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魔力の違い
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ヘフテとダモンが寝入っている夜中。
声を抑えてマーツェと2人で話し合う。
「傾向は大体わかった。マーツェも同じように感じているんだろう?」
「…うん。認めたくはないけど。納得はしがたいけど。結果は結果だ」
複雑な面持ちで言い放つ。
纏めてしまえば、魔力の質は人間と魔物で異なると言える。
当初の通り、人間は液体、魔物は粒子のような質感だ。
つまり褐色肌の者はその両方が混ざりあっている、両方の血を引いている可能性が高い。
「受け入れがたいな…。私にも流れてるのか。魔物と同じ魔力が。今は別の体だけど。でも魔力は引き継いでるし…。鳥肌立ってきた」
不快感に顔を歪めながら腕をさするマーツェ。
「千年以上もの間戦っているというのに、どうしたら魔物と人間の混じった魔力が残ることになるんだろうな」
「…いつかな。対立するようになる前とか?」
軽く返答をしてから、マーツェは表情を渋くさせた。
「となると難しいな。裏付ける情報が出てこないよ。いくら昔の書物をあさっても。対立のずっと後なんだ。文字が成立するのは」
現状は事実から推測しているに過ぎない。
マーツェの言う通り、異形の者の起源が人間と魔物の対立前なのだとしたら、きちんとした情報を得るのは絶望的だ。
この先どう調べを進めていけばいいのか途方に暮れかけ、思い直す。
異形の者は人目を忍んでひっそりと生きている一族だ。
仲間の褐色肌たちも警戒心が強く、情報を漏らすことは無かった。
それはきっと大昔から変わらない。
なら公の情報からはあさっても何も出てこないはずだ。
「書物やらをあさるよりも直接調べに行った方がいいのかもな」
「直接?異形の人たちに?でも知らなかったんでしょ?ベスツァフ達は」
「ああ。聞いても何も知らない風だったし、文字で情報を残しているようにも見えなかった」
あの小さな村には書物などを隠して置けるような場所もなかった。
「でも他の異形の村はわからない。ベスツァフ達とは違う村から出てきたらしいダモンがいるんだ。他に村があるんだろう。そこを探す」
マーツェが寝ている2人に目線をやった。
相変わらず猫のように丸くなり、一つの寝具で一緒に寝ている。
褐色肌のヘフテと、フードと面を付けているダモン。
ダモンの素顔はまだ見たことがない。
「ダモンも異形だもんね。きっと。
ずっと距離がある。ヘフテ以外に近づこうとしない。…いや、違うか。ヘフテとゲルハルト以外、だね。まさか面が功を成すとはね。
ゲルハルトが聞いたら教えてくれるんじゃない?村を出た理由。なんで村を出たのか。何を目的に旅をしているのか。まだわからないよね。
おかしすぎるもの。このご時世に子供が2人でなんて。何かしら考えがあるはずだ」
ヘフテとダモンの年の頃はおそらく6歳前後だと思われる。
その年齢の子供にしては比較的聞き分けがよく、探求心で勝手な寄り道をして迷子になるなどは起こっていない。
しかしずっと歩き通しは年相応に堪えるらしく、時たま背負うことや抱き上げることをせがまれる。
ヘフテはその頻度が少ないが、ダモンは多い。
私に対して腕を伸ばす姿に、マーツェは楽しそうに「いいじゃん。抱っこしてあげなよ」なんて言ってくるが、断固拒否である。
身体強化をかけて負担を軽くし、軽く治癒魔法もかけて体力を回復、無理やり自分で歩かせている。
どうやらそれぐらいには、親しく思われているらしい。
しかしヘフテとダモンからはまだ詳しい事情を聞けていない。
私は遠まわしに聞き出すことが苦手であるし、直球に聞いて子供とはいえ不審に思われるのは避けたい。
マーツェに事情を聞き出すのは任せたいところだが、2人、特にダモンは、マーツェに対して壁を作っている。
「探しに行ってみる?ヘフテが指さしてた方向。でもそうすると外れちゃうよね。魔物頻出地からは。今の目的とは逸れるな。最優先したいのは魔物被害を抑えることだからね」
「だが、魔王が倒されるのを待っていたら何年先になるかわからないぞ。その前にマーツェの寿命が尽きるだろうな」
「ごもっとも。そうだよね。…とりえずは聞き出せることを聞き出そうか。ヘフテとダモンから。いつまで旅についてくるかわからないし。念のため2人の魔力も調べたいね」
2人の魔力はまだ確かめられていない。
恐らくは十中八九、液体に粒子が混ざったような質感なのだろうとは思うが、確証を得たい。
秘密裏に他人の魔力を調べることは不可能だ。
魔力を見る際には、多少なりとも対象者へ魔力を介在させる必要がある。
他人の魔力が自身の体に微量でも入れば、それは違和となって知覚される。
怪我でもすれば治癒魔法を施すことで魔力を介在させて質を確かめられるのだが、ヘフテとダモンは怪我をしていない。
突然魔力を確かめたいと言っても不自然極まりないし、口実がない状態である。
明日以降、情報の聞き出しと魔力確認をできるだけ行っていこうと合意し、ひとまず眠りに着くことにした。
声を抑えてマーツェと2人で話し合う。
「傾向は大体わかった。マーツェも同じように感じているんだろう?」
「…うん。認めたくはないけど。納得はしがたいけど。結果は結果だ」
複雑な面持ちで言い放つ。
纏めてしまえば、魔力の質は人間と魔物で異なると言える。
当初の通り、人間は液体、魔物は粒子のような質感だ。
つまり褐色肌の者はその両方が混ざりあっている、両方の血を引いている可能性が高い。
「受け入れがたいな…。私にも流れてるのか。魔物と同じ魔力が。今は別の体だけど。でも魔力は引き継いでるし…。鳥肌立ってきた」
不快感に顔を歪めながら腕をさするマーツェ。
「千年以上もの間戦っているというのに、どうしたら魔物と人間の混じった魔力が残ることになるんだろうな」
「…いつかな。対立するようになる前とか?」
軽く返答をしてから、マーツェは表情を渋くさせた。
「となると難しいな。裏付ける情報が出てこないよ。いくら昔の書物をあさっても。対立のずっと後なんだ。文字が成立するのは」
現状は事実から推測しているに過ぎない。
マーツェの言う通り、異形の者の起源が人間と魔物の対立前なのだとしたら、きちんとした情報を得るのは絶望的だ。
この先どう調べを進めていけばいいのか途方に暮れかけ、思い直す。
異形の者は人目を忍んでひっそりと生きている一族だ。
仲間の褐色肌たちも警戒心が強く、情報を漏らすことは無かった。
それはきっと大昔から変わらない。
なら公の情報からはあさっても何も出てこないはずだ。
「書物やらをあさるよりも直接調べに行った方がいいのかもな」
「直接?異形の人たちに?でも知らなかったんでしょ?ベスツァフ達は」
「ああ。聞いても何も知らない風だったし、文字で情報を残しているようにも見えなかった」
あの小さな村には書物などを隠して置けるような場所もなかった。
「でも他の異形の村はわからない。ベスツァフ達とは違う村から出てきたらしいダモンがいるんだ。他に村があるんだろう。そこを探す」
マーツェが寝ている2人に目線をやった。
相変わらず猫のように丸くなり、一つの寝具で一緒に寝ている。
褐色肌のヘフテと、フードと面を付けているダモン。
ダモンの素顔はまだ見たことがない。
「ダモンも異形だもんね。きっと。
ずっと距離がある。ヘフテ以外に近づこうとしない。…いや、違うか。ヘフテとゲルハルト以外、だね。まさか面が功を成すとはね。
ゲルハルトが聞いたら教えてくれるんじゃない?村を出た理由。なんで村を出たのか。何を目的に旅をしているのか。まだわからないよね。
おかしすぎるもの。このご時世に子供が2人でなんて。何かしら考えがあるはずだ」
ヘフテとダモンの年の頃はおそらく6歳前後だと思われる。
その年齢の子供にしては比較的聞き分けがよく、探求心で勝手な寄り道をして迷子になるなどは起こっていない。
しかしずっと歩き通しは年相応に堪えるらしく、時たま背負うことや抱き上げることをせがまれる。
ヘフテはその頻度が少ないが、ダモンは多い。
私に対して腕を伸ばす姿に、マーツェは楽しそうに「いいじゃん。抱っこしてあげなよ」なんて言ってくるが、断固拒否である。
身体強化をかけて負担を軽くし、軽く治癒魔法もかけて体力を回復、無理やり自分で歩かせている。
どうやらそれぐらいには、親しく思われているらしい。
しかしヘフテとダモンからはまだ詳しい事情を聞けていない。
私は遠まわしに聞き出すことが苦手であるし、直球に聞いて子供とはいえ不審に思われるのは避けたい。
マーツェに事情を聞き出すのは任せたいところだが、2人、特にダモンは、マーツェに対して壁を作っている。
「探しに行ってみる?ヘフテが指さしてた方向。でもそうすると外れちゃうよね。魔物頻出地からは。今の目的とは逸れるな。最優先したいのは魔物被害を抑えることだからね」
「だが、魔王が倒されるのを待っていたら何年先になるかわからないぞ。その前にマーツェの寿命が尽きるだろうな」
「ごもっとも。そうだよね。…とりえずは聞き出せることを聞き出そうか。ヘフテとダモンから。いつまで旅についてくるかわからないし。念のため2人の魔力も調べたいね」
2人の魔力はまだ確かめられていない。
恐らくは十中八九、液体に粒子が混ざったような質感なのだろうとは思うが、確証を得たい。
秘密裏に他人の魔力を調べることは不可能だ。
魔力を見る際には、多少なりとも対象者へ魔力を介在させる必要がある。
他人の魔力が自身の体に微量でも入れば、それは違和となって知覚される。
怪我でもすれば治癒魔法を施すことで魔力を介在させて質を確かめられるのだが、ヘフテとダモンは怪我をしていない。
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