男性保護特務警護官~あべこべな異世界は男性が貴重です。美少年の警護任務は婚活です!

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第七章 温泉旅行は愛と波乱に満ちている

第七十六話 落ち着いて楽しみましょう

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 午後二時三十六分。朝日たちが宿泊している『紫陽花あじさいの間』の大広間にて。

「あぁん? 五月、そりゃどういうこった!?」
「ですから、今回の件について我々はもうノータッチだと言ったのですわ。この宿泊施設は国を中心に多数の大手企業が出資して色々な事情が絡んでますの。桐生建設もその一社。それと問題の二人には会社うえを通じて、しかるべき罰を――」と説明途中で梅が五月の胸ぐらに掴みかかり、唾を飛び散らしながらわめきたてる。
「知るかぁっ! 五月ぃ! そのクソ女どもの泊まってる部屋をすぐ教えろ! 絶対に生かしちゃおけねぇ……バラバラにしてやんぞ! こんちくしょうがぁああああ!!」
「ちょっと! 大和さん、おちっ、落ち着いて!」
 
 万里の介入で朝日の件はひと段落した――はずだった。だが、あれこれと五月の説明を聞いている途中、導火線に火がついてしまった梅が爆発したのだ。”大人の事情”だと説明するが、耳を貸そうともしない。怒り心頭、容疑者ふたりの居場所を教えろとしつこく五月に詰めよる。

 どうやってなだめたものかと悩む朝日に、何やら無表情で無言を貫く深夜子。そんな二人を横に、ガクガクと梅に揺さぶられ続ける五月も我慢の限界。バシッとその手をはねのけ、ビシッと腰に手をあて厳しい表情を向けた。

「大和さんいい加減にしてくださいましっ。これはMaps本部の決定事項でもありますわっ。黙って従いなさいませ!」

 その一言で梅の動きがピタリと止まる。ジトッと暗い視線を五月に向け「そうかよ……わかったよ……」と呟き、ポケットから何かを取りだしてテーブルに投げ捨てた。

「はい? 身分証に……腕章……や、大和さん?」
「これを……これを我慢すんのがMapsだってんなら…………やめたぁ――――っ!!」
 どこかのサラリーマン並のぶち切れっぷりである。
「ちょっ!? やっ、ややや大和さん! ストップ、ストップですわーーーっ!!」
「わああ! 梅ちゃん待って! 僕なら、僕なら大丈夫だからっ!」

 どこから取り出したのか『特攻』の二文字が刺繍された鉢巻を締め、梅は部屋を飛び出そうとする。あわてて五月と朝日が引き止めるが収まらない。

 そこに終始無言を貫いていた深夜子が、ふらりと梅の背後に近よる。ゴキゴキッと右手の指を鳴らすと、人差し指と中指で二本貫手をつくった。

「ぐがあっ!?」
 一瞬にして五ヶ所。深夜子の二本貫手が梅の背中に突き刺さる!
「寝待流格闘術――『楔打くさびうち』」
「深夜子、てめえっ!?」
「これでしばらく動けない。梅ちゃん待機」
 深夜子がいつになく冷ややかに言い放つ。
「んなっ、何しやがった? 身体が……むぎぃ!?」
 梅が動かそうにも身体の自由がきかない。何やら怪しげな技を深夜子にかけられたようだ。

「助かりましたわ深夜子さ――――ひっ!? あ、あの……深夜……子さ、ん?」
 五月がかけよって礼を言おうとするが、深夜子の顔を見た瞬間に固まってしまう。その横をすっと通り抜けると、深夜子は朝日を優しく抱きしめた。
「ごめんね……朝日君。怖かったね、辛かったね。でも大丈夫だから」
「え? ……あの?」
「そんな怖い目に会わせたやつ……許せない。……ふひっ、だけど安心して朝日君。すぐそいつらは『愚かなことをしてすみませんでした。お願いしますから殺してください』って泣いて謝ることになる」
「はいいっ!?」
 口調も内容も色々とヤバ過ぎる。抱きしめられていた朝日は深夜子の肩に手をそえ、身体を押し離して顔を見合わせる。
「深夜子さん、ちょっと何を言って――――ひっ!?」

 目を合わせた瞬間、朝日は息を詰まらせた。深夜子の猛禽類を思わす瞳は光を失い、大きな黒眼にはどんよりと闇が渦巻き、その口元はうっすらとにやけている。はっきり言ってめちゃくちゃ怖い。

「ふひ……梅ちゃんだとすぐ殺しちゃうでしょ? あたしが適任。絶対楽には殺さないから――ふひっ、ふひひひっ」
 これはアカンやつである。
「ちょっと深夜子さーーん!」「落ち着いてくださいませーーっ!」
「おう! じゃあ任せたわ深夜子!」
「「任せたじゃなーーーーい(ですわっ)!!」」

 完全に闇の世界の住人と化してしまった深夜子を五月と共に引き止めながら、この二人が現場に鉢合わせなくて本当に良かったと思う朝日であった――。



「ふにゃあぁぁぁぁ……あさひくんそこおぉぉぉ……」
 打って変わって、今の深夜子は蕩けるような表情でつやっぽい声を出している。

 畳の上でうつ伏せになり、その背中には朝日が乗って肩甲骨から肩へと指圧マッサージ中だ。すでに周辺には骨抜き状態になった五月と梅が恍惚こうこつの表情で転がっている。

 結局、闇堕ち一歩手前の深夜子を引き止めるのに朝日が取った行動は「ずっと僕のそばにいて欲しいな(はぁと)」のハグから始まる愛の囁きとスキンシップ。その効果はシンプルにして絶大、エリクサーも裸足で逃げ出す回復ぶりであった。

 ところがそれを見た梅と五月へ副作用が発生。「あー、やっぱ今からカチコんでくるわー」「気が変わりましたわ。五月雨と桐生……戦争ですの」と非常に分かりやすい反応であり、結果的に全員マッサージフルコースとなったのである。ちなみに深夜子はジャンケンで敗れ三番手となり今に至る。

「ふう! 深夜子さん。これでおしまい」
「んあぁぁぁありがとうぅぅぅぅ」

 そう言ってほぐし終えた背中をパンパンと軽く叩きながら撫でる朝日。しかし、その表情には小悪魔的笑みが浮かんでいる。

 油断している深夜子を確認。その背中から降りると見せかけ「ふうっ、僕疲れちゃった」とおぶさるように抱きついて肩に両手を添えた。

「はひいっ? んにょああああああっ!? あ、ああああああ朝日君!!」

 驚いてビクッと海老反りする深夜子、その首に追い討ちとばかりに朝日の両腕が軽く巻きつく。恐るべき密着感! 背中に全神経が集中する。だんだん朝日の体温が感じられてヤバイ、のみならず、左耳には吐息が感じられて超ヤバイ。
 
「深夜子さん……もう……大丈夫?」
 きゅっと朝日の抱きしめる腕に力が入り、耳元で吐息を吹きかけるように囁かれた。
「あひゃん!? だ、だだい、だいじょぶ? いや、だいじょぶくない? も、もうちょっとそのままで、ふひっ。あ、あしゃひきゅんのあいがないと、み、みやこしゃんはこわいしとに……な、なっちゃうかも……とか、いってみたり、その、ふへへ――――へぶぅっ!?」
「調子に乗ってんじゃねえよ!」「ですわっ!」
 深夜子の頬を挟むように、左右から梅と五月の蹴りが畳を這ったのであった。

 さて、朝日たちの宿泊する『紫陽花あじさいの間』は入口すぐが二十畳の大広間になっている。その大広間を中心に左側は温泉が引いてある大型の風呂場や洗面所など。右側にはふすまで仕切られた十畳ほどの和室が二つある。上から見るとちょうど『ト』の字に襖がある形で、全て外せば四十畳の大部屋になる造りだ。

 ――しばらくして夕食の時間になる。温泉らしく、すでに全員浴衣姿だ。

 朝日は初日の夕食に上げ膳据え膳の部屋食を選んでいた。鍋料理を中心とした海鮮メニューが、仲居たちによって大広間へ次々と運び込まれていく。

 メインの鍋は寒ブリのしゃぶしゃぶ。
 ご飯は特製の鯛めし(おかわり自由)。
 刺身はふぐ刺しと旬の魚の盛り合わせ。
 天ぷらはかぼちゃ、さつまいもなど冬の旬野菜に車海老。
 椀は鯛のあらの赤出汁。
 他は海鮮茶碗蒸しと小鉢に漬物、実に豪勢だ。
 
 もちろん「うおおおっ、ま、じ、か、よ!」「フグタさんキターーー!!」などと、梅と深夜子が大興奮なのはお察しの通り。
 一方、「ふわああああっ!? あ、ああ朝日様、こ、こここれはっ!?」そう驚愕する五月が手に持っているのは、日本でもお馴染みの一升瓶。

 いわゆる日本酒と同じもので、この国では米酒べいしゅと呼ばれている酒だ。

「これっ、これは入手困難の超プレミア品『純米じゅんまい大吟醸だいぎんじょう原酒げんしゅ黒幻くろまぼろし』ではありませんの!?」
「あっ、なんかいいお酒ありますか? って聞いてみたんですけど、やっぱり僕じゃよくわからなくて……オススメだそうですよ。その、こっちにも日本酒があったんだって思って、それにしました。えへへ、五月さん気に入ってくれました?」
「気に入るも何も! 大当たりですわ朝日様! さすが、さすがは朝日様! わたくしのことを想って選んでいただけるなんて……ああ、五月は幸福者しあわせものですわ!」
「あいかわらずの酒飲みだな……お前。でも、いいのかよ?」
 梅が呆れ半分に五月に確認するのは禁酒令(※第三十三話参照)のことだ。
 
「えっ? あ……ま、まあ大和さん。今日は家でなくて出先ですし、少しくらいは……オホホホホ」余程飲みたいのか、苦しい言い訳である。

 そこに朝日が助け船、と言うよりは自分の気持ちを述べる。

「梅ちゃん、今日は特別だよ。それに僕も明日まで部屋で過ごすし、みんながお酒を飲んでも問題ないでしょ。仕事を忘れて、とまでは言わないけど……その、もっと旅行らしく、楽しく過ごして欲しいなと思って」
「そっかよ。ま、ならいいんじゃねぇか? 深夜子はどうよ?」
「無問題。部屋の入口や窓に罠設置トラップ完了。飲んでよし寝てよし」
「ちょっ!? 深夜子さん。入口はまずくない!?」
 お片付けの仲居さん危機一髪。
「でも朝日。お前は飲んだらダメだかんな?」
「え? 僕が? なんで? やだなあ僕未成年だよ。お酒なんて飲むわけないじゃん」
「「「えっ? ……あっ、はい」」」

 ここで過去二回の惨劇を朝日が覚えていないと言う、まさかの事実が発覚しちゃったのであった。
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