不死の魔法使いは鍵をにぎる

:-)

文字の大きさ
106 / 201

旅の目的

しおりを挟む
「結構な町を回ってるもんね。たくさんの人を助けてる。今後も似たようなことあるかもね」



マーツェは嬉しそうに言う。

魔物に食われた部位を蘇生するなどの、治癒不可能な怪我もあったが、今のところは全ての命を助けることが出来ている。
命を助ける、被害を減らすという目的を達成できている状態だ。


これを当分の間続けることになる。
面倒な状況になりそうだな。

予想されうる憂鬱な事態に舌打ちをした。





「ゲルハルト駄目だよそれ。舌打ちの癖直した方がいいよ。っていうか舌打ちする要素あった?今の話に」





少し話題に出ただけで同一人物だと気づける状況。
それだけ認識が広まっているということだろう。


治癒師でない者が町で他人に治癒魔法を施すなどほぼない。
それだけの腕があるならば、自身も治癒師となるか、勇者に着いて旅をするか、だ。

加えて、面を付けた奇怪な恰好に、旅にそぐわない子供連れ。
印象に残らないはずがない。



わかってはいたが、憂鬱であることに変わりはない。






「仕方なく治癒を施しているが、私は人間に認識されたいわけではない。関わりたいわけでもない。そうやって声をかけられるなんて迷惑だ」



好意的に広まってるんだから良いじゃん、というマーツェの言葉は無視した。



「ヘフテとダモンは人間に広く知られて不快じゃないのか?」



異形がばれないよう結界内に隠れ暮らしていたベスツァフ達。
褐色肌のズィリンダ達も、排他的に生活していた。


同じ一族だろう2人は危機感を覚えないのだろうか。







「別に?おいしいの、もらえるなら嬉しい」



マーツェから新たな食事を受け取り、口の周りを汚しながら食べているヘフテ。

一族の存在が知られる危機感や、迫害されるかもしれない不安などは感じていない模様。
口元が面で隠れているため表情はわかりづらいが、ダモンもさして気にしていないように見える。



「仲いいのが良い。仲良くできる場所、行きたい」



甘辛いタレを絡めて焼いた麺と野菜の料理。
そこから目線を外さずにそう言った。



「仲良くできる場所?それが2人の目的?それを目的に旅をしてるのか?」

「うん。探してる」






ようやく旅の目的らしいものを聞けた。


しかし“仲良くできる場所”に行きたいとは、酷く難解な目的ではないだろうか。
異形の部位を持つ者と人間どもが友好的に生活できる場、という意味なら不可能だろう。



この世のどこを歩いたところで見つかるわけがない。







「ゲルハルトとマーツェ、仲良し。2人の村に行けば、楽しく暮らせる」






ヘフテの言葉にマーツェと顔を見合わせてしまった。

仲が良いつもりは毛頭なく、その点に関しては甚だ疑問だが、ヘフテとダモンが私たちに付いてきた理由は理解できた。


面を被る私。
赤色肌のマーツェ。


ヘフテとダモンの目には、異形の者と普通の人間が友好的に行動を共にしているように見えたのだろう。

実際には、私は異形の者ではないし、森の奥深くに根城を構えていて村に所属もしていないのだが。






「そっか。ヘフテは仲良く暮らしたいんだね。ダモンと一緒に。今まではそれができなかったのか?だから村を出たの?」

「うん。ダモンは、敵の村。殺される、…かもしれないって怒られる」






どういうことだろうか。


ベスツァフ達のところでは、褐色肌と異形の者たちは協力関係にある。
接触して怒られるなんてあり得ないことだ。
ましてや、殺される可能性など考えないだろう。




褐色肌と異形の者は同じ一族だとベスツァフは言っていた。

同じ母親から、ある時は褐色肌が、あるときは異形の部位を持った者が産まれる。
見た目は確かに異なるが、同じ人間なのだと。

そうではない村もあるということなのか。
褐色肌と異形の者が協力関係にない村も存在するということなのか。



わからないことだらけだが、しかし1つ明らかなことがある。
ヘフテとダモンの揃った状態では、2人の村に行っても門前払いにされる可能性が高い。

“敵”“殺される”と子供に教える程なのだ。
互いの村で仲が悪いのは間違いない。









新たな魔物が現れたため、それ以上の話を聞くことはできなかった。

騒ぎに気づいたマーツェは一目散に駆けだす。
それを追いかけて様子を見れば、マーツェ一人で事足りそうな様子。
魔物はマーツェに任せることにして、怪我を負った者への治癒を優先する。


対処を終えた頃には日が暮れていた。
次の場所へと出立するつもりだったが、この町にもう一泊だ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

処理中です...