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新しい町の始動
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大願成就し気が抜けるという暇もなく、私とマーツェは共存のために奔走していた。
魔王と話が詰められたため、すんなりと事は進んでいった。
王城側の残った細かい部分を詰める。
お触れを出し、町民の募集。
不平が出ないよう官吏が住居地を区切り、あてがう。
魔物に資材を運ばせ、集まった住民に仕事を割り振っていく。
塀が出来、家が建てられ、少しずつ町らしくなっていく。
新しい町民と魔物の様子は、比較的良好だった。
嫌悪感を持たずに育った子供たちは、動物と同じように魔物と接する。
中には困窮に耐えられず移住してきた魔物に慣れていない者もいたが、魔物と距離を取りつつも問題は起こしていない。
そのうちに距離は縮まっていくはずだ。
新しい町づくりに協力する魔物は、様々な姿をしている。
頭や尻尾が複数。目が一つ。
動物に似ているがそれよりも巨体。
加えて、魔物に近いが一部人間と似た部位を持つ者も混ぜてもらった。
人と同じ片腕を持つ者。
足先だけ人間と同じ者。
徐々に慣れてもらい、ゆくゆくはダモンやジーグなど、ほぼ人間に近いが一部魔物と同じ部位を持つ者も普通に暮らせるようにする計画だ。
魔物と人間が共存する新しい町を作った影響で、懐疑派と保留派が賛同派へと傾く動きも見られる。
否定派の人数も多少減ったようだ。
王の声明時に散らばりを見せた民たちが、少しずつまとまってきた。
王は幾度か話し合うため魔王城に赴き、一度魔王が王城を訪れたこともあった。
事前に民へ知らせを出し、兵士が魔王を迎えに行った。
道中に民と衝突があってはならない。
起こさせてはならない。
共存に向かってなんとか歩んだ数歩も無駄になってしまう。
慎重を期しつつ、魔王の歩みよりを民に見せつける。
王の送迎に使う馬車を用い、魔王を乗せた。
王用の豪奢で幅を取る馬車。
ゆったりと乗れるように高さも広さもあるはずの馬車も、魔王にとっては小さい。
窮屈そうに乗る魔王。
自らの足で移動したほうがずっと早く到着するが、それでは民に恐怖感を与えてしまうだろう。
民への安心感。
魔王の友好的な態度。
人間への、人間からの、お互いの歩み寄り。
諸々のため、魔王には狭い馬車に留まってもらった。
魔王の乗る馬車は道中で衆目を集めた。
王の身姿を少しでも近くで見ようとするのとは異なり、大多数の民が距離を取って馬車を眺めていたが。
一部では反対派による妨害運動も見られた。
馬車の前に立ちふさがり、行く手を阻む。
魔物との共存など不可能だと叫び、凶器をかざす。
馬車の周りを固めていた兵士は素早く動き、反対派の乱暴を食い止めた。
抑え込んだまま馬車を進めてその場を突破することもできたが、魔王は対話を望んだ。
「私を殺せば満足なのか」
馬車の窓から顔を出し話しかけてくる魔王に一瞬怯む反対派。
兵士に後ろ手にされながらも叫ぶ。
「そうだよ!お前のせいで苦しんだんだ!弟が死んだ!友が死んだ!その恨みを忘れて仲良くやれなんてできるか!」
「それは私も同じだ。多くの仲間が殺された。フォルファ様の恨みもある。それでも前に進みたい」
「そんなん出任せじゃねえのか!?王と仲良くやる振りして人間を滅ぼすつもりだろ!魔王の言うことなんて信じられるかよ!」
「それは王の言をも疑うということか。声明も、その補足情報も、王自らのものだ。王族の持つ情報だ。虚偽など何一つない」
「はっ!口でならどうとでも言える!俺は認めねえぞ!魔王は倒す!倒してこそ平和を掴めるんだ!」
「私を倒しても平和は訪れない。復讐の連鎖が続くだけだ。互いが共に遺恨なく手を結ぶことは不可能だ。涙を飲み、妥協点を模索するしかない」
「妥協点なんか無えよ!この恨みは晴らす!お前を殺す!」
聞く耳を持たない様子に魔王は溜息をついた。
言葉を歪めて受け止められる。
真摯に言葉を紡いでも、彼を説得できはしまい。
それでもなお言葉を探そうとする魔王。
喚く反対派を拘束していた兵士が口を挟んだ。
「争いが長引けば苦しむのは私たちだ」
「はあっ!?」
後ろから突然投げかけられた言葉に、振り返ろうとして反対派は顔を歪めた。
拘束されているため体を動かせない。
「魔王を倒そうとしたらまだ何十年とかかる。それまでにどれだけの死者が出ることか。魔物に殺されずとも飢えて死ぬ者がいる。親が殺されて孤児も出る。自分が生き延びるので精一杯の中で孤児など見捨てられるだけだ。王はこの未来を変えたいと仰っている。私たちを救いたいと仰っている。それを侮蔑するのか」
口を挟んだのはワイセだった。保安隊の任で魔王の馬車についていたのだ。
「国の未来のため、民の安全のために争いを止めるのだと、王は仰っていただろう。声明の後に頒布した書物にも書いてあった。それを嘲るのか。私は王を支持する。兵士の立場でなくとも支持する。孤児として生きる日々は地獄だ。争いが続けば孤児は増える。それを止めるため行動した王は素晴らしい。そんな民を思う王だからこそ、他の民も賛同しているのだろう」
淡々とした言い方だった。
けれど表情は険しく、視線は鋭い。
ワイセの母親も魔物に殺されている。
憎む気持ちもあるだろう。
けれど共存を望んだのだ。
自分と同じ孤児をこれ以上出さないために。
魔王と話が詰められたため、すんなりと事は進んでいった。
王城側の残った細かい部分を詰める。
お触れを出し、町民の募集。
不平が出ないよう官吏が住居地を区切り、あてがう。
魔物に資材を運ばせ、集まった住民に仕事を割り振っていく。
塀が出来、家が建てられ、少しずつ町らしくなっていく。
新しい町民と魔物の様子は、比較的良好だった。
嫌悪感を持たずに育った子供たちは、動物と同じように魔物と接する。
中には困窮に耐えられず移住してきた魔物に慣れていない者もいたが、魔物と距離を取りつつも問題は起こしていない。
そのうちに距離は縮まっていくはずだ。
新しい町づくりに協力する魔物は、様々な姿をしている。
頭や尻尾が複数。目が一つ。
動物に似ているがそれよりも巨体。
加えて、魔物に近いが一部人間と似た部位を持つ者も混ぜてもらった。
人と同じ片腕を持つ者。
足先だけ人間と同じ者。
徐々に慣れてもらい、ゆくゆくはダモンやジーグなど、ほぼ人間に近いが一部魔物と同じ部位を持つ者も普通に暮らせるようにする計画だ。
魔物と人間が共存する新しい町を作った影響で、懐疑派と保留派が賛同派へと傾く動きも見られる。
否定派の人数も多少減ったようだ。
王の声明時に散らばりを見せた民たちが、少しずつまとまってきた。
王は幾度か話し合うため魔王城に赴き、一度魔王が王城を訪れたこともあった。
事前に民へ知らせを出し、兵士が魔王を迎えに行った。
道中に民と衝突があってはならない。
起こさせてはならない。
共存に向かってなんとか歩んだ数歩も無駄になってしまう。
慎重を期しつつ、魔王の歩みよりを民に見せつける。
王の送迎に使う馬車を用い、魔王を乗せた。
王用の豪奢で幅を取る馬車。
ゆったりと乗れるように高さも広さもあるはずの馬車も、魔王にとっては小さい。
窮屈そうに乗る魔王。
自らの足で移動したほうがずっと早く到着するが、それでは民に恐怖感を与えてしまうだろう。
民への安心感。
魔王の友好的な態度。
人間への、人間からの、お互いの歩み寄り。
諸々のため、魔王には狭い馬車に留まってもらった。
魔王の乗る馬車は道中で衆目を集めた。
王の身姿を少しでも近くで見ようとするのとは異なり、大多数の民が距離を取って馬車を眺めていたが。
一部では反対派による妨害運動も見られた。
馬車の前に立ちふさがり、行く手を阻む。
魔物との共存など不可能だと叫び、凶器をかざす。
馬車の周りを固めていた兵士は素早く動き、反対派の乱暴を食い止めた。
抑え込んだまま馬車を進めてその場を突破することもできたが、魔王は対話を望んだ。
「私を殺せば満足なのか」
馬車の窓から顔を出し話しかけてくる魔王に一瞬怯む反対派。
兵士に後ろ手にされながらも叫ぶ。
「そうだよ!お前のせいで苦しんだんだ!弟が死んだ!友が死んだ!その恨みを忘れて仲良くやれなんてできるか!」
「それは私も同じだ。多くの仲間が殺された。フォルファ様の恨みもある。それでも前に進みたい」
「そんなん出任せじゃねえのか!?王と仲良くやる振りして人間を滅ぼすつもりだろ!魔王の言うことなんて信じられるかよ!」
「それは王の言をも疑うということか。声明も、その補足情報も、王自らのものだ。王族の持つ情報だ。虚偽など何一つない」
「はっ!口でならどうとでも言える!俺は認めねえぞ!魔王は倒す!倒してこそ平和を掴めるんだ!」
「私を倒しても平和は訪れない。復讐の連鎖が続くだけだ。互いが共に遺恨なく手を結ぶことは不可能だ。涙を飲み、妥協点を模索するしかない」
「妥協点なんか無えよ!この恨みは晴らす!お前を殺す!」
聞く耳を持たない様子に魔王は溜息をついた。
言葉を歪めて受け止められる。
真摯に言葉を紡いでも、彼を説得できはしまい。
それでもなお言葉を探そうとする魔王。
喚く反対派を拘束していた兵士が口を挟んだ。
「争いが長引けば苦しむのは私たちだ」
「はあっ!?」
後ろから突然投げかけられた言葉に、振り返ろうとして反対派は顔を歪めた。
拘束されているため体を動かせない。
「魔王を倒そうとしたらまだ何十年とかかる。それまでにどれだけの死者が出ることか。魔物に殺されずとも飢えて死ぬ者がいる。親が殺されて孤児も出る。自分が生き延びるので精一杯の中で孤児など見捨てられるだけだ。王はこの未来を変えたいと仰っている。私たちを救いたいと仰っている。それを侮蔑するのか」
口を挟んだのはワイセだった。保安隊の任で魔王の馬車についていたのだ。
「国の未来のため、民の安全のために争いを止めるのだと、王は仰っていただろう。声明の後に頒布した書物にも書いてあった。それを嘲るのか。私は王を支持する。兵士の立場でなくとも支持する。孤児として生きる日々は地獄だ。争いが続けば孤児は増える。それを止めるため行動した王は素晴らしい。そんな民を思う王だからこそ、他の民も賛同しているのだろう」
淡々とした言い方だった。
けれど表情は険しく、視線は鋭い。
ワイセの母親も魔物に殺されている。
憎む気持ちもあるだろう。
けれど共存を望んだのだ。
自分と同じ孤児をこれ以上出さないために。
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