151 / 201
孤児の利用
しおりを挟む
「…孤児なら、都合がいいんじゃないか?」
「何がだ」
「“普通”を教えるのにだよ。言い方が悪くなるけど、孤児なら他に頼るところもない。
食事と住処を保証する。そうしたら離れられない。ダモンが“普通”じゃないと気づいても。私たちから逃げられない。言いふらすようなことも無いでしょう。自分の立場も悪くなるんだから。
食事と住処がなくなるかもしれない。他者から“普通”じゃない仲間だと排他されるかもしれない。都合がいいよ」
特に反対する理由はなかった。
ダモン1人だけが違うとそのうち気が付くだろうが、孤児なら囲ってしまえる。
帰る家が私たちのところなら、親や周りの連中に話しまわられる心配も少ない。
食事と住処を盾に脅すこともできる。
果物取りを再開していたヘフテとダモンからさらに詳しく話を聞き出した。
相手は3人。
背丈の感じから恐らく10歳前後の男と、5歳前後の男女。
汚れた衣服や影に隠れていたことから、金も家も何も持っていないことは間違いないだろう。
店主の怒りようからして、恐らく顔を覚えられている。
何度も盗みを働いているのだ。
けれどそれで十分に生活できているわけではない。
痩せた体は栄養が足りていない証拠だ。
今の状況では先が無いことはわかっているだろう。
付け入る隙はいくらでもある。
上の兄はある程度成長しているのだから、理詰めで説得できるはずだ。
こちらが差し出すのは食事と住処。
弟妹の空腹を満たすことができる。
雨風にさらされない寝床を確保できる。
痩せた体ではふらつくこともあっただろう。
それでも盗みを働き逃げ回る日々とも別れられる。
代わりに、ダモンが皆とは違う体を持っていることは黙っていてもらう。
弟妹はともかく、兄の方は既にそいつなりの常識を手に入れているだろう。
“普通”を教え込むよりも交渉したほうがいい。
ヘフテとダモンにも考えを話す。
まず孤児という概念からだ。
子供が物を盗んで生活するという状況を理解できていない。
親がいないこと。
働くこともできず、生きるためには盗むしかないこと。
しかしそれは悪行であり、必ず痛い目に合う。
私たちは食事と住処を与えて、共同生活をしていきたい。
その中で、ダモンのような違った体を持つ者がいる“普通”を教えていく。
ヘフテとダモンが仲良くできる場所を作るための、第一歩だ。
親がいない状況はいまいち想像できなかったようだが、提案には喜んで賛成した。
ずっと村や町を回って調べ回る日々だった。
楽しく子供たちと遊んでいたヘフテたちだが、自分たちの望みに近づいていない不安もあっただろう。
漸く一歩を踏み出せる。
両手いっぱいに果物を抱えて、ヘフテとダモンは村に戻る。
家と家の狭い間、物が置かれている隙間など、大人では通りにくい道を抜けていく。
「取ってきた、たくさん」
ヘフテの言葉に弟妹は素直に喜んだ。
兄の方は、幼い子供が本当に果物を取ってきたという驚愕の表情。
それに大人を連れてきた警戒も入り混じっている。
「誰だよそいつら」
「ゲルハルトと、マーツェ」
返答になっているようで、なっていない。
弟妹たちがヘフテとダモンが持ってきた果物に夢中になっている横で、私とマーツェを静かに睨む。
「保護者みたいなもんだよ。その子たち、ヘフテとダモンの。君たち、孤児でしょ?面倒みてあげようか。食事と寝床を提供してもいい」
「は?馬鹿にしてんのか」
「馬鹿にしてないよ。もちろんただじゃない。こっちにも要求がある。でも悪い話じゃないと思うよ。聞いてみるだけ聞いてみないか?」
睨む視線は鋭さを増すばかりだ。
その様子を見て、ヘフテが兄に近づく。
果物を1つ渡しながら言う。
「大丈夫だよ。ゲルハルトも、マーツェも、優しいよ。“普通”を知ってほしいだけだよ」
「何言ってんだお前。女はともかく、面被ってる奴は怪しさしかねえぞ!」
私を指さして苛立った声を上げる。
否定はしない。
面を付けている者などほぼいない。
遊びで付けそうな子供ならともかく、大の大人だ。
怪しいと思うのは当然だ。
私を怪しいと思う程度には、兄はすでに大人連中と同様の考えに染まっている。
「何がだ」
「“普通”を教えるのにだよ。言い方が悪くなるけど、孤児なら他に頼るところもない。
食事と住処を保証する。そうしたら離れられない。ダモンが“普通”じゃないと気づいても。私たちから逃げられない。言いふらすようなことも無いでしょう。自分の立場も悪くなるんだから。
食事と住処がなくなるかもしれない。他者から“普通”じゃない仲間だと排他されるかもしれない。都合がいいよ」
特に反対する理由はなかった。
ダモン1人だけが違うとそのうち気が付くだろうが、孤児なら囲ってしまえる。
帰る家が私たちのところなら、親や周りの連中に話しまわられる心配も少ない。
食事と住処を盾に脅すこともできる。
果物取りを再開していたヘフテとダモンからさらに詳しく話を聞き出した。
相手は3人。
背丈の感じから恐らく10歳前後の男と、5歳前後の男女。
汚れた衣服や影に隠れていたことから、金も家も何も持っていないことは間違いないだろう。
店主の怒りようからして、恐らく顔を覚えられている。
何度も盗みを働いているのだ。
けれどそれで十分に生活できているわけではない。
痩せた体は栄養が足りていない証拠だ。
今の状況では先が無いことはわかっているだろう。
付け入る隙はいくらでもある。
上の兄はある程度成長しているのだから、理詰めで説得できるはずだ。
こちらが差し出すのは食事と住処。
弟妹の空腹を満たすことができる。
雨風にさらされない寝床を確保できる。
痩せた体ではふらつくこともあっただろう。
それでも盗みを働き逃げ回る日々とも別れられる。
代わりに、ダモンが皆とは違う体を持っていることは黙っていてもらう。
弟妹はともかく、兄の方は既にそいつなりの常識を手に入れているだろう。
“普通”を教え込むよりも交渉したほうがいい。
ヘフテとダモンにも考えを話す。
まず孤児という概念からだ。
子供が物を盗んで生活するという状況を理解できていない。
親がいないこと。
働くこともできず、生きるためには盗むしかないこと。
しかしそれは悪行であり、必ず痛い目に合う。
私たちは食事と住処を与えて、共同生活をしていきたい。
その中で、ダモンのような違った体を持つ者がいる“普通”を教えていく。
ヘフテとダモンが仲良くできる場所を作るための、第一歩だ。
親がいない状況はいまいち想像できなかったようだが、提案には喜んで賛成した。
ずっと村や町を回って調べ回る日々だった。
楽しく子供たちと遊んでいたヘフテたちだが、自分たちの望みに近づいていない不安もあっただろう。
漸く一歩を踏み出せる。
両手いっぱいに果物を抱えて、ヘフテとダモンは村に戻る。
家と家の狭い間、物が置かれている隙間など、大人では通りにくい道を抜けていく。
「取ってきた、たくさん」
ヘフテの言葉に弟妹は素直に喜んだ。
兄の方は、幼い子供が本当に果物を取ってきたという驚愕の表情。
それに大人を連れてきた警戒も入り混じっている。
「誰だよそいつら」
「ゲルハルトと、マーツェ」
返答になっているようで、なっていない。
弟妹たちがヘフテとダモンが持ってきた果物に夢中になっている横で、私とマーツェを静かに睨む。
「保護者みたいなもんだよ。その子たち、ヘフテとダモンの。君たち、孤児でしょ?面倒みてあげようか。食事と寝床を提供してもいい」
「は?馬鹿にしてんのか」
「馬鹿にしてないよ。もちろんただじゃない。こっちにも要求がある。でも悪い話じゃないと思うよ。聞いてみるだけ聞いてみないか?」
睨む視線は鋭さを増すばかりだ。
その様子を見て、ヘフテが兄に近づく。
果物を1つ渡しながら言う。
「大丈夫だよ。ゲルハルトも、マーツェも、優しいよ。“普通”を知ってほしいだけだよ」
「何言ってんだお前。女はともかく、面被ってる奴は怪しさしかねえぞ!」
私を指さして苛立った声を上げる。
否定はしない。
面を付けている者などほぼいない。
遊びで付けそうな子供ならともかく、大の大人だ。
怪しいと思うのは当然だ。
私を怪しいと思う程度には、兄はすでに大人連中と同様の考えに染まっている。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます
難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!?
ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。
「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる