千年の扉

桃青

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 そしてピザが到着すると、それから若者らしいパーティーの幕が開けた。
 稔は何処かからロウソクを持ってきて、お誕生日らしくそれを吹き消す、というパフォーマンスをした。友は大声で今流行りのお気に入りの歌を熱唱して、稔の誕生日プレゼントの代わりにと、その歌を捧げ、敬一は何故か最近学校で本当にあったという怪談を、皆に披露して楽しませた。遥は楽しげにそんな皆の様子を見守っていた。

「いけない、もうこんな時間になっちゃっている!・・・私、そろそろ帰る。」
 宴もたけなわといった時に、友は時計を見て突然そう叫んだ。すると敬一が友の後に続いて言った。
「それじゃあ俺が、友を送っていくよ。どうせ帰る方向も一緒だしさ。」
「そうか。・・・じゃあ俺は後で遥さんを、駅まで送っていくよ。また明日な。」
「うん、またね。今日は楽しかった!」
「じゃあ明日な、稔。」
 そう言って、友と敬一の幼馴染コンビは帰り支度を済ませ、そそくさと稔に別れを告げて、彼の家を後にしていった。そして部屋の中には何となく、稔と遥の2人が取り残されていた。
 遥は宴の後の部屋の様子を眺めながら、ふと呟くようにこんな事を言った。
「・・・でもね、稔さん。
 私はファンタジーで働いていると、大切な何かを見失っているような気がするの。それはまるでどんどん自分を見失っていくかのようで、・・・本当は少し怖いの。」
「そうだな。
僕は大江さんの事は嫌いじゃないけれど、あの人達が追い求めているものは結局、大人の自分勝手な都合だよな。
 ―僕も他にもっと大切なものが、ある気がしているよ。」
 そして稔と遥はふと、何かが通じ合ったかのようにお互いを見つめ合った。

 彼らの間には何か、通い合うものがあった。
そう、確かにそれを、今2人は感じ合っていた。
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