不死の魔法使いは鍵をにぎる

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未完成の施設

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「私や父母には内容が理解できなかったんだが、お弟子さんならわかるかもしれない」




冊子を受け取って中を見てみる。
フォルグネが書いたらしき粗雑な字が並んでいる。


近頃訓練がうまくいかない。
いつも魔法制御のうまい兵士が魔法を暴発させた。
普段通り行使していたのに突然制御が乱れたということだ。
体調でも悪かったのだろうか。


訓練施設のある一角で魔法制御が乱れる事象が頻発しているようだ。
自分でも試してみたが、魔力が反発するような感覚を受けた。
未完成の施設だから仕方ない気もする。






ざっと見た感じ、兵士訓練中の失敗談のようだ。



「遺言してまで何故渡そうと思ったのかはわからないが、受け取ろう。感謝する」

「ああ。渡せずにいて母がずっと気に病んでたんだ。お弟子さんでも渡せてよかった」



この老人はお喋り好きらしい。

薄い冊子を受け取った後も、エヌケルとは家族ぐるみで付き合いがあるだの、娘がなかなか伴侶を見つけず心配だの、長々と喋ってから帰っていった。


話を聞いているうちにいつの間にかヘフテとダモンも戻ってきていたようだ。
交渉し終えたマーツェと共に卓に付き、食事を取っている。






「長かったね。最後の人」

「ああ。エヌケルの知り合いでフォルグネの孫でもあるらしい」

「へえ。そうなんだ。あ、先に報告しておくね。10数人引き受けたよ。修理の話。物は預かって部屋に置いてある。もらった代価も一緒にね。部屋がいっぱいになっちゃったよ」

「すまないな」

「いいよいいよ。修理引き受けた価値はある。結構良いものあったんだ。代価にさ。今後も続けようよ」

「嫌でもそうなるな。今度持ってくると言っていたのが数人いる」



溜息混じりに答え、自分の食事を注文。
情報共有を開始した。

ヘフテとダモンの話に重要そうな情報はない。
町の子供たちと徐々に打ち解けているようだ。


私とマーツェは魔物の様子を見に行ったこと。
民衆の意識をひっくり返す下地作りとして、土の魔力移動の普及や詩人を利用する案などについて話す。














「あと、フォルグネの孫だという老人からこれを受け取った」



先ほど受け取った冊子をマーツェの前に差し出す。



「私に渡してほしいとフォルグネが遺言していたらしい」

「へえ。フォルグネが?」





全員で中を見れるように卓に乗せたままマーツェが紙をめくっていく。

ヘフテとダモンはまだ文字を読めないだろうが、興味深そうに紙面を見つめている。






「訓練の記録みたいだね。未完成の施設…。そんなのあったっけ。魔法の失敗。ムラのある効力、か。

あ、これあれか。シュワーゼが処罰される頃に急造してた施設。魔法用の訓練施設のことかな。確か失敗に終わったんだよね。魔法用訓練施設としては未完成だ」


「失敗に終わったから武術や剣術の訓練にしか使ってないと聞いたぞ」

「それ施設ができたすぐ後の話でしょ?この記録もっと後だよ。フォルグネの立場が上がってる。その頃よりもずっと出世した立場だ。兵士の訓練を監督してるってことはね。

一応魔法は使えたんでしょ?魔法用訓練施設に性能が劣るといっても。結界の影響が取り除かれきれてない状態。つまり負荷がかかった状態での訓練になる。魔法制御の技術を効率的に向上させられるよ。通常の訓練よりも。おそらくね」










魔法用の訓練施設として、魔法陣を埋め込み建造した施設。
結果は思わしくなく、魔法用訓練施設としては不完全だった。

組み込んだ魔法陣が正常に作用するならば、結界外と同じように、問題なく魔法が使えるようになるはずだ。
しかし施設内での魔法使用には制限がかかった。


威力の減退。
度々の不発。
魔力消費量の増加。


施設の建造は失敗に終わった。



魔法訓練は諦め、武術・剣術の訓練に転用するとフォルグネから聞いた。

私は施設の建造には携わっていない。
だが魔法陣の仕組みや失敗原因は気になった。

ブルデに協力を頼んで資料を見させてもらったが、失敗に終わった要因はわからなかった。




その後、バウムに会ったり解呪方法を知ったりと、魔法用訓練施設への興味は薄れていた。

だからそれ以上を調べようとはしなかったが、そうか、変化があったのか。
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