目撃者から、くすぐられる悦びへと

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観察者の記録──第一章:「扉の向こうの微笑」

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その館の噂を耳にしたのは、ある晩、仕事帰りのカフェでのことだった。

「奥の森の奥に、笑い声が響く夜があるらしい」と。

それだけなら、風変わりな都市伝説のひとつで終わったかもしれない。けれど、妙に現実味のある目でその話をした男の表情と、耳に残った「笑い声」という言葉の不思議な響きが、胸の奥に残った。

その夜、私は館の名をネットで検索し、位置を割り出し、軽率に、しかしどこか抗えぬ衝動に突き動かされるように、ひとりで森を訪れた。

──覗いてみたかったのだ。

その“笑い”が、どこから来るのか。その“快”が、何を意味しているのか。

館の裏手、薔薇の茂みの陰に、わずかに開かれた窓があった。そこからは、白く透けるレースのカーテンごしに、淡い灯りと、ほんのかすかな音が漏れてくる。

最初に聞こえたのは、女性の、透き通るような笑い声だった。

「ふふ……やぁ……もう、だめぇ……っ」

それは苦しみの笑いではなかった。驚いたことに、まるで愛されていることに陶酔したかのような、甘く、柔らかい笑い。

そして──

「綾乃、ここが敏感だろう? 逃げようとしても、もっと深く探れるんだよ……」

男の声。柔らかく、それでいて掌の先で心を操るような響き。

「さあ、今度は私が。ほら……この指先を、覚えていて? あなたの秘密、誰よりも知っているのだから──」

女性の声。品がありながらも、妖艶な慈しみを湛えた響き。

カーテンの隙間から見えたのは、白いリネンの上で、両手両足を美しく拘束されたひとりの女性。長い髪を揺らし、笑いに震えながらも、どこか恍惚とした表情を浮かべている。

私はその光景から、まったく目を離せなくなっていた。

くすぐり──それは、幼い悪戯でも、拷問でもない。彼らの間にあるのは、もっとずっと複雑で、深い感情の交錯だった。

指先が肌に触れるたび、綾乃と呼ばれたその女性は身を震わせ、涙のような笑みをこぼし、まるで「もっと触れてほしい」と無言で訴えているようだった。

しかもその感覚は、ただ肉体的なものではない。彼女は“心”を撫でられているのだ。くすぐられるという行為が、愛そのものであるかのように。

私は思った。

──どうして、彼らはここまで繊細に、優しく、時にいじわるに、彼女をくすぐるのだろう。
──そしてなぜ、彼女は、それをこんなにも愛おしそうに受け入れているのだろう。

その答えを知りたくて、私はその夜から、幾夜も館の窓辺に立つようになった。

そしてある夜──私はついに、見つかってしまったのだった。
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