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黒色肌の理由
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進んでいるのか、そうでもないのか、よくわからない日々。
新たな情報を得ても、それによって新たな疑問が出てくるという始末。
呪いに限定するなら、ほぼ停滞している状態だ。
新たな情報などなく、次に手を付けるべき方向も定まらない。
最終目標は変わらず呪いの解除なのだが、点在するその他の疑問について調べる日々だ。
今日のシュワーゼからの報告は、王城勤務に黒色肌が多い理由だ。
しかし以前からの疑問が解消されたというにも関わらず、シュワーゼは嬉しそうではない。
「どうした。謎が解消されたんじゃないのか」
「うーん。そのはずなんだけどね。ちょっと疑問だな。すっきりしないんだよね。とりあえず報告するね」
あの書庫に保管されていた、王城勤務に黒色肌を優先して登用する理由。
大昔の王城は、黒色肌だけではなく、黄色肌も赤色肌もいた。
現在と同じように魔力量の多いもので固められてはいたが、今ほど肌の色に大きい偏りはなかった。
黒色肌に偏るようになったのは、初代とされる魔王を倒してからだ。
魔王に襲われた王を当時の側近であった黒色肌が守った。
王を守った褒美として、王城の近くに特区が設立される。
大きな変換点はここだ。
王城勤務の役人の、登用基準が変更される。
王を守った実績、そして魔力量の多さを評価して、王の側近や王城勤務の役人は黒色肌を登用することとする。
明文化されたのは後のことだが、資料によれば決まったのはこのときだ。
以降、黒色肌のみが登用されるようになり、王城で働く者は王族を除いて黒色肌が占めることに。
現在は少し基準が緩くなっているようで、全体の2割ほどは黄色肌も赤色肌も存在する。
が、依然として黒色肌優位なのは変わらない。
「納得できないんだよね。魔力量はずっと前から登用基準になってた。黒色肌と限定せずとも。わざわざ限定する必要はあるのかな。それに、黒色肌なら必ず魔力量が多いわけでもない。黄色肌や赤色肌よりも魔力量が少ない人だっている」
確かにそうだ。
黒色肌は魔法操作に長けている。
魔力量が多い。
そういわれているが、その傾向が強いというだけだ。
黄色肌や赤色肌にだって、魔力操作に長け、魔力量が多い者はもちろん存在する。
黒色肌よりも黄色肌・赤色肌を登用したほうがいい場面もあり得るのである。
にも拘わらず、肌色を限定してしまうのは何故なのか。
「あとね、流れにも疑問がある」
「流れ?」
「うん。特区ができたのは1926年前だって聞いてる。父さんがよく言ってた。我が家は特区設立時からある由緒正しい家だ。歴34年の頃からあるんだぞって。
そして、初代魔王が倒されたのは歴52年。1892年前だ。矛盾してるよね?初代魔王を倒した褒美として設立されたんだとしたら、特区設立はもう少し後だ」
「初代魔王の情報は正しいのか?」
何年前から魔王が出始めたのか。
初代魔王が倒されたのはいつか。
一般には出回っていない情報だ。
私も聞いたことがない。
「正しいと思う。王族に教えられる情報だもの。王族の護衛をしてたときに知った情報だ。一番最初の、ルターのときだよ。王のご子息がそう教わってた。間違いないよ」
前のめりで話していたシュワーゼは、椅子の背もたれに身を預けて言葉をつづけた。
「まあ、勘違いも有り得るんだけどね。父さんの情報が間違ってる可能性もある」
そうは言っているが、資料の情報を疑っている顔をシュワーゼはしている。
対して私は違うところが気になっていた。
幾度倒しても、姿を変え、戦い方を変え、間隔をあけては現れる魔王。
初代はどういう魔物だったのだろう。
「初代魔王はどういう魔物なんだ?誰がどうやって倒したんだ」
「それはわからないな。詳しいところまでは教えてなかったから。初代の魔王が倒されたのが歴52年。そこから魔物と人間の対立が始まった、ってことだけ。記録してなくて情報が途絶えたのかもね。文字が無い時代の話だから」
そういうものか、と納得しかけて新たな疑問がわく。
「勇者の記録は残っているんだろう?同じように魔王の記録も残っていてしかるべきだろう。勇者側だけ情報が残っているのはおかしくないか」
“勇者”とは魔王を倒した者を指して呼ばれる。
広義では魔王討伐に向かう者も含まれるが、厳密には魔王討伐に成功した者のことだ。
何を倒したのか記録せず、勇者の人柄や戦法、死に様だけを記録するのは正確性に欠ける。
対戦記録などで、勝利者の情報だけを記すのと同じことだ。
Aという兵士が勝利した。Aの戦法は大剣を用い、それを振るうに値する強靭な筋肉を持つ。人相の悪い見た目に反して温厚な性格な男だ。
というような記録は、個人が残す記録なら有り得るが、王族が教わる・記録として残す情報としては酷く偏りがある。
それは事実なのか、捏造ではないのか、疑われても仕方のない情報へと成り下がるだろう。
「確かに。ゲルハルトの言う通りだね。余計に疑わしいな」
軽く眉間を寄せてシュワーゼは紅茶を口に含む。
私たちの状況は進展しているのかいないのか、よくわからない日々だが、王族への疑惑がじわじわ深まっていることだけは感じていた。
新たな情報を得ても、それによって新たな疑問が出てくるという始末。
呪いに限定するなら、ほぼ停滞している状態だ。
新たな情報などなく、次に手を付けるべき方向も定まらない。
最終目標は変わらず呪いの解除なのだが、点在するその他の疑問について調べる日々だ。
今日のシュワーゼからの報告は、王城勤務に黒色肌が多い理由だ。
しかし以前からの疑問が解消されたというにも関わらず、シュワーゼは嬉しそうではない。
「どうした。謎が解消されたんじゃないのか」
「うーん。そのはずなんだけどね。ちょっと疑問だな。すっきりしないんだよね。とりあえず報告するね」
あの書庫に保管されていた、王城勤務に黒色肌を優先して登用する理由。
大昔の王城は、黒色肌だけではなく、黄色肌も赤色肌もいた。
現在と同じように魔力量の多いもので固められてはいたが、今ほど肌の色に大きい偏りはなかった。
黒色肌に偏るようになったのは、初代とされる魔王を倒してからだ。
魔王に襲われた王を当時の側近であった黒色肌が守った。
王を守った褒美として、王城の近くに特区が設立される。
大きな変換点はここだ。
王城勤務の役人の、登用基準が変更される。
王を守った実績、そして魔力量の多さを評価して、王の側近や王城勤務の役人は黒色肌を登用することとする。
明文化されたのは後のことだが、資料によれば決まったのはこのときだ。
以降、黒色肌のみが登用されるようになり、王城で働く者は王族を除いて黒色肌が占めることに。
現在は少し基準が緩くなっているようで、全体の2割ほどは黄色肌も赤色肌も存在する。
が、依然として黒色肌優位なのは変わらない。
「納得できないんだよね。魔力量はずっと前から登用基準になってた。黒色肌と限定せずとも。わざわざ限定する必要はあるのかな。それに、黒色肌なら必ず魔力量が多いわけでもない。黄色肌や赤色肌よりも魔力量が少ない人だっている」
確かにそうだ。
黒色肌は魔法操作に長けている。
魔力量が多い。
そういわれているが、その傾向が強いというだけだ。
黄色肌や赤色肌にだって、魔力操作に長け、魔力量が多い者はもちろん存在する。
黒色肌よりも黄色肌・赤色肌を登用したほうがいい場面もあり得るのである。
にも拘わらず、肌色を限定してしまうのは何故なのか。
「あとね、流れにも疑問がある」
「流れ?」
「うん。特区ができたのは1926年前だって聞いてる。父さんがよく言ってた。我が家は特区設立時からある由緒正しい家だ。歴34年の頃からあるんだぞって。
そして、初代魔王が倒されたのは歴52年。1892年前だ。矛盾してるよね?初代魔王を倒した褒美として設立されたんだとしたら、特区設立はもう少し後だ」
「初代魔王の情報は正しいのか?」
何年前から魔王が出始めたのか。
初代魔王が倒されたのはいつか。
一般には出回っていない情報だ。
私も聞いたことがない。
「正しいと思う。王族に教えられる情報だもの。王族の護衛をしてたときに知った情報だ。一番最初の、ルターのときだよ。王のご子息がそう教わってた。間違いないよ」
前のめりで話していたシュワーゼは、椅子の背もたれに身を預けて言葉をつづけた。
「まあ、勘違いも有り得るんだけどね。父さんの情報が間違ってる可能性もある」
そうは言っているが、資料の情報を疑っている顔をシュワーゼはしている。
対して私は違うところが気になっていた。
幾度倒しても、姿を変え、戦い方を変え、間隔をあけては現れる魔王。
初代はどういう魔物だったのだろう。
「初代魔王はどういう魔物なんだ?誰がどうやって倒したんだ」
「それはわからないな。詳しいところまでは教えてなかったから。初代の魔王が倒されたのが歴52年。そこから魔物と人間の対立が始まった、ってことだけ。記録してなくて情報が途絶えたのかもね。文字が無い時代の話だから」
そういうものか、と納得しかけて新たな疑問がわく。
「勇者の記録は残っているんだろう?同じように魔王の記録も残っていてしかるべきだろう。勇者側だけ情報が残っているのはおかしくないか」
“勇者”とは魔王を倒した者を指して呼ばれる。
広義では魔王討伐に向かう者も含まれるが、厳密には魔王討伐に成功した者のことだ。
何を倒したのか記録せず、勇者の人柄や戦法、死に様だけを記録するのは正確性に欠ける。
対戦記録などで、勝利者の情報だけを記すのと同じことだ。
Aという兵士が勝利した。Aの戦法は大剣を用い、それを振るうに値する強靭な筋肉を持つ。人相の悪い見た目に反して温厚な性格な男だ。
というような記録は、個人が残す記録なら有り得るが、王族が教わる・記録として残す情報としては酷く偏りがある。
それは事実なのか、捏造ではないのか、疑われても仕方のない情報へと成り下がるだろう。
「確かに。ゲルハルトの言う通りだね。余計に疑わしいな」
軽く眉間を寄せてシュワーゼは紅茶を口に含む。
私たちの状況は進展しているのかいないのか、よくわからない日々だが、王族への疑惑がじわじわ深まっていることだけは感じていた。
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