女装メイドは奪われる

aki

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1巻 1章 クリス

第五話 【性描写アリ】

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 エラルドとの契約内容、また彼の人となりの確認が終わると、クリスはミルクに彼を出口まで案内させた。退室を見届けた後、ギルドから提出された書類を整え書棚に戻す。ひと段落つき、クリスはホッとした。
 良かった。変な人じゃないみたい。ちょっと期間が長くて特殊な依頼だけど、エラルドなら大丈夫そう。イケメンだからあの子も喜ぶかな?
 ひとまず一年間、週に一度か二度、剣士としての動きをメロディアに教えてもらうこととなっている。それから二年目も契約するかはお互いの状況によって話し合うという形の、単年契約だ。一年という長丁場。それも愛しいメロディアの教育のためのものだ。慎重にもなるのは当然だった。
 契約の中にある週に一度か二度というのは、ハンターとしての仕事を優先してもらうためだ。ハンターは長期の仕事が入る場合もあるため、こうした柔軟性のある契約内容にならざるを得なかった。とはいえ、それはメロディアにあまり危険なことをさせたくないクリスにとってはデメリットではなくメリットだと思えたために、クリス個人としては非常に都合が良い。
 大筋が決まったので、次はメロディアの母への報告である。クリスを取り巻く様々な環境から、正直に言えば少し居心地の悪い時間だけれど、実際のところそれはお互いさまだ。きっといつものように生返事で「クリスに任せます」と手短に言うのだろうと、毎度の姿をクリスは思い浮かべた。
 気が重い……。
 深呼吸して、部屋を出た。
 廊下を西日が差していた。ガラス窓から入ってくる日光がお屋敷全体を暖めているようで、冷たくなってきた空気とは対照的に床はポカポカとしている。ボーっと、窓の外を眺めると、小鳥が窓の手すりに止まった。
 小鳥は小さく鳴きながら、しきりに首を動かしている。
 パンくずでもあれば食べさせてあげたんだけど、ごめんね。
 感傷に浸っていると、不意に、低い声が背後から届いた。

「クリス? どうしたんだい?」
「御屋形様。小鳥がいたので、ゆっくりとしていたのです」
「ふむ。確かに綺麗な音色だね。でも私が一番好きな音色はクリスの声なんだよ」

 振り向くと、案の定、見慣れた男が立っていた。さりげなく腰に手を回される。密着。馬の臭いと、干し草の香りがした。

「馬でお帰りに?」
「ん? ああ。しまったな。いや、馬の取引についての面談だったんだよ。そのときに実物を見てね。すまない、嫌な匂いがしたかな。香水はどこに入れたっけな」
「こちらを」

 素早くポケットから侯爵がいつも使っている香水を取り出した。
 男は「ありがとう」と優雅な手つきで渡されたそれを使い、「助かったよ」とクリスが手に持ちやすい位置に調整して返す。器用にもその間もクリスからは離れない。腰と腰をピタリと付けている。スカート越しに筋肉質な太ももの感触がハッキリと知覚できるほどだ。
 
「おっと。香水がクリスにも移るかな?」
「大丈夫です。私のものも用意していますから」
「クリスは私のことを最もよくわかってるな」

 そんなことはありません。そう訂正しようとするも、その前に、あまりにも当たり前のように口づけをされそうになる。が、両手で男の胸を押して否定した。

「クリス?」
「いけません。誰かが見ていたら……」

 見られていたから、恋物語が生まれた可能性がある。誰かが噂をし、それに尾ひれが付いて話が大きくなり、スキャンダルも同然の本が生まれたのではないかという推測だ。といっても、おそらく本の内容よりも現実の方が過激なことをしているし、事実の方がより複雑な状況となっていることも考えられるけれど。
 しかし侯爵は意に介さない。「関係ないさ。だいたい、そうだとわかるように私は常に行動しているつもりだがね?」と、再度キスをしようと肩を抱き寄せ、顔を近づけてきた。

「いけません、御屋形様」
「クリス?」

 もう一度、押し返す。
 こうしたことがあるから、屋敷での立ち位置が微妙になる。危うくなる。複雑になる。むずかしい選択を迫られる。
 首を振ると、しかしながら訝し気に名前を呼ばれた。

「クリス」

 今度は底冷えのする声だった。

「そのブローチはなんだい?」

 形相。
 突然の攻撃に脚が震え出してしまう。

「あの、これはっ――」
「私の知らないブローチだ。私の知らないブローチだな。そうだ。私が贈ったものではない。クリスが最近買った? いいや、そもそもそれはクリスの好みとは少し外れている」

 侯爵の表情が。
 腰に置かれた手が。
 ――怖い。

「男か。男だな」
「これは先ほど!」
「脱ぎなさい」
「えっ!?」
「服を脱ぎなさい」

 驚愕。
 目が、本気だった。

「違っ、違うんです!」
「違う? 脱がないのか?」
「脱ぎますっ! 脱ぎますからっ!」

 必死に。
 懇願する。

「ですがせめて! せめてここでだけは!」
「私もいたずらにクリスの肌を人に見せたくはない。付いてきなさい」

 引かれる手。
 気付けば木製のドアが。
 先ほどエラルドたちといた部屋だ。
 入ると、後ろ手にカギをかけられた。
 
「ブローチを」
「は、はいっ」

 ピンが。
 外れないッ!?

「どうした? 付けていたいのか?」
「そんなことはっ」
「ならいいな」

 突如。
 ブローチを掴まれ、無理やり引き千切られた。そのまま乱暴に投げ捨てられる。
 動じずに、受け入れた。
 けれども耐えていた何かが壊れた音がした。全ての自由が奪われているような感覚に陥る。自尊心の限界が、きていた。

「イイ子だ。お前は誰のものだ?」
「御屋形様のものです」
「そうだ、その通りだ。なら今から何をすればよいのかわかるな?」
「はい……」

 そしてクリスは服に手を伸ばし。
 服ではなく、スカートに隠れた下着を降ろすのだった。

「上出来だ。さすがクリスだ。私のことを一番よく理解している」

 侯爵は笑う。

「脱がせなさい」
「はい」

 丁寧にシャツのボタンを外す。粛々と、上半身を裸にしていく。ひざまずき、ベルトを外してスラックスを下げる。
 跳ね上がった。
 ペニス。
 全裸にすると、大きく、血管が波打っているのが目に入った。

「この部屋であのハンターの面談をしていたのだろう? その男がいた場所でと思っていたが……、その反応を見るに問題なさそうだな」
「私は御屋形様の」
「あぁ! それは良くない、その目は良くないぞ、クリス。私の嫌いな目だ」

 無気力。
 何も考えられない。
 私に自由はないのだと将来を閉ざす。言われるがままに、命令されるままに。
 しかしながら。男は慌てた様子でしゃがみ込み、悲しそうに視線を合わせてくれた。打って変わって、とてもやさしく、愛に満ちた瞳だった。

「違うんだ。すまない。違うんだよ。これは嫉妬なんだ。無力な一人の男の、醜い嫉妬なんだ。誤解をしていた。すまない」

 抱きしめられた。
 体温が感じられた。
 瞳を向けた。

「愛してるよ、クリス。俺にはクリスが必要なんだ」
「……あっ……、御屋形、さま」

 身体を離される。
 さみしい。
 あんなに怖かったのに。
 男は首を振る。

「今だけはフォルテルと呼んで欲しい」
「フォルテル、さま」

 下がる眉尻。
 あの子と一緒だ。

「……フォルテル」
「ありがとう、クリス」

 唇が、重なった。

「いい顔だ、クリス。素敵な顔だ。すごく色っぽいよ」
「そんなこと」
「俺にとってはそうなんだ。わかってくれるかい?」

 不安そうだった。
 あれだけいつもは自信にあふれているのに。
 本当に私は必要とされているのかもしれない。
 考えてしまうと、頷かざるを得なかった。

「ありがとう。クリス、愛しているよ」
「フォルテル……」
「うん。さぁ、窓際に行こうか」
「うん?」
「良かった。潤滑剤は補充してあるかい?」
「え、えぇ」
「それなら問題ないね」

 笑顔で立ち上がり、さっさと潤滑剤を書棚から探る侯爵。その後ろ姿に呆気に取られていると、「あった、あった」と嬉しそうな声を出した後、怪訝そうに彼は続けた。

「どうしたんだい?」
「え……? 窓際って」
「そうだよ。この時間だから、そこからならメロディアが見えるだろう? それにメロディアからもコチラがわかる」
「は、はい」
「あとはわかるね? 俺は裸なんだ。クリスが行ってくれないと」
「それはわかりますけど」
「つまりね、クリスはメロディアを見ながら、俺とセックスするんだよ」
「っ! でもまだ明るいっ」
「そうだね。見られるかもしれないね」

 見られる。見られてしまうかもしれない。御屋形様と、メロディアのお父様とシている姿を。昼間から。中庭からもお互いがきちんと見える、この場所で。
 クリスは躰が火照ってくるのを感じた。顔が。胸が。下半身が。熱くなる。

「クリスはいやらしいなぁ」
「それはっ、フォルテルがっ」
「そうだね。だから責任をとって、一緒に窓際まで行こうか?」

 未だ座り込んでいるクリスに差し出される手。
 この手を、取ってしまえば、私は。
 ごくり、と喉が鳴った。
 
「大丈夫さ。クリスはメイド服を着ている。そうだろう?」
「そう……、ですね」

 手を。
 取ってしまった。
 立ち上がる。足がふわふわとしていた。
 デスクの横。そこにある、大きな窓。庭師によって整えられた中庭の素晴らしさがよくわかる、クリスのお気に入りの場所。
 この時間だと中庭に……。
 いた。窓からのぞくと、メロディアとアマンダが散歩をしているのが確認できた。
 私は今から、ここで、立ったままされる。
 下半身が熱くなった。
 どうしてだろう。
 じわりと濡れてくる。
 こんなに恐ろしいのに。
 蜜が出てくるのが認識できる。
 こんなに足が震えているのに。
 胸が、高鳴っている。
 どうして? いつから私はこんなに。
 振り返った。

「挿れるよ」

 外を確認する。メロディアが近くを歩いていた。メイドのアマンダと共に
 メロディアに見られたら?
 アマンダに見られたら?
 息が、荒くなる。
 激しくなる。
 濡れてくる。
 スカートをたくし上げられた。
 胸の鼓動が聞こえる。
 腰に手を当てられた。
 
「ンぅんっ、んッ」

 入った。
 にゅるりと。
 ゆっくり、肉壁をかき分けてくる。
 セックスだ。メロディアがいるのに! アマンダがいるのに!
 無邪気に笑っている表情がわかる! 何かを言っているのがわかる!
 こんなに近いのに! こんなに明るいのに!
 今度はじわじわと抜かれる。そして、突かれた。

「ぁぁっ!」
 
 ダメ! 声を出しちゃダメだ!
 さらに動き出す。ピストン運動。肉壁を刺激されるたびに喘ぎ声が漏れてしまう。

「ぁっ、んっ、ぁっ!」

 いけない! きっと聞こえる! 薄いガラス窓の外の、「ぁぁっ、ぁっ!」メロディアに!  アマンダに! だってあんなにも近「んッ、ぁンッ!」い! ダメ! 見られちゃう! 聞かれたら見「はぁンっ、ぁっ!」られちゃう! 近い! メロディア! 

「これは……、すごいな。それに自分からも腰を振ってるぞ、クリス」

 何も言わないで! お願い! 聞かれたら! 見られちゃう! ほら、こっち見「ぁっ、ぁっ! ぁっ!」そう! 歩いてきた! こっちに!「はァっン! ぁッ!」 近づいて! 来た! 勝手に「ぁぁあっ!」動く! 腰が! 気持ちいいッ! フォルテル! フォルテル! フォルテル!!
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