男性保護特務警護官~あべこべな異世界は男性が貴重です。美少年の警護任務は婚活です!

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第七章 温泉旅行は愛と波乱に満ちている

第七十七話 止まらない思い

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 ――あわただしい初日も終わり、全員が寝静まった深夜二十四時を過ぎた頃。 

 大広間で寝ていた深夜子が、布団からもそりと出てきて「むう……暑い……」とこぼしながら眠気眼ねむけまなこをこすっている。

 季節は冬だが、室内は暖房がよく効いており少し暑い。日頃あまり酒は飲まない深夜子であったが、今回朝日のお酌に加えてプレミアム大吟醸の恐ろしく良い飲み口が災いした。

 果実酒を思わすほのかな吟醸香ぎんじょうこう、辛口ながら水晶を液体にしたかのようなまろやかな口当たり、そして最後に残る良質な米の甘味。思わず痛飲つういんしてしまう。

 就寝時の部屋割りは、五月と梅が入り口近くの和室、朝日が奥側の和室、深夜子は入り口の警戒役も込みで大広間――だったのだが、真っ先に撃沈して気がつけば布団の中であった。これは不覚。

 ちなみに五月は一升瓶をおかわり、梅はビールの大瓶を十本以上空けていた。どうかしている。そんな状況を思い出しつつ、深夜子は自分の体調を確認をする。人より肝臓の働きが良いのか、酔いは抜け始めていた。

 すんすんと身体を匂うと、アルコールを分解した分だけ汗の臭いも気になる。そんな深夜子の目に、ふと風呂場への扉が映った。大広間は風呂場へ直結だ。そう言えば食後に撃沈したので風呂に入っていない。せっかくの温泉、ひと風呂浴びてから寝直そうと考えた。

 電気はつけずに部屋のカーテンを静かにあける。今宵こよいはちょうど満月、月明かりで十分な光を確保できた。何よりも渓谷から海まで見渡せる景色がとても目に心地よい。

 どうせみんな寝ていると、その場でバサリと浴衣、そしてTシャツを脱ぎ捨てる。深夜子の控えめながら形の良いふたつの膨らみ、ツンとした優しい尖端を月の光がうす紅色に照らす。

 つややかなセミロングストレートの黒髪を軽くまとめ、べっこう柄のバンスクリップで止める。うなじから引き締まった腰まで、筋肉質だがしなやかなできめ細かな肌の曲線がなまめかしく月光を反射する。

 ショーツ一枚の姿で軽く伸びをすると、深夜子はご機嫌で風呂場へと向かった――。


 せっかく風景なので、窓のブラインドも全開にして広々としたひのき造りの湯船に浸かる。ライトはあえてつけずに月明かりのみで幻想的な景色を楽しんでいた。嫌な汗もさっぱりと流れ、酔いが抜け頭も冴えてくる。

 身体が温まったところで湯船から上がり、その上段にある温泉が流れ込む石畳へと腰をかける。天窓から月を見上げ、物思いにふけっていると、ある出来事が深夜子の脳裏に再生された。

『あれ? ねえ、深夜子さん。なんか鼻にゴミついてるよ?』
『うえ? ゴミ? むう! こんな時に! んー、とっ、取れたかな?』
『取れてないかも? うん。じゃあ僕が取ってあげるよ。こっち向いて』
『そ、そう? はい』
 ――――そして重なった愛しい朝日の柔らかい唇。

「むへっ、ふへっ、うへへへ」
 何度思い返しても色せない心地よい感覚。だんだんと深夜子の思考は妄想へと加速して行く。
(むふふ、もしかしたら風呂場のドアが開いて――)

『深夜子さん来ちゃった』
『なっ!? あ、朝日君。ど、どうしてここに? そ、それにバスタオル一枚とかやった――ダメ、はしたない』
『えへへ、いいの! 今日は深夜子さんの背中を流してあげようと思って』
『せ、背中? ほんと? う、うん、ありがと。お願い……するね』

(最初は普通に背中を洗ってくれる朝日君。だけど……だんだん手が前の方に――)

『ちょっ!? ちょっと朝日君!? 前はっ、前は自分でするから!』
『だーめ。僕がちゃんと洗ってあげるから』
『いや、で、でも――うひゃっ!』
『ん? どしたの深夜子さん?』
『や……その、そこは……それに……洗うじゃなくて、朝日く――あっ……』

(そう……言って、あ、さひ君の手が優しく……あたしの、んっ……はっ、……それから人差し指で……あっ、ふぁ――)

『ダメ……朝日君』
『えーと。あっ、そうだ! 下も洗わないとね!』
『し、下? 下ぁっ!? そ、そそそそれはダメ! 危険がデンジャラス!』
『あはは、何言ってるのもう! 深夜子さんったら。脚だよ、脚を洗うの。すぐに変な想像しちゃうんだから。深夜子さんのエッチ』
『ふえ? 脚? そっか、脚だよね。そうだよね。脚なら仕方ない、うん。あは、あははははは……』

(そう言い……ながらも……朝日君の手は、あたしの……あ、しでな……くて……ふあっ! んっ……して……は……あぁ……んふっ……あ、さ……指が……あんっ……あたしの――)

「ダメ……んっ……あさ、ひ、くん……あさひ、くん……すき、朝日君好きっ! ああっ!」
 いつの間にか深夜子の肩に置かれていた左手、太腿に置かれていた右手は場所を変え、妄想している朝日の代役を務めていた。

 しばしの間、温泉の流れる音に混じり深夜子の切なくなまめかしい声が響くのであった――。


「や、やってしまった……朝日君をけがしてしまった……」
 風呂から上がり、軽く浴衣を羽織りつつそんなことをぼやいている。どうやらその後の妄想で攻守逆転展開があったようである。

 言葉の割にはやたらスッキリ、成し遂げたぜ! と言わんばかりの清々しい表情の深夜子。鼻歌混じりで帯を乱雑に浴衣に巻いて結び、軽い足取りで布団へと向かった。

「ふんふん。そだ……あたしの布団の中に朝日君がいて『深夜子さん待ってた』とかもいい……むふふ」

 風呂場でしっかり発散したはずなのだが、まだまだ妄想の勢いは止まらない。引き続き布団の中で続きを楽しむ気満々、そのテンションと同様に深夜子がバサリと勢いよく掛け布団をめくった。

「ふえっ!?」

 瞬間。
 目を見開いて完全に固まる深夜子。その目に飛び込んで来たのは、自分の布団ですやすやと寝息を立てている朝日の姿であった。

 ――果たしてこれは妄想か現実か!?

 眼前の光景に深夜子の思考は完全に停止した。そして――三分が経過。

(――――ふおわあああああああ)ガツン! (ん゛お゛お゛っ―――――――)ヅゴン! (ふんぐぐぐぐぐぐぐぐ――――――)
 本能か、直感か、深夜子は声を殺して耐え忍んだ。例え動揺して足の小指を机の脚にぶつけ、悶絶して転がった先にあった柱の角で後頭部を打ち付けようともだ。

 五月と梅を起こす行為をしてはいけない。草影から獲物を狙う猛獣がそうするように、今は決して音を立てる・・・・・・・・時ではない・・・・・のだ。

 ――そこから回復までわずか三十秒。気合いが違いますよ。

 猛禽類のような目を輝かせ、しゃかしゃかと手足で地を這う魔物が――いや、深夜子が布団の前まで戻ってくる。

(んななななななな!? あ、朝日君!?)

 布団の上をまじまじと見つめる。そこにはすやすやと眠る朝日の圧倒的存在感。酔っているだとか、妄想の続きだとか、そんなチャチなものには断じて見えない!

 深夜子は考える。どうして朝日が自分の布団で眠っているのか? 実は夢を見ているのか? それとも朝日を愛するあまりに具現化系の能力に目覚めてしまったのか?

 思案しつつ何気に部屋の右手を見ると、朝日の寝ていた和室のふすまが少し開いている。左手を見ると風呂場横にあるトイレの扉から光が漏れている。

 ………………。

 そんな些細なことはどうでも良い。

(うん。よし!)
 深夜子の中でこれからどうするかが決定した。まずは腰の帯をするりと外し、流れるように浴衣を脱ぎ捨てる。ついでにショーツも宙に舞う。

(これは朝日君が本物か調べざるを得ない)
 色々あるが、特に全裸になる必要性を深く問いたい。

 もちろん、ここでの正解は決まっている。トイレ帰りに寝ぼけて深夜子の布団にもぐり込んだ朝日を、王子様だっこ(※お姫様だっこ)して『やれやれだぜ』とボヤキながら布団まで運んでクールに去る。まさに淑女のかがみ

 しかし、深夜子はつい先ほどまで朝日と愛を育んでいた、妄想の中で。

 ゆえに限りなく理性は飛んでおり、自身でも歯止めが効かない。あるのは朝日に対する狂おしくもいとしい感情のみ。吸い寄せられように顔を近づける。

 月明かりに照らされる可愛い寝顔。考えれば深夜子は、間近でじっくりと朝日の顔をながめるのは初めてだと思った。髪の毛の生え際、眉毛、まつ毛、鼻の形、唇の形、耳の形、しっかりと記憶に刻む。首筋から鎖骨、寝崩れてあらわになっている左肩。ああ、全てが愛らしい。

(触れる……かな)
 言い訳をつぶやき、そっと右手で朝日の頬に触れ、撫でる。柔らかでとても心地よい。ゆっくりと、下へ、下へとたどって右肩の浴衣に手がかかった。一呼吸置いて、それをずらす。いつの間にか深夜子の左手も左側で同じ動きを取っていた。

 深夜子の眼前に朝日の上半身がさらけ出された。

 月明かりとは言え、いや、月明かりだからこそ・・・・・肉感的に照らし出される。深夜子の猛禽類のような瞳に映るのは引き締まった胸板、自分の物とは比較にならない慎ましやかで可愛らしい桜色の突起。

 あまりにも情欲的な視覚情報に網膜が、視神経が、そしてわずかに残った理性が焼き切れそうになる。同時に、まるでもう一人の自分がいるかのように脳内に警告が響き渡った。

 ――Mapsの職務規定に抵触どころではない。明らかな性犯罪行為。今、深夜子じぶんは朝日をレイプしようとしている!

 止まらなければ、止まるんじゃねぇぞ、いや止めなければ、頭の中に不協和音がこだまする。このまま突き進めば間違いなく取り返しがつかない事になる。朝日の浴衣をもとに戻すのだ。脳から必死にその指令を身体へと送った。つもりだった――。

 しかし、気がつけば、深夜子の唇は朝日の唇に重なっていた。
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