおおっ! あねさああああああんっ!! どうなってんスか? ヤバいヤバいッスよ! 超可愛いし、超優しいし。あんな、あんな男の子見たことも聞いたこともないッス。てかあねさん超勝ち組じゃないっスか? あんな子の身辺警護こんかつなんてさすがッス、最高――ぐはぁ」
 梅の拳が餡子の頭を直撃する。
「落ち着けっての、別に騒ぐ程のこっちゃねえよ。俺にとっちゃ朝日の外見とか関係ねえしよ……本当に護ってやりてえと思える可愛い男さ」
「ふおおっ! さすがあねさんっス! 普通の女じゃ言えないセリフっスね! 最高にロックっス!」
「へっ、俺を男のケツばっか追っかけてるヤローどもといっしょにすんじゃねーよ」

 自称硬派で通っている梅らしく、餡子にあれこれ朝日と出会ってからの話をそれっぽく・・・・・する。

「それにMapsでも勘違いしてる奴が多いけどよ。男ってのは、おれの背中に着いてきなって気合いでいりゃ自ずと――」

 聞き上手の餡子についつい梅も饒舌じょうぜつになる。何せ深夜子、五月にリードされてるのは肌で感じているし、自分が奥手なのも自覚している。しかし、たまのこんなシチュエーションで後輩しゃていが目を輝かせている前では、ついつい反動で見栄を張ってしまうのも仕方ない。

「でもあねさん、朝日さんってやっぱあれっスか? もうあねさんに惚れちゃってる感じっスか?」
「あん? へへ、まあやっぱ餡子にもわかっちまう感じか?」
 やぶさかでもないらしい。

 餡子の質問がいいところに入ったようで、ご機嫌も上々に梅の話は加速していく。しばらくは上手く相づちを取りながら話を聞いていた餡子だったが、視線がふと課長室の入口へと向かう。だが、餡子の変化に気づかず梅はべらべらと自分の男性観を語り続けている。

 その餡子は頬を赤らめながら、顔を青ざめさせると言う器用な芸を見せる。それもそのはず、矢地より先に戻ってきた朝日が部屋の入口で、梅の講釈を聞いてましたよと言わんばかりのニコニコ顔で立っているのである。

「今回もよ朝日がどうしても俺とデートしたいって……おっと餡子。こりゃ内緒の話だぜ」 
 そして、自分の話に酔ってしまい全く気付いてない梅の後ろに朝日到着。
「ま、それに朝日の奴は間違いなく俺に惚れてるしな!!」
 言っちゃった。
「へーそうなんだー」
「はひっ!?」

 平坦ながらとても力強い朝日の声が梅の背後から響いた。同時にぶわっと梅の顔中に脂汗が流れでる。

「あ……ああ……あ、ああああ朝日?」

 梅は今までの人生で最高にギクシャクした動きで振り返る。押すなよ、絶対押すなよと言った本人がまさかの自ら押しちゃった展開である。
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