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少女と呪い
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中身と外側が解離している、とはどういうことなのか。
わかりやすく眉をひそめる。
「冗談も嘘も言わないから、とりあえず怒らないで聞いてほしい」
苛立ち始めていた私を宥めるように静かに言う。
座り直して居住まいを正し、迷いが吹っ切れたように説明をし出した。
「今の私は、簡単に言うと、中身だけ年をとってる状態…だな。ゲルハルトの言う通り、中身は子どもじゃない。でも化けてるわけでもなくて、体はそのまんま、本物の子どもだよ。
そういう、呪いがかけられてる」
“呪い“という単語に反応をして、一瞬顔が固まる。
ノーラには恐らく気づかれていないだろう。
人知れず表情を元に戻して話を聞き続ける。
「ゲルハルトに付きまとってたのも、呪いを解く手がかりが得られるかと思ったからだ。魔法に関して造詣が深いようだから」
付きまとっている自覚はあったのか。
苦笑いが漏れそうになりつつ、半ば確信に至っている質問を挟む。
「以前森で倒れていたのは魔物に応戦したからだな?」
「そう。血を採取したかった。魔物の血を使って呪いをかける方法もあるようだから」
確かに魔物の血を媒介にして呪いをかける方法もある。
師匠が何かの時に言っていた気がする。
しかし何百年と前に行われていた古の術なはずだ。
とうに廃れており、今では魔術に関する書物に数行の記述が残っているくらいだろう。
そんな前から呪いにかかっていたのか?
そもそも、だ。
「ノーラは誰に呪われたんだ」
「…魔物に」
「魔物だって?」
魔物には、弱くちっぽけで子どもでも対処できるような取るに足らない存在と、何人と束になっても叶わず強靭で災害並みに厄介な存在とがある。
呪いをかけられるほどに知能の高い魔物は後者だ。
人語も理解するし魔力も高い。
それは、魔王にも匹敵するほどに。
「なぜそんなものに呪われるんだ。まず関わることがないだろう」
そこまで強い魔物は、弱い魔物とは逆に地方に散らばることがない。
普通は遭遇することなどないのだ。
「以前は、もっと戦えたんだ。魔力だってあった。…まあ、見てのとおり、今は全く戦えないわけだけど。困ったね」
なんでもないことのようにけろりと笑うノーラの横で、私はぐるぐると思考を巡らせていた。
生まれ持っている魔力がなくなることがあり得るのか。
魔力が増減する事象など初めて耳にする。
私の今の状態からもしも魔力が弱体化していけばどうなるだろうか。
日常のほとんどのことに魔力を介して対処している。
しかし私に終わりなどないのだから魔力の有無などどうということはないのではないか。
そう、私に終わりなどー…。
“呪いを解く”
パンッと勢いよく手を合わせた音と同時に「とにかく!」と威勢のよい声。
思考の渦に捕らわれていた意識が唐突に戻される。
「私は明日も来るからな。ゲルハルトも来てね」
「…ああ」
魔物から逃げた動物たちが戻ってきて、静寂だった森には音が戻ってきている。
先程の喧騒はどこへやら、ひらひらと優雅に蝶が横切る。
数口で残りのアップルパイを胃に送り、ハーブティーを流し込んでいるノーラ。
…ノーラの行動は、私の益になるのではないか。
終わりなく積み重ねる時を、終わらせられるのではないか。
喉に絡み付くようにとどまる声を、さも平静であるかのように装って押し出す。
「…次からは、近くまで迎えを出そう」
「へ?」
「また魔物に襲われるかもしれないだろう。遭遇しないように、また鹿にでも頼もう」
パチパチと大きな目を瞬かせてから、にっこりと満面の笑み。
「ありがとう。今日ここまで案内してくれた鹿もゲルハルトのお陰なんだね」
「…」
口を滑らせた。
確実にノーラ母の甘味を手に入れるために、余計な魔物と遭遇することのないようノーラを連れてくるように、鹿と交渉をしていた。
が、認めるのはなんとなく癪で、返答につまる。
そんな私を気にもとめずにもう一度「ありがとう」と溌剌に言うやいなや立ち上がる。
「お昼御飯も持ってくる!明日は長居するから!」
ばばっと荷物をまとめると村へ向かって駆け出して行った。
わかりやすく眉をひそめる。
「冗談も嘘も言わないから、とりあえず怒らないで聞いてほしい」
苛立ち始めていた私を宥めるように静かに言う。
座り直して居住まいを正し、迷いが吹っ切れたように説明をし出した。
「今の私は、簡単に言うと、中身だけ年をとってる状態…だな。ゲルハルトの言う通り、中身は子どもじゃない。でも化けてるわけでもなくて、体はそのまんま、本物の子どもだよ。
そういう、呪いがかけられてる」
“呪い“という単語に反応をして、一瞬顔が固まる。
ノーラには恐らく気づかれていないだろう。
人知れず表情を元に戻して話を聞き続ける。
「ゲルハルトに付きまとってたのも、呪いを解く手がかりが得られるかと思ったからだ。魔法に関して造詣が深いようだから」
付きまとっている自覚はあったのか。
苦笑いが漏れそうになりつつ、半ば確信に至っている質問を挟む。
「以前森で倒れていたのは魔物に応戦したからだな?」
「そう。血を採取したかった。魔物の血を使って呪いをかける方法もあるようだから」
確かに魔物の血を媒介にして呪いをかける方法もある。
師匠が何かの時に言っていた気がする。
しかし何百年と前に行われていた古の術なはずだ。
とうに廃れており、今では魔術に関する書物に数行の記述が残っているくらいだろう。
そんな前から呪いにかかっていたのか?
そもそも、だ。
「ノーラは誰に呪われたんだ」
「…魔物に」
「魔物だって?」
魔物には、弱くちっぽけで子どもでも対処できるような取るに足らない存在と、何人と束になっても叶わず強靭で災害並みに厄介な存在とがある。
呪いをかけられるほどに知能の高い魔物は後者だ。
人語も理解するし魔力も高い。
それは、魔王にも匹敵するほどに。
「なぜそんなものに呪われるんだ。まず関わることがないだろう」
そこまで強い魔物は、弱い魔物とは逆に地方に散らばることがない。
普通は遭遇することなどないのだ。
「以前は、もっと戦えたんだ。魔力だってあった。…まあ、見てのとおり、今は全く戦えないわけだけど。困ったね」
なんでもないことのようにけろりと笑うノーラの横で、私はぐるぐると思考を巡らせていた。
生まれ持っている魔力がなくなることがあり得るのか。
魔力が増減する事象など初めて耳にする。
私の今の状態からもしも魔力が弱体化していけばどうなるだろうか。
日常のほとんどのことに魔力を介して対処している。
しかし私に終わりなどないのだから魔力の有無などどうということはないのではないか。
そう、私に終わりなどー…。
“呪いを解く”
パンッと勢いよく手を合わせた音と同時に「とにかく!」と威勢のよい声。
思考の渦に捕らわれていた意識が唐突に戻される。
「私は明日も来るからな。ゲルハルトも来てね」
「…ああ」
魔物から逃げた動物たちが戻ってきて、静寂だった森には音が戻ってきている。
先程の喧騒はどこへやら、ひらひらと優雅に蝶が横切る。
数口で残りのアップルパイを胃に送り、ハーブティーを流し込んでいるノーラ。
…ノーラの行動は、私の益になるのではないか。
終わりなく積み重ねる時を、終わらせられるのではないか。
喉に絡み付くようにとどまる声を、さも平静であるかのように装って押し出す。
「…次からは、近くまで迎えを出そう」
「へ?」
「また魔物に襲われるかもしれないだろう。遭遇しないように、また鹿にでも頼もう」
パチパチと大きな目を瞬かせてから、にっこりと満面の笑み。
「ありがとう。今日ここまで案内してくれた鹿もゲルハルトのお陰なんだね」
「…」
口を滑らせた。
確実にノーラ母の甘味を手に入れるために、余計な魔物と遭遇することのないようノーラを連れてくるように、鹿と交渉をしていた。
が、認めるのはなんとなく癪で、返答につまる。
そんな私を気にもとめずにもう一度「ありがとう」と溌剌に言うやいなや立ち上がる。
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ばばっと荷物をまとめると村へ向かって駆け出して行った。
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