おんなのこ

桃青

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4.マリア、爆食い

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「お会計は、二千七百五十円になります」
 レジの店員さんにそう告げられて、マリアは思わずニッと笑った。回転ずしで、二千七百五十円も使うという、この贅沢。
 財布を確認すると、まだ五千年札が残っている。店を出て、無表情で駅までの道を歩き始め、駅に着くと、さっさと電車に乗り、〇△駅で降りる。〇△駅から出ている無料の送迎バスに乗り、ショッピングモールまで送ってもらうと、マリアはすたこらと店内へ入っていった。
(フライング・タイガーは無視で! )
(GUも入ってはダメ! 何か買ってしまうわ! )
(何とかお金を残して、三百円ショップまで、辿り着かなければ……)
(シャトレーゼとコメダのために、お金は少なくとも二千五百円残す必要があるの! )
(泣いてはダメ、戦えっ! )
 もはや心はアニメの主人公のごとく、ファイティングスピリットになっている。心身ボロボロになって、どうにか巨大三百円ショップに辿り着くと、マリアは荒い息を吐きつつ、不敵な笑みを浮かべ、心でひとりごちた。
(ついに来てやったわよ、三百円ショップ)
 バサついた髪を手櫛で整えてから、店内に入っていけば、すぐタキシードサムのトイレットペーパーホルダーに目が留まる。
(これは可愛い。つくりは雑だけど、買いね。私の独断で、家のトイレのペーパーホルダーを、これに変えるわ。だってその方が可愛いもの)
 次に気付いた商品は、ハンドソープのポンプボトルだ。ピンクやラベンダーなどの色をしていて、この色づかいとデザインは、ちょっと百円ショップでは買えない。
(私はキキララを買うわ。ラベンダー色が素敵で、キキララと言えば、愛と平和の使者よ……、多分。そのパワーで、ウィルスを鎮めてくれそう)
 じっくり時間をかけて商品を眺めたが、それ以上欲しいものもない。お会計を済ませると、さらにショッピングモールを当て所なくウロウロして、腕時計を眺めた。
(今、午後三時か……。シャトレーゼとコメダに寄れば、大体五時過ぎになると思う)
(ここでアイスでも食べて、のんびりしたら、用事を済ませた後、ナツに会いに行こうかしら)
(一つ、ホストとの関係をぶった切ったわけだし、何だか寂しくなってしまったわ)
(お金の関係上、今日ホストクラブに行くのは、無理だし)
(その点、ナツはお手頃な存在)
(私って、寂しい人かしら……。不幸せな人生を送っているかしら)
(ナツに何か、ささやかなプレゼントを持っていこう。それで私のわがままな訪問をごまかそう)
(私ってずるいかしら、ナツを利用しているかしら?)
(ええ、薄っすらと理解しているわ。私ってホントろくでなし)
 思考をそこまで辿ってから、微かに笑うと、フードコートへと足を向けた。目的はサーティワンのアイスクリームのダブル。マリアのくだらないプライドで、シングルではなくダブルにしてしまうけれど、そのせいでまた、不健康への階段を一つ上がっている。きっと明日の体重は確実に、三百グラム増えているはずだ。
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