54 / 201
校長のここだけの話
しおりを挟む
学校長が現役なのか引退済みなのか知らないが、自分の学校を貶すようなことを言う。
食事をしていた手をいったん止めて、私も話に聞き入る。
「どうしてですか?」
「ここだけの話だよ」
学校長は声を潜めて言葉を続ける。
「今の魔法学校には規制がかかっている。魔法技術をあまり伸ばさないように、実技時間が少なくなっているんだ。だからレフラくんたちの頃は座学ばかりだったろう」
レフラとグレイツェが目を見開いて顔を見合わせる。
「確かに、7割がた座学でしたけど…。でも、技術向上のために必要な知識だから教わっていたんだとばかり思っていました」
「私はずっと実技が少ないって不満でしたよ。魔法学校のくせに魔法を使わないなんてって。規制ってどこからですか?逆らえないようなところだったんですか?」
グレイツェからの質問に、学校長は数秒言いよどんだ。
簡単に口にするのは憚られるほどの、格上の相手。
「王からのお達しだよ」
学校長の言葉に、レフラは口を手で抑えグレイツェは「はっ?」と言葉を漏らす。
私も眉をひそめていた。
訓練施設を新設し、兵士の魔法技術を上げようとしている王。
しかし、魔法学校には規制をかけて技術向上を阻む。
酷く不可解だ。
「そんなわけで、現状の魔法学校はあまりお勧めできない。2人とも、くれぐれも他には話さないようにね。ゲルハルトさんも他言無用でお願いするよ。すまないねえ」
面倒な席に引き入れられた昼だったが、思わぬ情報を耳に入れた。
これが何かに繋がるのか、何にも繋がらないのかはまだわからないが、一応シュワーゼと共有しておこう。
食事を終え、女2人はこれから買い物に行くらしい。
「校長先生、今日はありがとうございました。ゲルハルトさんもまたお食事しましょうね」
「懐かしい話もできたし、レフラがさんざん褒める魔法使いにも会えて楽しかったです。また会えたら」
朗らかに笑うレフラと、快活に話すグレイツェ。
商店が並ぶ一角へと歩いていった。
学校長とは歩く方向が途中まで同じだったため、そのまま話す流れに。
「ゲルハルトさん今日はありがとうね。途中で変な話をしてしまってすまなかったねえ」
女二人を見送り、私より少し背の低い校長が私を見る。
「いや。…一つ聞いてもいいか?」
「なんだい?」
「校長は、どうして規制がかかったのだと思う?」
「さあてね。お偉いさんの考えることはわからんよ。ただ、何かに怯えてるんじゃないかという気がするね。疑心暗鬼になって、逆らえないように力を奪いたい、でも身の回りは固めたい、そんな印象を受けるよ」
魔王が倒されても王の御心は休まらないようだねえ、と学校長は王を慮る。
何かに怯えている。
それは、魔王ではないのだろうか。
魔王を倒しても安堵できない心。
怯えているのは、何に。
校長とも別れた後、調査を再開したがとくに収穫はなし。
シュワーゼの部屋に入って紅茶を飲みながら部屋主の帰宅を待つ。
菓子を追加分まで平らげ、ティーポットを空にし、それでも扉が開く気配がない。
遅いな。
ここまで帰宅が遅かったことはこれまであっただろうか。
トイレに行こうと廊下に出ると、何やら騒がしくしているのが耳に入る。
音の方へ目を向ければ屋敷の家人から使用人の姿までもが見える。
胸騒ぎを覚える騒がしさだ。
広い屋敷の中、普段は個々の領域で活動しているため、ここまで多くの者の姿を見ることはほぼなかった。
それが、仕事もせず、懐疑的な顔で立ち尽くしたり右往左往していたり。
明らかにおかしい。
誰かから話が聞けるだろうかと足を向けると、ブルデと目があった。
私の顔を見るなり駆け寄ってくる。
「ゲルハルト!大変だゲルハルト!」
その顔は蒼白で、瞳は泣きそうに潤んでいる。
「何があった」
ブルデのこういう顔は見たことがない。
興奮のせいか、走りでもしたのか、息を荒げて言葉を吐く。
「シュワーゼが、処罰された」
食事をしていた手をいったん止めて、私も話に聞き入る。
「どうしてですか?」
「ここだけの話だよ」
学校長は声を潜めて言葉を続ける。
「今の魔法学校には規制がかかっている。魔法技術をあまり伸ばさないように、実技時間が少なくなっているんだ。だからレフラくんたちの頃は座学ばかりだったろう」
レフラとグレイツェが目を見開いて顔を見合わせる。
「確かに、7割がた座学でしたけど…。でも、技術向上のために必要な知識だから教わっていたんだとばかり思っていました」
「私はずっと実技が少ないって不満でしたよ。魔法学校のくせに魔法を使わないなんてって。規制ってどこからですか?逆らえないようなところだったんですか?」
グレイツェからの質問に、学校長は数秒言いよどんだ。
簡単に口にするのは憚られるほどの、格上の相手。
「王からのお達しだよ」
学校長の言葉に、レフラは口を手で抑えグレイツェは「はっ?」と言葉を漏らす。
私も眉をひそめていた。
訓練施設を新設し、兵士の魔法技術を上げようとしている王。
しかし、魔法学校には規制をかけて技術向上を阻む。
酷く不可解だ。
「そんなわけで、現状の魔法学校はあまりお勧めできない。2人とも、くれぐれも他には話さないようにね。ゲルハルトさんも他言無用でお願いするよ。すまないねえ」
面倒な席に引き入れられた昼だったが、思わぬ情報を耳に入れた。
これが何かに繋がるのか、何にも繋がらないのかはまだわからないが、一応シュワーゼと共有しておこう。
食事を終え、女2人はこれから買い物に行くらしい。
「校長先生、今日はありがとうございました。ゲルハルトさんもまたお食事しましょうね」
「懐かしい話もできたし、レフラがさんざん褒める魔法使いにも会えて楽しかったです。また会えたら」
朗らかに笑うレフラと、快活に話すグレイツェ。
商店が並ぶ一角へと歩いていった。
学校長とは歩く方向が途中まで同じだったため、そのまま話す流れに。
「ゲルハルトさん今日はありがとうね。途中で変な話をしてしまってすまなかったねえ」
女二人を見送り、私より少し背の低い校長が私を見る。
「いや。…一つ聞いてもいいか?」
「なんだい?」
「校長は、どうして規制がかかったのだと思う?」
「さあてね。お偉いさんの考えることはわからんよ。ただ、何かに怯えてるんじゃないかという気がするね。疑心暗鬼になって、逆らえないように力を奪いたい、でも身の回りは固めたい、そんな印象を受けるよ」
魔王が倒されても王の御心は休まらないようだねえ、と学校長は王を慮る。
何かに怯えている。
それは、魔王ではないのだろうか。
魔王を倒しても安堵できない心。
怯えているのは、何に。
校長とも別れた後、調査を再開したがとくに収穫はなし。
シュワーゼの部屋に入って紅茶を飲みながら部屋主の帰宅を待つ。
菓子を追加分まで平らげ、ティーポットを空にし、それでも扉が開く気配がない。
遅いな。
ここまで帰宅が遅かったことはこれまであっただろうか。
トイレに行こうと廊下に出ると、何やら騒がしくしているのが耳に入る。
音の方へ目を向ければ屋敷の家人から使用人の姿までもが見える。
胸騒ぎを覚える騒がしさだ。
広い屋敷の中、普段は個々の領域で活動しているため、ここまで多くの者の姿を見ることはほぼなかった。
それが、仕事もせず、懐疑的な顔で立ち尽くしたり右往左往していたり。
明らかにおかしい。
誰かから話が聞けるだろうかと足を向けると、ブルデと目があった。
私の顔を見るなり駆け寄ってくる。
「ゲルハルト!大変だゲルハルト!」
その顔は蒼白で、瞳は泣きそうに潤んでいる。
「何があった」
ブルデのこういう顔は見たことがない。
興奮のせいか、走りでもしたのか、息を荒げて言葉を吐く。
「シュワーゼが、処罰された」
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます
難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!?
ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。
「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
置き去りにされた転生シンママはご落胤を秘かに育てるも、モトサヤはご容赦のほどを
青の雀
恋愛
シンママから玉の輿婚へ
学生時代から付き合っていた王太子のレオンハルト・バルセロナ殿下に、ある日突然、旅先で置き去りにされてしまう。
お忍び旅行で来ていたので、誰も二人の居場所を知らなく、両親のどちらかが亡くなった時にしか発動しないはずの「血の呪縛」魔法を使われた。
お腹には、殿下との子供を宿しているというのに、政略結婚をするため、バレンシア・セレナーデ公爵令嬢が邪魔になったという理由だけで、あっけなく捨てられてしまったのだ。
レオンハルトは当初、バレンシアを置き去りにする意図はなく、すぐに戻ってくるつもりでいた。
でも、王都に戻ったレオンハルトは、そのまま結婚式を挙げさせられることになる。
お相手は隣国の王女アレキサンドラ。
アレキサンドラとレオンハルトは、形式の上だけの夫婦となるが、レオンハルトには心の妻であるバレンシアがいるので、指1本アレキサンドラに触れることはない。
バレンシアガ置き去りにされて、2年が経った頃、白い結婚に不満をあらわにしたアレキサンドラは、ついに、バレンシアとその王子の存在に気付き、ご落胤である王子を手に入れようと画策するが、どれも失敗に終わってしまう。
バレンシアは、前世、京都の餅菓子屋の一人娘として、シンママをしながら子供を育てた経験があり、今世もパティシエとしての腕を生かし、パンに製菓を売り歩く行商になり、王子を育てていく。
せっかくなので、家庭でできる餅菓子レシピを載せることにしました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる