不死の魔法使いは鍵をにぎる

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記録の意図

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流し読みをしながらマーツェは紙をめくっていき、冊子の最後にたどり着く。

最後の紙に書かれていたのは、記録ではなくその意図だった。




『シュワーゼさんとゲルハルトが、一緒に何かを調べていたのを知っている。

シュワーゼさんは自ら施設建造に携われるようにしていた。

役に立つかはわからないが、ゲルハルトに渡すため、ここに記録を残すことにする。』





簡潔に書かれたフォルグネの言葉。
つまりはシュワーゼのためだ。

シュワーゼのために、フォルグネは私にこの冊子を残すことにしたのだ。






フォルグネは、シュワーゼと私が日々何かを調べていることに感づいていたらしい。


シュワーゼは魔法用訓練施設の建造に関わっていたが、それは無理やりねじ込んだものだ。
本来は関わることのない立場だった。

何をどうしたのかは知らないが、自分も仕事に関われるようにと、シュワーゼは手を尽くしたのだ。

シュワーゼが処罰された後に施設は完成した。
施設の完成も結果も、シュワーゼは知れずじまいだった。

当然、施設のその後を知ることもない。




出世し訓練監督という立場で施設を使うようになったフォルグネ。
訓練中、施設の不具合を目撃することになる。

慕っていたシュワーゼが生前興味を持っていた魔法陣。
それを組み込まれた魔法用の訓練施設。


本人に伝えることはできないが、その人と共に何かを調べていたらしい私はまだ生きている。

私に情報を渡して、それが生かされたのなら。
それは巡り巡ってシュワーゼのためになるだろう。



わざわざ親族に遺言をするほどだ。
余程フォルグネの中でシュワーゼの存在は大きかったらしい。












「やるな。フォルグネ。良い判断だよ。面白い情報だ。魔法陣の効力にムラがあるなんて。普通外部に漏らさないもんね。そんな不具合。聞いたことない不具合だ。これが建造直後からあったのか。年月が経って生じたのか。それによって変わりそうだよね」



マーツェは楽しそうに考えを巡らしている。

よかったなフォルグネ。
情報は本人の手に渡ったし、本人は至極喜んでいる。



「もしこの謎がわかったら使えるね。王との駆け引きに使える。交渉材料になるよ。実際に試せるといいんだけど。訓練施設に入りたいね」





施設自体は町の中に建てられており、誰でも見ることができる。

しかし兵士の訓練施設であるため、中に入れるのは基本兵士だけだ。
他に入れるとしたら、施設や兵士の報告をするという名目が与えられた官吏くらいだろう。



エヌケルに頼み込んだら入る望みはあるだろうか。



「ああ。策を考えよう」










ヘフテとダモンが船を漕ぎだしたため、部屋に戻ることにする。


旅の必要最低限な荷物しか置いていなかった部屋は、修理品や代価が置かれて狭苦しく思えた。

修理するものは大半がヒビの入った防具だ。
調理器具や靴も混ざっている。
面倒に思う前に修理を終わらせてしまおう。


防具やらが直っていく様子を見ながら、マーツェは代価として受け取ったものについて話す。



「代価は食べ物が多かったね。果物。加工肉。あ、書物もあるよ。これは教材だ。子供が文字を覚えるためのものだね。こっちは勇者録。

情報も手に入ったよ。ものが無かったら情報でも良いって言ったからね。王や王城の話。兵士や勇者の状況。不思議に思ったこと。普段と違うこと。なんでもいい。試しに話してみてって。

そしたら面白い話が聞けたよ。面付けた旅人の話。以前聞いた旅人の話と同じじゃないかな。近くの村まで送ってくれた旅人。道中魔物に襲われることがなかったっていう。その人も村まで一緒したんだって。で、魔物に襲われることはなかった。

まだその近くにいるかもね。数日前の話らしいから」


「なら明日その付近を探してみるか。どの村に送ってもらったんだ」

「お師匠さんの像がある村だよ。魔力制御の陣を伝えた村」

「あそこか。ここからそう遠くはないな」





徒歩なら丸一日の距離だ。


修理を終わらせ、2人でフォルグネの残した冊子を読み込みながら夜は更けていった。
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