不死の魔法使いは鍵をにぎる

魔法学校の校長

今日は地方へは転移せず、一般区を回って調べていた。

目を通していない書物はないか。
目新しい情報を話している人間はいないか、と。


特に収穫もなく、昼を食べようと食堂に入る。
ざわついた店内を見渡し、カウンターの席へ向かおうとしたところで声がかかった。








「ゲルハルトさん！お昼ご飯ですか？」



声をかけてきたのはレフラだった。
テーブル席から立ち上がって、こちらに向かってくる。

妊娠が発覚したと言っていた日よりも少し腹が膨らんでいるようだ。



「私もいまからお昼なんですよ。よかったらご一緒しませんか？」



そう言って、自分が座っていたテーブル席を指さす。
そのテーブル席には、見知らぬ人間がもう2人。







「親しい者たちと食事するのだろう。遠慮する」


面倒そうだと辞退を申し出るが、レフラは引かない。




「そんなことないですよ。席にいる二人にゲルハルトさんのこと話してたんです。紹介させてください」







悪意のない笑顔でテーブルへ引っ張られる。
私の返事はお構いなしだ。


席にいるのは、年嵩の男とレフラと同年代らしき女。
白髪が交じって灰色に見える年嵩の男にレフラは話しかける。





「校長先生、この方が今話してたゲルハルトさんです。本当に技術が高くて、素晴らしい魔法使いなんですよ」


レフラはなぜか自慢げだ。




「ほう。素晴らしい技術をお持ちなんだろうね。負けず嫌いのレフラくんがそこまで褒めるくらいだ。さあさ座りなさい。ゲルハルトさんは何を食べるのかい？」



レフラたちはすでに注文済みのようだった。
仕方なく席について私の分を注文すると、3人が話し始める。









「ゲルハルトさん、こちら私が通っていた魔法学校の校長先生と、同級生のグレイツェです」

「レフラをこてんぱんにのしたんですって？試験では抜群の一番だったのにね」

「やめてよ恥ずかしい。本当にすごい人の前では学校の成績なんて大したことないんだって、対戦したらグレイツェだって打ちのめされるんだから」

「レフラくんは勤勉で学年でも頭1つ抜きんでて成績が良くてねえ。グレイツェくんはそれを追いかけていたんだよね」

「懐かしいですね。グレイツェは大雑把だから魔法も雑になりがちでしたね」

「そういうレフラはいろんな魔法が使えても威力がいまいちだったじゃない。単純な威力勝負なら私が勝ってたわよ」

「知識が甘いから雑になるんじゃないの？さんざん試験の面倒見てあげたのにその甲斐がないったら」

「レフラくんとグレイツェくんが教室で勉強しているところをよく見たねえ。学生らしく勉学に励んでいてとても素晴らしい姿だったよ」






3人が昔話に花を咲かせる。


随分と校長と生徒の距離が近しいようだ。
私は学校長の顔なぞ覚えていなかったが、一般の学校と魔法学校では違うのだろうか。









注文した料理が運ばれ、食事をしながら話は続く。

口調が独特だった教師。
問題児だった生徒の行く末。
印象に残っている授業。








「それにしてもレフラが母になるのね。不思議な気分だわ」

「ふふ。まだ全然なのに産まれたらあれしたいこれしようってつい考えちゃうの。気が早いよね」

「相手、特区の人だっけ？魔力量受け継いだ子になるといいね」

「そうなの。そうしたらやっぱり魔法学校に入れるのが一番なのかな。どう思います？校長先生」





穏やかに微笑んでいた白髪交じりの男は眉を垂らす。


「魔法学校だから手放しで良いとは言えないねえ。残念なことだけど」

「そうなんですか？でも専門的なことを学べるのは魔法学校ですよね？」

「そうですよ。魔法学校出た方が働き口は増えますし。やっぱり魔法学校が一番って考えちゃうんですけど」



話に食いつくレフラとその同級生グレイツェ。
特にレフラは真剣な顔で学校長を見ている。


そんな二人に顔を近づけるように身を乗り出し、一瞬こちらを見やる。







「ゲルハルトさんのような例もあるからねえ。何も魔法学校にこだわる必要はないよ。…正直、今の魔法学校はあまりお勧めできない」