男性保護特務警護官~あべこべな異世界は男性が貴重です。美少年の警護任務は婚活です!

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第六章 おいでよ!男性保護省の巻

第六十一話 昼食時は戦争です

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「ねえねえ、今すっごい面白そうな話をしてなかった?」
「朝日……あの……そ、それはよ……」
「えーと、僕が梅ちゃんに……どうなんだっけ?」

 しどろもどろな梅の顔をのぞきこみ、とても嬉しそうに朝日が質問を投げかける。その表情から伝わってくる聞いてましたよアピールに梅の焦りは加速して行く。

「そそそそうだなーえーとおれなんてったっけかなー」

 聞いている方が恥ずかしくなるレベルに棒読みな梅のごまかし方に、思わず朝日は吹き出しそうになった。しかしここはぐっと堪えて、ちょっとしたイタズラを仕掛ける。

「えー、梅ちゃんひどーい。さっき言ったことを忘れるなんて……もしかして、毎朝あんなに僕の身体を(筋トレや柔軟体操で)好き勝手にもてあそんでるのも忘れちゃってる感じ?」
「言い方ああああ! 何人聞き悪いこと言ってんだよっ!?」
「な、なんだってーーっス!?」
 チラチラと餡子に視線を送りつつ話しただけに、食い付きはバッチリである。
「おいこら餡子!? 勘違いすんじゃねえぞ、筋トレだ! 柔軟体操だ!」
「筋トレ……? 柔軟……? じゅうなん……ハッ!? まさかあねさん、朝日さんの寝起きに――」

『んん……ふああぁ……!? う、梅ちゃんいつの間に僕のベッドに!?』
『よう朝日、お目覚めか? へへへ、今日も柔軟体操・・・・に来てやったぜ』
『もう、ダメだって言ってるでしょ。僕は依頼主で梅ちゃんは警護官なんだよ。こんな不純な関け――あっ……ちょっ!? そ、そこはっ!』
『何言ってんだよ朝日。お前のここ・・はもうこんなに固く・・なっちまってるじゃねえか?』
『やああぁ……ち、違うもん! 朝だからだもん! 僕はそんな――あっ……やっ……ダ、ダメ!』
『うえっへっへっへ、俺がじっくりとここ・・柔軟・・にしてやるぜ』

「――あねさん。今からでも遅くないから自首して欲しいっス」
「何とんでもねえ勘違いしてやがんだーーっ!?」 
 実に柔軟な妄想であった。そんな餡子はさておき、朝日の追撃は続く。
「で、梅ちゃん思い出してくれたー?」
「うぐぐ」

 梅としてはどう考えても大ピンチ、男性を恋人扱いするのがまずい(※第三十七話参照)のは周知の事実だ。『俺に惚れてる』と断言してしまったことを認めて、朝日が『ここに妄想で僕のことを辱しめる変態がいますこの変態!』とでも騒ぎ立てようものなら、解雇どころか社会的に死亡確認されてしまう。

 日頃はあまり使わない梅の頭脳も現在フル回転中だ。

「そ……その……あっ、そうだ! 矢地の野郎は何してやがる? 朝日、ほら、矢地といっしょに出ただろ? そろそろ戻ってくるころじゃねえか」

 人間追い詰められると頑張れるものである。梅にしてはナイスな牽制球であった。ここに矢地がいれば状況は大なり小なり改善するはずだ。朝日もさすがに矢地の前ではそこまで悪ふざけも出来まい。

「あっ、矢地さんは用事が出来たから、先にお昼済ましておいて欲しいって」
「なんだとおおお!?」

 残念! さて、その後朝日が満足するまでからかわれた梅であったが――傍目には、ひたすら二人でイチャコラしているようにしか見えない。一方的にそんな目の毒を見せつけられた餡子は妄想が悪化してしまい。朝日との関係について身の潔白を説明するのに、しばし四苦八苦する梅であった。


 ――そんなこんなで現在、午前十一時四十五分。そろそろお昼にしようかと、三人の次の流れがそれとなく決まる。

「せっかくだから、みんなの使う食堂に行ってみたいな」
 とは朝日の意見。
「食堂か……あー、まだそこまで混んではねえか」

 警護課は体育会系の集まりだ。梅としては、そんな連中で混み合う食堂に朝日を連れて行くのは遠慮したい。しかし、今日は朝日による男性保護省の視察である。当然、建物内に注意喚起は行き渡っているし、行き先は朝日の希望が最優先となる。

あねさん。すぐ行けば大丈夫っスよ」
「そうだな。うっし行くか! 朝日、帽子はちゃんとかぶってろよ」
「はーい。で、梅ちゃん腕を組んで――」
「組まねーっての!」
「じゃあ手を繋いで――」
「歩かねーっての!」
「ちぇー、デートなのにー」

 あの手この手で絡みついて来る朝日をさばきながら、梅たちは食堂の前に到着する。だが予想外に人が多く食券売場にも列が出来ていた。

「うわっ、けっこう人多い……ふふ、でもなんか学食の男子学生のノリみたいでいいなあ」
「ちっ……先発の連中がそこそこいやがるな。これに並んでたらピークにぶつかっちまうぞ」

 休憩は担当不在などの対応のため、午前十一時四十五分から十五分単位でローテーションを組む部署もある。もちろん午後十二時を過ぎてからが混雑のピークだ。

あねさん、朝日さん。ここは自分にお任せっスよ!」
「あん? なんか手あんのか?」
「え? 僕は並ぶのとか平気だよ」
「いやいや、そういう訳には行かないっス」
 そう言うと餡子はインカムを取り出して電源を入れる。
「お疲れ様っス、餅月っス。あの、自分の回線を特務部フロアA回線に接続して欲しいっス」
「なぬっ!? おい餡子、お前フロア放送かけて何するつもりだ?」

 この曙区男性保護省の本庁舎は二十階建てになっており、五階から十一階が特務部のフロアだ。餡子が依頼したのは、五階から十一階の全てフロアに入る館内放送回線に自分のインカムを繋げることである。そして……。

【あーあー、特務部の皆さんお疲れ様っス。えーと、これから本日の視察男性が食堂でお昼ご飯を食べるっス。だからあんまり混んでると困るんで、時間をずらして来て欲しいっス】

 餡子の放送内容を聞いてみるみる梅の顔が青くなっていく。放送を終えたと同時に餡子の後頭部を叩いて怒鳴りつける。

「馬鹿かてめえーーっ!? そんな放送かけたら逆効果に決まってんだろうがっ!」
「ふえっ?」

 これは梅の言う通りだ。基本的に朝日が視察に回らない限り、お目にかかる手段は非常に少ない。ところが”休憩時間”の大義名分が通る場所に噂の美少年が今来てますよ。とアピールすればどうなるだろう? 各フロア騒然に決まっている。

 デスクで弁当などを食べていた者たちは――。
『ああっ手がすべってベントウガー!! これは食堂に向かわねばなるまいッ!』

 食堂のメニューに飽きて昼飯は外食に出ようと思っていた者たちは――。
『あ゛あ゛ー、今日は無性に食堂の定食が食べたくなってキタああああ!!』

 あげく休憩時間が午後一時以降の連中も――。
『すみません。祖母の遺言で今日の休憩は十二時からと決まっておりまして……』
 
 結果、男性保護省の特務部始まって以来の最大人数が同時に食堂へと押し寄せた。朝に続き、再び矢地ら課長連中がすっ飛んでくることになる――。


「仕事を増やすなと言ってるだろうが、この大馬鹿者めええええええ!!」
「うっ、ぎゃあああああーーっス!!」
「あのー矢地さん……その辺で。餡子ちゃんも悪気があってやった訳じゃないし……」

 アイアンクローで餡子を食堂の壁に張り付け状態にしている矢地に、朝日がフォローを入れている。

「ふわああっ天使、天使っス! 朝日さんのその優しさ、自分感ど――ぎゃああああっ! や、矢地課長ギブッス! あ、頭が、頭が壁にめり込みゅううううう」
「はあ……男性の食事時間をこれ以上邪魔する訳にもいかんな……。神崎君、君たちの席はあの奥に取ってあるので、そこでゆっくり食事をしてくれたまえ。食券を買う必要も無いように話は付けてある。好きものを注文して欲しい」
「はい……な、なんかすみません。ありがとうございます」
 
 餡子の頭から手を離して、奥に設置された”あからさまにスペースが取られた”場所へと案内する。床には無断侵入禁止のテープが貼られ、その中心に四人掛けテーブルがポツンと置いてある。

 ――結局、警護課主導で食堂の人員整理が行わなれ、現在の使用が妥当なものたち以外は十三時まで入場不可となった。

「神崎君、このテープ内に入って君にちょっかいをかけるような馬鹿者はいない、とは確認済みだが……もし、そんな不届き者がいたら遠慮なく私に言ってくれ。たっぷりと指導・・する予定だ…………わかってるな貴様らあああっ!!」
「「「「「ひいいいいっ!? りょ、了解であります!」」」」」

 朝日に優しく説明をしてから鬼の形相で振り返り、食堂内の職員たちに睨みを効かせる。それからズカズカと食堂を後にする矢地を見送り、朝日ら三人はやっと落ち着いて食事となった。朝日は本日の和風定食、餡子はカツカレー、梅はカツ丼、ラーメン、カレーのフルコンボである。


 ――昼食終了後は警護課の課長室に一旦戻り、矢地と午後の予定を相談する。

「私は午後に一件緊急の会議が入ってしまってな。何より午前中をほぼ無駄に潰してしまったのが痛い。とりあえず、梅はすぐに書類再提出の作業だ」
「うげっ!? もうそれかよ」
「うるさいっ! 代わりに作業ヘルプを二名つけてやる。三時間以内で終わらせろ」
「おっ、気が利くじゃねーか? 矢地もたまに――ぎゃふっ!」
 調子に乗る梅の脳天に矢地の拳が突き刺さる。
「神崎君の為だ、神崎君の! そもそもお前が原因で午前の時間が減ったんだろうが」
「えーと、矢地さん? 僕はこの後どうすればいいんですか?」
「ああ、すまない。梅の書類作業が終わるまでは、餅月に各課の案内をさせる予定だ。私も会議が終わり次第に合流できると思う。それまで任せたぞ、餅月!」
「自分が朝日さんと二人きりっスか!? ふおおおおっ! が、頑張るっス! 自分、人生で一番頑張るっス!」
「おい餡子。お前は深く考えずに普通にしときゃいいんだよ……まあ少しの間、朝日を頼むぜ」
「じゃあ、餡子ちゃんよろしくね」
「了解っっっス!!」

 やる気まんまん。元気いっぱいで朝日の案内を始める餡子であった。
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