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遺言された冊子
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私のところに残ったのは純粋に治癒待ちの者だ。
騒がしさが少し納まり、軽く息をつく。
魔法で修理を行う場合、素材の理解は不可欠である。
例えば金属製の武具に対して木製の武具と認識して魔法を行使した場合。
弾性がありつつ強靭な金属は、簡単に切れる木材のように変質してしまう。
もしくは本来の質と反発することにより、修理ではなく破壊に至ることもある。
また、無から有を作り出すこともできない。
ひび割れた物や、分断されていても部品が揃っている物はいい。
回収しきれない程に粉砕されていたり、部品を無くしていた場合はその質量分縮小されてしまう。
魔法とて万能ではないのだ。
気を取り直して怪我人に向き直る。
「明日も修理は受け付けてもらえるか?」
「壊れたもん今度持ってくるよ。頼むな」
そう声をかけてくる者の多さに、少し後悔した。
…迂闊なことをしたな。
仕事が増えてしまった。
着々と怪我人を治し、治癒に並んでいた列も後1人だ。
次で最後か、と目の前の人物に目を向ける。
怪我らしき箇所が見当たらない。
「どこを治せばいいんだ」
「ああ、違うんだ。話がしたくて最後尾についていたんだ。いいかな?」
「構わない」
治癒魔法を使おうと構えていた右手を下ろす。
私の返答を聞いて、目の前の老人は目を細めた。
「エヌケルから君の話を聞いてここに来たんだ。ゲルハルトさんの弟子がいるってね。お弟子さんなら知ってるかな。フォルグネって人のことを」
「ああ、知っている」
この老人はエヌケルの友人なのだろうか。
フォルグネは、10以上年の離れた、まだ4歳のシュワーゼに心酔していた兵士だ。
会えばシュワーゼの話ばかり。
けれど顔が広く快活な人物だった。
「そうか。それは嬉しいな。フォルグネは私の祖父なんだ。私が小さいうちに亡くなってしまったから記憶はないんだが、可愛がってもらったらしい。酒を飲むと母はよく祖父の話をする。
祖父は田舎出身の兵士にしては異例の出世をしたらしくてね、それはシュワーゼさんが居たから出来たことなんだ。戦闘訓練に試験対策、たくさん世話になったんだと、シュワーゼさんには頭が上がらないと、よく言っていたらしい」
シュワーゼが処罰された直後の落胆具合は激しく、数日は魂が抜けたようになっていたフォルグネ。
シュワーゼの死後も延々とシュワーゼに関する話をしていたということなのだろう。
孫が会ったこともない祖父の知り合いの話を知っているなど、相当だ。
「ゲルハルトさんについては、祖父と同じくシュワーゼさんに世話になっていた人だと聞いている。毎日のようにシュワーゼさんの家に行っていて、軽く嫉妬していたらしい」
始めの頃を思い返すと、軽く嫉妬したどころではなくフォルグネには敵視されていた気がするが。
しかしこのフォルグネの孫とかいう老人が何を話したいのかが判然としない。
自分の話したいことだけ話すのは血筋だろうか。
「思い出話をしに来たのか?」
「ああ、すまない。違うんだ。渡したい物があって来たんだ」
そう言って、老人は懐から何かを取り出す。
薄い冊子だ。
「シュワーゼさんが亡くなった後に、祖父が記したものだ。ゲルハルトさんに渡してほしいと遺言があったんだが機会がなくてね。ゲルハルトさんは他に家族がいなかったんだろう?だったら、お弟子さんに渡すのがいいんじゃないかと思ってね」
シュワーゼの処罰後、王都を出入りしていたのは3、40年程だっただろうか。
何故だかブルデやレフラに会うことは多かったが、フォルグネに会った頻度はそう多くない。
フォルグネに最後に会ったのは、確かはやり病で亡くなる数年前だ。
会わなかったその数年のときに書き記していたのだろうか。
騒がしさが少し納まり、軽く息をつく。
魔法で修理を行う場合、素材の理解は不可欠である。
例えば金属製の武具に対して木製の武具と認識して魔法を行使した場合。
弾性がありつつ強靭な金属は、簡単に切れる木材のように変質してしまう。
もしくは本来の質と反発することにより、修理ではなく破壊に至ることもある。
また、無から有を作り出すこともできない。
ひび割れた物や、分断されていても部品が揃っている物はいい。
回収しきれない程に粉砕されていたり、部品を無くしていた場合はその質量分縮小されてしまう。
魔法とて万能ではないのだ。
気を取り直して怪我人に向き直る。
「明日も修理は受け付けてもらえるか?」
「壊れたもん今度持ってくるよ。頼むな」
そう声をかけてくる者の多さに、少し後悔した。
…迂闊なことをしたな。
仕事が増えてしまった。
着々と怪我人を治し、治癒に並んでいた列も後1人だ。
次で最後か、と目の前の人物に目を向ける。
怪我らしき箇所が見当たらない。
「どこを治せばいいんだ」
「ああ、違うんだ。話がしたくて最後尾についていたんだ。いいかな?」
「構わない」
治癒魔法を使おうと構えていた右手を下ろす。
私の返答を聞いて、目の前の老人は目を細めた。
「エヌケルから君の話を聞いてここに来たんだ。ゲルハルトさんの弟子がいるってね。お弟子さんなら知ってるかな。フォルグネって人のことを」
「ああ、知っている」
この老人はエヌケルの友人なのだろうか。
フォルグネは、10以上年の離れた、まだ4歳のシュワーゼに心酔していた兵士だ。
会えばシュワーゼの話ばかり。
けれど顔が広く快活な人物だった。
「そうか。それは嬉しいな。フォルグネは私の祖父なんだ。私が小さいうちに亡くなってしまったから記憶はないんだが、可愛がってもらったらしい。酒を飲むと母はよく祖父の話をする。
祖父は田舎出身の兵士にしては異例の出世をしたらしくてね、それはシュワーゼさんが居たから出来たことなんだ。戦闘訓練に試験対策、たくさん世話になったんだと、シュワーゼさんには頭が上がらないと、よく言っていたらしい」
シュワーゼが処罰された直後の落胆具合は激しく、数日は魂が抜けたようになっていたフォルグネ。
シュワーゼの死後も延々とシュワーゼに関する話をしていたということなのだろう。
孫が会ったこともない祖父の知り合いの話を知っているなど、相当だ。
「ゲルハルトさんについては、祖父と同じくシュワーゼさんに世話になっていた人だと聞いている。毎日のようにシュワーゼさんの家に行っていて、軽く嫉妬していたらしい」
始めの頃を思い返すと、軽く嫉妬したどころではなくフォルグネには敵視されていた気がするが。
しかしこのフォルグネの孫とかいう老人が何を話したいのかが判然としない。
自分の話したいことだけ話すのは血筋だろうか。
「思い出話をしに来たのか?」
「ああ、すまない。違うんだ。渡したい物があって来たんだ」
そう言って、老人は懐から何かを取り出す。
薄い冊子だ。
「シュワーゼさんが亡くなった後に、祖父が記したものだ。ゲルハルトさんに渡してほしいと遺言があったんだが機会がなくてね。ゲルハルトさんは他に家族がいなかったんだろう?だったら、お弟子さんに渡すのがいいんじゃないかと思ってね」
シュワーゼの処罰後、王都を出入りしていたのは3、40年程だっただろうか。
何故だかブルデやレフラに会うことは多かったが、フォルグネに会った頻度はそう多くない。
フォルグネに最後に会ったのは、確かはやり病で亡くなる数年前だ。
会わなかったその数年のときに書き記していたのだろうか。
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