この世界で僕だけが透明の色を知っている

糸烏 四季乃

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1巻

1-3

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「美晴は?」
「は?」

 なぜか店員が頓狂とんきょうな声を上げて僕を見た。
 さっきからなんなんだ、と僕も強く見返すと、引きつった顔をして「以上でお決まりでしょうか」と言うので、これはいよいよ怒るべきかと腹のあたりに力を入れた。

「そんなわけないでしょう。彼女の注文がまだだ」
「……お連れ様をお待ちでしたら、後ほどまたご注文をうかがいにまいりますが」
「はあ?」

 今度は僕が素っ頓狂な声を上げる番だった。嫌がらせなのか悪ふざけなのか。どちらにしても度が過ぎている。

「蓮くん、蓮くん。私もアイスコーヒーでいいよ」
「美晴はそれでいいの?」
「うん。いいから頼んで」

 頼んでも何も、目の前の店員にも聞こえているだろう。
 そうは思いつつも「アイスコーヒーふたつ」と渋々注文する。店員はますます奇妙なものを見る目をして注文を復唱すると、逃げるように厨房へと去っていった。

「なあ、この店出ようか? あの店員の態度はないよ」
「いいんだよ。どこの店でも同じことになるだけだもん」
「どうして。美晴を無視するような奴、そうそういないだろ」
「いるの。っていうか、みんなそう。みんな私のことを無視するの」

 みんな、というのが気になった。あの店員だけの話ではないのだろうか。

「……もしかして、学校でも無視されてるのか。それで最近元気がなかった?」

 もてはやされることはあっても、美晴がいじめられることなんてまずありえないと思っていた。間違ってもそういうことをされる人間ではない。
 誰もが好意を抱かずにはいられない種類の人間がいると、教えてくれたのは彼女だ。神様さえも魅了する存在が、茅部美晴なのだ。

「蓮くん、私のこと心配してくれてたの? ずっと?」

 しまった、と内心自分の口をふさぎたくなった。これではまるで、僕が常に彼女を見ていたと言っているようなものだ。僕のストーカーじみた観察行為がバレてしまう。

「い、いや。たまたま見かけて、なんとなくそう思っただけで……」
「うそ。知ってた? 蓮くんてうそつく時、右の耳たぶ引っ張るんだよ」
「え。あっ」

 言われてはじめて、自分が耳たぶを引っ張っていることに気付いた。
 これが本当に僕の癖なら、小さい頃からやっていて、美晴はそれを今日まで覚えていたということになる。
 恥ずかしいような、情けないような、くすぐったいような気持ちになりながら、そろりと手を下ろす。美晴はそんな僕に微笑ましいものを見る目を向けてくる。これではどちらが年上だかわからない。

「あんまり見ないでくれるかな……」
「だって、嬉しいんだもん。蓮くんが変わってなくて」
「それのどこが嬉しいんだよ」
「私のことを心配してくれる、優しいお兄ちゃんのままだってわかったから。てっきり嫌われたと思ってたから、嬉しいの」

 まさか、と首を振る。僕が美晴を嫌うなんてこと、あるわけがない。

「嫌いになんてなってないよ」
「でも蓮くん、中学生になったくらいから急に私のこと避けはじめたでしょ? 目も合わせてくれなくなったし。私がしつこくまとわりつくから、鬱陶しくなっちゃったのかなって」
「ないよ、ないない。本当に。ごめん、そんな風に思ってるなんて知らなかったんだ。鬱陶しいなんて感じたことないよ」

 本当に悲しそうな顔をするから、また泣き出すのではと焦ってごめんを繰り返す。
 そんな僕に美晴は細い肩をすくめて言う。

「しょうがないなあ。許してあげる」
「それは……どうも」

 急速な喉のかわきを感じ、水を一気にあおる。
 グラスの汗で濡れた僕の手。それを正面から伸びてきた、白い陶器のような手がつかんだ。

「ねえ、蓮くん。私の手、見える?」
「は……? 見えるって、そりゃあ」
「本当に? 全部見えてる?」
「当たり前だろ。何言ってるんだよ」

 青くか細い糸のような血管が透けて見える手の甲、節の目立たない指の関節、ほんのり色づく桜のような爪だって、しっかりと見えている。本当に視力だけはいいのだ。
 ただ、ツヤのある爪の先端が、わずかに透けている気がした。きっと僕と違って、少しの力で割れてしまうようなとても薄い爪なのだろう。

「でもね、本当は見えないはずなの」
「……なんだって?」
「手だけじゃない。腕も、足も、顔も、全部見えなくなってるの」
「見えないって……誰かそう言ったのか?」
「言わないんじゃなくて、言えないの。見えないことさえわからないから」

 意味がわからない。なんの冗談だと言おうとした。その時あの店員が戻ってきて、銀のトレーからアイスコーヒーをふたつ、テーブルに置いた。躊躇ちゅうちょなく両方とも、僕の前に。

「お待たせいたしました。ごゆっくりどうぞ」

 再び早口で定型文を言い終えると、そそくさと去っていく。店の奥でこちらを見ながら他の店員とささやき合っている様子に、僕は口元を手で覆った。
 鼓動の乱れを感じながら、ゆっくりと美晴に視線を戻す。
 彼女は笑っていた。困ったような顔で、それでも笑っていた。

「蓮くん。私ね、透明人間になっちゃったみたい」

 まさか、という言葉は喉につっかえて出てこなかった。この店に来てからだけではない、もう少し前から感じていた小さな違和感たちが集まって、恐ろしい答えを形にしていく。
 汗っかきのグラスの中で、氷がからんと音を立てた。


 なんだか感慨深い気持ちで、僕は茅部という表札を眺めていた。
 美晴と疎遠になっていた時間と同じだけ、この家の戸を叩くことはなかった。距離で言えばたかだか十数メートル。お向かいさんのお宅を訪問するのは、こんなにも緊張を強いられるものだっただろうか。

「ただいまー」

 僕の異様な緊張をよそに、美晴は普段通りといった様子でドアを開け中に入っていく。
 迷いながらも、僕は彼女に続いた。途端に鼻腔びこうをくすぐった香りに、小学生の頃の記憶が呼び戻される。
 懐かしい、ポプリの香りだ。靴箱の上に、白い花や葉が詰められたころんと丸いガラスの容器がある。確か美晴の母親が、ポプリ作りを趣味にしていたのではなかっただろうか。
 彼女からする優しい香りの正体はこれだったか。

「本当に僕も上がっていいの?」
「もちろん。前はよくお互いの部屋を行き来してたでしょ?」
「それは子どもの頃の話だろ」
「もしかして蓮くん、緊張してる? 女の子の部屋に上がるからって、ドキドキしてる?」
「……年上をからかうのはやめなさい」

 無邪気な美晴に、意識するのもバカらしくなって靴を脱いだ時、軽快な足音とともにセーラー服姿の少女がリビングの方から現れた。
 一瞬、美晴かと思った。正確には中学生の頃の彼女と見間違えた。何せ美晴が当時着ていたのと同じ制服で、整った顔もよく似ていたのだから仕方ない。

「あれ? 蓮くん?」
「あ……どうも。久しぶり」

 僕を見て目を丸くしたのは、美晴の妹、深雪みゆきだった。
 美晴の三つ下だから、いまは中学二年生か。ついこの間まで泣き虫で甘えん坊の小学生だったのに、月日が経つのは本当に早い。

「え、何? いつ来たの? いま? インターフォン押した?」
「インターフォン? 押……さなかった、かもしれない」

 美晴がいるのだから、押す必要をまず感じていなかった。深雪だって姉と一緒に姉の幼なじみが家に入ってくれば、姉が連れて帰ってきたと思うだろう。
 つまり深雪には、美晴の姿が見えていないのだ。この玄関に立っているのは、僕ひとりきりで、僕の隣はぽっかりスペースが空いているように映っているのだ。

「何それ、うける。いくら幼なじみって言ったってさあ、もう私は十四で、蓮くんは十八じゃん? 色々とその辺遠慮してくれないと困るんだよねぇ」

 そんな生意気なことを言いながら、深雪は二階に上がっていった。
 ものすごい違和感に自然と眉が寄る。遠慮してくれないと、なんて言われるほど、僕と深雪の仲はそう深くない。美晴と遊ぶ時に深雪がくっついてくることは時々あったが、それだけだ。四つ年が離れていればそんなものだろう。
 美晴とは幼なじみだったとはっきり言えるが、深雪は幼なじみの妹、というもっと距離のある関係だと僕は認識していた。

「……いまのって、どういうこと?」

 おそるおそる問いかけると、なぜか美晴は不満げに僕を睨んだ。

「そういうことになってるみたい」
「全然意味がわからないんだけど……」
「私の存在がなかったことにされたんだよ。代わりに私の場所に、深雪がねじこまれたんだと思う」

 美晴は軽く尖らせた唇を、親指で押し潰す。「この設定は予想してなかった」などとぶつぶつ言いながら、柔らかそうな唇をもてあそび続ける。
 何か考えこんでいる横顔を見つめながら、美晴の唇は果物みたいだなとのんきに思った。
 果実のように瑞々みずみずしくつやめいた唇に触れてみたい。弾力があるのか、柔らかいのか。絵にするならどんな色を置くか。

「蓮くん」
「はいっ」

 名前を呼ばれて背筋がピンと伸びる。
 唇ばかり見つめていたのがバレて怒られるのかと思ったが、美晴は「行くよ」とだけ呟いた。何かに挑むようなピリピリとした声色だった。
 僕の後ろに回ると、両手でぐいぐいと背中を押しはじめる。

「お、おい。行くってどこに」
「まず人の家に来たら、挨拶は基本でしょ」
「あ、そうか。僕、お邪魔しますって言ってないかも」
「蓮くんそういうとこけっこう抜けてるもんね。人間関係だって挨拶からはじまるんだから、ちゃんとしないとダメだよ」
「すみません……」

 年下にコミュニケーションの基本をダメ出しされ、反論ひとつできないとは情けない。選挙権だって持っているのに、僕の中身は小学生のままなのだろうか。

「まあ、蓮くんのエネルギーはほとんど絵を描くことに消費されてるんだから、他がポンコツになるのは仕方ないか」
「ポンコツはひどいな……っていうか、知ってたんだ? 僕がまだ絵を描いてるって」
「知ってるっていうか、蓮くんて昔から絵にしか興味なかったでしょ。鬼ごっこしてたのに、いつの間にか地面に枝で葉っぱの絵を描いてたり、漫画は読んだことないのに画集はたくさん読んでたり。きっと私の幼なじみは、将来有名な画家になるんだって思ってたもん」

 胸を張って言われると、むずがゆくて気持ち悪い顔になりそうだ。
 確かに僕は絵ばかり描いていた子どもで、いまもそれは変わらない。やはり中身はあの頃のままなのかもしれない。

「それに蓮くんの絵、見てるしね。美術部の作品、校内展示されてるでしょ? いっちばん上手だからすぐにわかるよ」

 美晴の言葉にぎくりとしたのが、背中に当てられた手を通して伝わってしまわなかっただろうか。
 いつもの自分らしさを意識して「それはどうも」と答える。ここ数年のいつもの僕など彼女は知らないので、あまり意味のない努力だった。

「はい、がんばって!」

 勢いよく押され、前につんのめりながら僕が入ったのは、茅部家のリビングだった。
 食卓テーブルにソファーがひとつ。決して散らかっているわけでも狭いわけでもないはずだが、ところ狭しと飾られている盾や賞状、トロフィーのおかげで雑然として見える。
 僕がここに出入りしていた頃も美晴の功績を称えるオブジェはたくさん並んでいたが、あれからまた随分増えたようだ。違いと言えばそれくらいで、懐かしさがじわじわと、トロフィーたちの隙間からもれ出てくる。

「あらっ。びっくりした。蓮くん、来てたの」
「え……あ」

 キッチンの方から出てきたエプロン姿の女性が、僕を見て目を丸くする。それは先ほどの深雪の表情とそっくりだった。
 彼女たち姉妹の母親、奈津美なつみさん。すらりとした美人で、昔は溌剌はつらつとした印象だったが、数年経って少し頬がこけ、やつれたように見える。ショートカットの黒髪にも白髪が多く混じっていた。

「久しぶりねぇ。深雪に会いに来たの? 呼びましょうか」
「あ、いえ。さっき少し話したんで」
「ほんと? あの子、態度悪かったでしょう。最近反抗期なのよ。ごめんなさいね」
「いえ、全然――」

 大丈夫です、と言いかけた僕の背中を美晴が突く。ちゃんとしろ、と言われた気がして背筋が伸びた。

「あの。お、お邪魔します」
「あら。うふふ、いらっしゃい。改まってどうしたの? ここは蓮くんの家みたいなものじゃない」

 いまの奈津美さんの笑顔と、昔の奈津美さんの笑顔が重なる。年を取ったと思ったけれど、温かく包みこむような優しい笑顔は変わっていなかった。
 家に母親がいない僕にとって、奈津美さんは美晴とはまた違う特別な人だった。一番身近な理想の母親像で、憧れでもあり、勝手に母親の代わりのように思い慕っていた。奈津美さんもそれは感じていたのだろう。僕を邪険にすることはなく、実の娘とセットのように扱い大切にしてくれた。
 小学生の頃を思い出し、くすぐったくも温かい気持ちになった時、美晴が僕の後ろから出て奈津美さんの方へ歩いていく。

「お母さん」

 はっきりと声をかけた。だが奈津美さんの視線は僕から離れない。
 心臓をギュッと握りしめられたように苦しくなる。奈津美さんにも彼女が見えなくなっているのだ。なぜ、こんなことになってしまったのか。

「お母さん」

 今度は奈津美さんの肩に触れ、声をかける。すると奈津美さんはハッと夢から覚めたような顔になり、はじめて美晴の方を見た。

「……美晴?」

 ひどく自信なさげに、奈津美さんが呟く。
 美晴はまるで子どもを見るような目を自身の母親に向けて微笑んだ。

「ただいま。蓮くんと部屋にいるね」
「ああ……そう、そうね。そうだったわね。私ったらまた……ごめんなさい」

 呆然とした様子の奈津美さんだったが、徐々に落ち着きなく視線をさまよわせはじめる。
 混乱しているのは僕も同じだ。何がなんだかわからない。ただ、見ていることしかできない。

「謝らないでよ。飲み物はあとで取りに来るから」

 うなだれる母親の肩をいたわるように撫で、美晴が戻ってくる。「行こ」と声をかけられ、彼女のあとに続きながら僕は奈津美さんを振り返る。
 奈津美さんは顔を両手で覆いながら、震える声で「ごめんなさい」と繰り返していた。


 年頃の女の子の部屋、という未知の領域に招かれ僕は立ち尽くす。
 白いふわふわのラグの上に、似たような素材のクッションが置かれている。ここに座ればいいのだろうか。それとも整頓された机に備えつけられたイスに座るべきか。いや、イスは一脚しかない。ならば腰かけるにはちょうど良い高さのベッドか。
 座れるのか、僕は。あの小花柄のカバーがかかったベッドの上に。

「座らないの?」

 イスに鞄を置いた美晴が振り返って首を傾げる。これでイスに座る選択肢はなくなった。
 残るはラグか、ベッドか。僕は迷いに迷った末、ラグのない入り口前にできるだけ縮こまって正座をした。
 床の硬さは関係なく、非常に居心地が悪い。アンティークっぽい金縁の鏡だとか、香水や化粧品の瓶、白いリースの飾りは実に少女の要素が強く、直視するのも躊躇ためらわれる。おかげで僕の異物感がすごい。変な汗まで出てきた。
 でも繊細なレースのカーテンが揺れ、風に乗って優しい香りが届き、少しだけ肩から力が抜ける。窓辺に丸いグラスに詰められたポプリがあった。彼女の母親が作った、彼女の香りだ。

「正座なんてやめて、好きなところに座って楽にしていいよ」
「い、いや。僕はここでいい」
「遠慮なんてされると悲しいんだけど」

 ねたように言われるので困ってしまう。なんというか、どこにも触れてはいけない気がしてならないのだ。

「深雪は逆のこと言ってたけどな」
「あんなの! 辻褄合つじつまあわせの即席幼なじみが言っただけじゃん!」

 急に怒り出した彼女に驚いていると、美晴はすぐに気まずげに顔をふせた。

「即席幼なじみって……なんか、カップラーメンみたいだ」
「……実際そうだもん。蓮くんの幼なじみは私なのに」

 独占欲みたいなものがにじんだ言葉に、ドキッとしてしまった。変な意味ではないとわかっていても、美晴の口から聞くと心臓を直撃するらしい。

「僕にとっても、幼なじみは君だけだよ」

 照れを隠すように真面目な顔を作って言ってみたが、それを聞いた美晴があんまり嬉しそうに笑うから、僕もつられてだらしなく笑ってしまった。
 格好をつけるのは苦手だ。向いていない。きっと伊達ならもっと上手く決めるのだろう。

「もう信じてもらえたと思うけど、私本当に透明人間になっちゃったの」

 軽い口調で言うと、美晴はベッドに腰かけた。その上で、彼女はぷらぷらと細い脚を揺らす。

「……いつから?」
「最初に違和感を覚えたのは数ヶ月前かな。身近な人に視認されなくなったのは一、二週間前からなんだけど。学校で、友だちに声をかけても素通りされることが増えて、なんかおかしいって気付いたの。最初は私が何か気に障ることをして無視されてるのかなと思ったんだけど、心当たりはないし、日に日にそういう相手が増えていくから奈々ななも気付いて。あ、奈々っていうのは中学から仲良くしてる子なんだけど」
「知ってる。同じ剣道部の子だろ。いつも一緒に登校してる」

 そこまで言って、しまったと思った。まただ。僕は本当に抜けている。これでは僕が毎朝、登校する美晴の姿を見ていると告白したようなものだ。
 彼女はきょとんとしたけれど、気まずげな僕を見て小さく笑った。まったく、格好がつかない。

「その子には君が見えてるんだな」
「……うん。個人差があるみたいで、最初は私のことが見えない人の方が少なかったから自分でもなかなか気付けなかった。でも見えない人はどんどん増えていって、いまはもう私が見える人はほとんどいないの」
「妹は?」
「深雪とお父さんは声をかけてもダメ。ふたりの中では私の存在自体なかったことになってるみたい。お母さんと奈々は、まだ身体に触って声をかければ気付いてくれる」
「他には?」

 まさか母親と親友のふたりだけ、ということはないだろう。そう思いたいだけの僕の問いかけに、彼女はにんまりと笑った。そして右手でピストルの形を作り、銃口を僕に向ける。

「蓮くん」
「え?」
「いまのところ、お母さんと奈々と蓮くんの三人だけ。三人だけが、私の存在を知ってるんだよ」

 光栄でしょ? と冗談めかして言われ、どんな顔をするのが正解だったのだろう。
 僕はここまできてもまだ、透明人間になったという美晴の言葉を受け入れられずにいる。

「よくわからないんだけど。それって透明人間とはまた違うんじゃないか? 透明人間って声まで聞こえなくなるもの?」
「そんなの、私以外の透明人間に会ったことなんてないから、わからないよ」
「それはそうかもしれないけど、触っても気付かないなんて透明人間とはまた別物なんじゃないのかな」
「そう言われても、わからないものはわからない。でもとりあえず色々試してはみたよ。授業中に黒板にイタズラ書きしてみたり、部活の練習中に大声で歌を歌ってみたり」
「勇気あるな……待てよ。もしかして校舎のガラスを割ったのも、実験だったのか」
「うん。人がいない教室だったからケガ人はいないよ。結果は見ての通りだったけどね」

 誰も美晴に気付かなかった。彼女に声をかける人間はひとりもいなかった。


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