不死の魔法使いは鍵をにぎる

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魔王討伐への旅

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だんだんとリグンドじいちゃんから教わる魔法がなくなってくる。
教わったことは、じいちゃんと肩を並べるくらいまでになった。

…と思う。




俺とじいちゃんが居るのは王都から遠い田舎町。
それなりに栄えてはいるものの、王都との距離があるために魔物出現率は低い。

そんな田舎町にさえ魔物が頻繁に出現するこのごろ。
魔王はたしか、俺が生まれる10年前くらいに出たはずだ。
大体30年。

先代の魔王には90年近く苦しめられたと、確かじいちゃんが言っていた。
それに比べたらまだまだ全然だ。

今は簡単に蹴散らせる魔物も、そのうち苦戦するようになるのだろうか。





魔法の特訓も兼ねて近隣の森に出る魔物を倒していたら、ある日じいちゃんが言った。



「おめさん、腕試しに魔王討伐に行ってみたらえんじゃねえか」

「は?」








魔王討伐。

俺が。
俺が?


考えたことも無かった。








「ゲルト、魔法技術がぐんと上がったろう。物足りねんじゃねえか?」

「それは…。でも、じいちゃんが相手してくれればいいじゃねえか」

「あほかおめえ。わしゃの体力が持たねえよ」



相変わらずの、子供みたいな笑顔。
ぐしゃりとシワが寄る。



「転移が使えるんだ。やべえと思ったら帰ってこりゃええ」



ああそうか、と思う。

魔王討伐は命をかけて、人生を掛けて行うことだと思っていたけれど。
確かに転移魔法があれば格段に気軽に行けるかもしれない。

魔法特訓に物足りなさを感じていたのは事実だ。
ためしに行ってみるのもいいかもな。






―…だめだ。






「王都じゃあ盛んに魔法研究されてっから、新しい発見があるかもしんねえぞ」


その言葉が後押しになって、心の天秤がぐらりと旅立つ方向へ振り切れる。







―…行かないほうがいい。







「うん。決めた。俺行ってみるよ!リグンドじいちゃんが羨むような知識を仕入れてくる!」



けらけらとじいちゃんが笑う。



「わしゃが羨むような、か。そりゃ楽しみに待たねえといけんな」







―…やめろ。







俺はじいちゃんから助言をもらいつつ旅の準備を行い、簡単な地図を持って出発した。
面倒な道は転移ですっ飛ばしつつ、にぎやかな都会町や有名どころに立ち寄ってみる。







―…引き返せ。







俺はわくわくしていた。

世の勇者たちは一体どんな気持ちで旅立つのか。
義憤に満ちているのか、正義に燃えているのか、それは知らない。

けれど俺は楽しくて仕方が無かった。

今までいかに狭い世界を生きていたか。
リグンドじいちゃんから聞いただけでは実感が足りていなかった広い広い世界。







―…早く戻れよ。







旅路は順調だった。
魔王の元へだんだんと近づき、出てくる魔物はどんどんと強くなり。
夢中で足を進めて。

私は。











そこではっと目を覚ました。
幸福で、悪夢で、もう戻れない時間。



「くそっ」



昨日の夜からの腹立たしさが抜けない。


あのとき、魔王討伐してみようなんて考えなければよかったのに。
途中で引き返していればよかったのに。

そうすれば、真っ当に、人として、とっくに生を終えていただろうに。




せめて師匠が、リグンドじいちゃんがまだ生きていたなら。




ありえない願いを思っては、乾いた笑いが漏れる。

ああ、くそ。
やはり人間とはかかわるだけ不快になるだけだ。
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