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秘密の魔具
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宿屋の食堂で食事をしていると、様々な者に話しかけられる。
面や子連れ旅の珍しさに話しかけてくる者。
治癒魔法や魔物討伐の礼を言いにくる者。
魔物の危険から町の外に出れない子供たちが、ヘフテとダモンに旅の様子を聞いていたりもする。
似た年頃の子供に話しかけられるのが嬉しいらしく、年相応に言葉をつっかえさせながら、いつもよりも饒舌にヘフテが話をしている。
ダモンも心なしか興奮している様子。
ヘフテに引っ付いて話しかけてくる子供らを楽し気な目で見つめている。
「お外は魔物がいっぱいで危険なんだって。剣のお姉ちゃんと治癒のお兄ちゃんがいるから出かけられるの?外に出れていいなあ」
「うん。危険。魔物いっぱい。でも違うよ。2人でも平気。秘密があるの」
「秘密?なになに?」
秘密という言葉に目を輝かせる子供。
その反応に自慢げに笑い、懐からヘフテが取り出した物。
小さな子供の両手の平程度の大きさのそれ。
中央に魔石がはめ込まれた、装飾の施された平たい板。
あれは魔具だ。
子供が持つ代物ではない。
見せられた子供はそれが何かを理解しておらず、綺麗だねとのんきな返答をしている。
魔具がほとんど流通しておらず、非常に貴重だった時代からはだいぶ時が進んだ。
今は大きな都市に行けば、高価ではあるがいくつか見掛けることはできる。
入手は以前に比べてしやすくなった。
かといって大人でも苦労して金を貯めて、ようやく手に入れられるかどうかという物なのだ。
子供が持てる物ではないし、ましてや持たせもしない。
家出の際に家から盗んできたのか?
そもそもあの魔具にはどういった効力があるのか。
魔物の危険から身を守れるという趣旨から話に出た魔具だから、防御の魔具か。
もしくは強力な攻撃用魔具なのか。
その“秘密”を使ってどう危険を避けてきたのかは子供らにはどうでもよいらしく、話は装飾物の自慢へと移っていた。
魔具の綺麗さに感化されたらしい。
指輪やら腕輪やら、各々自分の装飾物を見せびらかしている。
ヘフテは魔具をもう懐にしまっていた。
子供らのちゃちな装飾具に興奮状態だ。
後でゆっくり聞き出せばいいかと思っていたが、食事を終えて部屋に戻ったらヘフテとダモンはすぐに寝落ちてしまった。
興奮状態から電池が切れたらしい。
「寝るの早いね。ヘフテとダモン。もうちょっと起きてるよね。いつもは」
「子供らに話しかけられて興奮してたからじゃないのか。そこで興味深いものを見せびらかしていた」
「興味深いもの?なに?」
「魔具だ」
ヘフテとダモンが子供らと話していた簡単な流れ、取り出していた魔具の見た目などを説明する。
魔具を取り出していた時、マーツェは他の者と話していてこちらの様子を全く見ていなかったのだ。
「ふうん。魔具ね。勝手に持ち出したが濃厚だろうね。ゲルハルトの言う通り。子供に持たせるわけがない。こんな貴重なもの。魔具を確かめたいね。効力を見たいところだけど…」
寝ているヘフテとダモンを一瞥する。
相変わらずの寝姿。
丸くなってお互いに抱き着いて寝ている。
あれでは懐を探ることはできない。
「あれじゃ無理だ。本人から聞き出さないとだね」
ヘフテの持っていた魔具が防御用にせよ攻撃用にせよ、子供2人での旅に危険が伴うことに変わりはない。
完璧に防御できたとしても、魔物を倒せなければ先へは進めない。
強力に攻撃できたとしても、避けられれば魔物に倒される。
安全な街中を歩くような、のほほんとした態度ではいられないはずだ。
浅く息を吐いて、そういえばとマーツェが言葉を繋げる。
「食堂に居た勇者が言ってた。面を被った旅人を見たことがあるって。ひと月前くらいの話。私たち以外にそんな人たちがいるとはね」
「見たのはどの辺りだ」
「魔王城に近い森だよ。体力が持たなくて引き返そうかって時だったって。近くの村まで送ってくれたらしいよ。その面の旅人が。気になるのがね、魔物に襲われなかったんだって。村までの道筋で、一度も。不思議な話だよね」
魔王が立っている今この時期に、魔物と遭遇せずに森を歩けるなどあり得ない。
特に魔王城にほど近い森となれば、数歩歩けば新たな魔物というくらいには魔物が現れる。
「あり得ないだろう」
「うん。普通はね。私も信じられない。その勇者も言えなかったって。世迷言だと思われるからね。でも同じ面の旅人なら。私たちなら信じてくれるかもって」
「その面の旅人がどこへ行ったは知っているのか?」
「ううん。村についてすぐ別れたって。行先を訪ねても気の向くままっていう答え。礼したいって言っても断られたそうだよ」
面を付けた旅人。
魔物と遭遇しなかった道中。
ヘフテたちと関係がありそうな気もするが、果たして。
面や子連れ旅の珍しさに話しかけてくる者。
治癒魔法や魔物討伐の礼を言いにくる者。
魔物の危険から町の外に出れない子供たちが、ヘフテとダモンに旅の様子を聞いていたりもする。
似た年頃の子供に話しかけられるのが嬉しいらしく、年相応に言葉をつっかえさせながら、いつもよりも饒舌にヘフテが話をしている。
ダモンも心なしか興奮している様子。
ヘフテに引っ付いて話しかけてくる子供らを楽し気な目で見つめている。
「お外は魔物がいっぱいで危険なんだって。剣のお姉ちゃんと治癒のお兄ちゃんがいるから出かけられるの?外に出れていいなあ」
「うん。危険。魔物いっぱい。でも違うよ。2人でも平気。秘密があるの」
「秘密?なになに?」
秘密という言葉に目を輝かせる子供。
その反応に自慢げに笑い、懐からヘフテが取り出した物。
小さな子供の両手の平程度の大きさのそれ。
中央に魔石がはめ込まれた、装飾の施された平たい板。
あれは魔具だ。
子供が持つ代物ではない。
見せられた子供はそれが何かを理解しておらず、綺麗だねとのんきな返答をしている。
魔具がほとんど流通しておらず、非常に貴重だった時代からはだいぶ時が進んだ。
今は大きな都市に行けば、高価ではあるがいくつか見掛けることはできる。
入手は以前に比べてしやすくなった。
かといって大人でも苦労して金を貯めて、ようやく手に入れられるかどうかという物なのだ。
子供が持てる物ではないし、ましてや持たせもしない。
家出の際に家から盗んできたのか?
そもそもあの魔具にはどういった効力があるのか。
魔物の危険から身を守れるという趣旨から話に出た魔具だから、防御の魔具か。
もしくは強力な攻撃用魔具なのか。
その“秘密”を使ってどう危険を避けてきたのかは子供らにはどうでもよいらしく、話は装飾物の自慢へと移っていた。
魔具の綺麗さに感化されたらしい。
指輪やら腕輪やら、各々自分の装飾物を見せびらかしている。
ヘフテは魔具をもう懐にしまっていた。
子供らのちゃちな装飾具に興奮状態だ。
後でゆっくり聞き出せばいいかと思っていたが、食事を終えて部屋に戻ったらヘフテとダモンはすぐに寝落ちてしまった。
興奮状態から電池が切れたらしい。
「寝るの早いね。ヘフテとダモン。もうちょっと起きてるよね。いつもは」
「子供らに話しかけられて興奮してたからじゃないのか。そこで興味深いものを見せびらかしていた」
「興味深いもの?なに?」
「魔具だ」
ヘフテとダモンが子供らと話していた簡単な流れ、取り出していた魔具の見た目などを説明する。
魔具を取り出していた時、マーツェは他の者と話していてこちらの様子を全く見ていなかったのだ。
「ふうん。魔具ね。勝手に持ち出したが濃厚だろうね。ゲルハルトの言う通り。子供に持たせるわけがない。こんな貴重なもの。魔具を確かめたいね。効力を見たいところだけど…」
寝ているヘフテとダモンを一瞥する。
相変わらずの寝姿。
丸くなってお互いに抱き着いて寝ている。
あれでは懐を探ることはできない。
「あれじゃ無理だ。本人から聞き出さないとだね」
ヘフテの持っていた魔具が防御用にせよ攻撃用にせよ、子供2人での旅に危険が伴うことに変わりはない。
完璧に防御できたとしても、魔物を倒せなければ先へは進めない。
強力に攻撃できたとしても、避けられれば魔物に倒される。
安全な街中を歩くような、のほほんとした態度ではいられないはずだ。
浅く息を吐いて、そういえばとマーツェが言葉を繋げる。
「食堂に居た勇者が言ってた。面を被った旅人を見たことがあるって。ひと月前くらいの話。私たち以外にそんな人たちがいるとはね」
「見たのはどの辺りだ」
「魔王城に近い森だよ。体力が持たなくて引き返そうかって時だったって。近くの村まで送ってくれたらしいよ。その面の旅人が。気になるのがね、魔物に襲われなかったんだって。村までの道筋で、一度も。不思議な話だよね」
魔王が立っている今この時期に、魔物と遭遇せずに森を歩けるなどあり得ない。
特に魔王城にほど近い森となれば、数歩歩けば新たな魔物というくらいには魔物が現れる。
「あり得ないだろう」
「うん。普通はね。私も信じられない。その勇者も言えなかったって。世迷言だと思われるからね。でも同じ面の旅人なら。私たちなら信じてくれるかもって」
「その面の旅人がどこへ行ったは知っているのか?」
「ううん。村についてすぐ別れたって。行先を訪ねても気の向くままっていう答え。礼したいって言っても断られたそうだよ」
面を付けた旅人。
魔物と遭遇しなかった道中。
ヘフテたちと関係がありそうな気もするが、果たして。
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