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大団円の苺ショート。
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「フィアは大丈夫。気を失っているだけだ」
二人を覗き込んだノースリーさんが、私を振り返った。
「リラーナさんは刺されたんです! 早く手当てしないと!」
救急車はないから……。
そうだ! 冒険者ギルドまで行けば回復魔法を使える人がいるかも!
そうでなければ、薬屋に行けば今ならドラゴンから作った特別な薬が売っているはずだ!
慌てて駆け出そうとしたが足がもつれて、そのまま地面に転がってしまった。
動け、私! 行かなきゃいけないんだよ!!
半べそをかきながら立ち上がろうとする私に、ノースリーさんが落ち着くように、と声をかけてきた。
「リラーナなら、もうすぐ目を覚ますから」
「え……?」
「う……」
ノースリーさんの言葉通り、リラーナさんが小さく呻きながら目を開けた。
「リラーナさん!」
駆け寄ると、リラーナさんは私の顔を見て困ったように笑った。
「ごめんなさいね、心配かけて」
でも、リラーナさんは刺されたはず……。
けれど、刺された辺りの衣服は破れていたが、その下の肌には傷一つなかった。
ゆっくりと起き上がりながら、リラーナさんが言った。
「私は〈不死者〉の血を引いているから」
「〈不死者〉……?」
血を引いているって、もしかして、よその世界から迷い込んだというリラーナさんのおばあさん……?
「だから、リラーナは死なないんだよ。一時的に仮死状態にはなるがな」
ノースリーさんの言葉に、身体から力が抜ける。
「よか……、よかった、です……」
ううと泣き崩れる私に、リラーナさん達は話してくれた。
数年前、黒い霧と大量の魔物に襲われ、この世界が滅びかけた頃。
各国を行き来する者も少なくなり、物流が滞るようになった。
それは商業ギルドでも同じ事だった。
商業ギルドは独自のルートを使い品物を仕入れたが、その時のメンバーの一人がリラーナさんだった。
鑑定士でありながら身を守る術を持ち、また〈不死者〉の血を引く彼女は最適だったのだ。
また、護衛として同行したのが当時ノースリーさんが所属していた冒険者パーティーで、その時の縁で引退後に商業ギルドで働く事になったのだそうだ。
……そうか。
私にとっては、この世界に迷い込んで聞いた話の一つにすぎなかったけれど。
黒い霧も、大量の魔物も、命懸けの防衛戦も、〈竜殺し〉でさえも。
書物やお芝居の中の物語ではなく、この世界の現実だったのだ。
あのあと駆けつけた街の自警団に取り押さえられた男達には、冒険者ギルドから手配書が出ていた。
確かに男達はキャラバンとして各国を行き来していたが、取り扱っている商品とは〈人〉だった。
つまり、人身売買を行っていたのだ。
今回の商品は〈鑑定士〉。
商業ギルドでゴネたのも、鑑定士の顔と名前を確認するためだったらしい。
ついでに、聞き分けのいい〈商品〉かどうかも見極めていたという話だった。
スキルを使わせるために、反抗的な鑑定士は不要という事なのだろう。
だから、脅しても効果のなかった私やリラーナさんは始末しようとしたようだ。
ショックを受けているフィアはしばらく休むという話だったが、お見舞いに行ったら「絶対に、すぐ元気になるからね!」といつもと同じように笑っていたので、戻ってくると信じている。
そして。
冒険者ギルドから多額の報償金を受け取ったノースリーさんは一部をトンカツ屋のご主人に渡し、私達に、なんと、苺のショートケーキを買ってきてくれたのだ。
「ああ……!」
この、鮮やかな白と赤のコントラスト。
甘い匂い。
感動だ……。
砂糖が高価なこの世界で、ショートケーキは超がつくほどの高級品だ。
苺も、オパール王国のごく一部の地域でしか栽培されておらず、普通の人は見たことすらない代物だ。
「まさか、また会えるなんて……」
はぁ、とノースリーさんがため息をつく。
「いいから、早く食え」
にこにこと笑いながら、リラーナさんが紅茶を淹れてくれた。
えー、それでは。
「いっただきまぁす!」
フォークで、柔らかなスポンジと生クリームをたっぷりとすくう。
大きく口を開け、ばくりと口に入れると。
濃厚な生クリームと、ふんわりとした食感のスポンジ生地。
溶けるように消えていく中に感じる砂糖の確かな甘さ。
真っ赤な苺はつやつやと光り、甘酸っぱい匂いがした。
苺は最後に残しておく派です!
「うっまぁ……!」
「これは……、美味いな」
あまり甘いものが好きではないノースリーさんも、珍しく気に入ったようだ。
あ、そういえば。
「ノースリーさんは、何であそこにいたんですか?」
まるでヒーローのように登場したけれど。
紅茶を一口飲み、ノースリーさんが肩をすくめる。
「いたんじゃなくて、連れていかれたんだよ」
連れていかれた? 誰に?
「しましまの小さな猫にな。多分、あれが猫神様なんだろうよ」
しっぽがたくさんあったしな、とノースリーさんが笑う。
「……」
猫神様が……?
私はいつも身につけている猫神様の御守りに触れた。
猫神様は、私達のように違う世界から迷い込んだ人間を守護してくれている、という話だった。
あの時、猫神様は私の「助けて」という願いに応えてくれたのか。
神様でさえもこの世界では物語の中の存在ではなく、現実に私達と共に生きている。
私も、この世界の一人として生きていくのだろう。
もちろん、美味しいものと一緒にね!
完
二人を覗き込んだノースリーさんが、私を振り返った。
「リラーナさんは刺されたんです! 早く手当てしないと!」
救急車はないから……。
そうだ! 冒険者ギルドまで行けば回復魔法を使える人がいるかも!
そうでなければ、薬屋に行けば今ならドラゴンから作った特別な薬が売っているはずだ!
慌てて駆け出そうとしたが足がもつれて、そのまま地面に転がってしまった。
動け、私! 行かなきゃいけないんだよ!!
半べそをかきながら立ち上がろうとする私に、ノースリーさんが落ち着くように、と声をかけてきた。
「リラーナなら、もうすぐ目を覚ますから」
「え……?」
「う……」
ノースリーさんの言葉通り、リラーナさんが小さく呻きながら目を開けた。
「リラーナさん!」
駆け寄ると、リラーナさんは私の顔を見て困ったように笑った。
「ごめんなさいね、心配かけて」
でも、リラーナさんは刺されたはず……。
けれど、刺された辺りの衣服は破れていたが、その下の肌には傷一つなかった。
ゆっくりと起き上がりながら、リラーナさんが言った。
「私は〈不死者〉の血を引いているから」
「〈不死者〉……?」
血を引いているって、もしかして、よその世界から迷い込んだというリラーナさんのおばあさん……?
「だから、リラーナは死なないんだよ。一時的に仮死状態にはなるがな」
ノースリーさんの言葉に、身体から力が抜ける。
「よか……、よかった、です……」
ううと泣き崩れる私に、リラーナさん達は話してくれた。
数年前、黒い霧と大量の魔物に襲われ、この世界が滅びかけた頃。
各国を行き来する者も少なくなり、物流が滞るようになった。
それは商業ギルドでも同じ事だった。
商業ギルドは独自のルートを使い品物を仕入れたが、その時のメンバーの一人がリラーナさんだった。
鑑定士でありながら身を守る術を持ち、また〈不死者〉の血を引く彼女は最適だったのだ。
また、護衛として同行したのが当時ノースリーさんが所属していた冒険者パーティーで、その時の縁で引退後に商業ギルドで働く事になったのだそうだ。
……そうか。
私にとっては、この世界に迷い込んで聞いた話の一つにすぎなかったけれど。
黒い霧も、大量の魔物も、命懸けの防衛戦も、〈竜殺し〉でさえも。
書物やお芝居の中の物語ではなく、この世界の現実だったのだ。
あのあと駆けつけた街の自警団に取り押さえられた男達には、冒険者ギルドから手配書が出ていた。
確かに男達はキャラバンとして各国を行き来していたが、取り扱っている商品とは〈人〉だった。
つまり、人身売買を行っていたのだ。
今回の商品は〈鑑定士〉。
商業ギルドでゴネたのも、鑑定士の顔と名前を確認するためだったらしい。
ついでに、聞き分けのいい〈商品〉かどうかも見極めていたという話だった。
スキルを使わせるために、反抗的な鑑定士は不要という事なのだろう。
だから、脅しても効果のなかった私やリラーナさんは始末しようとしたようだ。
ショックを受けているフィアはしばらく休むという話だったが、お見舞いに行ったら「絶対に、すぐ元気になるからね!」といつもと同じように笑っていたので、戻ってくると信じている。
そして。
冒険者ギルドから多額の報償金を受け取ったノースリーさんは一部をトンカツ屋のご主人に渡し、私達に、なんと、苺のショートケーキを買ってきてくれたのだ。
「ああ……!」
この、鮮やかな白と赤のコントラスト。
甘い匂い。
感動だ……。
砂糖が高価なこの世界で、ショートケーキは超がつくほどの高級品だ。
苺も、オパール王国のごく一部の地域でしか栽培されておらず、普通の人は見たことすらない代物だ。
「まさか、また会えるなんて……」
はぁ、とノースリーさんがため息をつく。
「いいから、早く食え」
にこにこと笑いながら、リラーナさんが紅茶を淹れてくれた。
えー、それでは。
「いっただきまぁす!」
フォークで、柔らかなスポンジと生クリームをたっぷりとすくう。
大きく口を開け、ばくりと口に入れると。
濃厚な生クリームと、ふんわりとした食感のスポンジ生地。
溶けるように消えていく中に感じる砂糖の確かな甘さ。
真っ赤な苺はつやつやと光り、甘酸っぱい匂いがした。
苺は最後に残しておく派です!
「うっまぁ……!」
「これは……、美味いな」
あまり甘いものが好きではないノースリーさんも、珍しく気に入ったようだ。
あ、そういえば。
「ノースリーさんは、何であそこにいたんですか?」
まるでヒーローのように登場したけれど。
紅茶を一口飲み、ノースリーさんが肩をすくめる。
「いたんじゃなくて、連れていかれたんだよ」
連れていかれた? 誰に?
「しましまの小さな猫にな。多分、あれが猫神様なんだろうよ」
しっぽがたくさんあったしな、とノースリーさんが笑う。
「……」
猫神様が……?
私はいつも身につけている猫神様の御守りに触れた。
猫神様は、私達のように違う世界から迷い込んだ人間を守護してくれている、という話だった。
あの時、猫神様は私の「助けて」という願いに応えてくれたのか。
神様でさえもこの世界では物語の中の存在ではなく、現実に私達と共に生きている。
私も、この世界の一人として生きていくのだろう。
もちろん、美味しいものと一緒にね!
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