不死の魔法使いは鍵をにぎる

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本腰入れて下地作り

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結界避け魔法陣の実験がひと段落し、本格的に下地作りへと乗り出す。




保護した孤児の数は50を超えた。

魔力制御が優れている者。
剣の扱いが優れている者。
人の懐にもぐりこむのが優れている者。

ワイセのように協力を希望した者には、それぞれで役割を与えた。





魔力制御が優れている者には、作物の実り改善を。

育ちが悪くなってきたと悩むものは王都から離れた村に多い。
その村に送り込み、土から不要な魔力を取り除く方法を市民に教える。



剣の扱いが優れている者は、兵士として王城に。

エヌケルの言葉に乗っかり、職を用意してもらった。
しばらくは訓練続きだろうが、そのうち王城内部へ足を踏み入れる機会も来るかもしれない。



人の懐にもぐりこむのが優れている者には、人脈構成を。

知り合いを増やしたり、店員として中に入り込んだり。
個々人によってやり方は異なるが、関係を構築してもらっている。





いずれも、情報収集と噂流しが目的である。

魔物も人間との共存を望んでいること。
なぜ魔法陣は長らく悪魔の技だと忌避されていたのか。
魔王はどうして王都に侵攻してくるのか。


人間が善で魔物が悪だと、そう刷り込まれている認識に少しでも疑いが生じるように。
じわじわと普及させていく。




兵士やどこかの町で店員になると、こちら都合で休ませることはできない。
森の根城から送り出す人数が格段に増えた。

毎朝一苦労である。











自身での調査や、食堂での治癒・修理はまだ継続している。


魔物は倒すべしという概念に未だ凝り固まっている兵士たち。
魔物と争い怪我を作っては治癒師の厄介になっているようだ。

対策を話し合い、次の策を練り、ピリついた雰囲気に変わりはない。



しかし自ら戦いを吹きかけることをしない市民には、少しずつ穏やかな空気が流れ始めていた。

いつ命を失うかわからない。
魔物から身を守るにはどうしたらいいのか。

そういった恐れが薄れていた。



魔物が共存を望んでいるという、流し始めた噂を耳にした者もいるのだろう。
時たま話しているのを聞く。

魔物と人間の共存なんて本当に考えているのか。
いやまさか有り得ないだろう。
だが魔物と共にいる子供の姿を見たことがあるぞ。


これはヘフテとダモンの姿である。
近頃のヘフテとダモンは、町や村で子供たちと交流していることもあれば、森に出て魔物と交流していることもある。

魔王から魔物側の意思も伝わる魔法陣を教わったのだ。
触れている者同士が意思疎通できる魔法陣。



それによって、魔物側の話も聞けるようになった。

あの町の者は魔物への警戒心が高く、姿を見せるだけで逃げる。
あの村の者は攻撃されないと解って、じっと観察してくるようになった。



懐柔しやすそうかどうか、魔物目線から判断できる。







村の子供を共に森へ連れて行くこともあるらしい。

家も家族もあるが、満足に食事を取れない家もある。
そんな腹を空かせた子供を連れて果実採取をするのだ。



魔物が襲ってこないどころか、果実が実っている場所へ案内してくれる。
この経験は大きいだろう。



安全のため、子供は塀の外には出してもらえない。

魔物に襲われた経験のない子供。
魔物への恐怖心が薄い子供。


森を案内する大人しい姿の魔物に、親しさすら覚えるかもしれない。
将来この世界を担っていく子供たち。

魔物に対する前向きな感情は、世界を大きく変えるはずだ。



あらゆる種をばらまいていきたい。
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