不死の魔法使いは鍵をにぎる

:-)

文字の大きさ
39 / 201

情報収集の日々

しおりを挟む
転移をして様々な土地で情報を集めては、特区へ行きシュワーゼと情報交換をする日々。


教師という名目上、魔法訓練も行っている。

しばらくは進歩もなく、魔法が発現しかけては霧散する有様。
しかし近頃は、少しではあるが変化がみられるようになった。
魔力の流れが改善されており、魔法の発現率も少し上がった。


シュワーゼ曰く、他人の魔力だと思って操作するようにしたら操作しやすくなった、だそうだ。
訓練を続けていけば、普通に扱えるようになる日もくるかもしれない。





シュワーゼの兄とあの女教師は、飽きもせずに勝負を挑んでくる。
面倒なので対面しないように立ち回り、ほとんどを回避している。

が、転移のできない屋敷の中だ。
逃げきれないときもある。


仕方なく勝負するときには容赦なく実力を見せつける。
実力差を理解して諦めてもらいたいのだが、期待通りには動いてくれない。
しかも最近は、実力をつけてきた兄自身からも勝負を挑まれる。

厄介ごとが増えた。





シュワーゼは特区内図書館での調査・魔法訓練のほかに、門兵の訓練にも顔を出しているようだ。

あの犬のような兵士に助言しているうちに、ほかの兵士からも頼まれるようになったらしい。

体が成長し、十分に動けるようになってくると、シュワーゼ自身も兵士の訓練に参加するようになった。
年齢にそぐわない戦闘感性を見せつけ、神童説を強固にしている。


学校へ通う年になると、「自由に動ける時間が減る」とぶつくさ言いつつ登校している。
不満をこぼしているが、教師から話を聞いたりと有効に活用しているようだ。




集めた情報は紙にまとめて、最終的に私の手元で管理している。
シュワーゼが保管した場合、不慮の事故や病気でシュワーゼが死亡したら情報が断絶する可能性があるからだ。
私が保管していれば、私が紛失させない限りは永久だ。


いまだ根城に置いていたノーラのノートを見せたら、シュワーゼはいたく感激していた。



「すごいね!ノーラだから200年くらい前か?取っておいてくれてありがとう!今までは必至に頭に詰め込んでたんだ。死んだら持ち物は引き継げないからね。これからはゲルハルトに預けておけば安心だね」



互いが持ちうる知識、新しく集めてきた情報、覚えている限りを詰め込んで紙に書きだしている。
流通している情報がすべて正しいとは限らず、たびたび矛盾を整理しては情報を精査する。



シュワーゼと情報収集を始めてから、飛躍的に情報が集まるようになった。


にも拘わらず、魔王によってかけられた呪いに関する情報は皆無と言っていい。



「魔法研究は進むけど魔王の呪いはさっぱりだね」





 本当に呪いを解く方法があるのか、疑いたくなるほどである。


「もっと調べる範囲を広げる必要があるかもね。“呪い”や“魔法”に限定しないで」





シュワーゼの学校卒業もあと1年。
幼児からはとっくに脱却して少年の姿へと成長したシュワーゼ。

技術・知識ともに圧倒的な好成績を収め、今やシュワーゼの行動を咎める者はいないに等しい。





「範囲を広げて何を調べるんだ。呪いとは関係ないだろう」


異を唱える私にシュワーゼは真剣に答える。




「意外と繋がっているものだよ。ゲルハルト。特に人類史は大事だ。ぼくは人類史を調べていて呪い仲間がいるかもって思ったからね」

「どういうことだ」

「死亡の確認が取れてない勇者がいるんだよ。勇者はある意味、王よりも重要な存在だ。記録として残りやすい。いつ魔王を倒したか。どんな人柄か。どういう戦闘をするか。…どう死亡したか」






確かにそうだ。

事実かどうかはさて置いて、伝聞としてもよく残される。
学校や親、村の老人などから、勇者についての話を聞く機会は多い。


かの勇者は巨大蛇のような魔王を倒し、魔王の血毒に侵されて数年後に死んだ。
かの勇者は軟体で捉えづらい魔王を倒したが、人間の戦争に巻き込まれて死んだ。

幾つか私も聞いたことがある。





「ぼくのことも残ってた。一番始めの、ルターのときのこと。でも途中から記録がなくなる勇者がいるんだよね。ゲルハルトもそうだった。死亡が確認されてないのは、死んでないからじゃないのか。それに、ゲルハルトは疑問に思ったことはないか?魔物たちはなぜ王都を狙うのか」





魔王が立つと、魔物の数が歴然と増える。
それはそこらに生息しているわけではなく、魔王城から攻めてくるものが多い。

魔王城から出てきた魔物たちが目指すのは王城だ。
魔王城と王城を結んだ線上に位置する地域は治癒師や結界師が常駐し魔物に備える。



「敵対する団体の長を標的とするのは定石じゃないのか」


「それはそうだけど、考えてみて。どの魔王も、変わらず、常に、だ。

仮に王を倒せたとしてもすぐに代わりは立つ。油断してる地域から襲ったっていい。数に言わせて人類を絶滅に追い込むことだって可能かもしれない。他の方法を取る魔王がいたって不思議じゃないはずだ。

それでも、狙われるのは王城。王族だ。

ぼくには、対人間というよりも対王族を感じる」








魔物たち、魔王が敵対しているのは人間ではなく、“王族”。








「それは、王族が魔物に対して何かしたということか?」

「現状はわからない。何か根拠があるわけでもない。単なる推測だ。そもそも、どうして魔物と人間は対立しているのか。何か事由があったのか。ぼくは知りたいと思う。呪いとは関係なしに」



生まれたときから、いや、生まれる前から対立していた。

なぜ対立しているのか、疑問に思ったこともあったかもしれない。
しかし、いつしかそれは当然のものとなり、疑問も立ち消え、受け入れていた。


対立することになった原因が、何かあるのだろうか。






「…それは私も気になるな」


同意を得られたことに口角を上げてシュワーゼはうなずく。




「じゃあ決まりだね。あらゆることを調べていこう。裾野を広く。視野を広く」



こうして、調べる範囲が増え、知識はかなり集まるものの、たいした進歩はなく時間が過ぎていく。



シュワーゼは学校を卒業し、官吏見習いとして働くようになった。

晴れて王城へ出入りできる権利を得たわけである。
ただし自由に動き回れるわけではない。

見習いという立場のため、傍には指南役が常に居る。
今はとにかく成果をあげて立場を上げることを考えているようだ。


魔物対人間ではなく、魔物対王族だと睨むシュワーゼは、王城で管理されている資料に重要な情報が秘匿されているのではと考えている。
仕事を任せられるようになり、成人して王城の機密部分を動けるようになるまではもうしばらくかかる。



特区では神童と呼ばれ自由に動いていたシュワーゼも、王城ではそううまくはいかないようだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

処理中です...