不死の魔法使いは鍵をにぎる

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孤児の利用

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「…孤児なら、都合がいいんじゃないか?」

「何がだ」

「“普通”を教えるのにだよ。言い方が悪くなるけど、孤児なら他に頼るところもない。

食事と住処を保証する。そうしたら離れられない。ダモンが“普通”じゃないと気づいても。私たちから逃げられない。言いふらすようなことも無いでしょう。自分の立場も悪くなるんだから。

食事と住処がなくなるかもしれない。他者から“普通”じゃない仲間だと排他されるかもしれない。都合がいいよ」






特に反対する理由はなかった。


ダモン1人だけが違うとそのうち気が付くだろうが、孤児なら囲ってしまえる。
帰る家が私たちのところなら、親や周りの連中に話しまわられる心配も少ない。

食事と住処を盾に脅すこともできる。





果物取りを再開していたヘフテとダモンからさらに詳しく話を聞き出した。


相手は3人。
背丈の感じから恐らく10歳前後の男と、5歳前後の男女。

汚れた衣服や影に隠れていたことから、金も家も何も持っていないことは間違いないだろう。

店主の怒りようからして、恐らく顔を覚えられている。
何度も盗みを働いているのだ。



けれどそれで十分に生活できているわけではない。
痩せた体は栄養が足りていない証拠だ。

今の状況では先が無いことはわかっているだろう。
付け入る隙はいくらでもある。



上の兄はある程度成長しているのだから、理詰めで説得できるはずだ。
こちらが差し出すのは食事と住処。

弟妹の空腹を満たすことができる。
雨風にさらされない寝床を確保できる。

痩せた体ではふらつくこともあっただろう。
それでも盗みを働き逃げ回る日々とも別れられる。


代わりに、ダモンが皆とは違う体を持っていることは黙っていてもらう。




弟妹はともかく、兄の方は既にそいつなりの常識を手に入れているだろう。
“普通”を教え込むよりも交渉したほうがいい。












ヘフテとダモンにも考えを話す。


まず孤児という概念からだ。
子供が物を盗んで生活するという状況を理解できていない。


親がいないこと。
働くこともできず、生きるためには盗むしかないこと。

しかしそれは悪行であり、必ず痛い目に合う。



私たちは食事と住処を与えて、共同生活をしていきたい。
その中で、ダモンのような違った体を持つ者がいる“普通”を教えていく。

ヘフテとダモンが仲良くできる場所を作るための、第一歩だ。




親がいない状況はいまいち想像できなかったようだが、提案には喜んで賛成した。


ずっと村や町を回って調べ回る日々だった。


楽しく子供たちと遊んでいたヘフテたちだが、自分たちの望みに近づいていない不安もあっただろう。
漸く一歩を踏み出せる。











両手いっぱいに果物を抱えて、ヘフテとダモンは村に戻る。
家と家の狭い間、物が置かれている隙間など、大人では通りにくい道を抜けていく。



「取ってきた、たくさん」






ヘフテの言葉に弟妹は素直に喜んだ。

兄の方は、幼い子供が本当に果物を取ってきたという驚愕の表情。
それに大人を連れてきた警戒も入り混じっている。






「誰だよそいつら」

「ゲルハルトと、マーツェ」




返答になっているようで、なっていない。


弟妹たちがヘフテとダモンが持ってきた果物に夢中になっている横で、私とマーツェを静かに睨む。





「保護者みたいなもんだよ。その子たち、ヘフテとダモンの。君たち、孤児でしょ?面倒みてあげようか。食事と寝床を提供してもいい」

「は?馬鹿にしてんのか」

「馬鹿にしてないよ。もちろんただじゃない。こっちにも要求がある。でも悪い話じゃないと思うよ。聞いてみるだけ聞いてみないか?」





睨む視線は鋭さを増すばかりだ。


その様子を見て、ヘフテが兄に近づく。
果物を1つ渡しながら言う。






「大丈夫だよ。ゲルハルトも、マーツェも、優しいよ。“普通”を知ってほしいだけだよ」

「何言ってんだお前。女はともかく、面被ってる奴は怪しさしかねえぞ!」





私を指さして苛立った声を上げる。





否定はしない。

面を付けている者などほぼいない。
遊びで付けそうな子供ならともかく、大の大人だ。

怪しいと思うのは当然だ。




私を怪しいと思う程度には、兄はすでに大人連中と同様の考えに染まっている。
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