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面の旅人に関する話
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「面の旅人?俺は知らないなあ」
「あ、見掛けたかもしんない」
兄は首を傾げたが、妹は思い当たるようだ。
「何?そんな話初耳だぞ」
「いや、話すほどでもないと思って。村近くで引き返したんだよその人。へろへろに疲れてた人を案内してたみたいなんだけど、その人が村に入ったのを見届けてどっか行っちゃったの」
「あんま家の外に出るなよ。魔物は出るし、この子もまだ小さいだろ」
「出なさすぎるのも良くないじゃん。良い天気だったしこの子に町の様子を見せてたんだよ。近所の人の顔とか、花とか、覚えた方がいいでしょ」
兄妹で口論へと発展しそうになり、マーツェが間に挟まる。
「まあまあ。大事だよね。どっちの意見も。外は危険だから家にっていうのも。赤ちゃんに外の様子を見せたいっていうのも。妹さんはどこで見たの?村からは出てないんでしょ?その面の人をどこで見たの?」
「村の出入口付近に花がたくさん咲いてるとこがあって。そこで花を見てたんだよ」
村の出入口の右側に、確かに花弁の小さな花が多く咲いている範囲があった。
人の手が入った花壇ではなく、雑草の種が飛んできて自然とできたものだ。
「話はしてない?面の人でも。もう1人の人でも」
「ううん。私は話してない。でも2軒隣の家の人が話しかけてたよ」
「そうなんだ。ありがとう。話聞いてみるよ」
「それを聞きにわざわざ来たのか?知り合いか?」
落ち着きを取り戻した兄が、水を飲みながら問いかけてくる。
「うん。知り合いではないけど。他でも聞いたんだ、似たような話。他の地域でもね。だから気になってさ。面の人は何がしたいんだろって」
「なるほどな。面付けてるってだけで目立つもんな」
にやりとからかいの表情で兄が私を見る。
舌打ちはこらえ、私は兄をにらみ返した。
マーツェは気にも留めずに話を続ける。
「他には何かあった?変わったこととか。何でもいいんだけど」
最近の出来事を思い浮かべ、「何かあったっけ?」と兄妹で顔を見合わせる。
しばし考えたのちに、兄の方が口を開いた。
「うーん。強いて言うなら、魔物に襲われなくなってきたことかな。森に食料取りに行っても、あんま姿を見掛けないんだ。普通むしろ逆で、どんどん襲われる頻度が増えるのにな」
魔法の誓いにより、魔物は人間を襲うことはできない。
出来るのは、人間側から攻撃されて防衛するのみである。
防衛する場合も、残虐は尽くさないと制限が掛けられている。
町を守れ、魔物を排除しろ、と常に攻撃態勢の兵士とは争いが絶えないが、魔物と争わずに済むならその方がいいと消極的な村人では状況が異なる。
向こうから襲われることがなければ、防衛を目的とした魔物の攻撃も行われない。
魔王が立ってまだ10年と経たない現在。
通常ならば魔物の勢いは激化していく一方だ。
魔物の姿を見掛けない日はなくなり、町の外に出れば襲われて生傷が増えていく。
いかに生き延びるか。
武具を整え、方法を模索し、家に居てもどこか神経が張りつめている。
そんな殺伐とした雰囲気が混ざり始めるものなのだ。
しかし魔王と交渉したことで、だいぶ状況が異なってきている。
前魔王がいた時代からは百十数年経っているため、状況を比べられる者はいない。
この異変を実感するにはまだ時間を要するだろう。
その他雑談も交わしつつ、ほどほどに会話を切り上げて2軒隣の家へと向かう。
40近そうな強面の男が話を聞かせてくれた。
町の外に出て薪木や食料を調達に行こうとした矢先、疲れ果てた青年と面の旅人を見掛けたようだ。
「村に入った途端、気が抜けたように座り込んでな。こりゃほっとけねえってんで近寄ったんだよ。面の人はな、ちょうど後ろ向いて引き返すとこで、ちらっと見ただけだわ。
何があった、無事か、って話しかけたら、開口一番、食べ物と飲み物をくれってんで、持ってた水と非常食を渡したよ。怪我とかじゃなく、単に飢えてただけだな。
武具が壊れて食料もつきて、困ってたところを面の人にここまで送ってもらったらしい。それなら水や食料も渡してくれればいいのにな。一晩うちで休ませて、元気なったから自分の村に帰っていったよ」
近くの村まで送り届けはするが、食料の施しなどはしないらしい。
面の旅人が送り届けている最中に飢え死にでもしたらどうするつもりなのだろうか。
いまいち目的がつかめない。
強面の男から聞き出せたのは、送り届けられた男の話だけだった。
去り際の姿しか見ていないのだから仕方ないか。
礼を述べ、村の他の者にも話を聞いてみる。
面の旅人と話をした者はいなかったが、去っていく姿を見掛けたという者が数人いた。
西北西に向かったというので、そっち方向に森を進んでみる。
「あ、見掛けたかもしんない」
兄は首を傾げたが、妹は思い当たるようだ。
「何?そんな話初耳だぞ」
「いや、話すほどでもないと思って。村近くで引き返したんだよその人。へろへろに疲れてた人を案内してたみたいなんだけど、その人が村に入ったのを見届けてどっか行っちゃったの」
「あんま家の外に出るなよ。魔物は出るし、この子もまだ小さいだろ」
「出なさすぎるのも良くないじゃん。良い天気だったしこの子に町の様子を見せてたんだよ。近所の人の顔とか、花とか、覚えた方がいいでしょ」
兄妹で口論へと発展しそうになり、マーツェが間に挟まる。
「まあまあ。大事だよね。どっちの意見も。外は危険だから家にっていうのも。赤ちゃんに外の様子を見せたいっていうのも。妹さんはどこで見たの?村からは出てないんでしょ?その面の人をどこで見たの?」
「村の出入口付近に花がたくさん咲いてるとこがあって。そこで花を見てたんだよ」
村の出入口の右側に、確かに花弁の小さな花が多く咲いている範囲があった。
人の手が入った花壇ではなく、雑草の種が飛んできて自然とできたものだ。
「話はしてない?面の人でも。もう1人の人でも」
「ううん。私は話してない。でも2軒隣の家の人が話しかけてたよ」
「そうなんだ。ありがとう。話聞いてみるよ」
「それを聞きにわざわざ来たのか?知り合いか?」
落ち着きを取り戻した兄が、水を飲みながら問いかけてくる。
「うん。知り合いではないけど。他でも聞いたんだ、似たような話。他の地域でもね。だから気になってさ。面の人は何がしたいんだろって」
「なるほどな。面付けてるってだけで目立つもんな」
にやりとからかいの表情で兄が私を見る。
舌打ちはこらえ、私は兄をにらみ返した。
マーツェは気にも留めずに話を続ける。
「他には何かあった?変わったこととか。何でもいいんだけど」
最近の出来事を思い浮かべ、「何かあったっけ?」と兄妹で顔を見合わせる。
しばし考えたのちに、兄の方が口を開いた。
「うーん。強いて言うなら、魔物に襲われなくなってきたことかな。森に食料取りに行っても、あんま姿を見掛けないんだ。普通むしろ逆で、どんどん襲われる頻度が増えるのにな」
魔法の誓いにより、魔物は人間を襲うことはできない。
出来るのは、人間側から攻撃されて防衛するのみである。
防衛する場合も、残虐は尽くさないと制限が掛けられている。
町を守れ、魔物を排除しろ、と常に攻撃態勢の兵士とは争いが絶えないが、魔物と争わずに済むならその方がいいと消極的な村人では状況が異なる。
向こうから襲われることがなければ、防衛を目的とした魔物の攻撃も行われない。
魔王が立ってまだ10年と経たない現在。
通常ならば魔物の勢いは激化していく一方だ。
魔物の姿を見掛けない日はなくなり、町の外に出れば襲われて生傷が増えていく。
いかに生き延びるか。
武具を整え、方法を模索し、家に居てもどこか神経が張りつめている。
そんな殺伐とした雰囲気が混ざり始めるものなのだ。
しかし魔王と交渉したことで、だいぶ状況が異なってきている。
前魔王がいた時代からは百十数年経っているため、状況を比べられる者はいない。
この異変を実感するにはまだ時間を要するだろう。
その他雑談も交わしつつ、ほどほどに会話を切り上げて2軒隣の家へと向かう。
40近そうな強面の男が話を聞かせてくれた。
町の外に出て薪木や食料を調達に行こうとした矢先、疲れ果てた青年と面の旅人を見掛けたようだ。
「村に入った途端、気が抜けたように座り込んでな。こりゃほっとけねえってんで近寄ったんだよ。面の人はな、ちょうど後ろ向いて引き返すとこで、ちらっと見ただけだわ。
何があった、無事か、って話しかけたら、開口一番、食べ物と飲み物をくれってんで、持ってた水と非常食を渡したよ。怪我とかじゃなく、単に飢えてただけだな。
武具が壊れて食料もつきて、困ってたところを面の人にここまで送ってもらったらしい。それなら水や食料も渡してくれればいいのにな。一晩うちで休ませて、元気なったから自分の村に帰っていったよ」
近くの村まで送り届けはするが、食料の施しなどはしないらしい。
面の旅人が送り届けている最中に飢え死にでもしたらどうするつもりなのだろうか。
いまいち目的がつかめない。
強面の男から聞き出せたのは、送り届けられた男の話だけだった。
去り際の姿しか見ていないのだから仕方ないか。
礼を述べ、村の他の者にも話を聞いてみる。
面の旅人と話をした者はいなかったが、去っていく姿を見掛けたという者が数人いた。
西北西に向かったというので、そっち方向に森を進んでみる。
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