不死の魔法使いは鍵をにぎる

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エヌケルと食事

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ある日エヌケルが訪ねてきた。
官吏を引退して今は悠々自適に過ごしているようである。



年齢的にはとっくに引退しているはずだったが、魔王が現れた。
対策に追われ慌ただしくなるだろう王城を去ることはできず、老体で仕事をこなしていた。

しかしそれも終わりとなった。


新たな町が軌道に乗り、官吏の仕事に余裕が出て、ようやく引退することができたのだ。






「ゲルトさん。最近も忙しそうにしてるね」

「ああ、エヌケルか」



図書館に渡す、王城との連絡用小鳩の魔具を制作している最中だった。
手に持っていた魔石を卓に置く。



「どうかな。いい時間だし一緒にお昼でも。年寄りの話につきあってくれないかい」


特に断る理由がなかったため、エヌケルの誘いに乗った。










「世界は様変わりしたね」




王都の食堂へと向かう途中、周りを見渡しながら言うエヌケル。


王都周辺の道はだいぶ整備され、魔物が幾人かうろつくようになっていた。
王都の住民はそれを遠巻きにしている。

共存に賛成派でも、積極的に関わるのはまだ躊躇われるらしい。
排除行動に出ないだけ、良い方向に変わっているのだろうか。


ある魔物は人と共に荷の上げ下ろしをしていた。
恐らく新たな町の住民が魔物と共に仕事をしているのだろう。




「魔王を倒して争いを終わらせるのではなく、共存を図る形で平和を目指す時が来るとは思わなかったよ。詳しいことは聞いていないが、ゲルトさんとマーツェさんが功労者なのだろう?」

「欲しいものを得るために、この形が必要だっただけだ」

「そうだとしても、官吏でも兵士でもない、一市民のゲルトさんが今も動いてくれている。私含め、感謝している者は多いと思うよ」



素直に受け取ることも、反論することもできなかった。


魔物への恨みを糧にどうにか生きられた者もいるだろう。
親や子供や配偶者など家族の他、友人などの命を魔物に奪われた者は多い。

憎しみをぶつける場がなくなった者たちからしたら、共存など迷惑でしかない。
その者たちの、生きる糧を潰したかもしれないのだ。

私に感謝などされても困る。







「この店でいいかね。孤児を積極的に雇用してるから応援してるんだ」



そう言って、エヌケルはある食堂に入っていった。

孤児を積極的に雇用というだけあって、複数の子供が皿運びをしている。
その中にヘフテが混ざっていた。



「ヘフテ。何やってるんだ」

「ゲルハルト!保護してる子たちの様子見?長時間は働かせられないし、疲れが見えてきたら交代させて村に戻してるんだよ」

「ダモンとは別行動なのか?珍しい」

「ううん。奥にいるよ。皿洗いしてる子たちを見てる」

「そうか」



エヌケルと共に空いている席につく。
注文して少しの後、子供が料理を運んでくる。

足を踏み出す度に揺れる汁物の表面。
零さないよう見つめながら歩き、卓に置いてやりきった溜息をつく。


店で働かせるにはまだ幼いのではないか。

ヘフテに聞いたら、少しやり方を変えたのだとか。




「だいぶ孤児の数が増えちゃったんだ。だからジーグの教育が間に合わなくて。それに新たな町もできて共存は進んできてるじゃない?狭い中に閉じ込めて教育するよりも、実際に共存しようとしてる姿を見せた方が効率がいいだろうってことで、短時間でも外に出してるの」
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