不死の魔法使いは鍵をにぎる

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取引の成立

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「簡単に言いますね。現物ならまだわかります。

王が隠す資料を持ち出すとか。王を交渉の場に引きずり出すとか。それならね。

どう見極めるんですか?虚偽が払拭されたと。真実が広まったと。

主観的すぎる。達成できてないといくらでも言える。言い逃れできるでしょう」



非難の色を覗かせるマーツェ。



「実現できたとしても時間がかかります。短期間では不可能です。その間も王都を侵攻するのですか?侵攻し続けるのですか?

釣り合わないかと思います。要求の度合いが」


「ふむ。要求を呑むなら、王都侵攻は一旦止めよう。こちらも余計な被害は出したくない。

判断基準については、そうだな、人の王に声明を出させよう。王の隠す資料を最低3つ、各村や町に行き渡らせた上で、王の声明だ」









王が声明を出せば、時間はかかるが全ての村や町に広がる。
新たな魔王台頭の情報が広がっていく様と同様である。

しかし膨大な情報を事細かに伝えることはできない。
必ず漏れは存在し、王都から離れるにつれて少なからず情報も変質していく。

主要部分のみ王に声明を出させ、細かな情報は書物で伝えるというのは、妥当なところだろう。


3冊以上というのも納得できる。

書物自体が虚偽だと疑われる可能性があるが、複数冊あることで信憑性が出る。
情報伝達の早さも上がる。


もちろん大きな町の場合、書物3冊では圧倒的に足りないが。









「わかりました。判断基準はそうしましょう。では確認は?誰がどう確認しますか?」

「村や町の近くに仲間を配置する。結界がない場所なら、姿を人間に近づけて確認することができる。結界が張ってある町には入れないが、小さい村に伝達されるなら大きい町にもされていると考えていいだろう」





王都周辺に人口は集まり、離れるにつれて町や村の規模は小さく、人口も少なくなっている。
大概の情報が王都から発信され、徐々に離れた地へと伝わっていく。

小さい村で確認が取れれば大きい町でも同様だと判断するのは理にかなっている。


熟考したのちに、マーツェは承諾した。




「その条件で飲みましょう。私たちは真実を広める。資料を各町・村に配り、王に声明を出してもらう。達成を確認したら解呪、ですね。

1つ確認していいですか?争いを止めるのが目的なんですよね?虚偽を暴いて人間を混乱させる。新たな攻撃方法ではないですよね?争いを止め、人間との共存を目指す。そう捉えて大丈夫ですか?」


「ああ。間違いない」



念を押して確認したマーツェは、魔王の返答に表情を緩める。



「安心しました。信用しますね。その言葉を。返答を。ゲルハルトは?何かある?付けときたい条件とか。確認しておきたいこととか」

「そうだな。条件を達成したら確実に解呪するという、確証が欲しい。魔法で誓いを立てたい。できるか?」

「いいだろう」









改めて、条件を確認し紙に明記する。
魔王側の条件はこうだ。


王都への侵攻を止める。
人間へ攻撃を仕掛けることも止める。
しかし攻撃されて防衛する場合はこの限りではない。
ただし残虐はつくさないこと。

各村・町に魔物を配置し、様子を確認する。
結界が張られていない村には人間に変異し確認することもある。
その際、なるべく問題を起こさない行動を取ることとする。

各町・村に最低3冊の王族資料の配布、王の声明を確認した後には、魔王の呪いを解く。

人と魔物の共存を目指し、新たな争いは避けること。





対して、私とマーツェの条件はこうなった。


謝った史実を正すための行動を取る。
王族が隠している史実・情報・資料を世に広めること。
その際、各村・町に最低3冊は配布することとする。
王に声明を出させる。

声明の内容は、次の3点。
これまでの歴史認識は間違っていること。
かつての王が初代魔王を生み出したこと。
初代魔王は王に使えた部下であったこと。

人と魔物の共存を目指し、魔物・魔王討伐には加担しないこと。










魔物全体を率いる魔王と単なる一平民では立場や影響範囲が異なるため、これでおおよそ平等な条件であろうと三者同意した。


魔王とマーツェと私、3人で手を重ねて誓いを交わす。

平然とした態度を装っていたが、魔王が手を重ねた瞬間、マーツェは幽かに体を強張らせた。
マーツェは魔物嫌いと言っており、同様に魔王のことも嫌っているのであろう。

マーツェ、私、魔王の順で手を重ねたため、魔王には伝わっていないだろうが。





熱を持たない炎となり燃え去った紙を見届け、話し合いを終えた。
「またくるね」とダモンだけがにこやかに魔王へ手を振る。








解呪の目的は果たせなかった。
だが、条件を満たせば解呪するという確約は得た。


あと一歩。
もう目の前なのだ。
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