不死の魔法使いは鍵をにぎる

:-)

文字の大きさ
142 / 201

未完成の施設

しおりを挟む
「私や父母には内容が理解できなかったんだが、お弟子さんならわかるかもしれない」




冊子を受け取って中を見てみる。
フォルグネが書いたらしき粗雑な字が並んでいる。


近頃訓練がうまくいかない。
いつも魔法制御のうまい兵士が魔法を暴発させた。
普段通り行使していたのに突然制御が乱れたということだ。
体調でも悪かったのだろうか。


訓練施設のある一角で魔法制御が乱れる事象が頻発しているようだ。
自分でも試してみたが、魔力が反発するような感覚を受けた。
未完成の施設だから仕方ない気もする。






ざっと見た感じ、兵士訓練中の失敗談のようだ。



「遺言してまで何故渡そうと思ったのかはわからないが、受け取ろう。感謝する」

「ああ。渡せずにいて母がずっと気に病んでたんだ。お弟子さんでも渡せてよかった」



この老人はお喋り好きらしい。

薄い冊子を受け取った後も、エヌケルとは家族ぐるみで付き合いがあるだの、娘がなかなか伴侶を見つけず心配だの、長々と喋ってから帰っていった。


話を聞いているうちにいつの間にかヘフテとダモンも戻ってきていたようだ。
交渉し終えたマーツェと共に卓に付き、食事を取っている。






「長かったね。最後の人」

「ああ。エヌケルの知り合いでフォルグネの孫でもあるらしい」

「へえ。そうなんだ。あ、先に報告しておくね。10数人引き受けたよ。修理の話。物は預かって部屋に置いてある。もらった代価も一緒にね。部屋がいっぱいになっちゃったよ」

「すまないな」

「いいよいいよ。修理引き受けた価値はある。結構良いものあったんだ。代価にさ。今後も続けようよ」

「嫌でもそうなるな。今度持ってくると言っていたのが数人いる」



溜息混じりに答え、自分の食事を注文。
情報共有を開始した。

ヘフテとダモンの話に重要そうな情報はない。
町の子供たちと徐々に打ち解けているようだ。


私とマーツェは魔物の様子を見に行ったこと。
民衆の意識をひっくり返す下地作りとして、土の魔力移動の普及や詩人を利用する案などについて話す。














「あと、フォルグネの孫だという老人からこれを受け取った」



先ほど受け取った冊子をマーツェの前に差し出す。



「私に渡してほしいとフォルグネが遺言していたらしい」

「へえ。フォルグネが?」





全員で中を見れるように卓に乗せたままマーツェが紙をめくっていく。

ヘフテとダモンはまだ文字を読めないだろうが、興味深そうに紙面を見つめている。






「訓練の記録みたいだね。未完成の施設…。そんなのあったっけ。魔法の失敗。ムラのある効力、か。

あ、これあれか。シュワーゼが処罰される頃に急造してた施設。魔法用の訓練施設のことかな。確か失敗に終わったんだよね。魔法用訓練施設としては未完成だ」


「失敗に終わったから武術や剣術の訓練にしか使ってないと聞いたぞ」

「それ施設ができたすぐ後の話でしょ?この記録もっと後だよ。フォルグネの立場が上がってる。その頃よりもずっと出世した立場だ。兵士の訓練を監督してるってことはね。

一応魔法は使えたんでしょ?魔法用訓練施設に性能が劣るといっても。結界の影響が取り除かれきれてない状態。つまり負荷がかかった状態での訓練になる。魔法制御の技術を効率的に向上させられるよ。通常の訓練よりも。おそらくね」










魔法用の訓練施設として、魔法陣を埋め込み建造した施設。
結果は思わしくなく、魔法用訓練施設としては不完全だった。

組み込んだ魔法陣が正常に作用するならば、結界外と同じように、問題なく魔法が使えるようになるはずだ。
しかし施設内での魔法使用には制限がかかった。


威力の減退。
度々の不発。
魔力消費量の増加。


施設の建造は失敗に終わった。



魔法訓練は諦め、武術・剣術の訓練に転用するとフォルグネから聞いた。

私は施設の建造には携わっていない。
だが魔法陣の仕組みや失敗原因は気になった。

ブルデに協力を頼んで資料を見させてもらったが、失敗に終わった要因はわからなかった。




その後、バウムに会ったり解呪方法を知ったりと、魔法用訓練施設への興味は薄れていた。

だからそれ以上を調べようとはしなかったが、そうか、変化があったのか。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

処理中です...