144 / 201
聖人の村再訪
しおりを挟む
次の日、朝餉を食べてヘフテ・ダモンと別れてから、聖人として師匠のことが伝えられている村へと移動した。
呪いをかけられた青年を偶然助け、連れて行かれた村だ。
その時から変化はないようだ。
膝丈まで伸びた草が、踏み固められた道以外を埋め尽くしている。
「聖人の話を聞いた男がまだいるはずだ。まずそこに行ってみよう」
あの日1日、話を聞いただけだ。
どれだけ私のことを覚えているかはわからないが、会ってみる価値はあるだろう。
仮にもその男を救った恩人である。
情報は聞き出しやすいはずだ。
記憶を頼りに足を進め、1つの家にたどり着く。
扉を叩いて戸から顔を出したのは赤子を抱えた女だった。
私が助けた男の妹だ。
「どちらさん…、以前会ったことある?」
記憶の片隅に引っかかったようだ。
軽く眉をひそめながらの言葉。
「10年程前に来たことがある。お前の兄に馳走してもらった」
「あー、あの面のお兄さん。久しぶりじゃんか。女連れだ」
横に居るマーツェに目をやり、からかうように笑う。
「そういうんじゃないぞ。兄はいるか?」
「いま森に行ってる。もうすぐ帰ってくると思うけど。中で待つ?」
「すぐ戻ってくるならそうしよう」
誘いに乗り、家の中で男を待つことにする。
「とりあえず飲み物どーぞ」
「ありがとう。可愛いね。赤ちゃん。何ヶ月?」
「8ヶ月だよ。あんま人見知りしない子なんだ。抱いてみる?」
「うん」
慣れた手つきでマーツェが赤子を抱く。
赤子が泣くことはなく、長いマーツェの尻尾に興味をひかれたようだ。
手を伸ばして髪を引っ張っている。
妹の言葉通り、そう待たずに男は戻ってきた。
「ただいま。おやお客人…。んあ!もしかして前に助けてくれた兄ちゃんか?ひっさしぶりだなあ!」
近づくやいなや背中を力強く叩かれた。
森で狩ってきたらしきヤマドリを調理台に置き、改めて私たちに向き合う。
「助けてくれた時以来じゃないか!どうしたんだ。しかも女連れで。もしかして兄ちゃんの」
「そういうんじゃない。単なる旅の仲間だ。聞きたいことがあって来た」
「なんだつまらないな」
マーツェと居て初めて男女の仲を勘繰られた。
しかし私はマーツェのことを女とも男とも思っていない。
面でわからないだろうが盛大に顔をしかめる。
苛立ち混じりで答える私と心底おかしいと笑うマーツェ。
その様子に、男とその妹が顔を見合わせて、残念だと肩をすくめる。
「まあいいや。で、何が聞きたいって?」
勢いよく椅子に座って男は仕切りなおす。
赤子を返し、マーツェも椅子に座りなおした。
「最近、面を付けた旅人を私以外で見かけなかったか」
呪いをかけられた青年を偶然助け、連れて行かれた村だ。
その時から変化はないようだ。
膝丈まで伸びた草が、踏み固められた道以外を埋め尽くしている。
「聖人の話を聞いた男がまだいるはずだ。まずそこに行ってみよう」
あの日1日、話を聞いただけだ。
どれだけ私のことを覚えているかはわからないが、会ってみる価値はあるだろう。
仮にもその男を救った恩人である。
情報は聞き出しやすいはずだ。
記憶を頼りに足を進め、1つの家にたどり着く。
扉を叩いて戸から顔を出したのは赤子を抱えた女だった。
私が助けた男の妹だ。
「どちらさん…、以前会ったことある?」
記憶の片隅に引っかかったようだ。
軽く眉をひそめながらの言葉。
「10年程前に来たことがある。お前の兄に馳走してもらった」
「あー、あの面のお兄さん。久しぶりじゃんか。女連れだ」
横に居るマーツェに目をやり、からかうように笑う。
「そういうんじゃないぞ。兄はいるか?」
「いま森に行ってる。もうすぐ帰ってくると思うけど。中で待つ?」
「すぐ戻ってくるならそうしよう」
誘いに乗り、家の中で男を待つことにする。
「とりあえず飲み物どーぞ」
「ありがとう。可愛いね。赤ちゃん。何ヶ月?」
「8ヶ月だよ。あんま人見知りしない子なんだ。抱いてみる?」
「うん」
慣れた手つきでマーツェが赤子を抱く。
赤子が泣くことはなく、長いマーツェの尻尾に興味をひかれたようだ。
手を伸ばして髪を引っ張っている。
妹の言葉通り、そう待たずに男は戻ってきた。
「ただいま。おやお客人…。んあ!もしかして前に助けてくれた兄ちゃんか?ひっさしぶりだなあ!」
近づくやいなや背中を力強く叩かれた。
森で狩ってきたらしきヤマドリを調理台に置き、改めて私たちに向き合う。
「助けてくれた時以来じゃないか!どうしたんだ。しかも女連れで。もしかして兄ちゃんの」
「そういうんじゃない。単なる旅の仲間だ。聞きたいことがあって来た」
「なんだつまらないな」
マーツェと居て初めて男女の仲を勘繰られた。
しかし私はマーツェのことを女とも男とも思っていない。
面でわからないだろうが盛大に顔をしかめる。
苛立ち混じりで答える私と心底おかしいと笑うマーツェ。
その様子に、男とその妹が顔を見合わせて、残念だと肩をすくめる。
「まあいいや。で、何が聞きたいって?」
勢いよく椅子に座って男は仕切りなおす。
赤子を返し、マーツェも椅子に座りなおした。
「最近、面を付けた旅人を私以外で見かけなかったか」
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます
難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!?
ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。
「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる