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待ち望んだ解呪
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「さて。どっちからだ?」
顔を見合わせて数秒、マーツェが一歩引いた。
「お先どうぞ。ゲルハルト」
「わかった」
魔王に体を向き合わせると、大きな右手を伸ばしてきた。
「解呪のために首元に触れるぞ」
「ああ」
首の動脈に触れるように手を当てる。
湿っているような、しっとりとした柔らかさのある魔王の毛並み。
巨大な体躯に合った大きな手は、片手でも容易に首をへし折られそうである。
「魔力を流すが抵抗するなよ」
その言葉と同時に、総毛だつような感覚に襲われる。
今すぐ魔王の手を振り払って距離を取りたい。
そんな衝動を懸命に耐える。
異物が、体の底に潜っていく不快感。
そんな強烈なおぞましさから、徐々に名状しがたい不快感へと変わっていく。
呪われたときの感覚に似ている。
重心が下に引っ張られていくような、暗い思考に引きずり込まれるような。
内臓を引っ張られるような、脳みそをかき乱されるような。
何処なのかはわからないが、送り込まれた異物と同じ場所まで魔力を送っているのだろう。
私に呪いを掛けた、過去の魔王の魔力。
その場所まで。
一瞬、魔王の手に力がこもったかと思うと、ずるりと勢いよく魔力が取り出された。
「がっ…」
嘔吐に似た気持ち悪さに襲われる。
内臓から喉を通って何かを吐き出した気がした。
しかし何も出していない。
床は汚していない。
突然脚が震えだし、床に膝をついた。
「長い間、体に取り込まれていたものを取り出したんだ。負担は大きいだろう。休んでいろ」
魔王の声が上から降ってくる。
揺れる視界に耐え切れず、いつの間にか手も付いていた。
「次はマーツェだな」
「うん。頼むね」
そう言って魔王がマーツェに向き合ったことを足を見て確認する。
気持ち悪さに顔を上げられなかった。
「ぅぐ…っ」
私同様に苦しむマーツェの声。
膝をつく気配。
私が落ち着いたころには、マーツェの解呪も終わっていた。
なんら変わりはない。
急激に老けるわけでも衰えるわけでもない。
長い時を生きた反動は無かった。
見た目上は何も変わりない。
しかし、わかる。
体内で、何かが変わった。
体の奥底がすっきりとしている。
異物感も不快感も別段意識していなかったが、呪われている間はやはり異状だったのだろう。
新しい体に乗り換えたような、新鮮な心地がした。
少しして体調不良から復活したマーツェも同じように感じたのかもしれない。
喜色ばんだ顔と目が合う。
1000年以上苦しんだ。
調べても調べても解呪する方法は見つからず、何百年と苦労した。
ようやくこの時を迎えられた。
私とマーツェが回復したのを見て、王は退城へと動き出した。
解呪や会談に応じてくれたことへの礼。
新しい町作りへの協力。
改めて王は伝え、魔王もそれに応える。
見送られながら馬車へと戻り、再び一月をかけて城まで戻った。
顔を見合わせて数秒、マーツェが一歩引いた。
「お先どうぞ。ゲルハルト」
「わかった」
魔王に体を向き合わせると、大きな右手を伸ばしてきた。
「解呪のために首元に触れるぞ」
「ああ」
首の動脈に触れるように手を当てる。
湿っているような、しっとりとした柔らかさのある魔王の毛並み。
巨大な体躯に合った大きな手は、片手でも容易に首をへし折られそうである。
「魔力を流すが抵抗するなよ」
その言葉と同時に、総毛だつような感覚に襲われる。
今すぐ魔王の手を振り払って距離を取りたい。
そんな衝動を懸命に耐える。
異物が、体の底に潜っていく不快感。
そんな強烈なおぞましさから、徐々に名状しがたい不快感へと変わっていく。
呪われたときの感覚に似ている。
重心が下に引っ張られていくような、暗い思考に引きずり込まれるような。
内臓を引っ張られるような、脳みそをかき乱されるような。
何処なのかはわからないが、送り込まれた異物と同じ場所まで魔力を送っているのだろう。
私に呪いを掛けた、過去の魔王の魔力。
その場所まで。
一瞬、魔王の手に力がこもったかと思うと、ずるりと勢いよく魔力が取り出された。
「がっ…」
嘔吐に似た気持ち悪さに襲われる。
内臓から喉を通って何かを吐き出した気がした。
しかし何も出していない。
床は汚していない。
突然脚が震えだし、床に膝をついた。
「長い間、体に取り込まれていたものを取り出したんだ。負担は大きいだろう。休んでいろ」
魔王の声が上から降ってくる。
揺れる視界に耐え切れず、いつの間にか手も付いていた。
「次はマーツェだな」
「うん。頼むね」
そう言って魔王がマーツェに向き合ったことを足を見て確認する。
気持ち悪さに顔を上げられなかった。
「ぅぐ…っ」
私同様に苦しむマーツェの声。
膝をつく気配。
私が落ち着いたころには、マーツェの解呪も終わっていた。
なんら変わりはない。
急激に老けるわけでも衰えるわけでもない。
長い時を生きた反動は無かった。
見た目上は何も変わりない。
しかし、わかる。
体内で、何かが変わった。
体の奥底がすっきりとしている。
異物感も不快感も別段意識していなかったが、呪われている間はやはり異状だったのだろう。
新しい体に乗り換えたような、新鮮な心地がした。
少しして体調不良から復活したマーツェも同じように感じたのかもしれない。
喜色ばんだ顔と目が合う。
1000年以上苦しんだ。
調べても調べても解呪する方法は見つからず、何百年と苦労した。
ようやくこの時を迎えられた。
私とマーツェが回復したのを見て、王は退城へと動き出した。
解呪や会談に応じてくれたことへの礼。
新しい町作りへの協力。
改めて王は伝え、魔王もそれに応える。
見送られながら馬車へと戻り、再び一月をかけて城まで戻った。
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