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4.ママ
しおりを挟む夜が明けて次の日になった。私はぱっちりと目を開いて起床し、時計を見た。時刻は朝の五時。休日は今日までだ。小さな自分の部屋の窓を見つめると、カーテン越しに明かりが漏れている。穏やかな朝だ……。台所からは、水の流れる音が聞こえ……。
そこで私の頭の中に疑問符が浮かんだ。誰が、台所で水を使っているのだろう。
それから急に怖くなった。まさか、泥棒でも入ったのではないでしょうね。私は恐る恐るドアに近づき、少しずつ開けつつ、その隙間からキッチンを覗いた。
台所に誰かがいて、慣れた様子で料理をしている。フライパンからは湯気が立ち上り、じゅーっと、小気味好い音が辺りに響いていた……。
私はガラッとドアを開け、台所まで一直線に歩いていって、叫んだ。
「お母さんっ!」
母は料理する手を少しの間止めて、私を見てから、にっこりと笑った。
「おはよう、道子」
呑気な人である。私は混乱でどもりつつ言った。
「あ、ど、かっ、母さん、確か死んだはずじゃ……」
「そう、死んでいたのよ、昨日まで」
「なん、何で生きている……ああああ、お父さんっ!」
私はそう叫ぶと、父の部屋まで猛突進していき、ガラッと扉を開けて、大声で言った。
「起きて、お父さん!」
「ん……。何だ、道子。おはよう」
父はゆっくりと半身を起して言う。
「おはよう、じゃなくて、お、お、お母さんが、生きてる!」
「……。そうか」
「あ、あ、あああ、もしかして、寿命を売ったの、あのハトに?」
「うん。少しだけ」
「何年? 何年売ったの? 自分の命を」
「うんと、五年ばかり」
「五年も!」
すると背後に気配を感じ、はっと振り返ると、そこには母がいて、彼女は笑顔で言った。
「朝食、できてるわよ」
父は思わず目を細め、母を見つめて、しんみりと言った。
「母さん。生き返ったんだなあ」
「ええ、少しの間だけど」
母は軽やかに答える。私は頭が痛くなってきて、再びリビングに戻って、テーブルを眺めた。白いご飯に味噌汁、ハムエッグにみかんが並んでいて……。間違いない、この献立は母の定番だ。母は、信じ難いことだが、この世に存在している。有り得ない、と思う。でもこれは現実だった。そうなのだ、と自分に言い聞かせる。母の声が聞こえた。
「お父さん、冷めないうちに朝ご飯を食べましょうよ」
「よし、そうしよう」
何なのだろう、家の両親は。父は死んだものを再び生き返らせて、何がしたいのだろう。私は昔からの定位置の椅子に腰を落ち着け、頭を抱えつつ料理を眺めた。目玉焼きが焦げているのも母らしかった。私の困惑をよそに、父も母もテーブルについて、いそいそと料理に手を伸ばしている。私は食欲がなくなって、そんな二人……、特に母をじとじと眺めていると、母はふと私を見て言った。
「どうしたの、道子」
「……お母さんは、自分が死んだときのことを覚えているの?」
「そうねえ、とにかく苦しかったわ。苦しんで、ががががって必死にあがいていたら、死んじゃったみたいなの」
「イカを、刺身のイカを、喉に詰まらせたの。それで窒息死しちゃったんだって」
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