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第二王子とヒロインの出会い。
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「そう、あれはまだ春のことだった」
自分とヒロインであるユミィがいかに運命的に出会ったかということを、第二王子は陶酔した様子で語りだした。
付き合わされている側近は、内心でため息をついた。
あの婚約破棄未遂パーティーのあと離宮に軟禁状態だというのに、この王子はまだ懲りていないようだ。
噂では、アリシアとユミィは最近いつも一緒に行動しているとの事だった。
おそらく、二人とも第二王子を見限ったのだろう。
いまだ婚約継続中のアリシアの父親からは、王家に対して婚約解消の申し出が再三なされているらしい。
あの日以来、第二王子の側近である自分を含めて、王家に関わる人間の多くが貴族平民問わず前世の記憶を取り戻した。
そう、皆分かっているのだ。
婚約破棄をした場合、第二王子だけではなく、下手をしたら国ごと滅びるという事を。
だって、そういうものなのだから。
分かっていないのは、婚約破棄を目論んだ当の本人だけなのだ。
「学園の廊下で、私はユミィとぶつかってしまった」
ようやく、出会いの場面が始まったようだ。
以下、第二王子の証言による2人の出会いのシーンである。
「すまない。怪我はないか?」
第二王子は、ぺたんと座り込む女生徒に手を差し出した。
ピンクブロンドのふんわりとした髪の女生徒は、愛らしい笑みを浮かべて第二王子を見上げた。
「あらま、どでんしたごと」
一応、王族として他国の言葉も勉強していたが、ユミィの発した言語は聞いた事のないものであった。
「……すまない。それは異国の言葉だろうか」
「あ、ごめんなさい! 大丈夫です」
女生徒は自力で立ち上がると、ぺこりと頭を下げた。
仕草からして、貴族ではなく平民のようだ。
女生徒はユミィと名乗った。
会うたびに、話すたびに、第二王子は彼女に惹かれていった。
「殿下、あまりお元気がないようですけど?」
学園の中庭で一緒に昼食を取っている時、ユミィが心配そうに首を傾げた。
ピンクブロンドの髪が揺れ、彼女の可愛らしさをいっそう引き立てた。
「いや、色々あってね……」
ふっと悲哀を帯びた笑みを浮かべてみせると、ユミィは自分で作ったというお弁当を差し出してきた。
「食べたら元気になりますよ、きっと」
「ユミィ……」
おかずを刺したフォークを、第二王子の口元に運ぶ。
「ほら、け」
「……け?」
またもや、ユミィが謎の言語を発する。
「けねのが? うめど」
もはや何を言っているのかは分からなかったが、第二王子はユミィの差し出したおかずを口にした。
独特の匂いで、噛むとぽりぽりと小気味よい音をたてる。
一度も食べた事のないはずのそのおかずは、ひどく懐かしい味がした。
「ユミィといると、本当に心が安らぐのだ。ああ、愛されていると感じる事が出来る」
おそらく、だいぶ自分に都合よく脚色されているだろう話を語り終えると、第二王子はうっとりとした様子で呟いた。
「ユミィ、待っていておくれ。必ず、二人で幸せになろう」
側近はまたしても、内心でため息をついた。
(多分、待っていないと思いますよ)
一度として、ユミィが第二王子の様子を聞きにきた、という話を側近は知らない。
多分、というか、確実に来ていない。
だが、第二王子の気持ちは分からなくもない。
ユミィの話を聞くと、何故か田舎のばあちゃんの事を思い出す。
田舎のばあちゃんの家は、確かに居心地がよかった。
流れる時間さえ違ったような気がしていた。
それに、たいていのばあちゃんはどんな不出来な孫でも溺愛してくれる。
というより、むしろ不出来な孫を気にかけてくれるものなのだから。
「その時、ユミィは……」
延々と続く第二王子の話は右から左へと聞き流し、側近は懐かしい祖母の顔を思い浮かべた。
(ばっちゃんのがっこ、また食いでぇなぁ……)
もちろん、側近も日本人であった前世を思い出した内の1人である。
自分とヒロインであるユミィがいかに運命的に出会ったかということを、第二王子は陶酔した様子で語りだした。
付き合わされている側近は、内心でため息をついた。
あの婚約破棄未遂パーティーのあと離宮に軟禁状態だというのに、この王子はまだ懲りていないようだ。
噂では、アリシアとユミィは最近いつも一緒に行動しているとの事だった。
おそらく、二人とも第二王子を見限ったのだろう。
いまだ婚約継続中のアリシアの父親からは、王家に対して婚約解消の申し出が再三なされているらしい。
あの日以来、第二王子の側近である自分を含めて、王家に関わる人間の多くが貴族平民問わず前世の記憶を取り戻した。
そう、皆分かっているのだ。
婚約破棄をした場合、第二王子だけではなく、下手をしたら国ごと滅びるという事を。
だって、そういうものなのだから。
分かっていないのは、婚約破棄を目論んだ当の本人だけなのだ。
「学園の廊下で、私はユミィとぶつかってしまった」
ようやく、出会いの場面が始まったようだ。
以下、第二王子の証言による2人の出会いのシーンである。
「すまない。怪我はないか?」
第二王子は、ぺたんと座り込む女生徒に手を差し出した。
ピンクブロンドのふんわりとした髪の女生徒は、愛らしい笑みを浮かべて第二王子を見上げた。
「あらま、どでんしたごと」
一応、王族として他国の言葉も勉強していたが、ユミィの発した言語は聞いた事のないものであった。
「……すまない。それは異国の言葉だろうか」
「あ、ごめんなさい! 大丈夫です」
女生徒は自力で立ち上がると、ぺこりと頭を下げた。
仕草からして、貴族ではなく平民のようだ。
女生徒はユミィと名乗った。
会うたびに、話すたびに、第二王子は彼女に惹かれていった。
「殿下、あまりお元気がないようですけど?」
学園の中庭で一緒に昼食を取っている時、ユミィが心配そうに首を傾げた。
ピンクブロンドの髪が揺れ、彼女の可愛らしさをいっそう引き立てた。
「いや、色々あってね……」
ふっと悲哀を帯びた笑みを浮かべてみせると、ユミィは自分で作ったというお弁当を差し出してきた。
「食べたら元気になりますよ、きっと」
「ユミィ……」
おかずを刺したフォークを、第二王子の口元に運ぶ。
「ほら、け」
「……け?」
またもや、ユミィが謎の言語を発する。
「けねのが? うめど」
もはや何を言っているのかは分からなかったが、第二王子はユミィの差し出したおかずを口にした。
独特の匂いで、噛むとぽりぽりと小気味よい音をたてる。
一度も食べた事のないはずのそのおかずは、ひどく懐かしい味がした。
「ユミィといると、本当に心が安らぐのだ。ああ、愛されていると感じる事が出来る」
おそらく、だいぶ自分に都合よく脚色されているだろう話を語り終えると、第二王子はうっとりとした様子で呟いた。
「ユミィ、待っていておくれ。必ず、二人で幸せになろう」
側近はまたしても、内心でため息をついた。
(多分、待っていないと思いますよ)
一度として、ユミィが第二王子の様子を聞きにきた、という話を側近は知らない。
多分、というか、確実に来ていない。
だが、第二王子の気持ちは分からなくもない。
ユミィの話を聞くと、何故か田舎のばあちゃんの事を思い出す。
田舎のばあちゃんの家は、確かに居心地がよかった。
流れる時間さえ違ったような気がしていた。
それに、たいていのばあちゃんはどんな不出来な孫でも溺愛してくれる。
というより、むしろ不出来な孫を気にかけてくれるものなのだから。
「その時、ユミィは……」
延々と続く第二王子の話は右から左へと聞き流し、側近は懐かしい祖母の顔を思い浮かべた。
(ばっちゃんのがっこ、また食いでぇなぁ……)
もちろん、側近も日本人であった前世を思い出した内の1人である。
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